日本のA群溶血性連鎖球菌(GAS)のマクロライド耐性率は約50〜70%に達しており、「念のためクラリスを出す」という判断が耐性菌をさらに増やしている現実があります。

連鎖球菌には複数の血清群があり、臨床上とくに重要なのはA群(GAS)・B群・G群です。それぞれ感染部位や患者背景が異なり、抗菌薬の使い方も変わります。
A群溶血性連鎖球菌(GAS)は、咽頭炎・扁桃炎の代表的な起炎菌です。 成人の咽頭炎のうち細菌性は約20%で、その多くがGASとされています。迅速抗原検査陽性、またはCentor criteriaで3点以上の場合に抗菌薬投与が適応となります。
関連)https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/post_74.html
B群連鎖球菌(GBS)は新生児感染症や産婦人科領域で問題になります。G群連鎖球菌は蜂窩織炎の起炎菌としても知られます。 蜂窩織炎ではレンサ球菌とMSSAを標的とするセファゾリンが第一選択となることも覚えておくべきポイントです。
関連)https://www.jmedj.co.jp/blogs/product/product_27751
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は別格の対応が必要です。 感染初期に敗血症性ショックの原因がSTSSと断定できないケースもあるため、経験的治療として広域抗菌薬の使用が推奨されています。STSSは迅速診断と積極的介入が命取りになります。
関連)https://dcc-irs.jihs.go.jp/material/manual/stss.html
| 分類 | 主な疾患 | 第1選択抗菌薬 |
|---|---|---|
| A群(GAS) | 咽頭炎・扁桃炎・猩紅熱 | アモキシシリン |
| B群(GBS) | 新生児感染症・産褥感染 | ペニシリンG・アンピシリン |
| G群(GGS) | 蜂窩織炎・菌血症 | ペニシリン系・セファゾリン |
| A群(STSS) | 劇症型・壊死性筋膜炎 | 広域抗菌薬+クリンダマイシン |
「なぜ今もペニシリン系なのか」と疑問に思う医療従事者もいるかもしれません。答えは薬剤感受性の安定性にあります。
第1選択はアモキシシリンです。 スペクトラムが狭く、耐性菌を増やしにくいことが推奨の根拠となっています。第2選択はセフェム系ですが、不必要に広域な抗菌薬を使うことは薬剤耐性を助長するリスクがあります。
関連)https://pediatrics-ueda-imfc.jp/yourennkinn/
セファゾリンやセフェム系の「除菌率がペニシリン系より高い」という研究結果もあります。 しかし、日本の感染症専門家は「除菌率だけで判断するのではなく、耐性菌抑制の観点からペニシリン系を第1選択にすべき」と指摘しています。 一点突破より全体最適が原則です。
ペニシリンアレルギーがある場合は、セフェム系が第2選択となります。 マクロライド系(クラリスロマイシンなど)はアレルギー患者への代替として記載されていますが、日本国内での耐性率の高さから使用には慎重さが求められます。
参考:国立成育医療研究センターによるA群レンサ球菌感染症の治療解説(ペニシリン感受性の現状を含む)
国立成育医療研究センター|溶連菌(A群レンサ球菌)感染症
「ペニシリンアレルギーだからクラリスロマイシンを処方」という判断が、実は治療失敗を招くケースがあります。
日本国内では、GASのマクロライド系抗菌薬に対する耐性率が国際的にみて突出して高い水準にあります。 済生会のガイドでも「日本ではマクロライドの乱用によりA群溶血性レンサ球菌の耐性化が進んでおり、使用には注意が必要」と明記されています。マクロライド耐性は深刻です。
関連)https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/a_group_hemolytic_streptococcus_pharyngitis/
耐性が高い背景には、本来適応が限られるはずのマクロライド系を咳症状などに対して安易に使用し続けてきた経緯があります。 「長引く咳に対してついつい出してしまう」という現場の処方行動が耐性菌を育ててきたともいえます。
関連)https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/pdf/02804/028040311.pdf
では、ペニシリンアレルギーが疑われる患者にはどうするか。 ペニシリン系が使えないGBS保菌妊婦への対応など、状況により代替薬の選択肢は変わります。感受性試験の結果を優先し、マクロライドを投与する際は事前に耐性が否定されていることを確認するのが基本です。耐性確認が条件です。
関連)https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/IASR/Vol46/547/547r07.html
アジスロマイシンは5日間の短期投与が可能で使いやすい印象がありますが、GASに対するマクロライド耐性の問題は同様に当てはまります。 感受性が確認されていない状況での経験的投与は避けるべき状況が多くなっています。
関連)https://hokuto.app/post/yOMKlkrI3ru5aL8Tj6jn
参考:β溶血性レンサ球菌の薬剤感受性に関する国立感染症研究所のデータ
IASR|β溶血性レンサ球菌の薬剤感受性について
