片頭痛の症状と治療方法
片頭痛の基本情報
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治療アプローチ
急性期治療と予防療法の2種類が基本
片頭痛の特徴的な症状と前兆について
片頭痛は、単なる頭痛ではなく、特徴的な症状パターンを持つ神経疾患です。日本では成人の約8.4%が片頭痛に悩まされていると報告されており、女性の有病率が高いことが知られています。
片頭痛発作は通常4~72時間続き、片側の拍動性頭痛が特徴です。しかし、「片頭痛」という名称は頭の片側が痛むことに由来していますが、実際には4割近くの患者さんが両側性の頭痛も経験しています。
片頭痛の主な症状は以下のとおりです。
- 中等度~重度の拍動性頭痛(ズキズキと脈打つような痛み)
- 日常的な動作(歩行や階段昇降)により痛みが増強する
- 吐き気や嘔吐を伴うことが多い
- 光過敏・音過敏(普段は気にならない光や音が不快に感じる)
- 臭いに対する過敏性
片頭痛は「前兆のある片頭痛」と「前兆のない片頭痛」の二つのタイプに分類されます。前兆とは、頭痛発作の前に現れる一過性の神経症状で、以下のような特徴があります。
- 視覚性前兆:キラキラした光やギザギザの光(閃輝暗点)が最も一般的(90%以上)
- 感覚性前兆:チクチク感や感覚が鈍くなる
- 言語性前兆:言葉が出にくくなる
- 特殊な前兆:半身の脱力感や回転性めまい
前兆は通常5~60分持続した後に頭痛が始まります。前兆と区別すべきものとして「予兆」があります。予兆は頭痛発作の数時間~数日前に現れる非特異的な症状で、漠然とした頭痛の予感、気分の変調、眠気、疲労感、集中力低下、頸部の凝りなどが含まれます。
片頭痛の診断は、国際頭痛学会の診断基準に基づいて行われます。前兆のない片頭痛の診断には以下の条件を満たす必要があります。
- 特徴的な頭痛発作が5回以上ある
- 頭痛発作の持続時間が4~72時間
- 片側性、拍動性、中等度~重度の痛み、日常動作による増悪のうち2項目以上を満たす
- 頭痛発作中に吐き気/嘔吐または光過敏/音過敏を伴う
片頭痛の病態メカニズムについては、かつては「血管説」が有力でしたが、現在では「神経血管説」が主流となっています。脳内のセロトニン低下によって三叉神経が活性化され、神経終末からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの神経伝達物質が放出されることで炎症や血管拡張が引き起こされ、痛みを生じるとされています。
片頭痛における急性期治療の薬物療法
片頭痛発作が起こった際には、適切な急性期治療が重要です。目標は素早く効果的に症状を緩和し、日常生活への支障を最小限に抑えることです。急性期治療の基本は薬物療法であり、痛みの程度によって選択する薬剤が異なります。
軽度~中等度の片頭痛発作に対する治療薬
軽度から中等度の片頭痛に対しては、一般的に以下の鎮痛薬が使用されます。
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- アセトアミノフェン
- 比較的副作用が少なく、NSAIDsが使用できない患者にも使用可能
- 抗炎症作用は弱いが、中枢神経系に作用して鎮痛効果を発揮
中等度~重度の片頭痛発作に対する治療薬
重度の片頭痛や、NSAIDsが効果不十分な場合には、片頭痛特異的治療薬が推奨されます。
- トリプタン製剤
- スマトリプタン、ゾルミトリプタン、エレトリプタンなど
- セロトニン(5-HT1B/1D)受容体に作用し、拡張した血管を収縮させるとともに三叉神経からの炎症性神経ペプチドの放出を抑制
- 吐き気や光・音過敏などの随伴症状にも効果がある
- 剤形:錠剤、口腔内崩壊錠、点鼻薬、皮下注射など症状に応じて選択可能
- 効果が不十分な場合は、NSAIDsとの併用も検討される
- エルゴタミン製剤
- 血管収縮作用により効果を発揮
