糖尿病が完治しない最も重要な理由は、膵臓の機能低下が不可逆的であることです。膵臓から分泌されるインスリンは血糖値を下げる唯一のホルモンであり、このインスリンを分泌するβ細胞が一度機能を失うと、元の状態に戻ることはありません。
膵臓の機能低下が起こる主な要因。
特に日本人は欧米人と比較して膵臓のインスリン分泌能力が人種的に低いことが知られており、これが糖尿病の発症リスクを高める要因となっています。膵臓の機能は「貯金」のようなもので、一度使い果たした分を補充することはできないのが現実です。
ツインサイクル仮説によると、糖尿病は膵臓と肝臓への脂肪蓄積が原因とされていますが、膵臓に蓄積した脂肪による機能低下は完全には回復しないとされています。
糖尿病が治らない二つ目の理由は、遺伝的体質要因が変更不可能であることです。治療によって血糖値を正常範囲まで下げることは可能ですが、血糖値が上がりやすい体質そのものを改善することはできません。
遺伝的要因が与える影響。
2型糖尿病では、遺伝的要因と環境要因(生活習慣)が組み合わさって発症しますが、遺伝的要因は生涯変わることがありません。そのため、生活習慣を改善して血糖値をコントロールできても、根本的な「糖尿病になりやすい体質」は残り続けるのです。
加齢も避けることのできない要因の一つです。年齢を重ねることで膵臓機能は自然に低下し、インスリン抵抗性も増加する傾向があります。これらの生理的変化は治療では防ぐことができません。
現在の糖尿病治療薬は血糖値をコントロールすることはできますが、糖尿病そのものを治すことはできません。薬物療法の限界を理解することで、なぜ糖尿病が治らないのかがより明確になります。
主な糖尿病治療薬とその限界。
インスリン製剤についても同様で、外部からのインスリン補充により血糖値をコントロールできますが、膵臓の機能を回復させることはできません。インスリン治療を開始すると、多くの場合生涯にわたって継続する必要があります。
興味深いことに、最新の研究では単一標的薬では治療要件を満たすことが困難になっており、複数の薬剤を組み合わせた治療が主流となっています。しかし、これらの治療法も症状の管理であり、根本的な治癒ではありません。
糖尿病が治らない理由の一つとして、一度発症した合併症の多くが不可逆的であることも挙げられます。高血糖状態が続くことで血管が損傷を受け、この血管障害は基本的に元に戻ることがありません。
糖尿病の主要な合併症。
これらの合併症は数年から数十年かけてゆっくりと進行し、症状が現れた時点では既に相当な進行を示しています。血糖値をコントロールすることで進行を遅らせることは可能ですが、一度起こった組織の変化を元に戻すことは現在の医学では困難です。
特に皮膚の血液循環が悪くなることで、下肢の潰瘍や感染症が治りにくくなり、時には切断が必要になる場合もあります。これらの状況は、糖尿病が単なる血糖値の問題ではなく、全身の血管システムに影響を与える慢性疾患であることを示しています。
興味深いことに、近年の研究では糖尿病の「寛解」について新たな知見が報告されています。しかし、多くの医療従事者と患者が糖尿病を慢性進行性疾患として捉え、寛解の可能性について十分に検討していないのが現状です。
糖尿病寛解の可能性。
2016年にWHOが糖尿病の寛解について言及し、理論的には2型糖尿病のインスリン抵抗性に関わる多くのプロセスが可逆的であることが示されています。Twin Cycle仮説に基づく研究では、膵臓と肝臓の脂肪を減少させることで糖尿病の寛解が可能であることが示唆されています。
しかし、現実的な課題として以下の問題があります。
医療従事者として重要なのは、「治らない」という固定観念にとらわれず、個々の患者に応じた最適な治療目標を設定することです。完全な治癒は困難でも、寛解状態を目指すことで患者のQOLは大幅に改善される可能性があります。
糖尿病専門医による栄養指導と運動療法の詳細な解説
https://dmic.ncgm.go.jp/general/about-dm/060/020/02.html
糖尿病寛解に関する最新の医学論文レビュー
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9206440/
ツインサイクル仮説に基づく糖尿病治療戦略の解説
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10716578/