高血圧症 症状と治療方法で合併症を予防する知識

高血圧症は自覚症状が少ないまま進行し、重大な合併症を引き起こす可能性があります。適切な診断基準、症状の特徴、薬物治療、生活習慣改善の方法について解説します。あなたの血圧管理は適切にできていますか?

高血圧症 症状と治療方法

高血圧症の基本知識
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診断基準

診察室:140/90mmHg以上、家庭:135/85mmHg以上

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分類

本態性高血圧症(90%)と二次性高血圧症(10%)

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有病率

日本人の約2人に1人が高血圧症と推測される

高血圧症は「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれる、自覚症状のほとんどない疾患です。しかし、放置すると重大な合併症を引き起こす可能性があります。この記事では、高血圧症の症状と治療方法について詳しく解説し、日常生活で実践できる対策についてご紹介します。

 

高血圧症の基本と診断基準について

高血圧症とは、血管に過剰な圧力がかかっている状態を指します。診察室で測定した血圧が140/90mmHg以上、家庭で測定した血圧が135/85mmHg以上の場合、高血圧症と診断されます。厚生労働省の調査によると、現在、国内の約2人に1人が高血圧症であると推測されています。

 

高血圧症には主に2つのタイプがあります。

  1. 本態性高血圧症:明確な原因が特定できない高血圧で、全体の約90%を占めます。加齢、遺伝的要因、生活習慣などが複合的に関与しています。
  2. 二次性高血圧症:原因が特定できる高血圧で、全体の約10%を占めます。内分泌疾患、腎疾患、血管疾患などが原因となることがあります。

高血圧症の診断には、下記の検査が一般的に行われます。

  • 血圧測定(診察室と家庭での測定)
  • 血液検査(特にLDLコレステロール値の確認)
  • 尿検査タンパク尿や糖尿の有無)
  • 胸部レントゲン検査
  • 心電図検査
  • 血圧脈波や頸動脈超音波検査(動脈硬化の程度)
  • 腹部超音波検査(二次性高血圧の原因検索)

高血圧症の診断において、家庭血圧の測定は特に重要です。家庭で測定した血圧値は診察室での測定値より予後予測能が高いことが知られており、治療効果の判定にも役立ちます。理想的な測定タイミングは、起床後1時間以内の排尿後・朝食前と、就寝前の1日2回です。

 

高血圧症の症状と自覚症状の特徴

高血圧症の最大の特徴は、「無症状」であることです。血圧が高くても、多くの場合、自覚症状はほとんど現れません。そのため「サイレント・キラー(沈黙の殺人者)」とも呼ばれています。

 

しかし、以下のような症状が出現した場合は、すでに高血圧が進行し、合併症を引き起こしている可能性があります。

  • 頭痛(特に後頭部)
  • めまい
  • 動悸や息切れ
  • 胸の痛み
  • 足のむくみ

これらの症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診することをお勧めします。高血圧が長期間続くことで、様々な臓器に障害が生じるリスクが高まります。

 

特に血圧が非常に高い値(180/120mmHg以上)になる「高血圧緊急症」では、激しい頭痛、吐き気、嘔吐、視力障害、意識障害などの症状が現れることがあります。これは生命に関わる緊急事態であり、直ちに救急医療を受ける必要があります。

 

自覚症状がないからといって安心せず、特に以下の方は定期的な血圧測定と健康診断を心がけましょう。

  • 40歳以上の方
  • 家族に高血圧の方がいる方
  • 肥満の方
  • 塩分摂取が多い食生活の方
  • ストレスを多く抱える方
  • 運動不足の方
  • 喫煙者やアルコールを多量に摂取する方

高血圧症の薬物治療と降圧剤の種類

高血圧症の生活習慣改善で十分な効果が得られない場合、薬物治療が必要になります。降圧剤(血圧を下げる薬)には以下の6種類があり、それぞれ異なる作用機序を持っています。

薬の種類 主な作用機序 特徴
カルシウム拮抗薬 血管を広げて血流をスムーズにする 即効性があり、副作用が少ない
アンギオテンシンII受容体拮抗薬(ARB) 血管収縮作用を抑制する 副作用が少なく、臓器保護効果あり
アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬) アンギオテンシンIIの生成を抑える 臓器保護効果が高い
利尿剤 尿量を増やし血液量を減少させる 塩分排出を促進する
β遮断薬 心臓の働きを抑制する 心拍数を下げる効果がある
α遮断薬 血管の収縮を抑える 末梢血管を拡張させる

実際の治療では、患者の状態や合併症に応じて、これらの薬剤を単独または併用して使用します。一般的に降圧剤は少量から開始し、効果が不十分な場合は徐々に増量するか、別の種類の薬剤を追加します。

 

降圧剤の服用において最も重要なのは、自己判断で中断しないことです。症状がなくなったからといって服薬を中止すると、血圧が急上昇し(リバウンド現象)、かえって危険な状態を招く可能性があります。

 

また、薬の副作用が気になる場合も、まずは医師に相談することが大切です。場合によっては薬の種類や量を調整することで、副作用を軽減できることがあります。

 

高血圧の治療は長期的な取り組みが必要ですが、適切な薬物治療により、合併症のリスクを大幅に低減できます。

 

高血圧症の生活習慣改善と実践的な対策

高血圧症の治療の基本は生活習慣の改善です。薬物治療を行っている場合でも、生活習慣の改善を併せて行うことで、より効果的に血圧をコントロールできます。以下に、実践できる具体的な対策をご紹介します。

