ノルメタネフリンは、交感神経および副腎髄質で合成・分泌されたノルアドレナリンの不活性型代謝産物です 。この物質は、カテコール-O-メチル転換酵素(COMT)の作用によってノルアドレナリンがメチル化を受けて生成されます 。ノルアドレナリンは体内で複数の代謝経路を辿りますが、主要な代謝産物としてノルメタネフリンとバニリルマンデル酸(VMA)が知られています 。
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/detail.php?pk=607
カテコールアミンの代謝分解には、モノアミン酸化酵素(MAO)とCOMTの二つの酵素系が重要な役割を果たします 。末梢クロム親和組織(交感神経あるいは副腎髄質)でのノルアドレナリンは、アルデヒド酸化酵素、次いでCOMTによる代謝を受け最終産物のVMAに変換されます 。しかし、この代謝経路において中間代謝産物であるノルメタネフリンが、診断上極めて重要な指標となっているのです。
参考)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%A2%E3%83%9F%E3%83%B3
血中のノルメタネフリンは、主に4位の水酸基を生体内に広く分布するフェノールスルホトランスフェラーゼ(PST)により速やかに硫酸抱合され腎から排泄されます 。この代謝の安定性により、ノルメタネフリンはカテコールアミンそのものより測定値の変動が少なく、より信頼性の高い検査マーカーとなっています。
参考)https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/2019_09/002.pdf
褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)の機能診断において、24時間尿中のメタネフリン2分画(メタネフリンとノルメタネフリン)の測定は非常に高い正診率・感度・特異度を示します 。特に、メタネフリンとノルメタネフリンの合計値が正常上限の3倍以上である場合の診断精度は、さらに高まることが報告されています 。
参考)https://test-directory.srl.info/akiruno/test/detail/0R6310500
血中遊離メタネフリン・ノルメタネフリンの測定について、日本人PPGL患者を対象とした臨床性能試験では、感度96.2%、特異度100%という優れた検査性能が確認されました 。この高い感度により、血中遊離メタネフリン2分画測定法は、PPGLの疑われる患者に対するfirst screening(第一の検査)として最も適しているとされています 。
参考)https://www.jslm.org/books/journal/dt/670202.pdf
欧米での研究においても、血漿遊離メタネフリン及びノルメタネフリンの測定において、感度91.7%及び特異度100%という高い検査精度が報告されています 。これらの数値は、感度では血中遊離メタネフリン測定法、次いで尿中メタネフリン測定法が最も優れており、特異度でも他の方法に比べ劣っていないことを示しています 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000055688_2.pdf
ノルメタネフリンの基準値は検査方法や施設によって若干異なりますが、24時間尿中ノルメタネフリンの正常値は103~390μg/24時間とされています 。高血圧患者では900μg/24時間未満が基準値として設定されており 、正常血圧患者(18歳以上)では142~510μg/24時間の範囲が正常とされています 。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/multimedia/table/%E4%BB%A3%E8%A1%A8%E7%9A%84%E3%81%AA%E8%87%A8%E5%BA%8A%E6%A4%9C%E6%9F%BB%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%BA%96%E5%80%A4%E5%B0%BF
随時尿での測定では、ノルメタネフリン/クレアチニン比が重要な指標となります 。ノルメタネフリン/クレアチニンが225以上の場合、褐色細胞腫の可能性が高いと判断できるとされています 。実用的な判定基準として、随時尿中のメタネフリン+ノルメタネフリンの正常値を500 ng/mgCr以下、1,000 ng/mgCr以上を陽性とする報告もあります 。
参考)https://ohrc.vetmed.hokudai.ac.jp/special_inspections/%E5%B0%BF%E4%B8%AD%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%8D%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%8E%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%82%BF%E3%83%8D%E3%83%95%E3%83%AA%E3%83%B3/
メタネフリン分画の検査では、メタネフリン(MN)とノルメタネフリン(NMN)の両方を測定し、それぞれの基準値は施設により設定されています 。保存条件として、6N塩酸20mLを加えた24時間蓄尿(pH3以下)で混和後、必要量を冷蔵保存することが推奨されています 。
参考)https://www.falco.co.jp/rinsyo/detail/060778.html
ノルメタネフリン検査において偽陽性をきたすものとして、メチルドーパ、交感神経刺激薬や抑制薬、アルコール、バナナ、チョコレート、ケーキ類、柑橘類などが知られています 。これらの影響を避けるため、カテコラミン測定に影響する三環系抗うつ薬やレセルピンなどの薬剤を中止して安静時に採尿することが推奨されています 。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1402905818
生理的変動として、加齢とともに高値を示す傾向があり、日内変動(昼間に高値)、季節変動(冬季に高値)、減塩食事により高値を示すことなどを考慮する必要があります 。血中遊離メタネフリンの測定では、安静臥床・非ストレス下での検体採取(臥床20分安静後採血)が偽陽性を避けるために重要です 。
参考)https://www.okayama-u.ac.jp/user/kensa/kensa/fukukou/m.htm
クッシング症候群などの他疾患でも高値を示すことがあるため 、臨床症状や他の検査結果との総合的な判断が必要です。また、保存条件が悪いと分解を受け低値となる場合もあるため、検体の適切な取り扱いが検査精度の維持に不可欠です 。
参考)https://data.medience.co.jp/guide/guide-03040005.html
近年、血中遊離メタネフリン・ノルメタネフリンの測定技術が大幅に向上し、臨床応用が進んでいます。欧米では、血中遊離メタネフリン2分画測定法が褐色細胞腫診断において最も感度・特異度の高い検査として注目され、普及しています 。この検査法は、従来の尿中測定法と比較して非劣性であり、診断に有用であることが証明されています 。
参考)https://www.md.tsukuba.ac.jp/clinical-med/lab-med/metanephrine.html
血中遊離メタネフリン測定法の最大の利点は、その極めて高い感度にあります 。もし検査結果が陰性の場合、褐色細胞腫の可能性は極めて低くなるため、除外診断に最も適しています 。これにより、不必要な追加検査を避け、患者の負担軽減と医療コストの削減に貢献しています。
測定技術の進歩により、LC/MS/MS法(液体クロマトグラフィータンデム質量分析法)などの高精度分析法が導入され、より正確な測定が可能になっています 。この技術革新により、従来法では検出が困難であった微量なレベルでの変化も捉えることができ、早期診断の可能性が高まっています。