イミペネム投与方法と腎機能別の用量調節と注意点

イミペネムの正しい投与方法を知っていますか?点滴速度・用量・腎機能別調節・バルプロ酸との禁忌など、医療現場で押さえるべき重要ポイントをわかりやすく解説。あなたの現場の投与設計は本当に適切でしょうか?

イミペネムの投与方法と用量・注意点を徹底解説

バルプロ酸を服用中の患者にイミペネムを投与すると、てんかん発作が再発することがあります。


この記事の3つのポイント
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点滴静注のみ・最低30分以上かけて投与

イミペネムは必ず点滴静脈内投与で使用。成人の標準量は1日0.5〜1.0gを2〜3回に分割し、1回あたり30分以上かけてゆっくり投与します。

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腎機能に応じた用量調節が必須

イミペネムは腎排泄型薬剤のため、クレアチニンクリアランス(CrCl)に基づき投与量・投与間隔を必ず調整。特に透析患者には透析後の投与が推奨されます。

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バルプロ酸との併用は禁忌

バルプロ酸ナトリウム投与中の患者への使用は添付文書上禁忌。併用によりバルプロ酸の血中濃度が急激に低下し、てんかん発作の再発リスクがあります。


イミペネムの基本的な投与方法と標準用量

イミペネムはカルバペネム系に分類される広域抗菌薬で、製品名「チエナム®」などで知られています。シラスタチンナトリウムとの合剤として使用されるのが特徴です。シラスタチンとは何かというと、腎臓に存在するデヒドロペプチダーゼ-I(DHP-I)という酵素の働きを抑えることで、イミペネムが腎臓で分解されるのを防ぎ、血中濃度を安定させる成分です。これにより尿路への移行性も高まり、抗菌効果が十分に発揮されます。


成人への標準的な投与方法は以下のとおりです。



  • 投与経路:点滴静脈内投与のみ(筋肉内投与用の製剤は別に存在するが、一般的な入院管理では点滴静注用製剤を使用)

  • 1日投与量:イミペネムとして0.5〜1.0g(力価)

  • 分割回数:1日2〜3回に分割して投与

  • 点滴時間:1回あたり30分以上かけてゆっくり投与

  • 重症・難治性感染症の場合:1日最大2g(保険適用の上限)まで増量可能


点滴時間が「30分以上」と定められているのには明確な理由があります。イミペネムはβ-ラクタム系抗菌薬のカルバペネム類に属し、「時間依存性」の殺菌効果を示す薬剤です。これはどういうことかというと、血中濃度が菌のMIC(最小発育阻止濃度)を上回っている時間(T>MIC)が長いほど抗菌効果が高まるという特性です。速く点滴してしまうと血中濃度の高い時間が短くなり、効果が落ちてしまいます。点滴時間の厳守が原則です。


小児への投与では、1日30〜80mg(力価)/kgを3〜4回に分割し、30分以上かけて点滴静脈内注射します。小児は体重や年齢により幅が広いため、個別の計算が必要です。なお、3ヵ月未満の乳児や、血清クレアチニン値が2mg/dL以上の腎機能障害を持つ小児への使用は原則として避けるとされています。


参考:添付文書に基づく用法・用量の詳細については以下を参照ください。


日本薬局方 注射用イミペネム・シラスタチンナトリウム 添付文書(JAPIC)


イミペネムの腎機能別投与量と透析患者への注意

腎機能による用量調節は必須です。イミペネムは主として腎排泄型薬剤であるため、腎機能が低下した患者に通常量を投与し続けると、血中に薬剤が蓄積して副作用(特に痙攣などの中枢神経系毒性)が出現するリスクが著しく高まります。


