多発性骨髄腫は初期段階では自覚症状がないことが一般的であり、無症状のうちに健康診断の血液検査で異常を指摘されることが少なくありません。病気の初期にはほとんど自覚症状がなく、健康診断や人間ドックの血液検査や尿検査で異常を指摘されて病気が判明する場合や、風邪などの感染症が長引くことでたまたま見つかるケースも増えています。症状のない多発性骨髄腫は「無症候性骨髄腫」または「くすぶり型骨髄腫」とも呼ばれ、治療せず経過観察が検討されることもあります。
参考)多発性骨髄腫の原因・症状について|国立がん研究センター
しかし、進行するリスクが高いと判断された場合には、症状がなくても治療が検討されることがあります。MGUS(良性単クローン性高ガンマグロブリン血症)は毎年1%の速度で無症候性骨髄腫に進展し、無症候性骨髄腫患者は確診の前5年間で毎年10%の割合で症候性骨髄腫に進行します。早期発見のためには、定期的な血液検査での総蛋白、蛋白分画、免疫グロブリンの測定が重要です。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E5%A4%9A%E7%99%BA%E6%80%A7%E9%AA%A8%E9%AB%84%E8%85%AB/contents/220324-001-SP
多発性骨髄腫でもっとも多くみられる症状として、痛みや骨折など骨の症状が挙げられます。多発性骨髄腫患者では70%以上の患者に何らかの骨関連事象(病的骨折・圧迫骨折・高カルシウム血症)を認め、その多くは症候性です。骨髄腫細胞が骨を壊す細胞(破骨細胞)の活性化と骨を再生する細胞(造骨細胞)の抑制を行うため、骨がもろくなり、背骨が潰れたり、明確な衝撃がなくても四肢の骨が折れたりすることがあります。
参考)多発性骨髄腫:[国立がん研究センター がん情報サービス 一般…
多発性骨髄腫の方の骨をX線検査で見ると、骨の一部が黒く見える「打ち抜き像」が見えることもあります。骨の中にあったカルシウムが血液中に溶け出すことで高カルシウム血症が生じ、めまい、頭痛、口の渇き、便秘、食欲不振、意識障害などの症状があらわれることがあります。多発性骨髄腫では初発時あるいは病勢増悪時に補正カルシウム値が11 mg/dlを超える高カルシウム血症がしばしば認められ、高カルシウム血症が進行すると意識障害や腎不全を引き起こす可能性があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/112/7/112_1210/_pdf
骨髄腫細胞が増殖することにより、正常な血液細胞をつくる働き(造血機能)が低下します。赤血球が減少すると、貧血の症状(息切れや動悸、めまい、倦怠感など)があらわれます。多発性骨髄腫では貧血が主要な症状の一つとして知られており、造血機能の抑制に伴って赤血球数やヘモグロビン値が減少します。
参考)多発性骨髄腫とは?症状から治療法、免疫細胞治療に関する情報ま…
白血球が減少すると、ウイルスなどに感染しやすくなり、血小板が少なくなると、鼻血や歯茎から出血しやすく、出血がとまりにくくなることもあります。白血球数の減少により抵抗力が落ち、感染症にかかりやすくなるため、風邪のような症状が長引くことが多発性骨髄腫発見のきっかけになることもあります。血小板数の減少により出血傾向が現れ、些細な外傷でも出血が止まりにくくなる点にも注意が必要です。
参考)多発性骨髄腫とは? 症状や検査、治療法について解説 
多発性骨髄腫は腎障害をきたす血液疾患として知られており、腎障害の機序としてはアミロイドやM蛋白の沈着による糸球体間質病変のほかにも高カルシウム血症による急性腎不全の関与が知られています。多発性骨髄腫では、骨髄腫細胞やM蛋白が増えることによって、さまざまな臓器障害が起こります。M蛋白やその一部(ベンス・ジョーンズ蛋白)が腎臓に沈着することで腎機能が低下し、クレアチニン値が上昇します。
参考)https://jsn.or.jp/journal/document/42_1/041-046.pdf
多発性骨髄腫では、腫瘍化した形質細胞が大量のM蛋白を産生することで、過粘稠度症候群を引き起こすことがあります。M蛋白が血液中に大量に存在することで血液の粘り気が強くなり、過粘稠度症候群により、視力低下、頭痛、めまい、意識障害、出血傾向などの症状が引き起こされます。過粘稠度症候群は複合体を形成しやすいIgA型や一部のIgG型で多く見られ、細い血管の循環障害が生じることで神経症状や視覚障害などが出現します。
参考)多発性骨髄腫では過粘稠度症候群を引き起こしやすいのでしょうか…
多発性骨髄腫では骨病変、貧血、高カルシウム血症、腎障害、過粘稠度症候群などに基づく多彩な臨床症候を呈することが知られており、診断や化学療法と並行して支持療法を全科的に進めていくことが重要です。症状の現れ方には個人差があり、骨の痛みは特に背中や腰に出やすく、進行すると日常生活に支障をきたすことがあります。骨痛には放射線治療や医療用麻薬が有効であり、人工透析が必要になることもあります。
参考)多発性骨髄腫 
医療従事者として、多発性骨髄腫患者の症状を適切に評価し、早期介入することが求められます。高カルシウム血症に対しては輸液療法やビスフォスフォネート製剤の投与、腎機能障害に対しては適切な補液と原因除去、貧血に対しては輸血や造血刺激因子の使用など、症状に応じた支持療法が必要です。また、感染症予防のための抗菌薬予防投与や、骨病変に対するビスフォスフォネート製剤の定期投与なども重要な支持療法となります。
国立がん研究センターがん情報サービスの多発性骨髄腫に関する包括的な情報
国立がん研究センター中央病院による多発性骨髄腫の原因・症状の詳細解説
中国初次復発多発性骨髄腫診治指南(2022年版)の診断と管理に関する国際的なガイドライン