テーラーメイド医療(tailor-made medicine)は、患者一人ひとりの遺伝的特性や体質に合わせて、治療法を一から設計・構築する医療アプローチです。
参考)https://www.wdb.com/kenq/dictionary/order-made-medicine
この医療の核となるのは以下の要素です。
一塩基多型(SNP)解析により、患者固有の遺伝的特性を特定
薬物代謝酵素の遺伝子型から薬剤応答性を予測
DNAマイクロアレイ技術を活用した大量データの瞬時解析
患者の遺伝的プロファイルに基づいた新規治療法の構築
疾患リスク予測と予防的介入の最適化
副作用リスクを最小限に抑えた投薬設計
ヒトゲノム計画の成果を活用した分子レベルでの治療計画
バイオマーカーを用いた治療効果の客観的評価
薬理遺伝学(ファーマコゲノミクス)データの臨床応用
テーラーメイド医療の代表例として、がん治療における分子標的薬の選択があります。患者のがん細胞における特定の遺伝子変異を特定し、その変異に対して特異的に作用する治療薬を設計・選択することで、従来の化学療法よりも高い治療効果と低い副作用を実現しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10417651/
オーダーメイド医療(order-made medicine)は、既に存在する複数の治療選択肢の中から、患者の状態に最も適した治療法を選択する医療アプローチです。これは和製英語であり、国際的にはpersonalized medicineと呼ばれることが多いです。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%83%80%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%89%E5%8C%BB%E7%99%82
オーダーメイド医療の特徴は以下の通りです。
確立された治療プロトコルの中から患者に最適なものを選択
治療効果と副作用のバランスを考慮した判断
患者の年齢、性別、併存疾患を総合評価した治療計画
過去の治療経験と患者データの蓄積を活用
同様の患者群での治療成績を参考にした選択
Evidence-Based Medicine(EBM)との統合的アプローチ
現在の医療システム内で実現可能な個別化
コスト効率を考慮した治療選択
医療従事者の経験と直感を活かした判断
具体例として、高血圧治療における薬剤選択があります。患者の年齢、腎機能、心機能、併存疾患などを総合的に評価し、ACE阻害薬、ARB、カルシウム拮抗薬、利尿薬などの既存薬剤の中から最適な組み合わせを選択します。
個別化医療(personalized medicine)において、遺伝的要因は治療効果や副作用の個人差を決定する最も重要な要素の一つです。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5492710/
遺伝的要因が医療に与える影響。
CYP2D6、CYP2C19などの薬物代謝酵素の遺伝子多型により、同じ薬剤でも代謝速度が10倍以上異なる場合がある
日本人に特有のCYP2C19遺伝子多型により、プロトンポンプ阻害薬の効果に大きな個人差が生じる
アルコール代謝酵素ALDH2の遺伝子変異により、日本人の約40%でアルコール不耐性が生じる
HLA遺伝子型により特定薬剤による重篤な皮膚障害リスクが予測可能
BRCA1/2遺伝子変異により乳がん・卵巣がんリスクが大幅に増加
アルツハイマー病におけるAPOE4遺伝子型と発症リスクの関連性
μオピオイド受容体遺伝子(OPRM1)の多型により鎮痛薬の効果が2-3倍異なる
参考)https://jpps.umin.jp/old/issue/magazine/pdf/0204_01.pdf
カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)遺伝子多型と痛み閾値の関連性
炎症性サイトカイン遺伝子の変異と慢性疼痛の発症リスク
現在の医療では、これらの遺伝的情報を活用してより安全で効果的な治療を提供する取り組みが進んでいます。特に、日本人固有の遺伝的特徴を考慮した創薬開発や治療プロトコルの確立が重要視されています。
参考)https://www.jst.go.jp/pr/evaluation/problem/problem2/kisoken/h18/20070725/sanko/02tailor.pdf
個別化医療の実用化は急速に進展しており、特にがん治療分野では既に日常診療に組み込まれています。
参考)https://centralmedicalclub.com/column/personalized-medicine
現在の実用化状況。
ワルファリン投与量調整におけるCYP2C9、VKORC1遺伝子型検査
クロピドグレル投与前のCYP2C19遺伝子型検査
心房細動治療薬選択における患者背景因子の総合評価
抗うつ薬選択におけるCYP2D6、CYP2C19遺伝子型考慮
向精神薬の代謝予測による副作用軽減
薬物相互作用予測システムの導入
技術展開の動向。
大量の遺伝情報と臨床データをAIが解析し、最適治療法を提案
参考)https://journals.lww.com/10.1097/MS9.0000000000001320
機械学習による薬剤応答性予測モデルの精度向上
リアルタイム治療効果モニタリングシステムの開発
ゲノム、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームの統合解析
エピゲノム情報を含めた包括的個人プロファイリング
腸内細菌叢と薬剤応答性の関連性解析
しかし、実用化には課題も存在します。検査コストの高さ、専門医の不足、保険適用の限定性などが普及の障壁となっています。今後は、これらの課題を解決しながら、より多くの疾患領域での個別化医療の実現が期待されています。
医療現場では、患者の状況や疾患の性質に応じてテーラーメイド医療とオーダーメイド医療を使い分けることが重要です。
参考)http://www.ijhpm.com/article_3402_e5ffd6e36b7425d2b559bfc1cf1fdc1c.pdf
テーラーメイド医療が適用される場面。
既存の治療法では効果が期待できない場合
患者固有の遺伝的変異に対する特異的治療が必要
臨床試験段階の新規治療法の適用
抗がん剤や免疫抑制剤などの高リスク薬剤
HLA遺伝子型に基づく重篤皮膚障害予測
薬剤性肝障害の遺伝的リスク評価
オーダーメイド医療が適用される場面。
高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病
複数の治療選択肢から最適なものを選択
患者のライフスタイルや価値観を考慮した治療計画
救急医療での迅速な治療選択
既知の患者情報に基づく即座の判断
標準的治療プロトコルの個別調整
統合的アプローチの実例。
現代の医療現場では、これら二つのアプローチを統合した「個別化標準化」という概念が提唱されています。これは、標準的な治療ガイドラインをベースとしながら、個々の患者の特性に応じて柔軟に調整を行う方法です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5949226/
例えば、糖尿病治療では。
このような統合的アプローチにより、医療の質向上と安全性確保を両立させることが可能となっています。
個別化医療の発展により、従来の「一律的な医療」から「個人に最適化された医療」への転換が着実に進んでいます。テーラーメイド医療とオーダーメイド医療の概念を適切に理解し使い分けることで、より効果的で安全な医療提供が実現されるでしょう。