エタノールとアルコールの違いと消毒効果

エタノールとアルコールは同じものなのか、それとも何か違いがあるのでしょうか。医療現場で日常的に使用される消毒剤について、その化学的特性から実際の用途まで詳しく解説します。正しい知識を身につけて、適切な消毒を実践できていますか?

エタノールとアルコールの違い

この記事のポイント
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化学構造の基礎

アルコールは化合物の総称で、エタノールはその一種です

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濃度と消毒効果

消毒に最適なエタノール濃度は70~80%で、水分が重要な役割を果たします

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医療現場での使い分け

用途に応じて消毒用エタノール、イソプロパノールなどを選択します

エタノールはアルコールの一種

 

アルコールとは、炭化水素の水素原子がヒドロキシ基(-OH)で置換された化合物の総称です。つまり、アルコールは特定の物質を指す名称ではなく、ヒドロキシ基を持つ化合物全体を表すカテゴリー名なのです。
参考)化合物の総称としてのアルコール ~ アルコールとエタノール①…

エタノール(エチルアルコール)は、化学式C₂H₅OH(またはCH₃CH₂OH)で表される、炭素原子2個を持つアルコールの一種です。一般的に「アルコール消毒」と言う場合、補足的な説明がない限り、このエタノールを指しています。
参考)【新型コロナ消毒】エタノールとアルコールは違うの? 次亜塩素…

アルコールには多くの種類が存在し、炭素数によって呼び名が異なります。炭素が1つのものはメタノール(CH₃OH)、炭素が3つのものはプロパノール、炭素が4つのものはブタノールと呼ばれます。
参考)メタノールはコロナウイルス対策に使えるか?

エタノールとメタノールの決定的な違い

エタノールとメタノールは、化学式がたった1文字違うだけですが、性質や使用目的は大きく異なります。メタノールは工業系や燃料系で使用されますが、毒性が強いため、ヒトの消毒に使用することはできません。​
第二次世界大戦後、メタノールを混ぜた非正当な酒が市場に出回り、多数の失明者や死亡者が出た事例があります。メタノールを経口摂取すると、体内で有毒な物質に代謝され、視神経障害や中枢神経障害を引き起こし、最悪の場合は死に至ります。​
一方、エタノールは消毒・殺菌剤や工業用洗浄剤として広く使用され、発酵エタノールは飲用としても安全に利用できます。この安全性の違いが、医療現場でエタノールが選ばれる重要な理由となっています。
参考)公益社団法人 福岡県薬剤師会 |質疑応答

エタノールの化学構造と特性

エタノールの分子は、炭素2個、水素6個、酸素1個から構成され、分子量は46.069 g/molです。示性式はC₂H₅OHと表記され、構造式ではCH₃-CH₂-OHと書くことで、ヒドロキシ基の位置が明確になります。
参考)エタノール - Wikipedia

エタノールはヒドロキシ基を持つため、極性分子としての性質を示します。このヒドロキシ基が親水性を持つ一方で、アルキル基(炭素鎖)は疎水性を持つため、エタノールは両親媒性(親水性と疎水性の両方の性質を持つ)物質として機能します。
参考)アルコール - Wikipedia

この両親媒性により、エタノールは水と任意の割合で混じり合う性質があり、同時に脂質やタンパク質に対しても作用できるため、優れた消毒効果を発揮します。
参考)エタノール

エタノール以外の医療用アルコール

医療現場では、エタノール以外にもいくつかのアルコールが使用されています。主なものとして、イソプロパノール(イソプロピルアルコール)があり、50~70vol%の濃度で手指・皮膚の消毒や医療機器の消毒に用いられます。
参考)Y's Square:病院感染、院内感染対策学術情報 | ア…

イソプロパノールは消毒用エタノールと同等の効果を持ち、価格が安価という利点があります。しかし、ロタウイルスやアデノウイルスには効果が弱く、毒性や脱脂作用は消毒用エタノールより強いという欠点があります。​
医療機関では、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール液、イソプロパノール添加エタノール液などが使い分けられており、それぞれ免税的措置や薬事承認の状況が異なります。注射・採血部位の皮膚の消毒、医療器具の消毒、物品・環境の消毒など、用途に応じて適切なアルコール系消毒薬が選択されます。​

エタノールの消毒メカニズム

エタノールが微生物を殺菌する主要なメカニズムは、タンパク質の変性です。微生物内部のタンパク質は複雑な三次構造を持ち、その形状によって機能を発揮していますが、この構造を安定させているのが水素結合です。
参考)エタノール殺菌とその殺菌メカニズム

