嗄声の種類とその特徴を医療従事者向けに解説

嗄声は粗糙性、気息性、無力性、努力性の4つの種類に分類され、それぞれ異なる原因と特徴を持ちます。声帯ポリープ、反回神経麻痺、痙攣性発声障害など様々な疾患との関連について、医療現場での診断や治療に役立つ詳細な情報をお伝えします。これらの知識で患者対応は変わるでしょうか?

嗄声の種類と特徴

嗄声の4つの基本分類
🎤
粗糙性嗄声

ガラガラ声・ダミ声で声帯の振動異常が原因

💨
気息性嗄声

息漏れを伴うかすれ声で声帯閉鎖不全が原因

無力性・努力性嗄声

弱々しい声と力の入った息む様な声の症状

嗄声(させい)は医学的に4つの主要な種類に分類され、それぞれが異なる病理学的メカニズムと原因疾患を持っています 。この分類は臨床現場での診断と治療方針決定において極めて重要な役割を果たします 。
参考)嗄声(させい)に関するQhref="https://www.kango-roo.com/learning/3309/" target="_blank">https://www.kango-roo.com/learning/3309/amp;A

 

医療従事者が嗄声を正確に評価するためには、GRBAS分析システムによる客観的な分類法の理解が不可欠です 。このシステムでは、Grade(程度)、Rough(粗糙性)、Breathy(気息性)、Asthenic(無力性)、Strained(努力性)の5項目で各嗄声を0~3段階で評価します 。
参考)嗄声(させい) -その2- -声帯ポリープから、喉頭がんまで…

 

臨床における嗄声の種類診断では、音響学的分析と主観的聴覚評価を組み合わせることで、より正確な診断が可能となり、適切な治療戦略の立案につながります 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/orltokyo/57/3/57_114/_pdf

 

嗄声における粗糙性の病態と原因疾患

粗糙性嗄声は「ガラガラ声」「ダミ声」として患者に自覚される最も頻度の高い嗄声の種類で、声帯の振動が不規則になることにより発生します 。この症状は声帯の形態異常や炎症によって左右声帯の振動に非対称性が生じることが主な原因となります 。
参考)「声」からわかること

 

主な原因疾患と発症機序:

職業歌手や教師など声を頻繁に使用する職業では、声帯の機械的ストレスにより粗糙性嗄声のリスクが特に高くなります 。また、喫煙習慣のある患者では、ニコチンなどの有害物質による喉頭粘膜への慢性的な刺激が粗糙性嗄声の重要な増悪因子となることが知られています 。
診断においては、間接喉頭鏡検査や喉頭ファイバースコープによる声帯の直視下観察が必須であり、声帯の色調変化、浮腫、腫瘤の有無を詳細に評価する必要があります 。
参考)嗄声(声がれ)

 

嗄声における気息性の特徴と反回神経麻痺

気息性嗄声は「すーすーと息漏れするかすれ声」として特徴づけられ、発声時に声帯が完全に閉じないことで発生する症状です 。この病態は声門部に隙間が生じることにより呼気が漏れることが直接的な原因となります 。
参考)声のかすれ

 

気息性嗄声の主な原因疾患:

反回神経麻痺は気息性嗄声の代表的原因として特に重要です。反回神経は頸部から胸部を経由して声帯に至る長い経路を持つため、甲状腺癌、肺癌、食道癌、胸部大動脈瘤など多様な疾患により麻痺を生じます 。
参考)声がれ、嗄声(反回神経麻痺)

 

反回神経麻痺の詳細な病態と診断アプローチについて
左側反回神経は大動脈弓の下を回るため、右側よりも長い経路を取ることから、左側麻痺の頻度が高く、より重篤な疾患との関連が示唆されることが多いです 。診断には胸部造影CT、PET検査による原因疾患の検索が必要不可欠です 。

嗄声における無力性と筋力低下の関係

無力性嗄声は「力のない弱々しい声」として現れ、発声時に働く声帯筋の力が減弱することによって生じる症状です 。この症状は単純な筋力低下だけでなく、神経筋疾患や全身状態の悪化とも密接に関連しています 。
無力性嗄声の病態生理:

  • 声帯筋萎縮:加齢性変化や廃用による内喉頭筋の筋量減少
  • 神経筋疾患:筋ジストロフィーなどの全身性筋疾患による影響
  • 反回神経機能低下:完全麻痺ではない神経伝導障害
  • 低緊張性機能性発声障害:心因性要因による筋緊張低下

高齢者における無力性嗄声では、声帯の加齢性変化として筋線維の減少、コラーゲンの変性、弾性線維の減少などが複合的に関与します。この変化により声帯の張力維持が困難となり、特に持続的な発声において症状が顕著に現れます 。
診断には声帯の動的評価が重要であり、喉頭ストロボスコピー検査により声帯の振動様式、粘膜波動の状態を詳細に観察することが推奨されます 。また、空気力学的検査による発声効率の定量評価も診断精度向上に寄与します 。

嗄声における努力性と痙攣性発声障害

努力性嗄声は「過度に力の入った息むような声」として特徴づけられ、発声時の過剰な筋緊張によって生じる症状です 。この症状は痙攣性発声障害や機能性発声障害との関連が深く、診断と治療において専門性が要求される領域です 。
参考)痙攣性発声障害と吃音

 

努力性嗄声の主な原因:

痙攣性発声障害は局所性ジストニアとして捉えられ、内転型が約90-95%を占める代表的な疾患です 。内転型では発声時に声帯が不随意的に強く内転し、「声のつまり感」「震え」「断続的な声の途切れ」といった特徴的症状を呈します 。
参考)https://www.nanbyou.or.jp/wp-content/uploads/2013_pdf/s119.pdf

 

痙攣性発声障害の診断基準:

  • 会話時の声の詰まりや途切れ
  • 母音発声は正常だが子音を含む単語で症状増悪
  • 笑い声や咳払いは正常
  • ストレス下での症状増悪

痙攣性発声障害の詳細な診断基準と治療ガイドライン
外転型痙攣性発声障害は稀な病型ですが、発声時に声帯が外転することで「気息性嗄声」「声の抜け」「失声」「声の裏返り」などの症状を呈し、内転型とは異なる治療アプローチが必要となります 。
参考)痙攣性発声障害の治療

 

嗄声の鑑別診断における検査法と治療戦略

嗄声の正確な診断と適切な治療選択には、系統的な検査アプローチと多角的評価が不可欠です 。医療従事者は各嗄声の種類に応じた特異的検査法を理解し、エビデンスに基づいた治療戦略を立案する必要があります 。
参考)https://clinicalsup.jp/jpoc/contentpage.aspx?diseaseid=1844

 

段階的診断アプローチ:
第1段階:基本評価

  • 詳細な病歴聴取(発症様式、持続期間、増悪因子)
  • 聴覚印象による嗄声分類(GRBAS評価)
  • 間接喉頭鏡検査による基本的声帯観察

第2段階:機能的評価

  • 喉頭内視鏡検査による詳細な声帯形態評価
  • 喉頭ストロボスコピー検査による声帯振動解析
  • 音響分析による客観的音声評価

第3段階:原因疾患検索

治療戦略の選択指針:
粗糙性嗄声に対しては、原因疾患に応じた治療が基本となります。急性声帯炎では消炎治療と音声安静が第一選択ですが、声帯ポリープでは内視鏡下声帯手術による摘出術が適応となることが多いです 。
気息性嗄声では、反回神経麻痺の場合に声帯内注入術や喉頭形成術などの音声改善手術が検討されます。一方、声帯萎縮による症例では音声治療によるリハビリテーションが有効な場合があります 。
痙攣性発声障害に対してはボツリヌス毒素注射や喉頭形成術が主要な治療選択肢となりますが、治療効果の個人差が大きく、専門施設での管理が推奨されます 。
参考)こえの症状(嗄声、声がれ、声のふるえ・つまり、声が出しにくい…

 

嗄声診断・治療の詳細なガイドライン
近年、嗄声治療においては患者のQOL向上を重視したアプローチが重要視されており、音声治療士との連携による包括的治療が推奨されています 。特に職業上声を使用する患者では、復職可能性を考慮した治療計画の立案が不可欠です。