クレアチニンクリアランス(CrCl)を基準とした投与調整の目安は以下のとおりです。


































腎機能の程度(CrCl) 1回投与量の目安 投与間隔の目安
正常(>80 mL/分) 0.5g 6〜8時間ごと
軽度低下(50〜80 mL/分) 0.5g 8時間ごと
中等度低下(30〜50 mL/分) 0.25〜0.5g 12時間ごと
高度低下(<30 mL/分) 0.25g 12〜24時間ごと
透析患者(HD) 0.5g 12時間ごと(透析日は透析後に投与)


特に注意が必要なのは透析患者への対応です。透析後に投与するのが原則です。透析によってイミペネムはある程度除去されるため、透析前に投与してしまうと薬剤が除去されて治療効果が得られない可能性があります。また、CrCl<15の患者では透析が48時間以内に予定されていない場合、イミペネムの使用そのものが推奨されないとする考え方もあります(北斗アプリ 松尾貴公医師監修資料)。


クレアチニンクリアランスは実際には体重・年齢・性別を加味して計算する必要があります。計算式(Cockcroft-Gault式)を使うか、電子カルテや北斗などの医療支援アプリで自動計算する方法が現場では主流です。これは使えそうです。


尿が赤褐色を呈することがあるのも、知っておくべき重要情報です。これはイミペネムの分解物によるものであり、血尿ではないため慌てる必要はありませんが、患者や周囲のスタッフが驚くことがあるため事前の説明が有効です。


参考:腎機能別の抗菌薬投与量の実際については以下の資料が有用です。


腎機能低下時に最も注意の必要な薬剤投与量一覧(日本腎臓病薬物療法学会)


イミペネム投与時に絶対押さえたい禁忌・相互作用

イミペネムを使用する際に特に重要なのが、「バルプロ酸ナトリウム投与中の患者への禁忌」という点です。これは添付文書に明記されている禁忌事項であり、見落とすと患者に重大な健康被害をもたらします。


バルプロ酸(デパケン®など)は抗てんかん薬・気分安定薬として広く使用されています。そこにイミペネムを含むカルバペネム系抗菌薬を投与すると、バルプロ酸の血中濃度が急激に低下し、その結果てんかん発作が再発することがあります。バルプロ酸の有効血中濃度は40〜120μg/mLですが、カルバペネム系抗菌薬の併用によってこの範囲を大幅に下回る濃度まで下がることが報告されています。


メカニズムとしては、イミペネムがバルプロ酸のグルクロン酸抱合代謝を亢進させることで血中濃度の低下を引き起こすと考えられています。つまり単なる薬物動態的な相互作用ではなく、バルプロ酸が「消費されやすくなる」状況を作り出すわけです。


禁忌・相互作用のまとめ



  • ⚠️ 禁忌(絶対に避けること):バルプロ酸ナトリウム投与中の患者。カルバペネム系全体に共通する禁忌です。

  • ⚠️ 禁忌:本剤の成分に対し過敏症の既往歴がある患者。

  • 🔴 注意が必要な組み合わせガンシクロビル抗ウイルス薬)との併用は痙攣リスクが上昇するため、慎重な観察が必要。

  • 🔴 注意が必要な組み合わせプロベネシドとの併用でイミペネムの血中濃度が上昇する可能性がある。


また、イミペネムは髄膜炎の治療には使用されないという点も重要です。カルバペネム系の中でも、イミペネムは他の薬剤と比べて痙攣誘発リスクが相対的に高いとされており、細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014では「イミペネムは痙攣を誘発するリスクが相対的に高い」と明記されています。実際に髄膜炎の治療にカルバペネム系が必要な場合はメロペネムが選択されるのが一般的です。痙攣リスクの問題が原則です。


参考:カルバペネム系とバルプロ酸の相互作用については以下を参照ください。


副作用モニター情報〈356〉バルプロ酸ナトリウムとカルバペネム系抗菌薬の相互作用(民医連)


イミペネムの主な適応と副作用・モニタリングポイント

イミペネムは「最後の砦」とも表現される強力な抗菌薬です。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を除くグラム陽性菌グラム陰性菌嫌気性菌を幅広くカバーします。特にESBL(基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ)産生腸内細菌(大腸菌・クレブシエラ属など)に対する第一選択薬として、敗血症・尿路感染症・腹腔内感染症などの重症例で用いられます。