エタノールはこの水素結合を攻撃し、タンパク質の構造を崩壊させて機能を失わせます。具体的には、エタノール分子の疎水性部分(C₂H₅)がタンパク質の疎水性領域に結合して構造を揺さぶり、さらにエタノールの-OH基が水素結合に割り込んで結合を破壊します。
参考)なぜ消毒用アルコールで手が荒れる? エタノールが菌やウイルス…

細菌の場合、エタノールは細胞膜を破壊することで除菌や消毒を行います。細胞膜は脂質が隙間なく二重の層になった薄い膜で、外からの侵入を防ぐ防波堤の役目をしています。エタノールもその細菌も親水性と疎水性を併せ持っているため、エタノールは奥まで入り込んで守りの堅い細胞膜を壊すことができます。​
エタノールは、芽胞を除く多くの細菌に有効で、病原性大腸菌、黄色ブドウ球菌腸炎ビブリオ、サルモネラのような食中毒菌に対しては、瞬間的な除菌力を発揮します。インフルエンザウイルスのようなエンベロープを持つタイプのウイルスには効果がありますが、ノロウイルスを代表とするエンベロープのないウイルスには効果が得られにくい面もあります。
参考)日本食品洗浄剤衛生協会

エタノール消毒における水分の重要な役割

エタノール消毒において、水分の存在は極めて重要です。水が含まれることで、タンパク質変性の作用が効率的に進むことが知られています。
参考)【 アルコール(エタノール)】の濃度による殺菌(除菌・消毒)…

水は極性分子であり、タンパク質内の極性基と親和性を持ちます。水分子は極性部位に作用して水素結合を不安定化させる一方、エタノール分子は疎水性領域に結合して構造を揺さぶります。水とエタノールが異なるターゲットに作用することで、変性が表面から深部へと拡大するのです。​
高濃度エタノール(90%以上)では、水が不足するため、タンパク質の表面だけが急速に凝固し、内部の変性が十分に進みません。また、濃度が高すぎるとアルコールがすぐに蒸発するため、効果を発揮する前に乾いてしまいます。
参考)アルコール消毒液の濃度の目安は?ウイルス対策に効果的な使い方…

ある程度水が存在する状況では、アルコールが膜を変性すると共に、透過したアルコールなどが菌の内圧を高め溶菌作用を引き起こします。一方、アルコール度数が高い場合は、脱水作用により細胞膜など外膜に対して浸透圧による外圧が加わり、溶菌作用を減弱させる可能性があります。​

消毒に最適なエタノール濃度

日本薬局方では、消毒用エタノールの濃度を76.9~81.4 v/v%と定めています。一方、米国薬局方では68.5~71.5 v/v%、WHOガイドラインでは60~80 v/v%とされており、若干のばらつきがありますが、概ね60~80 v/v%があればさまざまな菌・ウイルスに対しての殺菌効果が期待できると考えられます。
参考)正しいアルコール(エタノール)消毒液の使い方知っていますか?…

厚生労働省通達のコロナ対策では、原則70~95%が推奨されていますが、70%以上のエタノールが入手困難な場合には、60%台のエタノールでも差し支えないとされています。CDC(米国疾病予防管理センター)ガイドラインでは60~95%、WHO(世界保健機構)ガイドラインでは80%と定められています。
参考)サラヤ|ウイルスに効くアルコール濃度とは?

一部の抗酸菌では72 v/v%以上の濃度が必要なため70~75 v/v%が推奨されています。また、ウイルスの中には濃度が90%以上でないと効果が低い種類もいるため、CDCのガイドラインでは最大95%という規定がありますが、一般的には70~80%で十分に効果が発揮されると考えられます。​
濃度が90%では効果が低く、60~70%だと効果が高いウイルスもいるという研究報告もあることから、手指消毒には70~80%程度を目安にするのが最も安全で効果的と言えます。​

無水エタノールと消毒用エタノールの違い

無水エタノールは、水分をほとんど含んでいない純度の高いエタノール(99.5vol%以上)です。「無水」という名称から消毒力が高いように思われがちですが、実際にはすぐに蒸発してしまうため、消毒には向いていません。
参考)無水エタノールと消毒用エタノールの違いはココ! - DICA…

無水エタノールは洗浄力が高いため、水拭きができない電化製品の清掃に使用されます。肌に直接付着すると水分を奪ってしまい、刺激が強いという特徴があります。​
一方、消毒用エタノール(76.9~81.4vol%)は、無水エタノールよりアルコール濃度が低い分、その場に留まってアルコールの効果を発揮するため、その名の通り「消毒」に適しています。無水エタノールは精製水で薄めると消毒用エタノールになり、具体的には精製水で薄めてエタノールとして76.9~81.4vol%にすることで使用できます。
参考)無水エタノールと消毒用エタノール、どこが違うの?~それぞれの…

