β遮断薬の種類と一覧:選択性と作用機序による使い分け

β遮断薬の種類と作用機序の違い、選択性やISAの特性による使い分けを解説。心疾患や高血圧治療に欠かせない特徴と一覧を医療従事者向けに詳しく紹介。あなたは患者さんに最適なβ遮断薬を選択できていますか?

β遮断薬の種類と一覧

β遮断薬の基本知識
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作用機序

交感神経のβ受容体を遮断し、心拍数や心収縮力を減少させることで血圧を低下させる

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主な適応疾患

高血圧、狭心症、不整脈、心不全など様々な心血管疾患に使用される

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選択性の重要性

β1選択性の薬剤は心臓への作用が強く、喘息患者でも比較的安全に使用可能

β遮断薬の作用機序と受容体への選択性

β遮断薬は交感神経系のβアドレナリン受容体に結合し、カテコラミン(ノルエピネフリンやエピネフリン)の作用を阻害する薬剤です。体内には主に3種類のβ受容体が存在しており、それぞれ異なる組織に分布しています。

 

  • β1受容体:主に心筋に存在し、心拍数増加や心収縮力増強に関与
  • β2受容体:主に気管支や血管平滑筋に存在し、平滑筋弛緩(血管拡張や気管支拡張)に関与
  • β3受容体:主に脂肪細胞に存在し、脂肪分解を促進

β受容体が刺激されると、それぞれの組織で特徴的な反応が引き起こされます。例えば、β1受容体の刺激は心臓を活性化させ、β2受容体の刺激は気管支や血管を拡張させます。β遮断薬はこれらの受容体に対する選択性によって分類され、臨床効果や副作用プロファイルが異なります。

 

β1選択性の高い薬剤(カルディオセレクティブ)は、主に心臓に作用し、β2受容体への影響が少ないため、喘息や閉塞性肺疾患の患者でも比較的安全に使用できるメリットがあります。β1選択性の程度は薬剤によって異なり、例えばビソプロロール(メインテート)はβ1:β2=75:1と非常に高い選択性を持ちます。

 

β遮断薬の種類と特徴:β1選択性とISAの違い

β遮断薬は選択性だけでなく、内因性交感神経刺激作用(ISA: Intrinsic Sympathomimetic Activity)の有無によっても分類されます。ISAとは、交感神経が興奮していないときにβ受容体を弱く刺激する性質のことです。

 

分類 特徴 臨床的意義
β1選択性(ISA-) β1受容体を選択的に遮断し、ISAなし 心拍数・心収縮力を確実に抑制、狭心症や心筋梗塞後に有効
β1選択性(ISA+) β1受容体を選択的に遮断し、ISAあり 過度の徐脈を防止、高齢者や徐脈傾向の患者に有用
非選択性(ISA-) β1・β2両受容体を遮断し、ISAなし 強力な抗不整脈作用、頻脈性不整脈に有効
非選択性(ISA+) β1・β2両受容体を遮断し、ISAあり 安静時の心拍数低下が少なく、末梢血管抵抗増加も抑制
αβ遮断薬 β遮断作用に加え、α受容体も遮断 血管拡張効果も有し、重症高血圧や心不全に有効

ISA+の薬剤は心拍出量を過度に減少させないため、高齢者や徐脈傾向の患者に適していますが、生命予後改善のエビデンスが乏しく現在はあまり選ばれません。一方、ISA-の薬剤は心筋梗塞の再発予防や虚血性疾患の予防、心不全の予後改善に有効とされています。

 

また、β遮断薬は脂溶性と水溶性の違いによっても特徴が異なります。脂溶性の薬剤(プロプラノロール、メトプロロールなど)は肝臓で代謝され作用時間が短い傾向にあり、中枢神経系副作用が出やすいという特徴があります。水溶性の薬剤(アテノロールなど)は腎臓から排泄され作用時間が長く、中枢神経系副作用が少ないという特徴があります。

 