主な適応疾患



  • ESBL産生菌による尿路感染症・腹腔内感染症・カテーテル関連血流感染症

  • 起因菌不明の重症敗血症の初期治療

  • 院内感染による重症肺炎・人工呼吸器関連肺炎(VAP)

  • 発熱性好中球減少症(FN)の治療

  • βラクタムアレルギーのためペニシリン・セフェムが使用できない場合の代替選択肢


一方で、副作用のモニタリングも重要です。代表的な副作用と観察ポイントを整理します。


































副作用の種類 具体的な症状 特に注意が必要な患者
中枢神経系毒性 痙攣・意識障害・錯乱 腎機能低下患者・中枢神経障害歴のある患者
消化器症状 悪心・嘔吐・下痢(発現率3〜10%) 全患者(稀に偽膜性大腸炎
過敏症反応 発疹・蕁麻疹・アナフィラキシー β-ラクタム系抗菌薬アレルギー歴のある患者
肝機能障害 AST・ALT・γ-GTP上昇 肝疾患合併患者
腎機能障害 血清クレアチニン上昇・尿量減少 高齢者・既存腎疾患保有患者


痙攣の発現は、腎機能低下患者で過剰投与になると出現リスクが顕著に上昇します。定期的な腎機能検査と血液検査(CBC・肝機能・腎機能)の確認が、安全な投与管理の基本です。


また、カルバペネム耐性菌(CRE)の出現を防ぐ観点から、「感受性が判明次第のde-escalation(de-escalation:より狭域な抗菌薬への変更)」が強く推奨されています。乱用には注意が必要です。


イミペネムとメロペネムの投与方法の違い:現場で役立つ比較視点

カルバペネム系抗菌薬の中で、イミペネムとメロペネム(メロペン®)は混同されやすい薬剤です。どちらも広域スペクトルを持つカルバペネム系ですが、投与設計や使い分けには明確な違いがあります。これを知っているかどうかで、薬剤選択の精度が変わります。






































比較項目 イミペネム(チエナム®) メロペネム(メロペン®)
標準投与量(成人) 1日0.5〜1.0g ÷ 2〜3回 1日1.5〜3g ÷ 3回
点滴時間 30分以上
保険最大量(成人) 1日2g 1日3g(化膿性髄膜炎では1回2g×3回)
痙攣誘発リスク 比較的高い 比較的低い
髄膜炎への使用 推奨されない 適応あり(化膿性髄膜炎)
シラスタチンの必要性 必要(腎DHP-I分解防止) 不要(DHP-Iに安定)


イミペネムがメロペネムよりも1日の総投与量が少ない理由の一つは、痙攣誘発リスクとの関連です。用量を抑えることで中枢神経系への負担を減らす設計になっています。意外ですね。


また、サンフォード感染症治療ガイドには「1回0.5g 6〜8時間ごと(1日3〜4回)」という用量が記載されている場合がありますが、日本の保険診療上の最大量は1日2gであり、実際の臨床運用では保険用量に基づく処方が基本です。サンフォードの用量をそのまま適用すると保険外になる可能性があるため注意が必要です。


βラクタム系抗菌薬全般に言えることですが、時間依存性という薬理特性を活かすには、1日の総量を固定したうえで投与回数を増やす、あるいは点滴時間を延長する(extended infusion)という方法が注目されています。特に耐性菌や高MIC株に対する治療では、このアプローチが治療成績を改善させる可能性があります。抗菌薬の投与設計において、「量よりも時間」という考え方が原則です。


参考:イミペネムを含むカルバペネム系抗菌薬の適正使用については以下のガイドライン資料が詳しいです。


抗微生物薬適正使用の手引き 第四版(厚生労働省・2026年)