合成血液-LR「日赤」は、ABO血液型不適合による新生児溶血性疾患の治療に特化した血液成分製剤です。この製剤は、ヒト血液200mLまたは400mLから白血球と血漿の大部分を除去し、洗浄したO型の赤血球層に白血球の大部分を除去したAB型のヒト血漿を約60mLまたは約120mL加えて作られています。
新生児溶血性疾患は、母体と胎児の血液型不適合により、母体の抗体が胎児の赤血球を破壊することで発症します。合成血液-LRは、この病態に対して以下の効果を発揮します。
薬価は200mL製剤で13,788円、400mL製剤で27,575円と設定されており、特定生物由来製品として厳格な管理下で使用されています。
合成血液-LRの使用には、生命に関わる重大な副作用のリスクが伴います。最も重要な副作用として以下が挙げられます。
移植片対宿主病(GVHD) 🚨
輸血後1~2週間で発熱、紅斑が出現し、下痢、肝機能障害、顆粒球減少症を伴うGVHDによる死亡例がまれに報告されています。予防のため、あらかじめ15~50Gyの放射線照射が必須とされています。
ショック・アナフィラキシー
チアノーゼ、皮膚紅潮、血管浮腫、喘鳴などの症状が急激に現れる可能性があります。特にIgA欠損症患者では、欠損蛋白に対する抗体によりアナフィラキシーが発症するリスクが高くなります。
感染症のリスク
以下の病原体による感染症の可能性があります。
輸血関連急性肺障害(TRALI)
輸血中または輸血後6時間以内に急激な肺水腫、低酸素血症、頻脈、低血圧、チアノーゼ、呼吸困難を伴う重篤な呼吸障害で、時に死亡に至ることがあります。
合成血液-LRの使用は、循環器系と腎機能に重要な影響を与える可能性があります。これらの副作用は頻度不明とされていますが、臨床的に重要な意味を持ちます。
循環器系への影響
腎機能への影響
腎機能障害として急性腎障害等の重篤な腎機能障害が現れることがあります。具体的な症状として。
これらの副作用は新生児の生命予後に直結するため、輸血中および輸血後の厳重な監視が必要です。特に心電図モニタリング、血圧測定、尿量測定などの継続的な観察が重要となります。
合成血液-LRの使用により、新生児の電解質バランスと代謝に重要な変化が生じる可能性があります。これらの変化は、新生児の生理学的特徴と相まって、特に注意深い管理が必要です。
電解質異常の種類と症状
代謝系への影響
肝・胆道系への影響として、黄疸や血中ビリルビンの上昇が観察されることがあります。新生児では肝機能が未熟なため、これらの変化がより顕著に現れる可能性があります。
鉄代謝への長期的影響
意外な副作用として、鉄の沈着症や鉄過剰症が報告されています。これは反復輸血により体内に蓄積された鉄が、肝臓、心臓、内分泌器官に沈着することで生じます。長期的には臓器機能障害の原因となる可能性があるため、定期的な血清フェリチン値の監視が推奨されます。
新生児への合成血液-LR使用では、成人とは異なる特別な安全管理戦略が必要です。新生児の生理学的特徴を考慮した包括的なアプローチが求められます。
輸血前の準備と評価
輸血実施前には、以下の評価項目を必ず確認する必要があります。
輸血中の監視項目
新生児では成人よりも迅速に状態変化が生じるため、以下の項目を継続的に監視します。
緊急時対応プロトコル
副作用発現時の迅速な対応のため、以下の準備を整えておく必要があります。
日本赤十字社の血液製剤情報では、これらの安全管理について詳細なガイドラインが提供されています。
日本赤十字社 血液事業本部 - 血液製剤の適正使用に関する詳細な情報とガイドライン
新生児医療における合成血液-LRの使用は、その治療効果の高さと同時に重篤な副作用のリスクを併せ持つ高度な医療行為です。適切な知識と十分な準備、そして継続的な監視体制の下で実施することで、新生児溶血性疾患の治療成績向上に大きく貢献することができます。医療従事者は常に最新の情報を把握し、チーム医療として安全な輸血療法の実践に努めることが重要です。