蕁麻疹(じんましん)は、皮膚に突然現れるかゆみを伴う膨疹(ほうしん)と赤みが特徴的な皮膚疾患です。膨疹とは皮膚の一部が盛り上がった状態を指し、蕁麻疹の場合は真皮に生じた一過性で限局性の浮腫です。症状の特徴として、以下のポイントが挙げられます。
・膨疹の大きさと形状:2~3mmの小さな円形や楕円形から、直径10cm以上の大きなものまでさまざま
・症状の出現と消失:多くの場合、数時間~24時間以内に痕を残さず自然に消失
・場所の移動性:消失したと思っても、別の部位に新しく現れることがある
・皮膚の色調:赤みを伴う盛り上がりとなり、掻くとさらに赤くなる
・感覚:強いかゆみが主症状だが、チクチクとした痛みや焼けるような感覚を伴うこともある
蕁麻疹の発症メカニズムは、何らかの原因によって皮膚に存在する肥満細胞(マスト細胞)が活性化することから始まります。活性化した肥満細胞は「脱顆粒」と呼ばれる現象を起こし、ヒスタミンなどの化学伝達物質を放出します。これらの物質が血管に作用して血管拡張(紅斑)と血漿成分の漏出(浮腫)を引き起こし、また神経に作用してかゆみの感覚を生み出します。
この反応は医学的には「IgE依存性の即時型(Ⅰ型)アレルギー反応」と説明されることが多いですが、実際には明確なアレルギー原因物質(抗原)を特定できるケースは全体の7%程度と非常に少ないのが現状です。
多くの場合、蕁麻疹は皮膚症状のみで済みますが、まれに口腔や咽頭の粘膜にも浮腫が生じることがあります。この場合、声がかすれたり、重症化すると呼吸困難を引き起こしたりする危険性があるため、注意が必要です。
蕁麻疹は発症からの期間や原因によって、いくつかのタイプに分類されます。これらを理解することで、適切な対処法や治療法を選択する手がかりになります。
【持続期間による分類】
・急性蕁麻疹:発症から6週間以内のもの(70%の人が1週間以内に治癒、90%が1か月以内に治癒)
・慢性蕁麻疹:発症から6週間以上症状が継続するもの
【原因による分類】
最も多いタイプで、明確な原因が特定できないものです。医療機関を受診する蕁麻疹患者の多くがこのタイプに該当します。
特定の食物(エビ、カニなどの甲殻類、ナッツ類など)、薬剤(非ステロイド抗炎症薬など)、ラテックスなどのアレルゲンによって誘発される蕁麻疹です。全体の約7%と比較的少数です。
以下のような物理的な刺激によって誘発されるタイプです。
・機械的刺激(皮膚の擦過や圧迫)
・寒冷刺激(冷たい風や水に触れた場合)
・温熱刺激(熱いお風呂など)
・日光照射(特定の波長の光に曝露された場合)
・水との接触
・振動
入浴や運動、精神的緊張などで発汗が促される状況で発症する特殊なタイプです。比較的小型で互いに癒合しにくい膨疹が特徴で、ピリピリとした痛みを伴うことがあります。
特定の食物摂取後2~3時間以内に運動することで誘発されるアナフィラキシー症状です。日本では小麦が原因食物として多く報告されています。非ステロイド抗炎症薬との併用で発症することもあります。
皮膚や粘膜の深部に浮腫が生じるタイプです。顔面、特に口唇や眼瞼に好発し、症状が2~3日間持続することがあります。重症化すると気道浮腫を生じ、窒息の危険性があります。
また、蕁麻疹の原因となり得る因子として、以下のものが知られています。
・食物:魚介類、卵、乳製品、小麦、大豆、ナッツ類など
・薬剤:非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)、抗生物質、ACE阻害薬など
・感染症:上気道感染、歯科感染症など
・ストレス:精神的ストレスが症状を誘発・悪化させることがある
・物理的刺激:前述の通り
・その他:慢性疾患(自己免疫疾患、甲状腺疾患など)
蕁麻疹の治療においては、これらの分類や原因を考慮した上で、最適なアプローチを選択することが重要です。
