デジレル(トラゾドン塩酸塩)の添付文書には、生命に関わる可能性のある重大な副作用が複数記載されています。
最も注意すべき重大な副作用として、QT延長と不整脈があげられます。QT延長、心室頻拍(torsades de pointesを含む)、心室細動、心室性期外収縮は全て頻度不明とされていますが、定期的な心電図検査による監視が必要とされています。これらの心臓関連の副作用は、特に高齢者や心疾患の既往歴がある患者で発現リスクが高まるため、投与前の十分な評価が重要です。
**悪性症候群(Syndrome malin)**も重篤な副作用の一つです。無動緘黙、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗等が発現し、それに引き続き発熱がみられる場合があります。本症発症時には白血球の増加や血清CK(CPK)の上昇がみられることが多く、ミオグロビン尿を伴う腎機能の低下も報告されています。高熱が持続し、意識障害、呼吸困難、循環虚脱、脱水症状、急性腎不全へと移行し、死亡した例も報告されており、迅速な対応が求められます。
セロトニン症候群は他のセロトニン作動薬との併用時に特に注意が必要です。錯乱、発汗、反射亢進、ミオクロヌス、戦慄、頻脈、振戦、発熱、協調異常等の症状が認められた場合には、投与を中止し、水分補給等の全身管理とともに適切な処置を行う必要があります。
添付文書に記載された副作用等発現状況によると、調査症例数7,419例中、副作用発現症例は1,122例(15.1%)でした。副作用発現件数は延べ1,585件で、これは一人の患者が複数の副作用を経験していることを示しています。
主な副作用の発現頻度は以下の通りです。
これらのデータは再審査終了時のものであり、市販後調査によって得られた信頼性の高い情報です。眠気が最も多い副作用であることから、車の運転や危険を伴う機械の操作に関する患者指導が特に重要となります。
副作用の分類別に見ると、0.1〜5%未満の頻度で発現する副作用には循環器系(低血圧、動悸・頻脈)、精神神経系(頭痛・頭重、構音障害、振戦等のパーキンソン症状)、消化器系(悪心・嘔吐、食欲不振、腹痛)などが含まれています。
0.1%未満の頻度で発現する副作用には、失神、徐脈、不整脈、痙攣、焦燥感、流涎、健忘、知覚障害、幻覚などが報告されており、まれではあるものの注意深い観察が必要です。
デジレルの循環器系副作用は、その薬理作用と密接に関連しています。トラゾドンはα1アドレナリン受容体遮断作用を有するため、血管拡張による低血圧や起立性低血圧が発現しやすいという特徴があります。
頻度別の循環器系副作用は以下のように分類されています。
0.1〜5%未満の頻度。
0.1%未満の頻度。
頻度不明。
起立性低血圧は特に高齢者で問題となりやすく、転倒のリスクを高める可能性があります。添付文書では、三環系抗うつ薬と比べて頻度は少ないとされていますが、投与開始時や増量時には特に注意が必要です。
また、デジレルによる心電図異常も報告されており、QT延長による不整脈のリスクがあることから、定期的な心電図検査が推奨されています。特に他の薬剤との併用時や、電解質異常がある患者では、より慎重な監視が求められます。
デジレルの精神神経系副作用は多岐にわたり、患者の日常生活に大きな影響を与える可能性があります。添付文書に記載された精神神経系副作用を頻度別に整理すると、以下のようになります。
0.1〜5%未満の頻度で発現する副作用。
眠気は最も頻度の高い副作用であり、患者の社会生活に支障をきたす可能性があります。特に日中の眠気は作業効率の低下や事故のリスクを高めるため、服薬指導では就寝前の服用や段階的な増量の重要性を説明する必要があります。
0.1%未満の頻度で発現する副作用には、痙攣、焦燥感、流涎、健忘、知覚障害、幻覚、運動過多、不安、見当識障害、口周囲不随意運動、集中力低下などが含まれています。これらの副作用は頻度は低いものの、患者の認知機能や日常生活動作に大きな影響を与える可能性があります。
頻度不明の副作用として、興奮、妄想、性欲亢進、性欲減退、悪夢、怒り・敵意(攻撃的反応)、異常感覚、インポテンス、協調運動障害、激越などが報告されています。特に性機能障害は患者のQOLに大きく影響するため、適切な説明と対処法の提供が重要です。
デジレルには他の抗うつ薬では見られない特殊な副作用が報告されており、添付文書では特に注意を要する副作用として記載されています。
**持続性勃起(プリアピズム)**は頻度不明とされていますが、男性患者において陰茎及び陰核の持続性勃起が起こることが報告されています。この副作用は緊急性が高く、本症状が発現した場合には直ちに投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。治療として、エピネフリン、ノルエピネフリンなどのα-アドレナリン作動薬の海綿体内注射や外科的処置が行われた症例が報告されており、迅速な対応が求められます。
麻痺性イレウスも重要な副作用の一つで、0.03%の頻度で発現が報告されています。腸管麻痺の症状として、食欲不振、悪心・嘔吐、著しい便秘、腹部の膨満あるいは弛緩及び腸内容物のうっ滞等があげられます。これらの症状が認められた場合には、投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
無顆粒球症は頻度不明とされていますが、血液系の重篤な副作用として報告されています。定期的な血液検査による監視が重要で、異常が認められた場合には投与を中止するなど適切な処置を行う必要があります。
また、錯乱・せん妄も重要な副作用として位置づけられています。錯乱は頻度不明、せん妄は0.07%の頻度で報告されており、特に高齢者で発現しやすい傾向があります。これらの症状があらわれた場合には、減量又は休薬等の適切な処置を行うことが推奨されています。
これらの特殊な副作用について、医療従事者は患者や家族に対して事前に十分な説明を行い、症状が現れた際の対処法についても指導しておくことが重要です。特に持続性勃起や麻痺性イレウスなどの緊急性を要する副作用については、速やかに医療機関を受診するよう指導する必要があります。