副腎皮質の種類と一覧
副腎皮質の基本情報
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3層構造
副腎皮質は球状帯・束状帯・網状帯の3層から構成されています
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主要ホルモン
各層からステロイドホルモン(鉱質コルチコイド・糖質コルチコイド・性ホルモン)が分泌されます
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臨床的重要性
体の恒常性維持に必須で、分泌異常は様々な疾患の原因となります
副腎皮質の3層構造と解剖学的特徴
副腎は腎臓の上部に位置する重要な内分泌器官です。副腎全体の体積の75~90%を占める外側の副腎皮質と内側の副腎髄質という2つの機能的に異なる部分から構成されています。
副腎皮質はさらに3つの異なる層に区分され、それぞれが特徴的な構造と機能を持っています。
- 球状帯(Zona Glomerulosa)
- 最外層に位置する層で、細胞が球状の集合体を形成しています
- 塩基好性の細胞から構成され、洞様毛細血管に囲まれています
- 副腎皮質の最も薄い層です
- 束状帯(Zona Fasciculata)
- 中間層に位置し、副腎皮質全体の約80%を占める最も厚い層です
- 細胞が洞様毛細血管と平行に配列した構造を持ちます
- 脂質含有量が多く、細胞質内に多数の脂肪滴を含んでいます
- 網状帯(Zona Reticularis)
- 最内層に位置し、副腎髄質に隣接しています
- 細胞が不規則な網目状の配列をしています
- 比較的小型の細胞で構成されています
この3層構造は単に解剖学的な区分だけでなく、それぞれが異なるステロイドホルモンを合成・分泌するという機能的な意義を持っています。各層の細胞は発達した滑面小胞体を持ち、ステロイド合成に適した構造となっています。
副腎皮質から分泌されるホルモンの種類と機能
副腎皮質の3層からは、それぞれ異なる種類のステロイドホルモンが分泌されています。これらのホルモンは、体の様々な生理機能の調節に重要な役割を果たしています。
1. 球状帯から分泌されるホルモン
- 鉱質コルチコイド(Mineralocorticoid)
- 主にアルドステロン(Aldosterone)を分泌
- 体液の塩分と水分のバランスを調節
- 腎臓の遠位尿細管に作用し、Na⁺の再吸収を促進しK⁺の排泄を増加させる
- レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の一部として血圧調節に関与
2. 束状帯から分泌されるホルモン
- 糖質コルチコイド(Glucocorticoid)
- 主にコルチゾール(Cortisol)を分泌
- ストレス対応、代謝調節、免疫機能の抑制などに関与
- 肝臓での糖新生を促進し血糖値を上昇させる
- 抗炎症・抗アレルギー作用を持つ
3. 網状帯から分泌されるホルモン
- 副腎性アンドロゲン(Adrenal Androgens)
- 主にデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とアンドロステンジオンを分泌
- 弱い男性ホルモン作用を持つが、組織内でテストステロンやジヒドロテストステロンに変換されると活性が増す
- 女性の二次性徴の発現や男性型体毛の発達に関与する
これらのホルモンは、すべてコレステロールを前駆体としたステロイドホルモンであり、脂溶性のため細胞膜を容易に通過して標的細胞の核内受容体に結合し、遺伝子発現を調節することで作用します。分泌には日内変動があり、特に糖質コルチコイドは朝に高く夜に低いという概日リズムを示します。
糖質コルチコイドの働きとコルチゾールの重要性
糖質コルチコイドは、副腎皮質の束状帯から分泌される重要なステロイドホルモンで、主にコルチゾールとコルチゾンがあります。特にコルチゾールは、生命維持に不可欠なホルモンとして知られています。
コルチゾールの主な生理作用
- 代謝作用
- 肝臓での糖新生を促進し、血糖値を上昇させる
- 脂肪組織での脂肪分解を促進する
- タンパク質の異化作用を示し、アミノ酸を肝臓での糖新生の材料として供給する
- エネルギー代謝の調整に関与する
- 抗炎症作用・免疫抑制作用
- ストレス対応
- 「ストレスホルモン」とも呼ばれ、身体的・精神的ストレスに対する反応を調整
- 急性ストレス時には血中濃度が上昇し、エネルギー供給を増加させる
- 慢性的なストレス状態では持続的に高値となり、様々な身体症状の原因となる可能性がある
- 電解質バランスへの影響
- アルドステロンほど強力ではないものの、Na⁺の再吸収を促進する作用がある
- 高濃度では鉱質コルチコイド様の作用も示す
コルチゾールの分泌調節