主要なβ遮断薬の一覧と適応疾患

現在、日本で使用されている主要なβ遮断薬を分類別に紹介します。それぞれの適応疾患や特徴を理解し、患者さんに最適な薬剤を選択することが重要です。

 

1. β1選択性(ISA-)

  • ビソプロロール(メインテート)
  • 規格:錠0.625mg/2.5mg/5mg、テープ剤(ビソノテープ)2mg/4mg/8mg
  • 適応:本態性高血圧症、狭心症、心室性期外収縮、慢性心不全、頻脈性心房細動
  • 特徴:β1選択性が非常に高い(β1:β2=75:1)
  • アテノロール(テノーミン)
  • 規格:錠25mg/50mg
  • 適応:本態性高血圧症、狭心症、頻脈性不整脈
  • 特徴:水溶性で腎排泄、β1選択性は中程度(β1:β2=35:1)
  • メトプロロール(セロケン、ロプレソール)
  • 規格:錠20mg、徐放錠120mg等
  • 適応:本態性高血圧症、狭心症、頻脈性不整脈
  • 特徴:脂溶性、β1選択性はやや低め(β1:β2=20:1)

2. β1選択性(ISA+)

  • セリプロロール(セレクトール)
  • 規格:錠100mg/200mg
  • 適応:本態性高血圧症、腎実質性高血圧症、狭心症
  • 特徴:持続性があり、過度の徐脈を生じにくい

3. 非選択性β(ISA-)

  • プロプラノロール(インデラル)
  • 規格:錠10mg、注射液
  • 適応:本態性高血圧症、狭心症、不整脈、頭痛予防など
  • 特徴:β遮断薬の古典的薬剤、脂溶性が高く中枢神経系への移行あり
  • ニプラジロール(ハイパジール)
  • 規格:錠3mg/6mg
  • 適応:本態性高血圧症、狭心症
  • 特徴:血管拡張作用も有する

4. 非選択性β(ISA+)

  • カルテオロール(ミケラン)
  • 規格:錠5mg、LAカプセル15mg等
  • 適応:狭心症、心臓神経症、不整脈、本態性高血圧症
  • 特徴:水溶性で、ISA作用があり安静時徐脈が少ない
  • ピンドロール(カルビスケン)
  • 規格:錠5mg
  • 適応:洞性頻脈、本態性高血圧症、狭心症
  • 特徴:ISA作用を有し徐脈が少ない

5. αβ遮断薬

  • カルベジロール(アーチスト)
  • 規格:錠1.25mg/2.5mg/10mg/20mg
  • 適応:本態性高血圧症、腎実質性高血圧症、狭心症、慢性心不全、頻脈性心房細動
  • 特徴:α遮断作用による血管拡張効果と抗酸化作用を持つ
  • アロチノロール(アルマール)
  • 規格:錠5mg/10mg
  • 適応:本態性高血圧症、狭心症、不整脈、本態性振戦
  • 特徴:インデラルより効果・持続時間が長い

現在の臨床現場では、エビデンスに基づき、特に心不全ではアーチスト(カルベジロール)とメインテート(ビソプロロール)、虚血性心疾患ではメインテートとアーチスト、不整脈ではセロケン(メトプロロール)やインデラル(プロプラノロール)が選択されることが多いです。

 

β遮断薬の副作用と使用時の注意点

β遮断薬の使用には特有の副作用があり、患者の状態に応じた適切な薬剤選択と慎重なモニタリングが必要です。主な副作用と注意点を以下に示します。

 

すべてのβ遮断薬に共通する主な副作用

  • 心機能低下、過度の徐脈、低血圧
  • 洞機能不全、房室ブロックの悪化
  • 消化器症状(食欲不振、便秘など)
  • 離脱症候群(急な中止による反跳現象)

薬剤特性による特有の副作用

  1. 脂溶性β遮断薬
    • うつ病などの精神症状が出現しやすい
    • 中枢神経系への移行による睡眠障害、悪夢など
  2. β1非選択性薬剤
    • 気管支喘息の悪化・誘発(β2遮断による)
    • 低血糖症状のマスキング(β2遮断による)
    • トリグリセリド上昇、HDL-コレステロール低下
    • 末梢循環障害、閉塞性動脈硬化症の悪化

