
二次性高血圧は「見つけようとしなければ見つからない」疾患群です。外来で毎日接する高血圧患者の中に、必ず数人は潜在しているという認識が出発点になります。
スクリーニングを積極的に行うべき臨床所見・背景は以下の通りです。
年齢別の分布を把握しておくことも重要です。Am Fam Physician(2010年)のデータによると、12〜18歳では二次性高血圧が高血圧全体の10〜15%を占め、19〜39歳では約5%、40〜64歳では8〜12%、65歳以上では約17%とされています。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
つまり「若者だから」「高齢者だから」という先入観ではなく、年齢ごとに疑うべき疾患が異なるという視点が必要です。
これが基本です。患者の年齢背景に合わせてスクリーニング優先順位を変えることが、効率的な診断につながります。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
基本スクリーニングセット(外来で全例対応可能)
| 検査項目 | 目的 | 注意点 |
|---|---|---|
| 血清クレアチニン(eGFR換算) | 腎実質性高血圧のスクリーニング | 正常でも腎実質性を否定できない |
| 血清K | 原発性アルドステロン症の補助診断 | 正常Kでも30〜40%のPAに低K血症なし |
| 血漿レニン活性(PRA) | ARR算出の分母 | 採血時刻・体位・薬剤が大きく影響 |
| 血漿アルドステロン濃度(PAC) | ARR算出の分子、PA診断の核心 | 同上 |
| TSH | 甲状腺機能亢進症・低下症のスクリーニング | 甲状腺機能亢進→頻脈+拡張期圧低下が特徴 |
| ACTH・コルチゾール | クッシング症候群の初期評価 | 疑う場合は1mg DST(デキサメタゾン抑制試験)を追加 |
| 尿中メタネフリン(MN)・ノルメタネフリン(NMN) | 褐色細胞腫スクリーニング | 随時尿でMN or NMN≧0.5μg/mgCreで感度100% |
この中で特に重要なのがARR(アルドステロン/レニン比)の測定です。
ARR = PAC(pg/mL)÷ PRA(ng/mL/h)
ARR ≧ 200 かつ PAC ≧ 120 pg/mL であれば原発性アルドステロン症が強く疑われ、専門医への紹介が推奨されます。
参考)https://www.j-endo.jp/uploads/files/news/20210823.pdf
ARRを正確に測定するためには採血条件の標準化が必須です。推奨される条件は以下の通りです。
なお、カリウムが正常範囲内でも原発性アルドステロン症を否定できないことは特筆すべき事実です。原発性アルドステロン症患者の40〜50%では低K血症がみられないと報告されており、「Kが正常だからアルドステロン症ではない」という思い込みは危険です。
基本採血で異常が疑われたら、次のステップとして疾患別の精査に進みます。ここでは採血以外の検査も含めた疾患別アプローチを整理します。
参考)https://www.j-athero.org/chart2025/chart2025_qr01.pdf
① 原発性アルドステロン症(PA)
ARR ≧ 200 が確認されたら、負荷試験と副腎CTへ。その後、一側性か両側性かの判定のために副腎静脈採血(AVS)が必要です。AVSは専門施設でのみ実施可能なため、適切なタイミングで専門医に紹介することが重要です。
日本内分泌学会 原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021 — ARR基準値・負荷試験手順・副腎静脈採血の実施条件を詳細に記載
② 褐色細胞腫
発作性・動揺性の高血圧、頭痛、動悸、発汗の三徴を伴う場合はまず随時尿カテコールアミン・メタネフリン分画(MN/NMN)を測定します。感度は随時尿でMN or NMN ≧ 0.5 μg/mgCreにて100%と報告されており、非常に実用的なスクリーニング手段です。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
陽性であれば腹部CT・MRIでの局在診断、そしてMIBGシンチグラフィーによる確認へと進みます。見逃した場合の高血圧クリーゼのリスクは深刻です。手術や内視鏡検査の前に未診断のまま侵襲的処置を行うと、致死的な高血圧発作が誘発されることがあります。
③ クッシング症候群
中心性肥満・満月様顔貌・皮膚線条・高血糖・低K血症などを呈する場合はACTH・コルチゾール測定と並行して、1mg デキサメタゾン抑制試験(翌朝コルチゾール ≧ 5 μg/dL で陽性)を実施します。感度85%、特異度95%と実用性が高い検査です。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
