ニュージーランドの医療システムは、ホーム・ドクター制度を基盤とした独特な構造を持つ 。このシステムでは、健康上の相談や診療は、まず最初にGP(General Practitioner)と呼ばれる家庭医への予約が必要となる 。日本のように症状に応じて直接専門科を受診することはできず、GPが専門医への紹介の必要性を判断する仕組みとなっている。
参考)https://www.nz.emb-japan.go.jp/itpr_ja/ryouji-life-medical.html
このシステムの背景には、医療資源の効率的配分と医療費抑制の狙いがある 。2年以上の永住権または市民権を持つ住民は公立病院での治療が無料となり、GPの診察も国の補助により安価で受診可能だ。しかし、公立病院ではウェイティングリストが長く、診察まで相当な時間を要するという課題も存在する。
参考)https://hokentimes.com/article/travelhoken/nz_iryohi/
さらに、ニュージーランド独特の制度として、ACC(Accident Compensation Corporation)という事故補償制度がある 。これは国内で発生したほとんどの事故による傷害の治療費を国が補償するもので、ニュージーランド国民だけでなく、留学生や旅行者も対象となる画期的なシステムである。
参考)https://www.iccworld.co.jp/koukou/blog/3894
日本の看護師がニュージーランドで資格を取得するプロセスは、明確に体系化されている 。まず、IELTS7.0以上またはOET(Occupational English Test)でB評価以上の英語力証明が必要となる 。OETは医療現場に特化した英語試験で、各セクションで350点以上の取得が求められ、IELTSよりも実践的な内容となっている 。
参考)https://newzealand-ryugaku.com/life/become-a-nurse-innz/
次に、ニュージーランド看護協会への登録と能力査定コース(CAP:Competency Assessment Programme)への参加が義務付けられている 。このプログラムは6〜8週間の研修期間で、看護理論の学習と実習の両方が含まれる。研修内容には、マオリ族の歴史・文化の理解、看護師法の講義・テスト、ニュージーランドの病院システムの学習、グループワークや個人発表、履歴書作成方法などが含まれている。
参考)https://nurse.ipec.or.jp/nz-exp-3/
実習では、経歴を考慮した1〜2ヶ所の病棟での実習が行われ、プリセプターによる指導を受ける 。この実習先が将来の就職先となる可能性もあり、単なる研修以上の意味を持つ。申し込みが多いため、現在は1年以上の待機期間が発生している状況である。
ニュージーランドの医師教育システムは、他の英語圏諸国とは異なる独特な制度を採用している 。日本の医師がニュージーランドで医師登録を行う方法として、主に3つのルートが存在する。最も一般的なのは、NZREX(New Zealand Registration Examination)を通過してMCNZ(Medical Council of New Zealand)に登録する方法である。
参考)https://doctor-overseas.com/register-in-nz/
Postgraduate Training Pathwayという制度も存在し、一定の条件を満たした国の医師が最大2年間のsupervised trainingを受けることができる 。この制度は、既に専門医資格を持つ医師が短期臨床留学から長期ビザへと繋げる方法として活用されている 。
参考)https://solo-ielts-toefl.com/how-to-be-doctor-newzealand/
しかし、ニュージーランドの初期研修ポスト不足は深刻な問題となっており 、現実的にはオーストラリアのAHPRA(Australian Health Practitioner Regulation Agency)で医師登録を取得してからニュージーランドに移住するルートも選択肢として考えられる。AHPRAでの登録が完了すれば、ニュージーランドでも医師として働くことが可能になる。
ニュージーランドは世界的にもテレメディシン分野で先進的な取り組みを行っている 。Whakarongorau Aotearoa(旧Homecare Medical)が運営する国家テレヘルスサービスは、7つのデジタルチャネルを通じて24時間365日のサービスを提供している。これらのサービスは政府が資金を提供し、一般市民に無料で提供されている。
参考)https://www.govt.nz/organisations/whakarongorau-aotearoa/
提供されるサービスには、Healthline、障害者ヘルプライン、ワクチンヘルプライン、メンタルヘルスサービス「Need to talk?」、禁煙支援サービスQuitline、性的被害者支援ヘルプライン、アルコール・薬物ヘルプライン、うつ病・不安症ヘルプライン、ギャンブル依存ヘルプライン、国立毒物センターなど幅広い分野が含まれている 。
これらのサービスは、登録看護師、メンタルヘルス看護師、心理学者、精神療法士、精神科医、カウンセラー、医師、救急救命士、毒物学者、健康アドバイザー、家族・性的被害専門家、緊急トリアージ看護師などの臨床チームによってサポートされている 。このような包括的なテレヘルスシステムは、地理的制約の多いニュージーランドの医療アクセス向上に大きく貢献している。
ニュージーランド政府は、デジタルヘルス分野に積極的な投資を行っており、2023年の予算では総額111億ニュージーランドドル(約65億米ドル)という過去最大の保健投資を行った 。この投資には、保健システムのデータ、デジタルインフラ、能力向上のための6億ニュージーランドドル(約4億米ドル)が含まれている。
参考)https://www.mordorintelligence.com/ja/industry-reports/new-zealand-ict-market
政府の暫定的な国家保健戦略では、家庭やコミュニティでより大きなケアを提供するためのデジタルプラットフォームの役割が強調されている 。個人がデジタル技術を活用して自分の健康情報にアクセスし、予約を取り、電話やビデオ診察を受け、自宅で健康状態をモニターする機器を使用するための選択肢を増やすことに専念している。
COVID-19への対応では、NZ COVID Tracerアプリ、My Vaccine Passの導入、COVID検査データへの自動アクセス、国内での遠隔医療やバーチャルケアの迅速な利用など、デジタルヘルスが極めて重要な役割を果たした 。これらの経験を基に、オンライン診療と対面診療を統合したオムニチャネル医療提供システムの構築が進められている。
ただし、テレメディシンの実装には法的課題も存在する 。Medicines Act 1981とその下にある各種規制は、処方薬の販売・供給を管理しており、特に処方薬に関する制限や管理要件、患者が「認定処方者のケア下にある」という要件などが、テレメディシンの実践において重要な考慮事項となっている。
参考)https://www.telehealth.org.nz/assets/standards/53873225-Telemedicine-in-NZ-and-across-borders-HHedley-BuddleFindlay-v1-web.pdf