蕁麻疹 症状と治療方法を医師が解説

蕁麻疹の症状や原因、治療法について医学的な観点から解説します。かゆみを伴う皮膚の盛り上がりの対策法や内服薬の選び方、セルフケアの方法まで網羅。あなたの蕁麻疹はどのタイプでしょうか?

蕁麻疹の症状と治療方法

蕁麻疹(じんましん)の基本知識
🔍
特徴

かゆみを伴う膨疹(皮膚の盛り上がり)と赤みが特徴で、数時間~24時間で移動または消失

⏱️
分類

6週間以内の急性蕁麻疹と6週間以上続く慢性蕁麻疹に分類

💊
治療の基本

抗ヒスタミン薬による内服治療が基本、原因特定と回避も重要

蕁麻疹の代表的な症状と発症メカニズム

麻疹(じんましん)は、皮膚に突然現れるかゆみを伴う膨疹(ほうしん)と赤みが特徴的な皮膚疾患です。膨疹とは皮膚の一部が盛り上がった状態を指し、蕁麻疹の場合は真皮に生じた一過性で限局性の浮腫です。症状の特徴として、以下のポイントが挙げられます。

 

・膨疹の大きさと形状:2~3mmの小さな円形や楕円形から、直径10cm以上の大きなものまでさまざま
・症状の出現と消失:多くの場合、数時間~24時間以内に痕を残さず自然に消失
・場所の移動性:消失したと思っても、別の部位に新しく現れることがある
・皮膚の色調:赤みを伴う盛り上がりとなり、掻くとさらに赤くなる
・感覚:強いかゆみが主症状だが、チクチクとした痛みや焼けるような感覚を伴うこともある
蕁麻疹の発症メカニズムは、何らかの原因によって皮膚に存在する肥満細胞(マスト細胞)が活性化することから始まります。活性化した肥満細胞は「脱顆粒」と呼ばれる現象を起こし、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出します。これらの物質が血管に作用して血管拡張(紅斑)と血漿成分の漏出(浮腫)を引き起こし、また神経に作用してかゆみの感覚を生み出します。

 

この反応は医学的には「IgE依存性の即時型(Ⅰ型)アレルギー反応」と説明されることが多いですが、実際には明確なアレルギー原因物質(抗原)を特定できるケースは全体の7%程度と非常に少ないのが現状です。

 

多くの場合、蕁麻疹は皮膚症状のみで済みますが、まれに口腔や咽頭の粘膜にも浮腫が生じることがあります。この場合、声がかすれたり、重症化すると呼吸困難を引き起こしたりする危険性があるため、注意が必要です。

 

蕁麻疹の原因と種類による分類

蕁麻疹は発症からの期間や原因によって、いくつかのタイプに分類されます。これらを理解することで、適切な対処法や治療法を選択する手がかりになります。

 

【持続期間による分類】
・急性蕁麻疹:発症から6週間以内のもの(70%の人が1週間以内に治癒、90%が1か月以内に治癒)
・慢性蕁麻疹:発症から6週間以上症状が継続するもの
【原因による分類】

  1. 特発性蕁麻疹

    最も多いタイプで、明確な原因が特定できないものです。医療機関を受診する蕁麻疹患者の多くがこのタイプに該当します。

     

  2. アレルギー性蕁麻疹

    特定の食物(エビ、カニなどの甲殻類、ナッツ類など)、薬剤(非ステロイド抗炎症薬など)、ラテックスなどのアレルゲンによって誘発される蕁麻疹です。全体の約7%と比較的少数です。

     

  3. 物理性蕁麻疹

    以下のような物理的な刺激によって誘発されるタイプです。
    ・機械的刺激(皮膚の擦過や圧迫)
    ・寒冷刺激(冷たい風や水に触れた場合)
    ・温熱刺激(熱いお風呂など)
    ・日光照射(特定の波長の光に曝露された場合)
    ・水との接触
    ・振動

