卵巣がん症状と初期発見

卵巣がんの症状は初期にほとんど現れず、進行してから気づくことが多い病気です。腹部膨満感や下腹部痛など見逃しやすい症状から、検査方法、遺伝的リスクまで医療従事者が知っておくべき情報をまとめました。あなたは卵巣がんの微細な症状変化を見逃していませんか?

卵巣がん症状

卵巣がんの主要症状
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初期症状の乏しさ

卵巣がんは初期段階で自覚症状がほとんど出現せず、「サイレントキラー」とも呼ばれる疾患です。発見時には約半数が進行期であることが特徴的です

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進行期での症状出現

腫瘍増大や腹水貯留により腹部膨満感、下腹部痛、消化器症状などが現れますが、これらは進行してから認められる症状です

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高い死亡率

女性特有のがんの中で最も死亡率が高く、早期発見が困難であるため予後改善には症状の理解と定期検診が重要です

卵巣がん初期症状の特徴

 

卵巣がんは初期段階において特徴的な自覚症状がほとんど出現しないため、「サイレントキャンサー」と呼ばれています。初期には無症状であることが多く、健康診断や他の疾患の検査中に偶然発見されるケースも少なくありません。そのため、患者が症状を自覚して医療機関を受診した時点では、既に病期が進行していることが多いという臨床的特徴があります。
参考)卵巣がん・卵管がん:[国立がん研究センター がん情報サービス…

卵巣は骨盤の深部に位置し、腫瘍が小さいうちは周囲臓器への影響も少ないため、症状として認識されにくいという解剖学的な要因も初期発見を困難にしています。また、初期症状が現れたとしても、消化器系の不調や月経関連の症状と誤認されやすく、専門医への受診が遅れる傾向があります。
参考)卵巣がん・卵管がん 全ページ:[国立がん研究センター がん情…

卵巣がん腹部症状と腹水貯留

卵巣がんの進行に伴い、最も頻繁に認められる症状が腹部膨満感です。腫瘍が増大することで腹腔内の圧力が上昇し、服のウエストがきつくなる、下腹部が前方に突出するといった身体的変化が現れます。特に腹膜播種が生じると、がん細胞が放出する物質や炎症反応により腹水が貯留し、急激な腹部膨満や体重増加をきたします。
参考)卵巣がんの初期症状8つ「早期発見のための詳細ガイド」

腹水量が増加すると、横隔膜が押し上げられて胸水も併発することがあり、呼吸困難や息切れといった呼吸器症状も出現します。悪性腫瘍では大量の腹水が貯留しやすく、良性腫瘍と比較して臨床症状がより顕著になる傾向があります。腹水穿刺による細胞診でがん細胞が検出されれば確定診断となるため、画像診断と併せて重要な検査所見となります。
参考)卵巣がん href="https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/ovary/" target="_blank">https://cancer-c.pref.aichi.jp/about/type/ovary/amp;#8211; 愛知県がんセンター

卵巣がん圧迫症状と排泄障害

卵巣腫瘍が増大すると、周囲臓器である膀胱や直腸を圧迫し、様々な排泄障害を引き起こします。膀胱圧迫により頻尿、尿意切迫感、排尿時痛などの症状が出現し、患者のQOLを著しく低下させます。直腸圧迫では便秘、排便困難、排便習慣の変化などが認められ、消化器疾患との鑑別が必要になります。
参考)卵巣がんとは? 初期症状を知って早期発見を目指そう

下腹部や骨盤部の痛みも圧迫症状として重要であり、鈍痛から鋭痛まで様々な性質の疼痛が報告されています。月経痛と類似した痛みであるため見過ごされやすく、持続的な疼痛や徐々に増強する疼痛パターンを呈する場合は、積極的な精査が推奨されます。腰痛も腫瘍による神経圧迫や周囲組織への浸潤により生じることがあり、整形外科的疾患との鑑別が求められます。​

卵巣がん全身症状と消化器症状

卵巣がんが進行すると、腫瘍随伴症状として食欲不振、体重減少、易疲労感などの全身症状が出現します。特に食欲不振は腹腔内腫瘤による胃の圧迫や、腹水貯留による早期満腹感が原因となり、栄養状態の悪化につながります。急激な体重減少は悪液質の兆候であり、予後不良因子として認識されています。
参考)見逃さないで!卵巣腫瘍の初期症状と受診のタイミング

消化器症状としては、悪心、嘔吐、腹部不快感なども報告されており、消化器疾患として初診される症例も少なくありません。腸管の機能低下により腹部膨満感やガス貯留が生じ、患者の苦痛が増強します。月経異常も卵巣機能への影響により生じることがあり、月経量の増加や周期の不規則化が認められる場合があります。
参考)卵巣がんの症状と原因: 初期症状、卵巣がんになりやすい人とは…

卵巣がん診断に必要な検査方法

卵巣がんの診断には、内診、画像検査、腫瘍マーカー測定を組み合わせた総合的評価が必要です。内診では下腹部の腫瘤触知や可動性の評価を行い、超音波検査では腫瘍の大きさ、内部構造、血流の状態を詳細に観察します。CTやMRI検査は腫瘍の進展範囲、腹水や胸水の有無、リンパ節転移、遠隔転移の評価に有用であり、1cm以下の小病変は検出困難な場合があります。
参考)卵巣がん・卵管がん 検査:[国立がん研究センター がん情報サ…

腫瘍マーカーではCA125が最も広く使用されており、卵巣がんで高値を示すことが多いですが、子宮内膜症などの良性疾患でも上昇するため、単独での診断は困難です。CA19-9、CEAなどの他のマーカーと組み合わせることで診断精度が向上します。腹水や胸水が貯留している場合は、穿刺により採取した検体の細胞診を行い、がん細胞の有無を確認することで確定診断が可能となります。
参考)腫瘍マーカー:CA125が意味するものは - 世田谷区の産婦…

