セリプロロール(商品名:セレクトール®)は、β1受容体選択性を有するとともにISA(内因性交感神経刺激作用)を持つ特徴的なβ遮断薬です。ISA作用により、β受容体を遮断しながらも部分的に刺激作用を示すため、安静時の心拍数や心収縮力の過度な低下を避けることができます。
参考)https://kanri.nkdesk.com/drags/beta.php
この薬理学的特性により、セリプロロールは以下の特徴を持ちます。
セリプロロールの規格は錠100mg/200mgで、本態性高血圧症(軽症~中等症)、腎実質性高血圧症、狭心症に適応があります。通常、成人では1日100~200mgを朝食後に1回経口投与します。
ビソプロロール(商品名:メインテート®、ビソノテープ®)は、ISA作用を持たない「ピュアβ1遮断薬」として位置づけられます。β1受容体に対する高い選択性(β1:β2 = 75:1)を示し、心拍数制御効果が強いことが特徴です。
参考)https://www.jcc.gr.jp/journal/backnumber/bk_jjc/pdf/J051-5.pdf
MAIN-AF試験では、持続性または慢性心房細動患者に対してビソプロロールの優れた心拍数減少効果が立証されています。この試験結果を受けて、ビソプロロールは心房細動の心拍数制御療法で保険適用を取得しました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/38/3/38_221/_pdf
ビソプロロールの心拍数制御における優位性は以下の点で示されます。
心不全治療においては、セリプロロールとビソプロロールの間に明確な適応の違いがあります。ビソプロロールは慢性心不全に適応を持ち、予後改善効果が確認されていますが、セリプロロールには心不全への適応がありません。
この違いの背景には以下の理由があります。
ビソプロロールの心不全での利点:
セリプロロールの制限要因:
この適応の違いは、心不全患者の治療薬選択において重要な判断材料となります。
最近の研究では、ビソプロロールが単なる心拍数制御を超えた血管機能への好影響を示すことが注目されています。セリプロロールとの比較試験では、ビソプロロールが血管内皮機能、自律神経機能、糖・脂質代謝に対してより良好な効果を示すことが報告されています。
参考)https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr_view.cgi?recptno=R000010454
ビソプロロールの血管機能への効果:
これらの効果は、単純な血圧降下を超えた心血管保護作用として評価されており、特に糖尿病や動脈硬化を併存する高血圧患者での選択において重要な考慮事項となります。
臨床現場でのセリプロロールとビソプロロールの使い分けは、患者の病態と治療目標に基づいて決定されます。両薬剤の特性を理解した適切な選択が治療効果の最大化につながります。
セリプロロールの適応患者:
ビソプロロールの適応患者:
日本心電学会による心房細動のレートコントロール療法ガイドライン - 両薬剤の使い分けに関する詳細な治療指針
投与量の調整においても両薬剤で異なるアプローチが必要です。ビソプロロールは0.625mg~5mgの幅広い調整が可能で、患者の反応に応じた細やかな用量調整ができます。一方、セリプロロールは100mg~200mgの範囲で調整し、1日1回の服薬で良好なコンプライアンスが期待できます。