  4. コリン性蕁麻疹

    入浴や運動、精神的緊張などで発汗が促される状況で発症する特殊なタイプです。比較的小型で互いに癒合しにくい膨疹が特徴で、ピリピリとした痛みを伴うことがあります。

     

  5. 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)

    特定の食物摂取後2~3時間以内に運動することで誘発されるアナフィラキシー症状です。日本では小麦が原因食物として多く報告されています。非ステロイド抗炎症薬との併用で発症することもあります。

     

  6. 血管性浮腫を伴う蕁麻疹

    皮膚や粘膜の深部に浮腫が生じるタイプです。顔面、特に口唇や眼瞼に好発し、症状が2~3日間持続することがあります。重症化すると気道浮腫を生じ、窒息の危険性があります。

     

また、蕁麻疹の原因となり得る因子として、以下のものが知られています。
・食物:魚介類、卵、乳製品、小麦、大豆、ナッツ類など
・薬剤:非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、抗生物質、ACE阻害薬など
・感染症:上気道感染、歯科感染症など
・ストレス:精神的ストレスが症状を誘発・悪化させることがある
・物理的刺激:前述の通り
・その他:慢性疾患自己免疫疾患、甲状腺疾患など)
蕁麻疹の治療においては、これらの分類や原因を考慮した上で、最適なアプローチを選択することが重要です。

 

蕁麻疹の効果的な薬物療法とその選択基準

蕁麻疹の治療において、薬物療法は中心的な役割を果たします。特に抗ヒスタミン薬が第一選択薬として用いられることが多いですが、症状の程度や種類によって治療法は異なります。ここでは、効果的な薬物療法とその選択基準について詳しく解説します。

 

【抗ヒスタミン薬】
蕁麻疹治療の基本となるのが抗ヒスタミン薬です。これは蕁麻疹の原因物質であるヒスタミンの働きを抑え、かゆみや発疹を軽減します。

 

・第一世代抗ヒスタミン薬。

  • 特徴:血液脳関門を通過するため中枢神経系への作用が強い
  • 副作用:眠気、口渇、集中力低下などの副作用が顕著
  • 例:クロルフェニラミン、ジフェンヒドラミンなど
  • 使用状況:現在は主に睡眠前の服用や、特殊な状況に限定されることが多い

・第二世代抗ヒスタミン薬。

  • 特徴:血液脳関門を通過しにくく、中枢神経系への作用が少ない
  • 副作用:第一世代に比べて眠気などの副作用が少ない
  • 例:セチリジンフェキソフェナジンロラタジンなど
  • 使用状況:現在の蕁麻疹治療の主流となっている

抗ヒスタミン薬使用の重要ポイント。

  1. 定期的な服用:症状が出たときだけでなく、定期的に服用することで効果を維持する
  2. 適切な用量:症状に応じて通常用量の2~4倍まで増量できることがある(医師の指示のもと)
  3. 服用期間:症状が改善しても数日間は服用を継続し、再発予防を図る

【その他の薬物療法】
抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合に検討される治療法。

  1. H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー
  • 抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)と併用することで、相乗効果が期待できる
  • 例:ファモチジン、ラニチジンなど
  1. ロイコトリエン受容体拮抗薬
  1. ステロイド薬
  • 重症例や急性期に限って短期間使用する
  • 長期使用は副作用のリスクがあるため避ける
  • 局所的な使用:湿疹化した部位に限定して外用ステロイド薬を使用
  1. 抗体療法(オマリズマブ)
  • 重症の慢性蕁麻疹で従来治療が無効な場合に考慮される
  • IgE抗体に結合して、アレルギー反応を抑制する生物学的製剤

