副甲状腺機能亢進症 症状と治療薬
副甲状腺機能亢進症の基本情報
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疾患概要
副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌による高カルシウム血症を特徴とする内分泌疾患
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発症率
数千人に1人の割合で発症し、女性に多い傾向がある
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主な症状
骨痛、腎結石、慢性疲労、精神症状など多岐にわたる
副甲状腺機能亢進症の病態と原因分類
副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺ホルモン(PTH)の過剰分泌により血清カルシウム濃度が上昇する内分泌疾患です。この疾患は病態機序によって3つのタイプに分類されます。
- 原発性副甲状腺機能亢進症
- 副甲状腺そのものの異常(腺腫、過形成、がんなど)が原因
- 80~85%は単一の腺腫が原因
- 約15%は多腺性過形成
- 悪性腫瘍(副甲状腺癌)は1%未満と稀
- 二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症
- 慢性腎不全やビタミンD欠乏症などが原因
- 低カルシウム血症に対する代償的なPTH分泌増加
- 血清カルシウム値は正常~低値の場合が多い
- 透析患者では高リン血症も影響
- 三次性副甲状腺機能亢進症
- 長期間の二次性副甲状腺機能亢進症により副甲状腺が腺腫様に変性
- 自律的なPTH分泌を特徴とする
- 腎移植後でも高カルシウム血症が持続
原発性副甲状腺機能亢進症の発症率は、数千人に1人の割合で、性別では女性に多い傾向があります。近年は健康診断などでの血液検査で偶発的に発見されるケースが増加しています。
日本内分泌外科学会による原発性副甲状腺機能亢進症治療ガイドライン(詳細な疫学情報含む)
副甲状腺機能亢進症の典型症状と合併症
副甲状腺機能亢進症は「骨、石、腹部の痛み、精神症状」を特徴とする古典的な症状に加え、多彩な症状を呈します。特に高カルシウム血症による全身への影響が顕著です。
1. 骨・筋肉系症状
- 骨痛(特に腰痛や背部痛)
- 筋力低下(特に近位筋)
- 線維性骨炎(osteitis fibrosa cystica)
- 病的骨折のリスク増加
- 骨密度低下・骨粗鬆症
2. 腎・尿路系症状
- 高カルシウム尿症
- 腎結石(20~25%の患者で発症)
- 腎機能障害
- 多尿・夜間頻尿
- 口渇・多飲
3. 消化器系症状
4. 神経・精神症状
- 慢性疲労
- 集中力低下・記憶障害
- 抑うつ
- 情緒不安定
- 錯乱(重症例)
5. 循環器系への影響
- 高血圧(約半数の患者で併発)
- QT間隔短縮
- 心筋肥大
注目すべき点として、近年の研究では、軽度の高カルシウム血症でも認知機能や生活の質に影響を及ぼすことが明らかになっています。また、無症候性と思われた患者でも、治療後に振り返ると様々な症状が改善したと報告するケースが少なくありません。
長期間の高カルシウム血症による合併症として、血管や軟部組織への異所性石灰化、骨量減少、心血管イベントリスクの増加なども報告されています。
日本内分泌学会による副甲状腺機能亢進症の診療の手引き(症状と合併症の詳細を含む)
副甲状腺機能亢進症の診断とスクリーニング検査
副甲状腺機能亢進症の診断は、生化学的検査と画像診断を組み合わせて行います。初期スクリーニングから確定診断、さらに病変の局在診断まで、段階的なアプローチが重要です。
基本的な診断フローチャート:
- 血液生化学検査(スクリーニング)
- 血清カルシウム値上昇
- 血清リン値低下(原発性の場合)
- 血清ALP上昇(骨代謝亢進時)
- 内分泌学的検査(確定診断)
- intact PTH(インタクトPTH)上昇
- 血清25(OH)ビタミンD測定
- 1,25(OH)2ビタミンD測定
- 尿検査
- 尿中カルシウム排泄量増加
- 尿中リン排泄量増加
- 尿中cAMP増加
- 骨代謝マーカー
- 骨形成マーカー(P1NP、BAP)
- 骨吸収マーカー(NTX、TRACP-5b)
- 画像診断(病変部位の同定)
- 頸部超音波検査(エコー):一次検査として有用
- 99mTc-MIBI副甲状腺シンチグラフィー:特異性高い
- 造影CT:異所性副甲状腺の評価に有効
- 4DCT:従来のCTより感度が高い
- 選択的静脈サンプリング:局在診断困難例に実施
診断のポイント:
- 高カルシウム血症と不適切に高いPTH値が診断の要
- 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)との鑑別が重要
- カルシウム/クレアチニンクリアランス比(CCCR)<0.01はFHHを示唆
