ノックビン効果とアルコール依存症治療

ノックビンは慢性アルコール中毒に対する抗酒療法として用いられる薬剤ですが、どのような作用機序で効果を発揮し、他の治療薬と何が違うのでしょうか?

ノックビンの効果と作用機序

ノックビンの特徴を理解する
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主成分ジスルフィラムの作用

肝臓のアルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害し、飲酒時にアセトアルデヒドを蓄積させて不快症状を引き起こす

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効果発現と持続時間

服用後数時間~3日で効果が出現し、効果は服用中止後も最長14日間持続する

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断酒維持への貢献

物理的な飲酒抑止力として機能し、高い断酒効果を示す抗酒薬として位置づけられる

ノックビンのアルデヒド代謝阻害メカニズム

 

ノックビン(一般名:ジスルフィラム)は、アルコール依存症治療における抗酒薬として長年使用されてきた薬剤です。この薬剤の主要な作用機序は、肝臓に存在するアルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)という酵素を阻害することで、飲酒時の血中アセトアルデヒド濃度を上昇させる点にあります。通常、体内に入ったアルコール(エタノール)は、肝臓でアルコールデヒドロゲナーゼによってアセトアルデヒドに変換され、さらにALDHによって酢酸へと代謝されます。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報

ノックビンを服用すると、この代謝経路のうちアセトアルデヒドから酢酸への変換が阻害されるため、体内にアセトアルデヒドが蓄積します。アセトアルデヒドは悪酔いや二日酔いの原因物質として知られており、顔面紅潮、熱感、頭痛、悪心・嘔吐、動悸、血圧低下などの強い不快症状を引き起こします。この「アルコール-ジスルフィラム反応」と呼ばれる生理的反応により、患者は飲酒に対する嫌悪感を獲得し、断酒の維持が可能になります。
参考)アカンプロサートの効果は?副作用『やばい』真相と断酒サポート…

ノックビンは元々1881年に合成された化合物で、当初はゴムの加硫加工に用いられていました。1937年にゴム製造工場の労働者が酒に弱くなる現象が報告され、1948年に実験を通じてアルコールに対する反応が明らかになったという歴史的背景があります。
参考)ジスルフィラム - Wikipedia

ノックビンの効果発現時間と持続期間の特性

ノックビンの大きな特徴の一つは、効果発現までに時間を要する一方で、作用持続時間が極めて長いという点です。服用後、効果が現れるまでには数時間から長い場合は3日程度かかりますが、一度効果が出ると約1~2週間にわたって持続します。実際、アルコールに対する感受性はジスルフィラム服用後、少なくとも14日間は持続すると報告されています。
参考)https://www.heisei-ph.com/pdf/H30.4.2.pdf

この長期持続性は、同じ抗酒薬であるシアナマイドと比較すると明確になります。シアナマイドは液剤で即効性があり、服用後5~10分で効果が現れますが、効果持続時間は約12~24時間と短いのが特徴です。一方、ノックビンは粉末で、効果がゆっくりと続く遅効型の薬剤として位置づけられます。
参考)アルコール依存症の治療方法|銀座心療内科クリニック

用法・用量としては、ジスルフィラムとして通常1日0.1~0.5gを1~3回に分割経口投与します。本剤を1週間投与した後に通常実施する飲酒試験では、患者の平常の飲酒量の1/10以下の酒量を飲ませ、発現する症状の程度により用量を調整します。維持量としては通常0.1~0.2gで、毎日続けるか、あるいは1週ごとに1週間の休薬期間を設けることもできます。
参考)医療用医薬品 : ノックビン (ノックビン原末)

ノックビンと他のアルコール依存症治療薬との比較

日本で承認されているアルコール依存症治療薬には、ノックビン(ジスルフィラム)、シアナマイド、アカンプロサート(レグテクト)、ナルメフェンセリンクロ)の4剤があります。これらは作用機序によって「抗酒薬」と「断酒補助薬」、「飲酒量低減薬」に分類されます。
参考)アルコール使用障害に対する薬物治療 最新の比較|高津心音メン…

抗酒薬に分類されるノックビンとシアナマイドは、ALDH酵素を阻害してアセトアルデヒドを蓄積させ、不快症状により飲酒を抑止する「罰則的な抑止力」として機能します。一方、アカンプロサートはNMDAグルタミン酸受容体やGABA受容体に作用し、脳内の神経伝達物質のバランスを調整することで「飲酒したいという渇望そのもの」を軽減させる断酒補助薬です。ナルメフェンは脳内のオピオイド受容体に作用し、本能的な快・不快の情動を調節することで飲酒欲求を低減する飲酒量低減薬として位置づけられます。
参考)ブログ|【公式】名古屋伏見こころクリニック

薬剤名 分類 作用機序 主な効果 効果持続時間
ノックビン 抗酒薬 ALDH阻害 飲酒時の不快反応誘発 約1~2週間
シアナマイド 抗酒薬 ALDH阻害 飲酒時の不快反応誘発 約12~24時間
アカンプロサート 断酒補助薬 NMDA受容体・GABA受容体調整 飲酒欲求の軽減 継続服用が必要
ナルメフェン 飲酒量低減薬 オピオイド受容体調節 飲酒欲求の低減 頓用で使用