特に注意すべき患者群

  • 気管支喘息患者:β1選択性の高い薬剤を選択し、慎重に投与する
  • 糖尿病患者:低血糖の自覚症状が出にくくなるため注意が必要
  • 閉塞性肺疾患患者:β1選択性の高い薬剤(メインテートなど)が望ましい
  • 末梢動脈疾患患者:α遮断作用のあるαβ遮断薬(アーチストなど)の検討

使用時の主な注意点

  • 心不全患者への導入時は少量から開始し、慎重に増量する
  • 急な中止は避け、減量しながら徐々に中止する
  • 徐脈や血圧低下の定期的なモニタリングが重要
  • 心電図でのQRS間隔や房室伝導の確認
  • 喘息・高度徐脈では禁忌、耐糖能異常・閉塞性肺疾患・末梢動脈疾患では慎重投与

ビソプロロール(メインテート)では特に注意が必要な副作用として、脈がゆっくりになりすぎる不整脈や、それによる心不全などがあります。β1選択性が高い薬剤でも、高用量では選択性が失われるため注意が必要です。

 

β遮断薬による心不全治療の最新エビデンス

従来、β遮断薬は心機能を抑制するため心不全に禁忌とされてきましたが、1990年代以降の大規模臨床試験により、適切に使用すればむしろ心不全患者の予後を改善することが明らかになりました。

 

心不全治療におけるβ遮断薬のエビデンス
慢性心不全患者を対象とした複数の大規模臨床試験により、特定のβ遮断薬の有効性が証明されています。

  1. MERIT-HF試験:メトプロロール徐放錠が予後改善と突然死の抑制をもたらすことを実証
  2. CIBIS II試験:ビソプロロールが死亡率を34%低下させることを実証
  3. COPERNICUS試験:重症心不全においてもカルベジロールが有効であることを実証

これらの結果から、現在では軽症から重症までの慢性心不全に対するβ遮断薬の有用性が確立されています。

 

心不全治療に推奨されるβ遮断薬
日本では主に以下の2剤が心不全治療に用いられています。

  • ビソプロロール(メインテート):β1選択性が高く、心機能抑制力が強いため中等度の心不全に適している
  • カルベジロール(アーチスト):β1選択性が低く、α遮断作用による血管拡張効果も有するため、血圧が高い重度心不全患者に適している

β遮断薬の心不全治療における作用機序

  • 過剰な交感神経活性の抑制
  • β受容体とG蛋白の脱共役現象の改善
  • 心筋のリモデリング抑制と左室機能の改善
  • 抗不整脈作用による突然死の予防
  • 酸化ストレスの軽減(特にカルベジロール)

心不全治療におけるβ遮断薬の導入と注意点
β遮断薬は導入初期に一時的に心不全を悪化させることがあるため、以下の点に注意が必要です。

  1. 極めて少量から開始する(例:カルベジロールは1回1.25mg、1日2回から)
  2. 1〜2週間かけて段階的に漸増する
  3. 増量の際には心不全症状の悪化がないか慎重に評価する
  4. 維持量に到達するまで忍耐強く調整する

特筆すべき点として、β遮断薬は単に症状を緩和するだけでなく、用量依存的に心機能を改善し、長期的な予後改善効果をもたらす数少ない心不全治療薬の一つです。通常はACE阻害薬と併用されますが、利尿薬やジギタリス製剤などの基礎治療との併用も重要です。

 

日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン」- β遮断薬の心不全治療における推奨と使用法
以上のように、β遮断薬は種類ごとに特性が異なり、疾患や患者の状態に合わせた適切な薬剤選択が重要です。特に心不全治療においては、正しい導入と用量調整によって患者の予後を大きく改善する可能性があります。最新のエビデンスに基づいた治療選択と、患者個々の状態に応じた細やかな対応が求められます。