重症筋無力症の初期症状として最も頻度が高いのは眼症状であり、初発症状の約70%が眼瞼下垂、50%が複視として出現します。眼瞼下垂は瞼を上げる筋力が低下することで瞼が下がり、目が開けにくくなる症状です。複視は眼球を動かす筋力の低下により、目の動く位置に左右差が生じるため、物が二重に見える症状として認識されます。
参考)重症筋無力症の軽度の症状を教えてください。 |重症筋無力症 
眼筋型重症筋無力症は眼症状のみに限局するタイプであり、全症例の約半数が発症時には眼筋型として発症します。眼筋型の患者のうち約半数は発症2年以内に全身型に移行するとされています。眼筋型の診断には抗アセチルコリン受容体抗体の測定が重要ですが、眼筋型では全身型と比較して陽性率が低くなる傾向があります。
参考)重症筋無力症(MG)の基礎知識と療養のポイント - 神経難病…
初期の眼症状は日内変動を伴うことが特徴的で、朝のうちは症状が軽く、筋肉が疲れてくる夕方になると症状が重くなります。このため、患者は時間帯によって症状の程度が大きく変化することを自覚します。
参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…
全身型重症筋無力症は眼症状だけでなく、手足から全身の筋肉、嚥下に関わる筋肉、表情筋、呼吸筋など広範囲の筋肉が障害されるタイプです。全身型では構音障害、嚥下障害、咀嚼障害などの球症状が出現し、食べ物が飲み込みにくくなったり、話しにくくなったりします。
参考)重症筋無力症 - 独立行政法人国立病院機構 宇多野病院
頸筋の筋力低下により首が重くてささえられなくなる症状も特徴的であり、クリーゼの前兆として重要な所見となります。四肢・体幹筋の筋力低下が進行すると、物を持ちにくくなったり、歩行が困難になったりし、繰り返し運動を続けると早く疲れます。
参考)医療関係者向け 
抗MuSK抗体陽性患者は特に顔面や頚部の筋力低下、嚥下障害、構音障害が症状の中心となり、突然の呼吸困難(クリーゼ)に陥りやすい特徴があります。全身型の中には例外的に飲み込みにくさや呼吸困難などで発症するタイプも存在します。
重症筋無力症の症状は反復動作や持続運動で明らかになりやすく、この特徴は「易疲労性」と呼ばれます。易疲労性は手足などの筋肉に何度も力を入れる動作を繰り返すと、普通の人よりも疲れやすく力が入りにくくなってくる症状ですが、休息により症状が改善します。
参考)〇症状 - 一般社団法人全国筋無力症友の会
重症筋無力症の症状には顕著な日内変動があり、一日の様々な活動により時間が経つにつれて次第に筋力が低下する傾向があります。一日の中でも比較的夕方以降に症状が出やすく、朝起きたときには何も異常がなかったのに夕方になると筋力が弱くなるという特徴があります。
易疲労性と日内変動は重症筋無力症の診断基準においても重要な臨床所見として位置づけられています。忙しく動き回った日は症状が強くなり、休息を取ることで症状の改善傾向が生じます。特に病初期には日によって症状の程度が不安定に変化する場合(不安定性)もあります。
参考)重症筋無力症 
この病態の背景には神経筋接合部における異常があり、運動神経が筋肉を収縮させる際に神経終末から放出されるアセチルコリンという伝達物質が筋肉の受容体に結合して筋収縮が起こるプロセスが障害されています。重症筋無力症では免疫異常によりアセチルコリン受容体に対する自己抗体ができて、神経の司令が筋肉に届くのを阻害してしまうため筋肉が疲れやすく力が入りにくくなります。
手足の易疲労性だけが日内変動や不安定性を伴い生じた場合、客観的に他人が観察できる症状ではないため見逃され、なまけていると勘違いされる可能性があります。このため医療従事者は患者の訴えを慎重に聴取し、適切な評価を行うことが重要です。
重症筋無力症では感染症、手術、ストレスなどの誘因によって急速に呼吸困難をきたし、呼吸不全に陥る筋無力性クリーゼが発生することがあります。クリーゼに陥った場合、直ちに呼吸管理を行い、場合によっては気管内挿管や人工呼吸器装着が必要になります。
クリーゼの前兆として以下の症状が重要です。つばがあふれる(嚥下困難の悪化)、食事ができない、首が重くてささえられない、などの症状が出現した場合は要注意です。さらに危険な徴候として、吸気時に胸鎖乳突筋が動く、吸気時に腹部がへこむシーソー呼吸、大きな呼吸雑音(分泌物による)などが認められます。
重症筋無力症の呼吸困難は換気不全であるため、酸素投与は原則不要ですが、酸素により呼吸数が減り呼吸仕事量が減って乗り切れることがあります。重症筋無力症の呼吸停止は多くの場合、唾液などの誤嚥による溺死に類似したものであり、片肺の呼吸音が聞こえないときは片方の主気管支が分泌物で埋まっており、次は気管にあふれて呼吸停止となるため患者が呼吸していても安心してはいけません。
呼吸に関係する筋力が低下することにより、日常生活の中で息苦しさが出ることもあり、常に呼吸が苦しい、途中で息切れするため文章を最後まで話せない、20まで数を数えられないなどの症状があればクリーゼのサインかもしれません。
参考)重症筋無力症(MG) 急性増悪とは - 知っておきたい知識|…
重症筋無力症の診断では症状の詳細な評価とともに各種検査が必要です。診断基準では以下の自他覚的症状があり、易疲労性と日内変動を伴うことが求められます。
参考)重症筋無力症(指定難病11) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/272" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/272amp;#8211; 難病情報センタ…
血液検査では抗アセチルコリン受容体抗体の測定が最も重要であり、全身型重症筋無力症の患者の80~90%で検出されます。抗AChR抗体を測定して陽性であれば重症筋無力症と診断できますが、陰性(0.2pmole/ml以下)であればさらに抗MuSK抗体を測定します。抗MuSK抗体は全身型重症筋無力症の患者の約4%に見られます。
参考)どんな検査? | 重症筋無力症情報サイト MGスクエア
エドロフォニウム(テンシロン)テストは神経と筋肉の間の刺激の伝達を改善させる薬剤(塩化エドロフォニウム)を静脈注射して、眼や全身の症状が改善されるかどうかをみる検査です。テンシロンは一時的に症状を改善させる薬剤であり、薬剤の静脈注射を行い症状の改善の有無を評価します。
参考)重症筋無力症の診療 
反復刺激試験(Harvey-Masland test)では筋肉に反復して電気刺激を送り、得られる波形から診断します。神経電気生理検査では神経に弱い電気刺激を繰り返し加える反復筋電図検査を行い、電気刺激に反応する筋収縮が徐々に減弱するwaning所見の確認が極めて有用です。
参考)重症筋無力症 
診断がついた際には合併症の評価も必要であり、特に胸腺腫に関しては重症筋無力症の治療方針にも大きく影響するためCT/MRI検査を行うことが一般的です。胸腺腫を合併している場合は生命予後に影響を与えるため、胸腺腫摘除術を出来るだけ早く行うことが必要です。
参考)重症筋無力症(指定難病11) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/404" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/404amp;#8211; 難病情報センタ…
難病情報センター 重症筋無力症(指定難病11)- 症状、診断基準、治療法の詳細情報
MGスクエア - 重症筋無力症の症状に関する患者・家族向け情報サイト
名古屋市立大学 重症筋無力症について - クリーゼの前兆と対応に関する医療従事者向け詳細情報