コルチゾールの分泌は、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)によって制御されています。視床下部から分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が下垂体前葉を刺激し、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が分泌されます。ACTHが血流を介して副腎皮質に到達すると、束状帯の細胞を刺激してコルチゾールの合成・分泌が促進されます。また、コルチゾール自体がネガティブフィードバック機構によってCRHやACTHの分泌を抑制し、自己調節しています。
医療現場では、合成糖質コルチコイド(プレドニゾロン、デキサメタゾンなど)が抗炎症薬や免疫抑制薬として広く使用されています。これらは自然のコルチゾールより強力な作用を持ち、様々な炎症性疾患やアレルギー疾患、自己免疫疾患の治療に用いられています。
鉱質コルチコイドの役割とアルドステロンの電解質調節
鉱質コルチコイドは副腎皮質の球状帯で合成されるステロイドホルモンで、主にアルドステロンがこのグループに含まれます。アルドステロンは電解質と水分バランスの調節において中心的な役割を果たしています。
アルドステロンの主要な生理作用
- 電解質バランスの調節
- 腎臓の遠位尿細管と集合管に作用し、Na⁺の再吸収を促進
- K⁺とH⁺の排泄を増加させる
- これにより血中Na⁺濃度を上昇させ、K⁺濃度を低下させる
- 水分バランスの調節
- Na⁺の再吸収に伴い、浸透圧の関係で水分も再吸収される
- 結果として体内の水分量が増加し、血液量と血圧の維持に寄与する
- 血圧調節
- 体液量の増加により循環血液量が増え、血圧上昇に寄与する
- 血管平滑筋の感受性を増加させ、昇圧物質に対する反応性を高める
アルドステロンの分泌調節機構
アルドステロンの分泌は主に以下の3つの因子によって調節されています。
- レニン-アンジオテンシン系
- 最も重要な調節系
- 腎臓の傍糸球体装置からレニンが分泌され、アンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンⅠに変換
- アンジオテンシンⅠは肺の血管内皮に存在するアンジオテンシン変換酵素(ACE)によりアンジオテンシンⅡに変換
- アンジオテンシンⅡが副腎皮質球状帯に直接作用し、アルドステロン分泌を刺激
- 血清K⁺濃度
- 血清K⁺濃度の上昇は直接球状帯細胞に作用し、アルドステロンの分泌を刺激
- このフィードバック機構により、高カリウム血症の是正に寄与
- ACTH
- 糖質コルチコイドの分泌調節に主要な役割を果たすが、アルドステロン分泌にも弱い刺激効果がある
- ただし慢性的なACTHの影響下ではアルドステロン分泌は減少する
アルドステロン関連疾患
アルドステロン分泌の異常は様々な病態を引き起こします。最も代表的なものがコン症候群(原発性アルドステロン症)です。これは副腎皮質球状帯の腫瘍(アルドステロン産生腺腫)や過形成によりアルドステロンが過剰に分泌される疾患です。主な症状としては高血圧、低カリウム血症、筋力低下、多尿などがみられます。
一方、アルドステロン分泌不全は、アジソン病などの副腎機能低下症の一症状として現れ、低血圧、高カリウム血症、低ナトリウム血症などを引き起こします。
治療においては、アルドステロンの作用を阻害するスピロノラクトン(カリウム保持性利尿薬)やエプレレノン(選択的アルドステロン受容体拮抗薬)などが使用されます。これらは高血圧治療や心不全治療に広く用いられています。
副腎皮質アンドロゲンと性ホルモンの関係性
副腎皮質の最内層である網状帯から分泌されるアンドロゲンは、性ホルモンの前駆体として重要な役割を果たしています。これらのホルモンは、両性において様々な生理的機能に関与しています。
副腎皮質から分泌される主なアンドロゲン
- デヒドロエピアンドロステロン(DHEA)
- 副腎皮質から分泌される最も豊富なステロイドホルモン
- それ自体の活性は弱いが、末梢組織でより強力なアンドロゲンやエストロゲンに変換される
- 血中では主に硫酸抱合体(DHEA-S)として存在し、半減期が長い
- アンドロステンジオン
- 末梢組織でテストステロンやエストロゲンに変換される重要な前駆体
- 特に女性において、エストロゲンとテストステロンの重要な供給源となる
- 11-アンドロステンジオン
- 網状帯で合成される比較的マイナーなアンドロゲン
- 末梢組織での変換により男性化作用に寄与
副腎アンドロゲンの生理的役割
- 思春期前の発達
- 副腎性アンドロゲンの分泌増加(副腎性思春期:adrenarche)は通常7-8歳頃に始まる
- 恥毛や腋毛の発育、体臭の変化、思春期ニキビなどに関与
- 性腺からのホルモン分泌に先立って始まる変化
- 成人女性における役割
- 成人女性の体内アンドロゲンの約50%は副腎由来
- 女性の性欲、筋肉量維持、骨密度保持に関与
