糖尿病治療薬の種類と一覧:作用機序から特徴まで

本記事では糖尿病治療薬を作用機序別に分類し、7つのカテゴリーの経口血糖降下薬とインスリン製剤、GLP-1受容体作動薬の特徴を詳しく解説します。各薬剤の副作用や注意点も網羅していますが、あなたの糖尿病治療に最適な薬剤はどれでしょうか?

糖尿病治療薬の種類と一覧について

糖尿病治療薬の基本
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作用機序による分類

糖尿病治療薬は作用機序により「インスリン分泌促進系」と「インスリン分泌非促進系」に大別されます

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投与形態による分類

経口血糖降下薬と注射薬(インスリン製剤、GLP-1受容体作動薬)の2種類があります

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適切な薬剤選択

患者の病態、年齢、腎機能、肝機能などを考慮して最適な薬剤を選択します

糖尿病治療薬の分類と作用機序

糖尿病治療薬は、大きく分けて経口血糖降下薬と注射薬の2種類があります。現在、日本国内では7つのカテゴリーの経口血糖降下薬およびインスリン、GLP-1受容体作動薬が糖尿病治療薬として使用可能となっています。

 

これらの治療薬は血糖値を下げる作用機序によって、以下のように分類されます。

  1. インスリン分泌促進系
    • 血糖依存性:DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、イメグリミン
    • 血糖非依存性:スルホニル尿素薬(SU薬)、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
  2. インスリン分泌非促進系
    • SGLT2阻害薬
    • ビグアナイド薬
    • チアゾリジン薬
    • α-グルコシダーゼ阻害薬

糖尿病の治療は、食習慣や運動習慣などの生活習慣の改善が基本です。それでも血糖コントロールが不良の場合、合併症の発症予防を目的に薬物療法が開始されます。個々の患者の病態、生活スタイル、嗜好などに合わせて薬剤を選択することで、アドヒアランスや治療効果の向上が期待できます。

 

インスリン分泌促進系の糖尿病治療薬

インスリン分泌促進系の薬剤は、膵臓からのインスリン分泌を直接的または間接的に促進することで血糖値を下げます。主な種類と特徴は以下の通りです。

 

1. スルホニル尿素薬(SU薬)
経口血糖降下薬の中で最も長い歴史があり、使用実績も豊富です。

 

  • 代表的な薬剤
    • グリベンクラミド(オイグルコン、ダオニール)
    • グリクラジド(グリミクロン)
    • グリメピリド(アマリール)
  • 作用機序:膵臓のβ細胞に働きかけてインスリンの分泌を促進します。
  • 主な副作用:重篤かつ遷延性低血糖、体重増加
  • 特徴:空腹時高血糖が顕著な場合に効果的です。低体重〜普通体重の患者に適しています。

2. 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)

  • 代表的な薬剤
    • ナテグリニド(ファスティック、スターシス)
    • ミチグリニド(グルファスト)
    • レパグリニド(シュアポスト)
  • 作用機序:SU薬と同様に膵臓を刺激してインスリン分泌を促進しますが、作用発現が速く、作用時間が短いのが特徴です。
  • 主な副作用:低血糖(SU薬よりも軽度)
  • 特徴:食後の血糖値上昇を抑えるために食事の直前(5〜10分前)に服用します。食後高血糖の是正に適しています。

3. DPP-4阻害薬

  • 代表的な薬剤
    • シタグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)
    • ビルダグリプチン(エクア)
    • アログリプチン(ネシーナ)
    • リナグリプチン(トラゼンタ)
    • テネリグリプチン(テネリア)
    • アナグリプチン(スイニー)
    • サキサグリプチン(オングリザ)
    • トレラグリプチン(ザファテック)
    • オマリグリプチン(マリゼブ)
  • 作用機序:インクレチン(GLP-1、GIP)を分解するDPP-4酵素を阻害することで、インクレチンの血中濃度を高め、膵臓からのインスリン分泌を促進します。
  • 主な副作用:基本的に副作用は少なく、単独使用では低血糖リスクが低いです。SU薬との併用で低血糖リスクが高まることがあります。
  • 特徴:1日1回または週1回の服用で済むタイプ(ザファテック、マリゼブ)もあり、高齢者にも使いやすい薬剤です。空腹時、食後高血糖の両方に効果があります。

4. イメグリミン(ツイミーグ)

  • 作用機序:ミトコンドリア作用を介して、インスリン分泌促進とインスリン抵抗性改善の両方の効果があります。
  • 主な副作用悪心、下痢、便秘、低血糖など
  • 特徴:比較的新しい薬剤で、血糖値を下げる作用はブドウ糖の濃度に依存するため、単独使用では低血糖リスクが低いのが特徴です。

