蜂窩織炎(ほうかしきえん)は、皮膚の真皮深層から皮下組織にかけて発生する急性の化膿性細菌感染症です。「蜂巣炎(ほうそうえん)」とも呼ばれます。名称の由来は、感染を起こした組織を顕微鏡で観察すると蜂の巣状の構造に見えることからきています。
主な原因菌は黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とβ溶血性連鎖球菌(特にA群連鎖球菌)の2種類です。これらの菌は通常、皮膚表面に存在していますが、皮膚のバリア機能が破綻することで深部へ侵入し、感染を引き起こします。近年では、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による蜂窩織炎も増加傾向にあり、治療の難しさが懸念されています。
皮膚の構造を理解することは重要です。皮膚は表層から表皮、真皮、皮下脂肪組織に分かれており、それぞれの層で感染症の様相が異なります。
蜂窩織炎の感染経路として最も多いのが、皮膚の外傷からの細菌侵入です。以下のような要因が蜂窩織炎の発症リスクを高めます。
患者から患者への感染はほとんどありません。蜂窩織炎は感染症ですが、人から人へうつる病気ではないため、患者に接触しても感染することはありません。
蜂窩織炎の症状は、初期段階から重症化まで様々な臨床像を呈します。典型的な進行パターンを理解することで、早期診断と適切な治療介入が可能になります。
初期症状としては、感染部位に以下のような局所症状が現れます。
これらの症状は比較的急速に拡大することが特徴で、数時間から数日の間に広範囲に広がることがあります。初期には「虫刺されかな?」と思われるような軽微な症状から始まることもありますが、虫刺されとの大きな違いは、蜂窩織炎の発赤は境界が不明瞭で、ぼんやりと拡大していく点です。
感染が進行すると、局所症状の悪化に加えて全身症状が出現します。
重症例では、炎症によるダメージが強い中心部は、壊れた細胞から出た浸出液がたまり、ブヨブヨと柔らかく変化することがあります。また、以下のような変化が見られることもあります。
特に下肢に発症した場合、腫脹が著しく、足首や足全体が何倍にも腫れ上がることもあります。この場合、歩行困難を訴えることが多いです。
蜂窩織炎と鑑別すべき重要な疾患として壊死性筋膜炎があります。以下のような危険サインがある場合は、壊死性筋膜炎を疑い、緊急の外科的介入を検討する必要があります。
また、蜂窩織炎と丹毒は臨床的に鑑別が難しいことがありますが、丹毒は一般的に境界明瞭な発赤と熱感を伴い、より表層に感染が限局しています。蜂窩織炎の方が発赤の境界がぼやけており、より深部に及ぶ感染症です。
高齢者や免疫不全者では、典型的な症状を示さないことがあります。発熱や発赤が軽微であったり、痛みの訴えが少なかったりすることがあるため、注意深い観察が必要です。
蜂窩織炎は下腿に好発しますが、上肢、顔面、体幹など、全身のどの部位にも発症する可能性があります。部位によって臨床像が異なることもあるため、発症部位の特性を考慮した評価が重要です。