ジャヌビア(シタグリプチンリン酸塩水和物)の特許切れタイミングは、多くの医療従事者にとって予想外の展開となりました。当初の物質特許満了日は2022年7月頃でしたが、特許延長により2025年2月~2026年3月(用途ごとに異なる)まで延長されていました。
しかし、2023年8月にメディサ新薬(サワイグループホールディングス子会社)が単独で後発品の承認を取得したのです。これは物質特許期間中での承認取得という極めて異例の事態でした。
参考)https://answers.ten-navi.com/pharmanews/26882/
特許延長の盲点を突いた戦略
この承認取得の背景には、特許延長に関する技術的な盲点がありました。
MSDは水和物で特許延長を受けていましたが、メディサ新薬は無水物で承認申請を行いました。この戦略により、物質特許期間中でも承認を取得できたと考えられています。
参考)https://note.com/eb1s/n/na0df547512a6
2023年8月の承認取得
2023年8月15日、ジャヌビアの後発医薬品として初めてメディサ新薬の製品が承認されました。これはDPP-4阻害薬の後発品としても日本初の製品となります。
当初はオーソライズドジェネリック(AG)の可能性も指摘されていましたが、サワイグループホールディングスは通常の後発品であると明言しています。
参考)https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=75200
特許侵害訴訟の発生
承認取得後、米メルクの関連会社Merck Sharp & Dohme LLCが2023年10月6日付で東京地方裁判所に特許侵害訴訟を提起しました。これにより、薬価収載が見送られる事態となっています。
2025年の新たな動向
2025年2月17日、第一三共エスファもジャヌビア後発品の承認を取得しました。同社の製品は先発品と同じ組成(水和物)を使用しているとされていますが、詳細は非開示となっています。
この動きにより、2025年6月の薬価追補収載への期待が高まっています。複数社の参入により、訴訟リスクが軽減される可能性があります。
収載延期の背景
2023年12月の薬価追補収載では、承認済みにも関わらずジャヌビア後発品は収載見送りとなりました。これは進行中の特許侵害訴訟が影響していると考えられます。
参考)https://answers.ten-navi.com/pharmanews/26887/
同様に、以下の後発品も収載が見送られています。
2025年の収載可能性
第一三共エスファの承認取得により、複数社体制での薬価収載の可能性が高まりました。一般的に、複数社が承認を取得することで特許係争のリスクが分散され、収載に向けた環境が整います。
後発品薬価設定の予測
DPP-4阻害薬の後発品薬価は、先発品の約40-50%で設定されると予想されます。ジャヌビア錠25mgの薬価は44円/錠であり、後発品は約18-22円/錠程度になる見込みです。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=DG01601
DPP-4阻害薬市場への影響
ジャヌビアは日本で初めて承認されたDPP-4阻害薬として、2型糖尿病治療に大きな影響を与えてきました。ピーク時(2013年度)には、グラクティブとの合計で1,184億円の売上を記録した大型品です。
後発品の参入により、以下の市場変化が予想されます。
医療機関での対応策
医療従事者は以下の点に注意が必要です。
国際的な特許戦略の変化
今回のジャヌビア後発品承認は、国際的な製薬企業の特許戦略に新たな課題を提起しています。従来の特許延長戦略では、主要化合物の結晶形や水和物の違いまで十分に考慮されていませんでした。
規制当局の判断基準
PMDAは今回の承認において、以下の技術的判断を行ったと推測されます。
この判断は、今後の後発品承認審査における新たな先例となる可能性があります。日本の後発品市場において、より詳細な化学的検討が求められる時代の始まりを示唆しています。
製薬企業への示唆
先発品メーカーは、特許戦略において以下の点を再検討する必要があります。
この事例は、後発品メーカーにとっても新たな参入機会を示す一方、先発品メーカーには従来以上の綿密な特許戦略が求められることを意味しています。