インスリン分泌非促進系の糖尿病治療薬

インスリン分泌非促進系の薬剤は、インスリンの分泌を直接促進せずに血糖値を下げる薬剤です。インスリン抵抗性を改善したり、糖の吸収や排泄を調節したりすることで効果を発揮します。

 

1. ビグアナイド薬

  • 代表的な薬剤
    • メトホルミン(メトグルコ、グリコラン)
    • ブホルミン(ジベトス)
  • 作用機序:主に肝臓からのブドウ糖放出を抑制し、末梢組織でのインスリン感受性を高めます。
  • 主な副作用:食欲不振、吐き気、下痢、便秘など。非常に稀ですが乳酸アシドーシスという重篤な副作用が報告されています。
  • 特徴
    • 単独使用では低血糖リスクが低く、体重が増えにくい特徴があります。
    • 腎機能や肝機能、心機能が低下している患者、アルコール多飲者には慎重に使用する必要があります。
    • ヨード造影剤を使用する検査の際には一時的に休薬が必要です。

    2. チアゾリジン薬

    • 代表的な薬剤
      • ピオグリタゾン(アクトス)
    • 作用機序:肝臓や筋肉に作用し、インスリン感受性を高めます。
    • 主な副作用浮腫(むくみ)、急激な体重増加、心不全の悪化など
    • 特徴:単独使用では低血糖リスクが低いですが、浮腫や体重増加に注意が必要です。心不全の既往がある患者には使用を控えます。

    3. α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)

    • 代表的な薬剤
      • アカルボース(グルコバイ)
      • ボグリボース(ベイスン)
      • ミグリトール(セイブル)
    • 作用機序:小腸での糖質の消化・吸収を遅らせることで、食後の血糖上昇を抑制します。
    • 主な副作用:腹部膨満感、放屁(おなら)、下痢などの消化器症状
    • 特徴
      • 食事の直前に服用する必要があります。
      • 単独では低血糖を起こしにくいですが、他の薬剤との併用で低血糖が生じた場合はブドウ糖を摂取する必要があります(ショ糖や果糖は効果が遅れます)。

      4. SGLT2阻害薬

      • 代表的な薬剤
        • イプラグリフロジン(スーグラ)
        • ダパグリフロジン(フォシーガ)
        • ルセオグリフロジン(ルセフィ)
        • トホグリフロジン(デベルザ、アプルウェイ)
        • カナグリフロジン(カナグル)
        • エンパグリフロジン(ジャディアンス)
      • 作用機序:腎臓での糖の再吸収を担うSGLT2を阻害し、尿中に糖を排出することで血糖値を下げます。
      • 主な副作用尿路感染症、性器感染症、多尿、脱水など
      • 特徴
        • 尿から糖が排出されるため、1日のカロリー消費が増え体重減少効果があります。
        • 血糖降下作用だけでなく、心臓や腎臓に対する保護効果も報告されており、一部の薬剤は心不全や慢性腎臓病の治療薬としても承認されています。
        • 尿糖検査では常に陽性となるため、尿検査結果の解釈に注意が必要です。
        • 高齢者では筋力低下や脱水に注意が必要です。

        注射薬の種類と特徴:インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬

        経口薬での血糖コントロールが困難な場合や、特定の病態の患者には注射薬が選択されます。主な注射薬には、インスリン製剤とGLP-1受容体作動薬があります。

         

        1. インスリン製剤
        インスリン製剤は作用時間の違いによって以下のように分類されます。

        • 超速効型インスリン
          • インスリンリスプロ(ヒューマログ)
          • インスリンアスパルト(ノボラピッド)
          • インスリングルリジン(アピドラ)
          • 特徴:食直前に注射し、15分程度で効果が現れ、2〜3時間で最大効果、4〜5時間で効果が消失します。
        • 速効型インスリン
          • 生合成ヒト中性インスリン(ノボリンR)など
          • 特徴:食事の30分前に注射し、30分程度で効果が現れ、2〜3時間で最大効果、6〜8時間で効果が消失します。
        • 中間型インスリン
          • ヒトイソフェンインスリン(ヒューマリンN)など
          • 特徴:効果発現は2〜4時間、最大効果は6〜10時間、効果持続は10〜16時間程度です。
        • 持効型インスリン
          • インスリングラルギン(ランタス)
          • インスリンデグルデク(トレシーバ)
          • インスリンデテミル(レベミル)
          • 特徴:1日1〜2回の注射で24時間持続する効果があり、基礎インスリンとして使用されます。
        • 混合型インスリン
          • 二相性プロタミン結晶性インスリンアスパルト(ノボラピッド30/50/70ミックス)など
          • 特徴:速効型と中間型を一定の比率で混合したもので、1回の注射で食事時と食間・夜間のインスリン補充が可能です。