④ 腎実質性高血圧
最も頻度が高い二次性高血圧の原因疾患です。血清クレアチニン上昇・eGFR低下・蛋白尿・血尿が初期手がかりになります。腹部超音波でのサイズ・形態確認を組み合わせて行い、必要に応じて腎生検へ。
⑤ 腎血管性高血圧
55歳以上の喫煙者、ACEI/ARB投与後のクレアチニン急激な上昇(50%以上)、腎サイズの左右差が見られる場合は腎血流エコー(PSV > 180 cm/s が目安)を施行し、必要に応じてCTA/MRAへ進みます。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
腎血流エコーはルーチン腹部エコーとは別に専用プロトコルが必要な点に注意が必要です。
薬剤誘発性高血圧は、スクリーニング採血で「異常なし」と判定されたにもかかわらず降圧薬が増え続ける症例の見落とされた原因の一つです。これは見逃すとお金と時間の無駄が積み重なります。
血圧を上昇させる代表的な薬剤・物質は以下の通りです。
スクリーニング採血の前に、お薬手帳と市販薬・サプリメント歴を必ず確認する。この1ステップを忘れると、採血結果の解釈が根本から狂います。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
特に「以前処方されたNSAIDsが漫然と継続されている」「市販の胃薬にグリチルリチンが含まれている」といったケースは、外来でしばしば遭遇します。採血に頼る前に、問診の精度を上げることが診断の近道になることがあります。
日本動脈硬化学会 二次性高血圧の原因疾患と示唆する所見・鑑別に必要な検査(2025年版) — 薬物誘発性を含む全疾患の所見と検査項目を一覧で確認できる
スクリーニングが「わかっていてもできない」理由の多くは、外来フローの設計にあります。毎回一から考えるのではなく、定型化することが現場レベルの解決策です。
ステップ別推奨フロー(外来初診〜スクリーニング完了まで)
STOP-BANGスコア(いびき・倦怠感・無呼吸の目撃・高血圧・BMI35超・50歳以上・頸囲40cm超・男性)が3点以上の場合は睡眠時無呼吸症候群のスクリーニングとして睡眠ポリグラフィー(PSG)または簡易ポリグラフィーの実施を検討します。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
AHI ≧ 40 の重症例にCPAPを適用すると、収縮期血圧が平均2.6 mmHg、拡張期血圧が平均2.0 mmHg低下するという報告があります(JAMA 2017)。降圧幅は小さく見えますが、降圧薬の最適化に直接つながります。
参考)http://hospitalist.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-kameda-190109.pdf
また、睡眠時無呼吸症候群と原発性アルドステロン症は合併することが多く、一方を治療しても他方を見逃しているケースがあります。PAとSASの合併率は高血圧患者の中でも特に高いとされており、両方向から評価することが理想的です。
外来での採血・問診の効率化ツールとしては、日本内科学会や日本内分泌学会が公開している二次性高血圧の診療アルゴリズムを電子カルテのテンプレートとして登録しておく方法が、実用的かつ見落とし防止に有効です。
メディカルノート 二次性高血圧の評価 — 外来でのスクリーニング検査の基本的な考え方と手順をわかりやすく解説
最後に、スクリーニング採血の目的は「異常を探すこと」ではなく、「治療可能な原因を見つけて患者の予後を改善すること」です。結論はシンプルです。適切な条件・項目・タイミングで採血し、疾患ごとの所見を照合する習慣が、二次性高血圧の早期診断率を大きく引き上げます。
| 検査項目 | 何を見るか |
|---|---|
| Ca・補正Ca(Albで補正) | 高Ca血症 → 原発性副甲状腺機能亢進症、悪性腫瘍を疑う |
| Alb | 栄養状態・補正Ca計算に必須 |
| P(無機リン) | 低P血症 → 骨軟化症、FGF23過剰を疑う |
| ALP(骨型ALP) | 高値 → 骨代謝亢進状態、低値 → 骨軟化症 |
| PTH | 高PTH → 副甲状腺機能亢進症、低PTH → 副甲状腺機能低下症 |
| 25(OH)D(ビタミンD) | 20ng/mL未満で欠乏、10ng/mL未満で重篤欠乏 |
| TSH・FT4 | 甲状腺機能亢進症の除外 |
| 血糖・HbA1c | 糖尿病関連骨粗鬆症の評価 |
| 血算・CRP | 多発性骨髄腫、炎症性疾患のスクリーニング |
| 尿一般(Ca・P排泄) | 高Ca尿症 → 副甲状腺機能亢進症、吸収亢進 |

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