- 皮脂腺活性の調節にも関与
- 加齢に伴う変化
- DHEA及びDHEA-Sの血中濃度は20-30歳でピークに達した後、年齢とともに漸減
- この減少が加齢関連の様々な変化に関与している可能性がある
副腎アンドロゲン関連疾患
- 先天性副腎皮質過形成(CAH)
- 副腎皮質ステロイド合成酵素の先天的欠損により、コルチゾール産生が低下し、ACTH分泌が亢進
- 最も一般的なのは21-水酸化酵素欠損症
- アンドロゲン過剰による女児の外性器男性化や、男児の思春期早発などの症状
- 塩喪失型では鉱質コルチコイド不足も合併
- 副腎アンドロゲン過剰症候群
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の一部の症例
- 特発性多毛症
- 女性の男性型脱毛症
- 副腎アンドロゲン不足
- 副腎機能不全(アジソン病など)の一症状
- 疲労感、筋力低下、性欲減退などの非特異的症状
臨床応用と治療
DHEA補充療法は、副腎機能不全や加齢に関連する症状の改善を目的として研究されていますが、その効果については科学的なエビデンスがまだ十分ではありません。一方、副腎アンドロゲン過剰に対しては、抗アンドロゲン薬(スピロノラクトン、フルタミドなど)や経口避妊薬による治療が行われます。
副腎皮質ホルモンの臨床検査と評価方法
医療現場において、副腎皮質ホルモンの適切な評価は診断や治療方針の決定に重要な役割を果たします。各ホルモンの分泌状態を正確に把握するために、様々な検査法が確立されています。
糖質コルチコイド(コルチゾール)の評価
- 血中コルチゾール測定
- 朝(6-8時)と夕方(16-18時)の2点採血が基本
- 正常では朝高く夕方低い日内変動を示す
- 測定値の目安:朝6-25 μg/dL、夕方2-12 μg/dL
- クッシング症候群では高値で日内変動消失、副腎不全では低値
- 尿中遊離コルチゾール測定(24時間蓄尿)
- 血中の総コルチゾールではなく、生物学的に活性のある遊離コルチゾールを反映
- クッシング症候群のスクリーニングに有用
- 腎機能障害患者では評価が困難
- 唾液中コルチゾール測定
- 非侵襲的で簡便な方法
- 特に夜間の唾液コルチゾール測定はクッシング症候群のスクリーニングに有用
- 生物学的活性のある遊離コルチゾールを反映
- ACTH負荷試験
- 副腎皮質の予備能評価に使用
- 合成ACTH(コートロシン)を静注し、コルチゾール反応を観察
- 副腎不全の診断に有用
- デキサメタゾン抑制試験
- 視床下部-下垂体-副腎皮質系のフィードバック機能を評価
- 少量(1mg)夜間抑制試験:クッシング症候群のスクリーニング
- 大量(8mg)抑制試験:クッシング症候群の鑑別診断
鉱質コルチコイド(アルドステロン)の評価
- 血漿アルドステロン濃度(PAC)
- 原発性アルドステロン症のスクリーニングに使用
- 採血時の姿勢や時間帯による変動あり
- 血漿レニン活性(PRA)またはレニン濃度
- アルドステロン分泌の主要調節因子の評価
- アルドステロン・レニン比(ARR)を算出し、原発性アルドステロン症のスクリーニングに使用
- 生理食塩水負荷試験
- 生理食塩水を点滴静注し、アルドステロン分泌の抑制を評価
- 原発性アルドステロン症では適切な抑制がみられない
- カプトプリル負荷試験
- ACE阻害薬であるカプトプリルを内服後のアルドステロンとレニンの変化を観察
- 原発性アルドステロン症の確定診断に有用
副腎アンドロゲンの評価
- 血清DHEA-S測定
- 副腎アンドロゲン分泌の指標として最も一般的
- 半減期が長く、日内変動が少ない
- 先天性副腎過形成のスクリーニングに有用
- 血清アンドロステンジオン測定
- 副腎および卵巣由来のアンドロゲンの評価
- 多毛症や男性化徴候の評価に使用
- 17-KS(17-ケトステロイド)尿中排泄量
- 副腎アンドロゲンの代謝産物の測定
- 以前は広く使われていたが、現在は特異的なホルモン測定法に置き換えられつつある
画像診断
- CT
- 副腎の形態評価の第一選択
- 腫瘍の大きさ、位置、性状の評価に有用
- 2mm以下の小病変も検出可能
- MRI
- 副腎シンチグラフィー
- 131I-アドステロールなどによる機能的イメージング
- 副腎皮質機能亢進症の局在診断に有用
これらの検査を適切に組み合わせることで、副腎皮質ホルモンの過剰または不足を正確に診断し、適切な治療方針を決定することができます。また、糖尿病や高血圧、骨粗鬆症など他の疾患の治療において副腎皮質ホルモンの状態を評価することも重要です。
副腎皮質ホルモン分泌の評価に関する最新ガイドラインについての詳細情報
副腎皮質ホルモンの検査と評価は、臨床検査技師や医師にとって重要なスキルであり、正確な診断と効果的な治療のために不可欠です。特に内分泌代謝疾患を専門とする医療従事者にとっては、これらの検査の適応や解釈について十分に理解することが求められます。