- 前兆のうちに服用すると効果的だが、発作が強くなってからの服用では効果が限定的
- 妊娠中の女性には禁忌(子宮収縮作用あり)
- 制吐薬
- メトクロプラミド、ドンペリドンなど
- 吐き気・嘔吐を伴う場合に併用
- 胃腸の運動を促進し、経口薬の吸収を改善する効果も期待できる
急性期治療薬使用の注意点
急性期治療薬の使用には以下の点に注意が必要です。
- 早期介入の原則:頭痛が軽いうちに薬剤を服用すると効果が高い
- 十分な量の使用:効果不十分の原因として用量不足がある
- 薬剤の使用頻度:月に10日以上の使用は「薬剤使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛、MOH)」のリスクがある
- 適切な剤形の選択:吐き気が強い場合は非経口剤形(点鼻薬、坐薬、注射薬など)を検討
片頭痛発作時の薬物治療以外にも、以下のような対処法が有効な場合があります。
- 光や音の刺激を避け、暗く静かな場所で横になって休む
- 痛む部分に冷却シートや冷たいタオルを当てて冷やす(冷やすことで拡張した血管を収縮させる効果がある)
- カフェインの適量摂取(過剰摂取は頭痛の悪化につながる可能性あり)
片頭痛の予防療法とセルフケアの重要性
片頭痛の発作が月に2回以上ある、もしくは生活に支障をきたす頭痛が月に3日以上ある場合には、予防療法の導入を検討します。予防療法の目的は、発作の頻度、重症度、持続時間を減らし、急性期治療薬の効果を高め、患者のQOL(生活の質)を向上させることにあります。
薬物による予防療法
予防治療薬(発症抑制薬)は、片頭痛がない日にも定期的に服用し、継続的に効果を発揮します。主な予防薬には以下のようなものがあります。
- カルシウム拮抗薬
- 塩酸ロメリジン
- 脳血管拡張を抑制する作用がある
- 比較的副作用が少なく、日本では第一選択薬として使用されることが多い
- 抗てんかん薬
- バルプロ酸ナトリウム
- 神経細胞の過剰興奮を抑制する作用がある
- 妊娠可能年齢の女性には注意が必要
- 抗うつ薬
- アミトリプチリン
- 中枢神経におけるセロトニンとノルアドレナリンの再取り込みを阻害
- 睡眠障害を伴う片頭痛患者に有効な場合がある
- β遮断薬
- プロプラノロール(日本では片頭痛予防の適応がない)
- 海外では一般的に使用される予防薬
- CGRP関連モノクローナル抗体
- エレヌマブ、ガルカネズマブなど
- 片頭痛の病態に直接関わるCGRPの作用を阻害
- 従来の予防薬に効果不十分な難治性片頭痛にも効果が期待できる
予防薬の選択は、患者の合併症、禁忌、副作用プロファイル、服薬の利便性などを考慮して行われます。効果判定には通常2~3ヶ月の継続投与が必要で、50%以上の頭痛頻度の減少が得られれば有効と判断されます。
セルフケアによる予防法
生活習慣の改善やセルフケアも片頭痛の予防に重要な役割を果たします。
- 睡眠管理
- 規則正しい睡眠スケジュールを維持する
- 適切な睡眠時間を確保する(短すぎても長すぎても片頭痛のトリガーとなりうる)
- 食事管理
- 規則的な食事を心がけ、空腹状態を避ける
- 片頭痛の誘因となる食品(チョコレート、熟成チーズ、赤ワイン、MSG、人工甘味料など)を特定し回避する
- 十分な水分摂取を維持する
- ストレス管理
- リラクゼーション技法(深呼吸、漸進的筋弛緩法など)を習得する
- マインドフルネスや認知行動療法を取り入れる
- 適度な運動を規則的に行う
- 環境管理
- 明るい光や大きな音など感覚刺激を制御する
- 気圧変化や天候変化への対策(予報を確認し、予防薬を服用するなど)
- サングラスを使って直射日光を遮る
- トリガーの記録と回避
- 頭痛ダイアリーをつけ、自分のトリガーを特定する
- 特定されたトリガーを可能な限り回避する戦略を立てる
- 入浴方法の工夫
- 片頭痛の予兆があるときはシャワーのみにするなど、温度変化による血管拡張を避ける
予防療法を成功させるためには、患者自身が片頭痛のメカニズム