 

1. 塩分制限
高血圧患者の目標塩分摂取量は1日6g未満です。日本人の平均摂取量は11〜12g程度と言われており、1日1gの減塩で血圧が約1mmHg低下するという報告があります。

 

実践的な減塩のコツ。

  • トウガラシやレモンなど塩以外の調味料で風味をつける
  • 汁物や麺類の汁は残す(うどん1杯で約5gの塩分)
  • ハムや練り物などの加工品の摂取を控える
  • 調味料の成分表をチェックする(ナトリウム量×2.5=塩分量)

2. 野菜・果物の積極的摂取
野菜や果物に含まれるカリウムは、体内の余分なナトリウム(塩分)排出を促進します。ただし、腎機能が低下している方は高カリウム血症のリスクがあるため、医師に相談してください。

 

3. 適度な運動
週に4〜5日、1日30分以上の有酸素運動が推奨されています。運動は血管を広げ、血行を良くし、血圧を下げる効果があります。まずは1日10,000歩を目標に、現状から少しずつ増やしていくとよいでしょう。

 

運動の種類。

  • ウォーキング(1回10分以上、1日合計40分以上)
  • 水泳
  • サイクリング
  • 軽い筋トレ

4. 適正体重の維持
肥満の方は体重を減らすことで血圧低下が期待できます。目安としては、BMI(体重kg÷身長m÷身長m)が22前後が理想的です。

 

効果的な減量のコツ。

  • 朝と夜の2回体重を測定する習慣をつける
  • 適切な食事量と運動を組み合わせる
  • 筋肉量を増やし基礎代謝を上げる

5. 節酒と禁煙
アルコールの適量は、純アルコールで男性約20g/日、女性約10-15g/日です。例えば、アルコール6%のビール500mlは純アルコール約24gに相当します。

 

喫煙は直接的に動脈硬化を進行させ、悪性腫瘍のリスクも高めるため、完全な禁煙が推奨されます。

 

6. 十分な睡眠
睡眠不足や不眠症は血圧上昇につながります。翌日疲れが残らない程度の睡眠時間を確保しましょう。

 

これらの生活習慣改善を3ヶ月程度実践しても血圧が下がらない場合に、薬物治療を検討することが一般的です。ただし、血圧が非常に高い場合や、糖尿病などの合併症がある場合は、より早期から薬物治療が開始されることがあります。

 

高血圧症の合併症リスクと早期発見の重要性

高血圧症を放置すると、様々な重大な合併症を引き起こすリスクが高まります。合併症の早期発見と予防は、高血圧症管理の重要な側面です。

 

主な合併症とそのリスク

  1. 脳血管疾患
    • 脳梗塞:脳の血管が詰まり、脳組織が壊死する
    • 脳出血:脳内の血管が破裂し出血する
    • 症状:突然の片側麻痺、言語障害、激しい頭痛など
  2. 心臓疾患
    • 心筋梗塞:心臓の血管が詰まり心筋が壊死する
    • 狭心症:心筋への血流不足による胸痛
    • 心不全:心臓のポンプ機能低下による全身の血液循環不全
  3. 腎臓疾患
    • 慢性腎臓病:腎機能が徐々に低下する
    • 末期腎不全:人工透析や腎移植が必要になる
    • 日本では成人の8人に1人が慢性腎不全と言われており、高血圧はその主要な原因の一つです
  4. 高血圧網膜症
    • 網膜の血管に障害が生じ、視力低下や失明のリスクが高まる
  5. 血管疾患
    • 動脈硬化:血管の弾力性が失われ硬くなる
    • 動脈瘤:大動脈の壁が弱くなって膨らみ、破裂のリスクが高まる
  6. 認知症
    • 脳の血管障害による認知機能の低下
    • 長期間の高血圧は認知症リスクを高めるという研究結果がある

これらの合併症は、高血圧症が長期間続くことで徐々に進行します。しかし、適切な血圧コントロールによって、これらの合併症リスクを大幅に減らすことができます。

 

早期発見のポイント
高血圧症は「サイレント・キラー」と呼ばれるように、症状がほとんど現れないまま進行することが多いため、定期的な健康診断と血圧測定が重要です。

 

早期発見のためのチェックポイント。

  • 40歳以上の方は年に1回の健康診断を受ける
  • 家庭で定期的に血圧を測定する習慣をつける(朝と夜の1日2回)
  • 測定結果を血圧手帳などに記録し、変化を把握する
  • 高血圧の家族歴がある場合は、若いうちから注意する

日本では血圧の基準として日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン」が用いられています。このガイドラインでは、年齢や合併症の有無によって目標血圧値が設定されており、医師はこれに基づいて治療方針を決定します。

 

高血圧症は完治することは少なく、生涯にわたる管理が必要な疾患です。しかし、適切な治療と生活習慣の改善により、血圧をコントロールし、合併症のリスクを大幅に減らすことができます。早期発見と継続的な治療が、健康寿命の延伸につながる重要な鍵となります。

 

日本高血圧学会の高血圧治療ガイドライン - 高血圧の最新治療基準について詳しく解説されています
血圧が高いと言われた方、家族に高血圧の方がいる方、また定期的に血圧測定をしていない方は、この機会に生活習慣を見直し、必要に応じて医療機関を受診することをお勧めします。高血圧症の早期発見と適切な管理が、健やかな未来への第一歩です。