皮脂腺は真皮層に存在し、ほとんどが毛包に開口する分泌腺です。構造的には枝分かれした腺房からなり、数個の腺房が1本の短い導管で毛包に接続しています。基底層の未分化扁平上皮細胞が増殖し、腺房中央へ押し上げられながら脂肪産生能を持つ巨大な皮脂細胞へと分化します。
参考)http://www.ligament.co.jp/trouble/trouble8.htm
分泌メカニズムはホロクリン分泌と呼ばれる独特な方式です。細胞質に脂肪小滴が充満すると核が萎縮し、細胞自体が崩壊して脂肪を放出します。この過程で生成された皮脂は毛包を通じて皮膚表面に到達し、汗と混ざり合って皮脂膜を形成します。
参考)花王 
皮脂の主な役割は、皮膚や毛髪に潤いを与え、外部刺激から保護するバリア機能です。また、皮膚を弱酸性に保つことで有害菌の繁殖を抑制し、水分の蒸散を防ぎます。皮脂腺の分布密度は部位により大きく異なり、顔面や頭皮では平均800個/cm²と最も多く発達しています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shikizai1937/74/6/74_308/_pdf
ヒトの汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類が存在し、それぞれ構造と機能が大きく異なります。エクリン汗腺は口唇や亀頭などの一部を除く全身に分布し、分布密度は130〜600個/cm²、総数は約300万個とされています。
参考)https://www.derm-hokudai.jp/wp/wp-content/uploads/2021/12/1-09.pdf
エクリン汗腺の構造は、真皮深層から皮下脂肪組織内に位置するコイル状の分泌部と、表皮内をらせん状に巻きながら皮膚表面に開口する導管から構成されます。分泌部は3種類の細胞(明調細胞・暗調細胞・筋上皮細胞)で構成され、筋上皮細胞の収縮により貯留した汗を導管に押し出します。
参考)汗腺について
アポクリン汗腺はエクリン腺よりも大きく、腋窩・乳輪・外陰部など特定部位に限局して分布します。毛包に開口し、断頭分泌(離出分泌)という独特の分泌機構を持ちます。発達が性ホルモンと関係しており、思春期以降に分泌が活発化します。
参考)https://www.hisamitsu-pharm.jp/medicalsupport/guidance/apohide/sizai04.pdf
皮脂腺から分泌される皮脂は、脂質を主成分とし、スクアレン・蛋白質・細胞膜の角化物など多様な成分を含みます。皮脂は気温の上昇とともに分泌量が増加し、思春期から20代にかけて急激に増加した後、徐々に減少します。過剰な皮脂分泌は毛穴の詰まりやニキビの原因となり、痤瘡などの炎症性皮膚疾患と密接に関連しています。
参考)皮脂腺と汗腺の違い:2025年2月13日|ヨサパーク アムル…
エクリン汗腺から分泌される汗は、成分のほとんどが水分で、無味無臭の特徴を持ちます。主に温熱刺激によって発汗し、体温調節に関与します。アセチルコリンおよび交感神経によって発汗が支配されており、精神的緊張や味覚刺激でも発汗します。
参考)汗腺と皮脂腺のちがい。マグマスパ式サウナで期待できる発汗のメ…
アポクリン汗腺からの分泌物は、皮脂やたんぱく質を多く含み、皮膚表面の常在菌と合わさることでニオイの原因となります。分泌される汗自体は無臭ですが、皮膚表面で常在菌によって成分が分解され、特有の臭気を発生させます。アポクリン汗腺はアドレナリン作動性で、主に情緒刺激で発汗するため、体温調節とは異なる機能を持ちます。
参考)汗腺 - Wikipedia
皮脂腺の分布は部位によって著しく異なります。最も皮脂分泌量が多いのは頭皮で、次いで額・鼻などのいわゆる「Tゾーン」も皮脂腺が発達しています。手掌や足底など厚い無毛の皮膚を除いたほとんどすべての体表の真皮に埋没しています。顔面では平均800個/cm²と高密度で分布し、前胸部や背面でもその数は多くなっています。
参考)皮脂腺・皮脂・表皮脂質・皮表膜
エクリン汗腺は全身のほとんどに分布していますが、手掌・足底・腋窩に最も多く存在します。分布密度は部位によって130〜600個/cm²と変動し、総数は約300万個に達します。この広範な分布により、エクリン汗腺は効率的に体温調節を行うことができます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5508982/
アポクリン汗腺の分布は限定的で、主に腋窩・外耳道・鼻翼・乳輪・外陰部などの特定部位にのみ存在します。エクリン汗腺と比較して数は少ないものの、腺の大きさは大きく、思春期以降の性成熟に伴って機能が活発化します。
参考)汗の基礎知識 - 汗にも種類がある!?|知りたい!汗とニオイ…
皮脂腺と汗腺の機能異常は様々な皮膚疾患の発症と密接に関連しています。皮脂腺の過剰分泌は痤瘡(ニキビ)の主要な原因因子であり、思春期のみならず成人においても精神的ストレスを伴う炎症性皮膚疾患として重要です。皮脂分泌の低下は皮膚の乾燥を引き起こし、特に高齢者では加齢に伴う汗腺・皮脂腺の萎縮や機能低下により皮膚がみずみずしさを失います。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/koshohin/40/1/40_8/_pdf
エクリン汗腺の機能異常としては局所多汗症が代表的で、手掌・足底・腋窩などに過剰な発汗をきたします。逆に汗腺機能の低下は無汗症を引き起こし、体温調節障害により高体温となるリスクがあります。ORAI1やSTIM1遺伝子の機能喪失変異により、汗腺は正常に発達しても発汗ができず、高温環境下で高体温症を呈することが報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5096923/
アポクリン汗腺に関連する疾患としては腋臭症(ワキガ)が知られ、アポクリン汗腺からの分泌物が皮膚常在菌により分解されることで発生する特有の臭気が問題となります。また、最近報告されたアポエクリン汗腺は、思春期以降の腋窩多汗症患者の脇に出現する第三の汗腺として注目されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9827426/
皮脂腺と汗腺の働きを理解することは、適切なスキンケアや皮膚疾患の治療において極めて重要です。両者は密接に関連しており、皮膚が乾燥すると皮脂分泌量が増加し、逆に皮膚が潤うと汗の分泌量が増えるという相互調節機構が存在します。医療従事者として、これらの生理学的機序を正確に理解し、患者の症状に応じた適切な診断と治療法を選択することが求められます。
参考)皮膚と汗腺 
エクリン汗腺の発達と発汗分泌に関する詳細な研究
エクリン汗腺の発生メカニズムとWnt、Eda、Shhシグナル経路の役割について解説しています。
皮脂腺の形態学的特徴と毛器官との関連
皮脂腺の構造と毛包との関係性について詳細な形態学的データを提供しています。