エタノール(95.1~96.9vol%)も、830mLを精製水で薄めて1,000mLとして塗布することで、手指・皮膚の消毒や医療機器の消毒に使用できます。最初から消毒用に使用するなら、希釈されているものを購入する方が便利ですが、消毒用エタノールが手に入らない時は無水エタノールを希釈すると良いでしょう。​

エタノールの医薬品分類と用途

市販されているエタノール製剤には、医薬品、医薬部外品、雑品(雑貨)があり、それぞれ法規制が異なります。最大の違いは、医薬品や医薬部外品は「消毒」の効能を表示できるのに対して、雑品は医薬品や医薬部外品のような効能を表示できないことです。
参考)アルコール消毒薬についてhref="https://www.shizuyaku.or.jp/soudan/359/" target="_blank">https://www.shizuyaku.or.jp/soudan/359/amp;#8212;濃度は60~95V/V…

薬機法は、人体(手指など)を消毒する用途で医薬品、医薬部外品、新指定医薬部外品以外の製品(食品添加物のエタノール製剤など)を使用することを認めていません。したがって、医療現場で手指消毒を行う場合は、必ず医薬品または医薬部外品として承認されたエタノール製剤を使用する必要があります。
参考)エタノールとは?|花王プロフェッショナル・サービス株式会社

医薬部外品として販売されているアルコール(エタノール)は、主に事業所や一般家庭での手指や皮膚の洗浄・消毒に使用され、手指や皮膚用の製品が大半です。手指消毒剤(エタノール製剤)は、手指の消毒にしか使用することができず、エタノール濃度は76.9~81.4vol%と規定されています。
参考)消毒剤の基礎知識(1)消毒剤の分類|MHCL WORKS L…

エタノールは「消毒用エタノール」という医薬品として、皮膚や手術部位の消毒、医療器具の洗浄消毒などに用いられています。また、種々の添加物成分を混合した製剤(エタノール製剤またはアルコール製剤)として、新指定医薬部外品や食品添加物の用途でも使われています。​

エタノール消毒の特性と注意点

エタノール消毒には、優れた効果とともにいくつかの特性と注意点があります。アルコール綿に使用するエタノールやイソプロパノールは、中水準(中域)消毒薬に分類され、栄養型細菌に対して即効的に殺菌作用を示します。
参考)消毒用エタノールについて考えよう

エタノールの重要な特性として「揮発性」と血液を凝固させる「タンパク凝固作用」があります。粘膜には使用できませんが皮膚は使用可能で、予防接種前の皮膚消毒などに広く利用されています。​
エタノールは、細菌の殺菌・消毒作用をもち、カビや一部を除くウイルスに対しても幅広い不活化効果を有します。ウェルシュ菌、セレウス菌、ボツリヌス菌のような芽胞を形成する細菌に対しても、栄養型の状態であれば瞬間的な除菌効果を示しますが、芽胞の状態での除菌力はありません。ただし、発芽阻害作用を示すので、菌数の増加を防ぐことができます。​
濃度が高すぎると皮膚の水分も一緒に奪ってしまうため手荒れの原因になり、適切な濃度での使用が重要です。また、消防法では、エタノール濃度が一定以上のものは危険物第4類引火性液体(指定数量400L)に該当するため、保管や取り扱いにも注意が必要です。​

エタノール消毒の効果的な使用法

エタノール消毒を効果的に行うためには、適切な濃度と十分な接触時間が重要です。手指消毒の場合、15秒間の擦り込みでも十分な効果が得られることが研究で示されており、正しい手技で行うことが重要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5419292/

医療現場では、注射・採血部位の皮膚の消毒、医療器具の消毒、物品・環境の消毒など、さまざまな場面でエタノール系消毒薬が使用されます。エタノールベースの手指消毒剤は、感染予防において重要な役割を果たしており、WHOもエタノールを手指消毒の必須成分として位置づけています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9257567/

特に、エタノールはノンエンベロープウイルスに対する活性において、他のアルコール(イソプロパノールやn-プロパノール)と比較して独自の優位性を持つことが示されています。このため、医療現場の感染予防には、エタノールが不可欠な成分と考えられています。​
アルコール消毒液は基本的に他の製品と混ぜて使用するのは禁止ですが、併用して使用することで相乗効果を得ることができます。ウイルスには「エンベロープウイルス」(アルコールで除菌できる)と「ノンエンベロープウイルス」(アルコールで除菌できない)の2種類があり、ノンエンベロープウイルスには次亜塩素酸ナトリウムが効果的です。この2種類のウイルス構造に、それぞれ効果のあるものを併用して使用するのがウイルス対策に望ましいとされています。​

 

 


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