β遮断薬は交感神経系のβアドレナリン受容体に結合し、カテコラミン(ノルエピネフリンやエピネフリン)の作用を阻害する薬剤です。体内には主に3種類のβ受容体が存在しており、それぞれ異なる組織に分布しています。
β受容体が刺激されると、それぞれの組織で特徴的な反応が引き起こされます。例えば、β1受容体の刺激は心臓を活性化させ、β2受容体の刺激は気管支や血管を拡張させます。β遮断薬はこれらの受容体に対する選択性によって分類され、臨床効果や副作用プロファイルが異なります。
β1選択性の高い薬剤(カルディオセレクティブ)は、主に心臓に作用し、β2受容体への影響が少ないため、喘息や閉塞性肺疾患の患者でも比較的安全に使用できるメリットがあります。β1選択性の程度は薬剤によって異なり、例えばビソプロロール(メインテート)はβ1:β2=75:1と非常に高い選択性を持ちます。
β遮断薬は選択性だけでなく、内因性交感神経刺激作用(ISA: Intrinsic Sympathomimetic Activity)の有無によっても分類されます。ISAとは、交感神経が興奮していないときにβ受容体を弱く刺激する性質のことです。
分類 | 特徴 | 臨床的意義 |
---|---|---|
β1選択性(ISA-) | β1受容体を選択的に遮断し、ISAなし | 心拍数・心収縮力を確実に抑制、狭心症や心筋梗塞後に有効 |
β1選択性(ISA+) | β1受容体を選択的に遮断し、ISAあり | 過度の徐脈を防止、高齢者や徐脈傾向の患者に有用 |
非選択性(ISA-) | β1・β2両受容体を遮断し、ISAなし | 強力な抗不整脈作用、頻脈性不整脈に有効 |
非選択性(ISA+) | β1・β2両受容体を遮断し、ISAあり | 安静時の心拍数低下が少なく、末梢血管抵抗増加も抑制 |
αβ遮断薬 | β遮断作用に加え、α受容体も遮断 | 血管拡張効果も有し、重症高血圧や心不全に有効 |
ISA+の薬剤は心拍出量を過度に減少させないため、高齢者や徐脈傾向の患者に適していますが、生命予後改善のエビデンスが乏しく現在はあまり選ばれません。一方、ISA-の薬剤は心筋梗塞の再発予防や虚血性疾患の予防、心不全の予後改善に有効とされています。
また、β遮断薬は脂溶性と水溶性の違いによっても特徴が異なります。脂溶性の薬剤(プロプラノロール、メトプロロールなど)は肝臓で代謝され作用時間が短い傾向にあり、中枢神経系副作用が出やすいという特徴があります。水溶性の薬剤(アテノロールなど)は腎臓から排泄され作用時間が長く、中枢神経系副作用が少ないという特徴があります。
現在、日本で使用されている主要なβ遮断薬を分類別に紹介します。それぞれの適応疾患や特徴を理解し、患者さんに最適な薬剤を選択することが重要です。
1. β1選択性(ISA-)
2. β1選択性(ISA+)
3. 非選択性β(ISA-)
4. 非選択性β(ISA+)
5. αβ遮断薬
現在の臨床現場では、エビデンスに基づき、特に心不全ではアーチスト(カルベジロール)とメインテート(ビソプロロール)、虚血性心疾患ではメインテートとアーチスト、不整脈ではセロケン(メトプロロール)やインデラル(プロプラノロール)が選択されることが多いです。
β遮断薬の使用には特有の副作用があり、患者の状態に応じた適切な薬剤選択と慎重なモニタリングが必要です。主な副作用と注意点を以下に示します。
すべてのβ遮断薬に共通する主な副作用
薬剤特性による特有の副作用
特に注意すべき患者群
使用時の主な注意点
ビソプロロール(メインテート)では特に注意が必要な副作用として、脈がゆっくりになりすぎる不整脈や、それによる心不全などがあります。β1選択性が高い薬剤でも、高用量では選択性が失われるため注意が必要です。
従来、β遮断薬は心機能を抑制するため心不全に禁忌とされてきましたが、1990年代以降の大規模臨床試験により、適切に使用すればむしろ心不全患者の予後を改善することが明らかになりました。
心不全治療におけるβ遮断薬のエビデンス
慢性心不全患者を対象とした複数の大規模臨床試験により、特定のβ遮断薬の有効性が証明されています。
これらの結果から、現在では軽症から重症までの慢性心不全に対するβ遮断薬の有用性が確立されています。
心不全治療に推奨されるβ遮断薬
日本では主に以下の2剤が心不全治療に用いられています。
β遮断薬の心不全治療における作用機序
心不全治療におけるβ遮断薬の導入と注意点
β遮断薬は導入初期に一時的に心不全を悪化させることがあるため、以下の点に注意が必要です。
特筆すべき点として、β遮断薬は単に症状を緩和するだけでなく、用量依存的に心機能を改善し、長期的な予後改善効果をもたらす数少ない心不全治療薬の一つです。通常はACE阻害薬と併用されますが、利尿薬やジギタリス製剤などの基礎治療との併用も重要です。
日本循環器学会「急性・慢性心不全診療ガイドライン」- β遮断薬の心不全治療における推奨と使用法
以上のように、β遮断薬は種類ごとに特性が異なり、疾患や患者の状態に合わせた適切な薬剤選択が重要です。特に心不全治療においては、正しい導入と用量調整によって患者の予後を大きく改善する可能性があります。最新のエビデンスに基づいた治療選択と、患者個々の状態に応じた細やかな対応が求められます。