蕁麻疹の治療において、薬物療法は中心的な役割を果たします。特に抗ヒスタミン薬が第一選択薬として用いられることが多いですが、症状の程度や種類によって治療法は異なります。ここでは、効果的な薬物療法とその選択基準について詳しく解説します。
【抗ヒスタミン薬】
蕁麻疹治療の基本となるのが抗ヒスタミン薬です。これは蕁麻疹の原因物質であるヒスタミンの働きを抑え、かゆみや発疹を軽減します。
・第一世代抗ヒスタミン薬。
・第二世代抗ヒスタミン薬。
抗ヒスタミン薬使用の重要ポイント。
【その他の薬物療法】
抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合に検討される治療法。
【薬物選択の基準】
患者の状態や蕁麻疹のタイプに応じて、以下のような基準で薬物を選択します。
薬物療法における注意点として、「セレスタミン®錠」のような鎮静作用の強い第一世代抗ヒスタミン薬とステロイド薬の合剤は、長期使用による副作用リスクがあるため、現在の蕁麻疹治療では推奨されていません。適切な薬剤選択には、医師との相談が不可欠です。
蕁麻疹が突然発症したとき、医療機関を受診するまでの間や、軽度の症状の場合に自宅でできるケア方法があります。これらの対処法は症状を和らげる効果が期待できますが、症状が重い場合や改善が見られない場合は、必ず医療機関を受診しましょう。
【患部の冷却】
蕁麻疹の症状が出た部位を冷やすことは、かゆみや炎症を抑える即効性のある対処法です。
・方法。
・効果。
【刺激を避ける】
蕁麻疹が出ている部位に余計な刺激を与えると、症状が悪化する可能性があります。
・注意点。
【適切な衣類の選択】
蕁麻疹の症状がある時は、刺激の少ない衣服を選ぶことが大切です。
・推奨される衣類。
【入浴・シャワー】
入浴方法も症状に影響します。適切な方法を選びましょう。
・推奨される方法。
【生活環境の調整】
蕁麻疹の症状を悪化させる環境因子を避けることも重要です。
・調整ポイント。
【市販薬の適切な使用】
医師の処方がなくても入手できる市販の抗ヒスタミン薬が有効な場合があります。
・使用上の注意。
これらのホームケアは一時的な対処法として有効ですが、以下のような場合は速やかに医療機関を受診してください。
・症状が広範囲に及んでいる
・かゆみや痛みが強く、日常生活に支障をきたしている
・症状が24時間以上持続している
・顔や喉の腫れ、呼吸困難、めまいなどの症状を伴う
・原因不明の蕁麻疹が繰り返し出現する
適切なホームケアと医療機関での治療を組み合わせることで、蕁麻疹の症状を効果的にコントロールすることができます。
蕁麻疹は多くの場合、皮膚症状のみで比較的軽症ですが、まれに重篤な全身症状を引き起こすことがあります。特に気管浮腫を伴うアナフィラキシーは生命を脅かす可能性があるため、その危険性と対処法について理解しておくことが重要です。
【血管性浮腫とは】
血管性浮腫は、皮膚や粘膜の深部組織に浮腫が生じる状態で、蕁麻疹に伴って発症することがあります。
・特徴。
・危険性。
【アナフィラキシーの認識と危険性】
アナフィラキシーは、アレルギー反応が全身に及び、複数の臓器系に症状が現れる重篤な状態です。
・主な症状と進行。
・高リスク因子。
【緊急対応の重要性】
気管浮腫やアナフィラキシーが疑われる場合、迅速な対応が生死を分けることがあります。
・警告サイン。
・緊急対応。
【予防と準備】
リスクの高い患者さんは、以下の点に注意することが重要です。
・アレルゲンの回避。
・医療情報の携帯。
・緊急時の準備。
【継続的な医学管理】
リスクのある患者さんは、以下のような医学的管理が必要です。
・定期的な医師の診察
・アレルギー専門医との連携
・救急時の対応計画の定期的な見直し
・最新のアレルギー管理情報への更新
蕁麻疹は一般的には軽症で自然に治癒することが多いですが、気管浮腫やアナフィラキシーの可能性を念頭に置き、警告サインに注意することが大切です。特に既往歴のある患者さんや、症状が急速に進行している場合は、躊躇せずに医療機関を受診しましょう。