「症状が改善したから5日で終了」が通用しない理由が、実はリウマチ熱の予防にあります。
急性リウマチ熱は咽頭炎から数週間後に発症し、弁膜症など心臓への後遺症を残す可能性があります。治療を早期に中断すると、GASが完全に除菌されないまま残存し、免疫反応が誘発されるリスクが残ります。これは10日間継続の一番の理由です。
一方で、治療期間短縮を支持する研究も増えてきました。 2022年にニュージーランドで実施されたAMSの取り組みでは、GAS咽頭炎への抗菌薬投与期間を10日間から5〜7日間へ短縮しても治療成績に悪影響がなかったと報告されています(介入後群1,746例)。意外ですね。
関連)https://www.carenet.com/news/general/carenet/60927
ただし日本国内のガイドラインはまだ10日間を推奨しています。 2025年現在、米国感染症学会(IDSA)もリウマチ熱予防を強く意識するなら10日間が安全という立場を維持しています。日本では国内エビデンスに基づいた推奨が原則です。
患者への服薬指導においては、「症状が良くなっても飲み切ってください」という一言が特に重要になります。自己判断での中断が最大のリスクです。
市販の抗菌薬ガイドには「セフェム系も有効」と書かれていますが、使う世代と状況によっては得策ではないケースがあります。
第3世代経口セフェム系(セフジトレンなど)は、GASには効果があります。 米国FDAでも承認されており、アモキシシリンより除菌率が高いというデータも存在します。これは意外なデータです。
関連)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-181114-fujitaikadaigaku.pdf
しかしIDSA(米国感染症学会)は第3世代セフェム系をGAS咽頭炎の第1選択には推奨していません。 理由は「高価」「スペクトラムが広すぎる」という2点です。効くからといって使ってよいわけではないということです。
関連)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-181114-fujitaikadaigaku.pdf
キノロン系については、GAS咽頭炎への使用はさらに推奨されていません。 キノロン系はグラム陰性菌への適応が中心であり、GASへの使用はスペクトラムの無駄遣いになるうえ、耐性菌選択圧を高めるリスクがあります。キノロンは温存が原則です。
関連)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kansen/data/luncheon_2020_05.pdf
「効けばいい」から「なぜその薬か」を説明できる処方へ。 治療終盤では感受性検査の結果をもとに、できるだけスペクトラムの狭い薬剤へのde-escalationを行うことが抗菌薬適正使用の基本姿勢です。
関連)https://www.khosp.or.jp/system/wp-content/themes/khosp/assets/img/document/pdf/koukinyaku-manual.pdf
抗菌薬適正使用(AMS)の観点から処方を見直したい場合は、厚生労働省が公開している「抗微生物薬適正使用の手引き」を参照することで、エビデンスに基づいた処方の根拠を確認できます。
参考:厚生労働省による抗微生物薬適正使用の手引きダイジェスト版(GAS咽頭炎の推奨抗菌薬を含む)
厚生労働省|抗微生物薬適正使用の手引き ダイジェスト版(PDF)
ガイドラインを知っているだけでは不十分で、「処方の判断プロセスを言語化できる」ことが求められています。
抗菌薬適正使用支援(AMS: Antimicrobial Stewardship)プログラムの観点では、GAS咽頭炎の治療はシンプルな疾患だからこそ「教育ツール」として活用できます。 迅速検査の適切な解釈、Centor criteriaの運用、第1選択薬の根拠説明がセットで実践できると、AMSの基礎的スキルが身につきます。
関連)https://www.kameda.com/pr/infectious_disease/post_74.html
「治療開始時にやめ時を意識する」という姿勢も重要です。 漫然と抗菌薬を延長しないためには、投与開始時点でどの時点で中止を検討するかを設定しておくことが適正使用の第一歩です。開始時に終了基準を決めることが原則です。
関連)https://hokuto.app/post/yOMKlkrI3ru5aL8Tj6jn
GAS感染症は感染対策の側面でも見落とされやすいです。 壊死性筋膜炎などを伴うSTSS症例では、滲出液が出なくなるか培養陰性が確認されるまで(抗菌薬開始7〜10日後が目安)接触予防策・飛沫予防策を継続することが推奨されています。院内での二次感染リスクを防ぐ視点も欠かせません。
関連)https://dcc-irs.jihs.go.jp/material/manual/stss.html
処方の一貫性と説明責任が医療従事者には問われています。アモキシシリンを10日間処方する際も、その根拠を患者や他職種に説明できる準備をしておくことが、現場でのAMS実践の核心です。チーム医療における言語化が重要です。
参考:感染症内科医による抗菌薬の投与期間と適正使用に関するコラム(臨床現場向けの具体的な考え方を解説)
ICTmate|一歩先行く抗菌薬適正使用のポイント
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