アジソン病 症状と治療方法における最新の臨床的知見

アジソン病の症状と治療法について最新の医学的知見をまとめました。副腎皮質ホルモン分泌低下による全身症状から、ホルモン補充療法まで詳しく解説しています。あなたの臨床現場で見逃しがちなアジソン病の初期サインを見つけられますか?

アジソン病の症状と治療方法

アジソン病の基本情報
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症状の特徴

筋力低下、倦怠感、色素沈着などの特徴的な症状

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診断方法

血液検査、ACTH刺激試験による確定診断

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治療アプローチ

ホルモン補充療法と日常生活管理

アジソン病の原因と発症メカニズム

アジソン病は、両側副腎の後天性慢性的病変により副腎皮質ホルモンの分泌低下を来す疾患です。正式名称は原発性副腎皮質機能低下症と呼ばれ、1855年にイギリスの医師トーマス・アジソンによって初めて報告されました。

 

この疾患の主な原因として以下が挙げられます。

  • 自己免疫疾患: 現代の先進国では最も一般的な原因(約70-90%)で、副腎に対する自己抗体が副腎組織を攻撃します
  • 感染症: 結核、真菌感染、CMVなどのウイルス感染
  • 転移性腫瘍: 肺癌、乳癌、悪性黒色腫などから副腎への転移
  • その他: アミロイドーシス、サルコイドーシス、副腎出血、副腎梗塞など

アジソン病の発症メカニズムは、これらの原因によって副腎皮質が破壊され、以下の重要なホルモンの分泌が低下することにより起こります。

  1. 糖質コルチコイド(コルチゾール): ストレス対応、血糖値調整、免疫機能の維持などに重要
  2. 鉱質コルチコイド(アルドステロン: 電解質バランスと血圧の調整に関与
  3. 副腎性アンドロゲン: 性的特徴の維持に関与(特に女性で重要)

これらのホルモン分泌低下により、様々な全身症状が出現し、進行性に症状が悪化していきます。正常な副腎機能の90%以上が失われると、明らかな症状が現れ始めるとされています。

 

アジソン病の特徴的な症状と徴候

アジソン病の症状は初期段階では非特異的なものが多く、見逃されやすい点に注意が必要です。症状は緩徐に進行し、ストレスにより悪化するという特徴があります。主な症状と徴候を以下にまとめます。

 

全身症状

  • 易疲労感・全身倦怠感(最も一般的な初期症状)
  • 筋力低下・脱力感
  • 体重減少(食欲不振を伴うことが多い)
  • 発熱(軽度から中等度)

循環器症状

  • 起立性低血圧
  • 失神やめまい
  • 徐脈

消化器症状

  • 食欲不振
  • 悪心・嘔吐
  • 腹痛
  • 下痢(時に便秘)

皮膚・粘膜症状(アジソン病に特徴的)。

  • 全身の色素沈着(特に圧のかかる部位、皮膚のしわ、瘢痕、伸側表面など)
  • 乳輪や唇の色素沈着
  • 口腔内粘膜や歯肉の青黒色変色
  • 手のひらのしわや関節部の色素沈着

電解質異常による症状

  • 塩分欲求(食塩摂取への強い欲求)
  • 低血糖症状(冷や汗、震え、意識障害など)
  • 高カリウム血症による不整脈

精神・神経症状

  • うつ症状(無気力、不安など)
  • 集中力低下
  • 記憶障害
  • イライラ感や情緒不安定

アジソン病の症状の特徴として、「良くなったり悪くなったりを繰り返しながらゆるやかに進行する」点が重要です。特に、ストレスや感染症などをきっかけに症状が急激に悪化することがあり、これが副腎クリーゼ(アジソンクリーゼ)と呼ばれる生命を脅かす緊急状態につながります。

 

副腎クリーゼの症状。

  • 重度の低血圧(ショック状態)
  • 重度の脱水
  • 強い腹痛、悪心、嘔吐
  • 意識障害や昏睡
  • けいれん
  • 高熱
  • 時に血便や吐血

これらの症状が複合的に出現した場合は、速やかな救急対応が必要です。

 

アジソン病の診断方法と検査

アジソン病の診断は、臨床症状の評価と生化学的検査の組み合わせで行われます。症状が非特異的なことが多いため、初期には神経症などと誤診されることもありますが、適切な検査によって確定診断が可能です。

 

スクリーニング検査

  • 血液生化学検査
    • 低ナトリウム血症(Na<135 mEq/L)
    • 高カリウム血症(K>5.0 mEq/L)
    • 高窒素血症(BUN上昇)
    • 好酸球増加
    • 低血糖
    • 軽度の代謝性アシドーシス
  • 内分泌検査(基本)
    • 早朝の血清コルチゾール低値
    • 血漿ACTH高値(続発性副腎不全との鑑別に重要)

    確定診断のための検査

    • ACTH刺激試験(最も重要な診断検査)。

      合成ACTH(コシントロピン)を投与し、副腎の反応能を評価します。アジソン病では、ACTH投与後も血中コルチゾールの上昇が見られないか、不十分です。

       

    • 副腎自己抗体検査

      特に自己免疫性副腎炎が疑われる場合に有用です。21-水酸化酵素抗体などの検出が診断の補助となります。

       

    • 画像診断
      • 腹部CT/MRI:副腎の萎縮や石灰化、腫瘍性病変の有無を評価
      • 特に結核性副腎炎では特徴的な石灰化像が見られることがあります

      鑑別診断として考慮すべき疾患。

      • 続発性副腎不全(下垂体疾患によるACTH分泌不全)
      • ACTH不応症
      • 薬剤性副腎抑制(ステロイド長期使用後の離脱など)
      • 非定型アジソン病(鉱質コルチコイドのみ欠損するタイプ)

      臨床的にアジソン病を疑う場合の診断アプローチとしては、まず血清コルチゾールとACTHの測定を行い、次にACTH刺激試験で確定診断を行うことが標準的です。診断確定後は、原因検索のための追加検査(自己抗体検査、結核検査、画像検査など)を実施します。

       

      近年、アジソン病の早期発見のためにバイオマーカーの研究も進んでおり、特にACTH前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)やその分解産物の測定が診断の補助となる可能性が報告されています。

       

      アジソン病の診断と治療に関する最新知見(日本内分泌学会雑誌)

      アジソン病の治療方針とホルモン補充療法

      アジソン病の治療の基本は、欠乏しているホルモンを適切に補充することです。生涯にわたって治療を継続する必要があり、患者個々の状態に合わせた細やかな投与量調整が重要となります。

       

      基本的な治療方針

      1. グルココルチコイド(糖質コルチコイド)の補充
      2. ミネラルコルチコイドの補充
      3. 水分・電解質バランスの維持
      4. 患者教育と定期的なモニタリング

      グルココルチコイドの補充療法

      • **ヒドロコルチゾン(コルチゾール)**が第一選択。
        • 通常量:15~20mg/日を2~3回に分割
        • 投与方法の例。
          • 朝に総量の半量、残りを昼と