【薬物選択の基準】
患者の状態や蕁麻疹のタイプに応じて、以下のような基準で薬物を選択します。

  1. 症状の重症度。
  • 軽度~中等度:第二世代抗ヒスタミン薬の通常量から開始
  • 中等度~重度:抗ヒスタミン薬の増量や併用療法を検討
  1. 患者のライフスタイル。
  • 日中の活動性が重要:眠気の少ない第二世代抗ヒスタミン薬
  • 夜間のかゆみが強い:就寝前に第一世代抗ヒスタミン薬を検討
  1. 併存疾患。
  • 気管支喘息合併:ロイコトリエン受容体拮抗薬も有効な場合がある
  • 消化器症状合併:H2ブロッカーの併用が有効な場合がある
  1. 治療反応性。
  • 標準治療に反応しない場合:増量や併用療法、専門医への紹介を検討

薬物療法における注意点として、「セレスタミン®錠」のような鎮静作用の強い第一世代抗ヒスタミン薬とステロイド薬の合剤は、長期使用による副作用リスクがあるため、現在の蕁麻疹治療では推奨されていません。適切な薬剤選択には、医師との相談が不可欠です。

 

蕁麻疹が出たときの即効性のあるホームケア

蕁麻疹が突然発症したとき、医療機関を受診するまでの間や、軽度の症状の場合に自宅でできるケア方法があります。これらの対処法は症状を和らげる効果が期待できますが、症状が重い場合や改善が見られない場合は、必ず医療機関を受診しましょう。

 

【患部の冷却】
蕁麻疹の症状が出た部位を冷やすことは、かゆみや炎症を抑える即効性のある対処法です。

 

・方法。

  • 清潔なタオルを冷水で濡らし、軽く絞って患部に当てる
  • 保冷剤やアイスパックを使用する場合は、直接皮膚に当てず、必ずタオルなどで包む
  • 15分程度冷やしたら、いったん休憩し、必要に応じて繰り返す

・効果。

  • 血管収縮によるかゆみの軽減
  • 炎症反応の抑制
  • 肥満細胞からのヒスタミン放出を抑える

【刺激を避ける】
蕁麻疹が出ている部位に余計な刺激を与えると、症状が悪化する可能性があります。

 

・注意点。

  • 患部を掻かない(掻くことで、さらにヒスタミンが放出され、症状が悪化する)
  • こすったり、強くタオルで拭いたりしない
  • きつい衣服や下着との接触を避ける
  • 汗をかいたら、優しく拭き取る

【適切な衣類の選択】
蕁麻疹の症状がある時は、刺激の少ない衣服を選ぶことが大切です。

 

・推奨される衣類。

  • 通気性の良い、綿やシルクなどの天然素材
  • ゆったりとしたデザイン(締め付けない)
  • 肌に優しい素材(化学繊維は避ける)

【入浴・シャワー】
入浴方法も症状に影響します。適切な方法を選びましょう。

 

・推奨される方法。

  • 熱すぎないぬるめのお湯を使用(38~40℃程度)
  • 刺激の強い入浴剤は避ける
  • 優しく体を洗い、こすりすぎない
  • 入浴後は保湿剤を使用する(特に乾燥肌の方)

【生活環境の調整】
蕁麻疹の症状を悪化させる環境因子を避けることも重要です。

 

・調整ポイント。

  • 室温の管理(暑すぎる環境は発汗を促し、症状を悪化させることがある)
  • 湿度の管理(極端な乾燥や湿度も皮膚に負担をかける)
  • アルコールや辛い食べ物の摂取を控える(血管拡張作用がある)
  • ストレスを軽減する(ストレスは蕁麻疹を悪化させることがある)

【市販薬の適切な使用】
医師の処方がなくても入手できる市販の抗ヒスタミン薬が有効な場合があります。

 

・使用上の注意。

  • 用法・用量を守る
  • 眠気などの副作用に注意(特に車の運転や機械操作をする場合)
  • 他の薬との相互作用に注意
  • 症状が改善しない場合は、自己判断で続けず、医療機関を受診する

これらのホームケアは一時的な対処法として有効ですが、以下のような場合は速やかに医療機関を受診してください。
・症状が広範囲に及んでいる
・かゆみや痛みが強く、日常生活に支障をきたしている
・症状が24時間以上持続している
・顔や喉の腫れ、呼吸困難、めまいなどの症状を伴う
・原因不明の蕁麻疹が繰り返し出現する
適切なホームケアと医療機関での治療を組み合わせることで、蕁麻疹の症状を効果的にコントロールすることができます。