2022年のメタ解析によると、断酒の成功においてはγ-ヒドロキシ酪酸バクロフェン、ジスルフィラム(ノックビン)、ガバペンチン、アカンプロサートの順で優れた効果を示し、ヘビードリンク(大量飲酒)の改善においてもジスルフィラムは最上位の有効性を示しています。これらの結果から、アカンプロサート、ジスルフィラム、経口ナルトレキソンが断酒と大量飲酒改善の両面で優れていると評価されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10010623/

ノックビンの副作用と注意すべき安全性情報

ノックビンの重大な副作用として、肝機能障害と精神症状が報告されています。肝機能障害はまれに重篤な場合があるため、抗酒薬服用中は定期的な肝機能検査(AST、ALT、γ-GTP、LDH、AL-P、ビリルビンなど)を受けることが強く推奨されています。精神症状は投与量が多い場合の副作用であり、ごくまれにしか認められませんが、重い脳障害(見当識障害、記憶障害、錯乱など)が報告されています。
参考)依存症拠点機関事業 依存症関連自助グループ、依存症基本知識 …

シアナマイドと比較すると、ノックビンの副作用プロファイルには違いがあります。シアナマイドでは皮疹が比較的よく認められ、長期投与時に肝細胞にすりガラス様封入体が現れることや、皮膚粘膜眼症候群(スティブンス-ジョンソン症候群)、中毒性表皮壊死融解症、再生不良性貧血などの重篤な副作用が報告されています。
参考)ノックビン原末 (ジスルフィラム) 田辺三菱 [処方薬]の解…

禁忌・慎重投与が必要な患者としては、重篤な肝機能障害や腎機能障害のある患者(原疾患が悪化するおそれ)、虚血性心疾患脳血管障害のある患者(アルコール反応により症状が悪化)、精神病性障害のある患者(原疾患が悪化)、甲状腺機能低下症の患者(動物実験で甲状腺機能低下作用が報告)などが挙げられます。
参考)ノックビン原末の効能・副作用|ケアネット医療用医薬品検索

服用中の注意点として、注意力や集中力、反射運動能力が低下することがあるため、車の運転など危険な作業は避ける必要があります。また、まれに視神経に障害を起こすことがありますが、服用を中止するとゆっくり回復し、最終的には完治することが報告されています。
参考)https://www.pharm-hyogo-p.jp/renewal/siryou/r3s64.pdf

ノックビン服用中のアルコール含有食品との相互作用

ノックビン服用時の重要な注意点として、アルコールを含む食品や製品に対する反応があります。本剤を服用中は、嗜好品である酒を飲まなくても、奈良漬や酢のようなエタノールを含む食品や、少量の薬用酒を摂取した程度でも悪酔い症状を起こすことがあります。さらに、アルコールを含む化粧品などの外用品に対しても反応を起こす可能性があるため、使用する製品の成分表示を確認することが重要です。​
具体的な身体反応としては、アルコール摂取後5~10分で顔面潮紅、熱感、頭痛、悪心・嘔吐などの急性症状が発現します。これらの症状は、アセトアルデヒドの体内蓄積によるもので、お酒に弱い人(ALDH2欠損型)が飲酒した時と同様のメカニズムです。
参考)公益社団法人 福岡県薬剤師会 |質疑応答

この治療法では、患者がアルコールを飲むために自己判断で断薬してしまう傾向があるため、治療開始前に患者本人や家族などの同意と認識が極めて重要となります。実際の臨床現場では、本剤による治療に先立ち、服用中に飲酒した場合の反応を十分に説明して、患者及びその家族等の了解を得ることが基本的注意として定められています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00056554.pdf

通常、断酒を始めてから抗酒剤を飲み続ける期間については、2年間程度と言われることが多いですが、主治医と相談しながら個別に決めるべきとされています。なお、この薬は患者自身が進んで服用すべきものであり、家族が無断で食事や飲み物に混入させるような使用方法は推奨されていません。
参考)https://t-alcsien.jp/t-alcsien-watanabe/wp-content/uploads/2018/04/ARP-%E3%83%86%E3%82%AD%E3%82%B9%E3%83%8820200107-45-68-1.pdf

参考文献:
くすりのしおり:ノックビン原末 | 患者向け情報
本剤の基本的な効能・効果と使用上の注意点について、一般患者向けにわかりやすく解説されています。

 

ノックビン医薬品インタビューフォーム(PDF)
医療従事者向けの詳細な薬剤情報として、作用部位・作用機序、臨床成績、薬物動態などの専門的データが記載されています。

 

日本アディクション看護学会:抗酒薬について
抗酒薬の作用機序、副作用、ジスルフィラムとシアナミドの違いなど、依存症治療における専門的知見が提供されています。

 

 


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