ドグマチール(一般名:スルピリド)は、1973年に胃・十二指腸潰瘍の治療薬として日本で承認され、1979年に統合失調症・うつ病への適応が拡大された独特な薬理学的特性を持つ薬剤です 。本剤の最も特徴的な点は、用量依存性の作用機序により、低用量では抗うつ効果を、高用量では抗精神病作用を示すことです 。
参考)https://cocoro.clinic/%E3%82%B9%E3%83%AB%E3%83%94%E3%83%AA%E3%83%89
低用量(150mg/日以下)では、前頭葉の前シナプス性ドパミン受容体を阻害することによって、ノルアドレナリン濃度を高め、意欲低下や無気力感の改善に寄与します 。一方、中~高用量(300mg以上)では、ドーパミンD2受容体の遮断作用が強まり、統合失調症の陽性症状を抑制する効果を発揮します 。
参考)https://www.shinagawa-mental.com/othercolumn/62260/
さらに、胃や十二指腸のドーパミン受容体にも作用し、消化管運動促進作用により胃潰瘍や慢性胃炎に伴う諸症状の改善にも効果を示す多面的な薬剤特性を有しています 。
ドグマチールの適応は、胃・十二指腸潰瘍、統合失調症、うつ病・うつ状態の3つに分類されます 。各適応における用法・用量は大きく異なるため、医療従事者は処方目的に応じた適切な投与量の理解が不可欠です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00055067
消化器領域の用法・用量
精神科領域の用法・用量
医療従事者が注意すべき点として、同一薬剤でも治療目的により10倍近い用量差があることから、処方監査時の用量確認と患者への説明における誤解防止が重要となります 。
ドグマチールの副作用管理において、医療従事者が特に注意すべきは高プロラクチン血症とそれに伴う内分泌系の異常です。プロラクチン値上昇により、乳汁分泌(0.88%)、乳腺腫大・乳房腫脹(0.14%)、月経異常(1.17%)が報告されています 。
参考)https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_info/neuropsychiatry/1864/
プロラクチンは下垂体前葉から分泌されるホルモンで、乳腺の分化・発達、乳汁の合成・分泌、排卵抑制作用があります。ドグマチールは視床下部に作用し、プロラクチン抑制因子の分泌を阻害することで、血中プロラクチン値が上昇します 。
重大な副作用(頻度0.1%未満)
医療従事者は、特に女性患者において月経異常や乳房の症状について、プライバシーに配慮しつつ定期的な確認を行う必要があります 。長期投与例では血液検査による定期的なプロラクチン値測定が望ましいとされています 。
参考)https://pelikan-kokoroclinic.com/21789-2/
ドグマチールの禁忌事項は、医療従事者が処方前に必ず確認すべき重要な項目です。主な禁忌は以下の通りです :
絶対禁忌
慎重投与が必要な患者群
医療従事者は、これらの患者背景を詳細に聴取し、リスク・ベネフィット評価を慎重に行うことが求められます。
医療従事者がドグマチール処方時に実践すべき独自の指導ポイントとして、薬剤の多面性を活かした患者説明法が重要です。特に、胃薬として処方される際の精神作用への理解促進と、精神科薬として処方される際の身体症状改善効果の説明が有効です。
患者指導における工夫
破砕・変更時の注意点
医療従事者向けの実践的情報として、錠剤の破砕が可能であることが複数の製薬会社から報告されています。ただし、破砕後は湿度や温度に対する安定性が低下するため、調剤時の環境管理と患者への保管指導の徹底が必要です 。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/24510/blending/24510_blending.pdf
薬物相互作用の実務的管理
ドグマチールは555件の薬物相互作用が報告されており、併用薬の確認は必須です 。特にレボドパ製剤、カベルゴリン、プラミペキソールとは禁忌となるため、パーキンソン病治療薬との併用には細心の注意が必要です 。
参考)https://www.qlife.jp/meds/rx48435/interact/
医療従事者は、これらの実践的知識を基に、患者の安全性と治療効果の最適化を図る必要があります。