          2. GLP-1受容体作動薬

          • 注射製剤
            • エキセナチド(バイエッタ)
            • リキシセナチド(リキスミア)
            • デュラグルチド(トルリシティ)
            • セマグルチド(オゼンピック)
          • 経口製剤
            • セマグルチド(リベルサス)
          • 作用機序:GLP-1受容体に結合し、膵臓からのインスリン分泌を促進すると同時に、グルカゴン分泌を抑制し、胃排出を遅らせ、食欲を抑制します。
          • 主な副作用:悪心、嘔吐、下痢などの消化器症状
          • 特徴
            • 血糖値を下げるだけでなく、食欲抑制による体重減少効果もあります。
            • 週1回投与の製剤もあり、服薬アドヒアランスの向上が期待できます。
            • 以前は注射製剤のみでしたが、近年経口剤(リベルサス)も発売されました。
            • 注意点として、日本糖尿病学会から糖尿病でない方への美容目的での使用については安全性が証明されておらず、適正使用を求める見解が出されています。

            糖尿病治療薬の選択基準と最新の配合剤

            糖尿病治療薬の選択は患者の病態や特性に合わせて個別化する必要があります。薬剤選択の際に考慮すべき点と、近年注目されている配合剤について解説します。

             

            薬剤選択の考慮点

            1. 患者の病態
              • 肥満がある場合:ビグアナイド薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬などが適しています。体重増加を抑制または減少させる効果が期待できます。
              • やせ型の場合:インスリン分泌を促進するDPP-4阻害薬やSU薬などが選択されることが多いです。
            2. 血糖値の変動パターン
              • 空腹時高血糖が顕著:SU薬、ビグアナイド薬、持効型インスリンなど
              • 食後高血糖が顕著:α-GI、グリニド薬、超速効型インスリンなど
            3. 臓器機能
              • 腎機能低下:ビグアナイド薬やSGLT2阻害薬は慎重投与または禁忌
              • 肝機能障害:チアゾリジン薬は慎重投与または禁忌
              • 心不全:チアゾリジン薬は禁忌、SGLT2阻害薬は心保護作用あり
            4. 年齢
              • 高齢者:低血糖リスクの低いDPP-4阻害薬やα-GIが好まれる
              • SU薬やインスリンは低血糖リスクが高いため、高齢者では減量が必要

            最新の配合剤
            近年、服薬アドヒアランス向上のために、複数の薬剤を1つの錠剤にした配合剤が増えています。主な配合剤には以下のようなものがあります。

            1. DPP-4阻害薬とSGLT2阻害薬の配合剤
              • テネリグリプチン・カナグリフロジン配合錠(カナリア)
              • シタグリプチン・イプラグリフロジン配合錠(スージャヌ)
            2. DPP-4阻害薬とビグアナイド薬の配合剤
              • アログリプチン・メトホルミン配合錠(イニシンク)
              • シタグリプチン・メトホルミン配合錠(グラクティブ・メット)
            3. チアゾリジン薬と他剤の配合剤
              • ピオグリタゾン・メトホルミン配合錠(メタクト)
              • ピオグリタゾン・グリメピリド配合錠(ソニアス)
              • アログリプチン・ピオグリタゾン配合錠(リオベル)
            4. その他の配合剤
              • ミチグリニド・ボグリボース配合錠(グルベス)

            配合剤のメリットは、服用する薬剤の種類や回数が減少し、服薬遵守率(コンプライアンス)の向上が期待できることです。一方、個々の薬剤の用量調整が難しくなるというデメリットもあります。

             

            最新の治療戦略
            近年の糖尿病治療は、単に血糖値を下げるだけでなく、心血管イベントや腎機能低下のリスク軽減も考慮した治療戦略が重視されています。特にSGLT2阻害薬やGLP-1受容体作動薬は、大規模臨床試験で心血管イベント抑制効果や腎保護効果が示されており、動脈硬化性心血管疾患や慢性腎臓病を合併する糖尿病患者に対して積極的な使用が推奨されるようになっています。

             

            また、インスリン製剤の進化も目覚ましく、より低血糖リスクの少ない持効型インスリンや、自己注射の負担を軽減する週1回製剤なども登場しています。

             

            糖尿病治療は日進月歩で進化しており、患者一人ひとりの病態やライフスタイルに合わせた個別化医療の重要性がますます高まっています。最適な治療薬の選択には、専門医との綿密な相談が不可欠です。