カンジダ症は、カンジダ属真菌による感染症で、表在性のものから全身性の致命的なものまで様々な臨床像を呈します。カンジダ菌は本来、人体の口腔内、消化管、女性の膣粘膜などに常在する菌であり、通常は宿主との均衡が保たれている状態では症状を引き起こしません。
カンジダ症の特徴として重要なのは、これが「日和見感染症」であることです。つまり、宿主の免疫が低下した時に、普段は無害な常在菌が病原性を発揮して感染症を引き起こします。正常な免疫状態であれば、体内のカンジダ菌は他の常在菌とのバランスや免疫系によって制御されています。
カンジダ症を引き起こす主な要因には以下のものがあります。
特に注意すべきは、2007年に日本で発見されたカンジダ・アウリス(C. auris)で、これは多剤耐性を有し、重篤な感染症を引き起こすため、院内感染対策上の重要な問題となっています。
カンジダ症の症状は感染部位によって大きく異なります。主な感染部位ごとの症状をまとめます。
膣カンジダ症(外陰腟炎)の症状:
膣カンジダ症は非常に一般的で、「75%の女性が生涯で少なくとも1回はかかる」とされています。症状は夜間や排尿時に増悪することがあります。
口腔カンジダ症の症状:
口腔カンジダ症は放置すれば咽頭、食道粘膜に広がり、免疫低下状態では肺や血液中に感染が拡大することもあるため、早急な治療が必要です。
皮膚カンジダ症の症状:
男性のカンジダ症状:
カンジダ症の症状は他の感染症と類似することもあるため、確定診断には医師による診察と適切な検査が必要です。特徴的なおりものの状態や症状の経過から、経験豊富な医師であれば視診である程度の推定診断が可能です。
カンジダ症の治療は、感染部位や重症度によって異なるアプローチが必要です。ここでは部位別の具体的な治療法を解説します。
膣カンジダ症の治療:
口腔カンジダ症の治療:
皮膚カンジダ症の治療:
爪カンジダ症の治療:
爪カンジダ症は比較的まれな真菌症ですが、terbinafine 125mg錠の1日1回投与が有効とされています。臨床試験では、菌陰性化率63.3%、改善率71.0%、有効率67.7%という治療効果が得られています。
治療期間は症状の改善状況によって異なりますが、外用薬は通常2~4週間、内服薬は2~6週間程度の使用が一般的です。ただし、難治性の場合や再発を繰り返す場合は、より長期間の治療が必要となることがあります。
治療効果の判定基準としては、自覚症状の消失(かゆみなどの軽減)と、おりものや発赤などの他覚所見の改善が目安となります。
カンジダ症は治療後も再発しやすい感染症です。特に腟カンジダ症は再発率が高いため、以下のような予防策が重要です。
日常生活での予防策:
医学的予防アプローチ:
再発の早期サインとしては、軽度のかゆみや違和感、おりものの変化などがあります。これらの症状を感じたら、自己判断で市販薬を使用するのではなく、できるだけ早く医療機関を受診することが推奨されます。
カンジダ症は典型的な日和見感染症であり、免疫機能との関連を理解することは、その管理において極めて重要です。
カンジダと免疫システムの均衡:
カンジダ菌は健康な人の体内にも常在していますが、通常は免疫系によって制御されています。この均衡が崩れると、カンジダ菌は過剰に増殖し、様々な症状を引き起こします。
免疫機能低下とカンジダ症発症の関係は次のように説明できます。
侵襲性カンジダ症のリスク:
免疫が著しく低下した患者では、カンジダ症が局所感染にとどまらず、全身に広がる「侵襲性カンジダ症」や「カンジダ敗血症」を引き起こすリスクがあります。
侵襲性カンジダ症の警戒すべき危険因子。
侵襲性カンジダ症の治療には、キャンディン系薬が第一選択薬として推奨されることが多くなっています。治療の遅れは死亡率上昇につながるため、リスク因子を持つ患者では早期からの予防的治療(プリエンプティブ療法)や経験的治療を検討する必要があります。
免疫再構築による管理アプローチ:
カンジダ症の根本的な管理には、可能な限り免疫機能を回復させることが重要です。
最新の研究によれば、腸内細菌叢と免疫機能、カンジダ定着との間には密接な関連があり、プロバイオティクスによる腸内環境の改善が、カンジダ症の予防や再発抑制に有効である可能性が示唆されています。このアプローチは特に抗生物質治療後のカンジダ症予防に有望視されています。
カンジダ症の適切な治療のためには、正確な診断が必須です。しかし、その症状は他の感染症や非感染性疾患と類似することがあり、鑑別診断が重要となります。
診断方法:
鑑別すべき主な疾患:
女性性器症状の鑑別:
口腔症状の鑑別:
皮膚症状の鑑別:
鑑別診断のポイントとして、カンジダ症は特徴的なおりものに加え、かゆみが強い傾向があります。また、抗生物質使用後や免疫低下状態での発症という臨床経過も診断の手がかりとなります。
診断の難しいケースでは、治療的診断(診断的治療)として抗真菌薬を投与し、症状の改善を確認するアプローチも有効です。ただし、症状が改善しない場合は、他疾患の可能性を考慮し、より詳細な検査を行う必要があります。
最近では、次世代シーケンサーを用いた網羅的な微生物叢解析により、複雑な膣内細菌叢の変化とカンジダ症の関連が研究されています。これにより、より精密な診断や個別化された治療戦略の開発が期待されています。
医療従事者は、患者の症状だけでなく、リスク因子や生活環境も考慮した包括的なアプローチでカンジダ症の診断に臨むことが重要です。