- MEN(多発性内分泌腺腫症)の可能性も検討
特に注意すべき点として、日内変動のある血清カルシウム値や、生理的範囲の上限付近でのPTH値解釈には慎重な評価が必要です。また、ビタミンD欠乏症が併存すると、血清カルシウム値が正常範囲内でもPTH値が上昇することがあります。
最新の診断アプローチでは、従来は見逃されていた正常上限域のカルシウム値(9.5〜10.5mg/dL)での副甲状腺機能亢進症(Normocalcemic PHPT)にも注目が集まっています。
副甲状腺機能亢進症の治療薬と適応症例
副甲状腺機能亢進症の治療は原則として外科的切除が第一選択ですが、手術が適応とならない症例や手術までの橋渡し治療として内科的管理が重要になります。現在使用される主な治療薬を症例適応と共に解説します。
1. カルシウム受容体作動薬(カルシミメティクス)
- シナカルセト(レグパラ®)
- 作用機序:副甲状腺のCaSRを感作し、PTH分泌を抑制
- 適応:手術不能な原発性副甲状腺機能亢進症、二次性副甲状腺機能亢進症
- 用量:25mg/日から開始し、血清カルシウム値に応じて調整
- 副作用:悪心、嘔吐、下痢、低カルシウム血症
- エボカルセト(オルケディア®)
- 作用機序:シナカルセトと同様だが、日本で開発された経口薬
- 適応:透析中の二次性副甲状腺機能亢進症
- 特徴:シナカルセトより消化器症状が少ない
- エテルカルセチド(パーサビブ®)
- 作用機序:静注用のCaSR作動薬
- 適応:透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症
- 特徴:透析時に投与可能で服薬コンプライアンス問題を解決
2. ビタミンD製剤
- カルシトリオール(ロカルトロール®)
- 作用機序:活性型ビタミンDとして直接作用
- 適応:二次性副甲状腺機能亢進症、特に腎不全患者
- 注意点:高カルシウム血症をモニタリング
- マキサカルシトール(オキサロール®)
- 作用機序:活性型ビタミンD誘導体
- 適応:透析患者の二次性副甲状腺機能亢進症
- 投与経路:経口剤と静注剤がある
3. 骨吸収抑制薬
- ビスホスホネート製剤
- 作用機序:破骨細胞活性阻害
- 適応:骨密度低下を伴う副甲状腺機能亢進症
- 注意点:顎骨壊死リスク、腎機能障害患者では減量
- デノスマブ(プラリア®)
- 作用機序:RANKL阻害により破骨細胞形成を抑制
- 適応:骨粗鬆症合併例
- 注意点:低カルシウム血症に注意
4. その他の薬剤
- リン吸着薬
- 作用機序:腸管でのリン吸収を抑制
- 適応:高リン血症を伴う二次性副甲状腺機能亢進症
- 種類:炭酸カルシウム、セベラマー塩酸塩、炭酸ランタンなど
治療薬選択のポイント:
- 原発性副甲状腺機能亢進症では、手術困難例に限りカルシウム受容体作動薬を考慮
- 二次性副甲状腺機能亢進症では、病期に応じた段階的アプローチを検討
- 骨粗鬆症合併例では骨吸収抑制薬の併用を考慮
- 薬物治療では根治は困難であり、症状や合併症のコントロールが目標
最新の研究では、PTH抗体療法などの新たなアプローチも開発中であり、今後の治療選択肢の拡大が期待されています。
レグパラ®(シナカルセト塩酸塩)の添付文書(詳細な用法・用量情報)
副甲状腺機能亢進症の外科的治療と最新アプローチ
副甲状腺機能亢進症の根治療法は外科的手術です。近年、従来の術式に加えて低侵襲手術や新たな技術を用いたアプローチが発展しています。
1. 手術適応基準
原発性副甲状腺機能亢進症の手術適応(国際ガイドライン2022年版)。
- 50歳未満の症例
- 血清カルシウム値が基準上限を1.0mg/dL以上上回る
- 推算糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分
- 骨密度がYAM値の80%未満または脆弱性骨折の既往
- 腎結石または腎石灰化の存在
- 高カルシウム尿症(>400mg/日)
- 無症候例でも上記に該当する場合は手術推奨
2. 従来の手術方法
- 頚部両側探索法
- 全ての副甲状腺(通常4腺)を確認する伝統的方法
- 多腺病変の可能性がある場合に推奨
- 手術時間:1.5〜2時間程度
- 入院期間:3〜5日
- 片側探索法
- 術前局在診断で単一腺腫が明確な場合
- より低侵襲で手術時間短縮
- 迅速PTH測定で切除効果確認
3. 最新の低侵襲手術法
- 内視鏡下副甲状腺摘出術(VANS法)
- 前胸部からのアプローチ
- 頚部に傷跡が残らない
- 拡大視野での精密な操作が可能
- 手術時間やや延長
- ロボット支援下副甲状腺摘出術
- 腋窩からのアプローチで頚部に傷が残らない
- 3D視野で精緻な操作が可能
- 高額な医療費と限られた施設での実施が課題
- 術後疼痛が少なく回復が早い
- ラジオ波焼灼療法(RFA)と経皮的エタノール注入療法(PEIT)
- 適応:高齢者や併存疾患のある手術高リスク症例
- 局所麻酔下で実施可能
- 完全切除に比べ再発率やや高い
4. 特殊な術式と技術革新