近年、血液中のマイクロRNA測定による早期診断法の開発が進められており、10種のマイクロRNAを組み合わせることで卵巣がんを早期から検出できる可能性が示されています。この新しい血液検査と既存の腫瘍マーカー、超音波検査を組み合わせた多段階スクリーニングプログラムが、早期発見率の向上に寄与することが期待されています。
参考)卵巣がんを早期から検出できる 血液中マイクロRNAの組み合わ…

国立がん研究センターによる卵巣がん早期検出のための血液中マイクロRNA診断法開発の詳細

卵巣がん遺伝性リスクとBRCA遺伝子

卵巣がん全体の約10%は遺伝性であり、その主な原因はBRCA1およびBRCA2遺伝子の病的バリアントです。これらの遺伝子はDNA修復機構において重要な役割を果たしており、生来的な変異があるとDNA損傷の修復が適切に行われず、がん化のリスクが著しく増加します。BRCA1病的バリアント保持者の卵巣がん生涯発症リスクは36~63%、BRCA2では10~27%と報告されており、一般集団と比較して極めて高い罹患率を示します。
参考)総論1.遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の概要

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)では、卵巣がんのみならず乳がん、膵臓がん前立腺がんの発症リスクも上昇するため、「BRCA関連がん」として包括的な管理が求められます。BRCA病的バリアントは常染色体優性遺伝形式をとり、親から子へ性別を問わず50%の確率で遺伝するため、家族歴の詳細な聴取が重要です。近親者に乳がんや卵巣がんの罹患者が多い場合は、遺伝カウンセリングを受け、BRCA遺伝学的検査の適応について検討することが推奨されます。
参考)遺伝性乳がん・卵巣がんとは 遺伝子検査と予防的治療、発症後の…

BRCA病的バリアントが同定された未発症者に対しては、リスク低減卵管卵巣切除術(RRSO)という予防的手術が選択肢として提示されます。この手術により卵巣がん発症リスクを大幅に低減できる一方、妊孕性喪失や外科的更年期障害といったデメリットもあるため、年齢、挙児希望、心理社会的要因を総合的に考慮した意思決定支援が必要です。​
日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構による遺伝性乳癌卵巣癌の診療ガイドライン

卵巣がんステージ別生存率と予後因子

卵巣がんの予後は病期により大きく異なり、早期発見が予後改善の鍵となります。ステージ別5年生存率は、ステージⅠで89~96%、ステージⅡで64~68.6%、ステージⅢで30~41%、ステージⅣで12~28.9%と報告されており、進行例では予後が著しく不良です。卵巣がん全体の5年生存率は60%であり、がん全体の生存率64.1%と比較してやや低い傾向にあります。
参考)卵巣がんの症状と治療方法|がん治療専門の医療相談コンサルタン…

進行度別の詳細な解析では、がんが卵巣内にとどまっている限局期の5年生存率は92.5%、所属リンパ節に転移がある領域進展期では59.3%、遠隔転移を有する進展期では23.9%となっており、病期の進行に伴い生存率が急激に低下することが明らかです。約半数が進行期で発見されるという疫学的特徴が、卵巣がんの高い死亡率に直結しています。
参考)卵巣がんのステージ別生存率と平均余命

予後因子としては、組織型、分化度、残存腫瘍の有無、化学療法への反応性などが重要です。卵巣がんは腹膜播種を起こしやすく、進行が比較的速いという生物学的特性を持つため、初回手術での完全切除と術後化学療法の組み合わせが標準治療となっています。BRCA病的バリアント陽性例では、PARP阻害薬などの分子標的治療が奏効する可能性があり、個別化医療の進展により予後改善が期待されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7930451/

卵巣がん早期発見のための対策

卵巣がんには確立されたスクリーニング方法が存在せず、早期発見が困難な疾患です。しかし、40歳以降は罹患率が上昇するため、年1回の婦人科検診を受けることが推奨されます。定期検診では内診、経腟超音波検査、腫瘍マーカー測定を組み合わせることで、無症状期の卵巣腫瘍を検出できる可能性があります。
参考)https://www.phyathai.com/ja/article/2046-%E0%B8%84%E0%B8%B8%E0%B8%93%E0%B8%AB%E0%B8%A1%E0%B8%AD%E0%B9%80%E0%B8%95%E0%B8%B7%E0%B8%AD%E0%B8%99__%E0%B8%A1%E0%B8%B0%E0%B9%80%E0%B8%A3%E0%B9%87%E0%B8%87%E0%B8%A3%E0%B8%B1%E0%B8%87%E0%B9%84

高リスク群に対しては、より綿密なサーベイランスプログラムが必要です。BRCA病的バリアント保持者や家族歴のある女性に対しては、30歳代からの定期的な経腟超音波検査とCA125測定が推奨されますが、これらの検査でも早期発見率は限定的です。そのため、遺伝カウンセリングを通じて予防的手術の選択肢についても十分な情報提供を行うことが重要です。​
医療従事者は、腹部膨満感、下腹部痛、頻尿、消化器症状などの非特異的な症状を訴える患者、特に40歳以上の女性に対して、卵巣がんの可能性を念頭に置いた診療姿勢が求められます。症状が持続する場合や徐々に増悪する場合は、積極的に婦人科専門医への紹介を検討すべきです。患者教育としては、卵巣がんの症状や定期検診の重要性について情報提供を行い、早期受診行動を促進することが予後改善につながります。
参考)卵巣の腫瘍とがん - 公益社団法人 日本産科婦人科学会

 

 


患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版