 

蕁麻疹と気管浮腫によるアナフィラキシーの危険性

蕁麻疹は多くの場合、皮膚症状のみで比較的軽症ですが、まれに重篤な全身症状を引き起こすことがあります。特に気管浮腫を伴うアナフィラキシーは生命を脅かす可能性があるため、その危険性と対処法について理解しておくことが重要です。

 

【血管性浮腫とは】
血管性浮腫は、皮膚や粘膜の深部組織に浮腫が生じる状態で、蕁麻疹に伴って発症することがあります。

 

・特徴。

  • 皮膚よりも深い部位(皮下組織や粘膜下組織)に浮腫が生じる
  • かゆみよりも痛みや圧迫感を伴うことが多い
  • 症状の持続時間は蕁麻疹より長く、2~3日間続くことがある
  • 顔面(特に口唇や眼瞼)に好発する

・危険性。

  • 喉頭や咽頭に浮腫が生じると、気道閉塞の危険性がある
  • 呼吸困難や窒息を引き起こす可能性がある
  • 緊急の医療介入が必要になることがある

【アナフィラキシーの認識と危険性】
アナフィラキシーは、アレルギー反応が全身に及び、複数の臓器系に症状が現れる重篤な状態です。

 

・主な症状と進行。

  1. 初期症状:皮膚症状(蕁麻疹、かゆみ、熱感、紅潮)
  2. 進行症状。
  • 呼吸器系:喉の締め付け感、嗄声(声がれ)、喘鳴、呼吸困難
  • 循環器系:血圧低下、頻脈、めまい、失神
  • 消化器系:腹痛、悪心、嘔吐、下痢
  • 神経系:不安感、錯乱、意識レベルの低下

・高リスク因子。

  • 過去にアナフィラキシーの既往がある
  • 喘息などの呼吸器疾患を合併している
  • 特定の食物や薬剤に対する重度のアレルギーがある
  • 複数のアレルギー疾患を持っている

【緊急対応の重要性】
気管浮腫やアナフィラキシーが疑われる場合、迅速な対応が生死を分けることがあります。

 

・警告サイン。

  • 息苦しさや呼吸が困難になる
  • 声がかすれる、または出にくくなる
  • 舌やのどの腫れを感じる
  • めまいや失神感がある
  • 急激な体調不良を感じる

・緊急対応。

  1. 救急医療サービス(119番)への連絡
  2. アドレナリン自己注射器(エピペン®)がある場合は使用
  3. 可能であれば横になり、足を高くする
  4. 締め付ける衣服を緩める
  5. 医療機関に到着するまで症状を観察し続ける

【予防と準備】
リスクの高い患者さんは、以下の点に注意することが重要です。

 

アレルゲンの回避。

  • 原因となる食物、薬剤、刺激を特定し避ける
  • 食品ラベルの確認を徹底する
  • 外食時には原材料を確認する習慣をつける

・医療情報の携帯。

  • アレルギー情報や緊急連絡先を記載したカードを携帯する
  • 医療アラートブレスレットの着用を検討する

・緊急時の準備。

  • 医師の指示に従い、必要に応じてアドレナリン自己注射器を処方してもらう
  • 家族や周囲の人に緊急時の対応方法を教えておく

【継続的な医学管理】
リスクのある患者さんは、以下のような医学的管理が必要です。

 

・定期的な医師の診察
・アレルギー専門医との連携
・救急時の対応計画の定期的な見直し
・最新のアレルギー管理情報への更新
蕁麻疹は一般的には軽症で自然に治癒することが多いですが、気管浮腫やアナフィラキシーの可能性を念頭に置き、警告サインに注意することが大切です。特に既往歴のある患者さんや、症状が急速に進行している場合は、躊躇せずに医療機関を受診しましょう。