脳出血 症状と治療方法 高血圧が原因と部位別の特徴

脳出血の様々な症状と最新の治療法について解説します。高血圧が主な原因である脳出血は、出血部位によって異なる症状を示し、適切な治療選択が重要です。あなたや大切な人の命を守るため、脳出血の前兆を見逃さないためにはどうすればよいのでしょうか?

脳出血の症状と治療方法

脳出血の基本情報
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定義

脳の血管が破れて出血し、脳組織を圧迫する状態

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主な原因

高血圧症が約70%を占める最大の原因

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死亡率

30日以内の院内死亡率は約16%

脳出血の種類と出血部位による症状の違い

脳出血は脳内の血管が破れて出血することにより、脳組織が損傷を受ける重篤な疾患です。脳出血の症状は出血部位によって大きく異なり、医療現場では主に5つの典型的な部位に分類しています。それぞれの部位による特徴的な症状を理解することは、早期発見・早期治療につながります。

 

1. 被殻出血(ひかくしゅっけつ)
脳出血の中で最も頻度が高く、全体の40~50%を占めています。被殻は大脳基底核の一部で、運動機能に関わる重要な部位です。

 

主な症状。

  • 出血側と反対側の半身麻痺
  • 頭痛・嘔吐
  • 構音障害(言葉が不明瞭になる)
  • 共同偏視(両眼が同じ方向を向く状態)
  • 左脳の場合は失語症を伴うことがある

被殻出血は出血量によって重症度が変わり、小~中程度の出血では内科的治療が選択されますが、大量出血の場合は手術が検討されます。

 

2. 視床出血(ししょうしゅっけつ)
全脳出血の約30%を占める視床出血は、感覚情報の中継地点である視床での出血です。

 

主な症状。

  • 反対側の半身感覚障害(しびれ感が強い)
  • 軽度~中等度の運動麻痺
  • 下方偏視(目が内下方を向く特徴的な状態)
  • 視床痛(強い痛みが残存することがある)
  • 急性水頭症を合併することがある

視床出血の特徴は、感覚障害が運動障害より強く出ることが多いという点です。また、出血が脳室に穿破すると急性水頭症を引き起こし、急速に意識障害が進行することがあります。

 

3. 脳幹出血(のうかんしゅっけつ)
脳幹(特に橋)での出血は全体の約10%程度ですが、致死率が高い危険な出血です。

 

主な症状。

  • 両側の四肢麻痺
  • 急速に進行する意識障害(昏睡状態に至ることが多い)
  • 眼球運動障害(正中位固定といって眼球が全く動かなくなる)
  • 呼吸障害
  • 自律神経障害

脳幹は生命維持に関わる中枢が集中している部位であるため、脳幹出血は発症直後から重篤な症状を示し、急速に症状が悪化することが特徴です。小さな出血でも生命を脅かす可能性があります。

 

4. 小脳出血(しょうのうしゅっけつ)
主な症状。

  • 激しいめまい
  • 嘔吐
  • 体幹失調(ふらつき)
  • 歩行障害
  • 水平性眼振
  • 頭痛

小脳出血の特徴は、初期には意識障害が軽度であることが多い点です。しかし、出血が増大すると脳幹を圧迫し、急速に意識障害が進行することがあります。小脳出血では血腫の大きさが3cm以上の場合、手術適応となることが多いです。

 

5. 皮質下出血(ひしつかしゅっけつ)
脳の表面近くに起こる出血で、高血圧以外の要因(アミロイド血管症、脳動静脈奇形など)が原因となることが多いです。

 

主な症状。

  • 出血部位に応じた局所症状(運動麻痺、感覚障害、視野障害など)
  • けいれん発作
  • 頭痛
  • 比較的軽度の意識障害

皮質下出血は他の部位と比較して症状が軽いことが多く、予後も比較的良好です。ただし、出血部位によっては言語機能など重要な脳機能に影響を及ぼすこともあります。

 

脳出血の原因と高血圧との関係

脳出血の最大の危険因子は高血圧症であり、全体の約70%が高血圧に起因するとされています。長期にわたる高血圧状態が続くと、脳内の細い血管(穿通枝)に負担がかかり、血管壁が脆弱化します。これを「細小動脈硬化」と呼び、血管壁の中膜に脂肪性変性や壊死(壊死性動脈炎)を生じさせます。

 

高血圧による血管変化
高血圧が続くと、脳内の細い血管に以下のような変化が起こります。

  • 血管壁の肥厚
  • 弾力性の低下
  • 微小動脈瘤(シャルコー・ブシャール動脈瘤)の形成
  • 血管壁の脂肪性変性

こうして脆弱化した血管は、血圧の急上昇や物理的ストレスにより破綻し、出血を引き起こします。特に起床後や活動中など、血圧が上昇しやすい時間帯に発症しやすい傾向があります。

 

高血圧以外の脳出血の原因
高血圧の他にも、脳出血を引き起こす要因があります。

  1. アミロイド血管症:高齢者に多く見られ、アミロイドというタンパク質が血管壁に沈着することで血管が脆弱化し、皮質下出血の原因となります。
  2. 血管奇形
    • 脳動静脈奇形(AVM)
    • もやもや病
    • 海綿状血管腫
  3. 抗凝固薬・抗血小板薬の使用:心房細動や血栓症の予防のために使用される薬剤が、出血リスクを高めることがあります。
  4. 血液疾患白血病、血小板減少症、凝固因子異常などの血液疾患も出血リスクを高めます。
  5. 脳腫瘍:脳腫瘍からの出血が脳出血として発症することもあります。

高血圧と脳出血の関連は非常に強く、収縮期血圧が20mmHg上昇するごとに、脳出血のリスクは約2倍に増加するというデータもあります。そのため、脳出血の予防には何よりも高血圧の管理が重要です。

 

特に収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満を目標に血圧コントロールを行うことが推奨されています。一度脳出血を発症した患者さんでは、さらに厳格な血圧管理(130/80mmHg未満)が再発予防に有効とされています。

 

脳出血の内科的治療と薬物療法

脳出血の治療は、出血の部位・大きさ・患者の全身状態などを総合的に評価し、内科的治療(保存的治療)と外科的治療(手術)を適切に選択します。ここでは内科的治療と薬物療法について詳しく解説します。

 

急性期の全身管理
脳出血発症直後は、まず全身状態の安定化が最優先されます。

  1. 気道確保と呼吸管理
    • 意識障害がある場合は、気道確保が最優先
    • 必要に応じて気管挿管・人工呼吸器管理
  2. 循環管理と血圧コントロール
    • 脳出血急性期の血圧管理は極めて重要
    • 収縮期血圧140mmHg未満を目標に降圧治療
    • 使用薬剤:Ca拮抗薬(ニカルジピン、ジルチアゼム)、硝酸薬など
    • 急激な降圧は脳灌流圧の低下につながるため注意が必要
  3. 頭蓋内圧亢進対策
    • マンニトール、グリセオールなどの浸透圧利尿剤の投与
    • 必要に応じて過換気療法(PCO2 30-35mmHg)
    • 頭位挙上(30度程度)

血腫増大防止のための薬物療法
脳出血発症後の早期(特に24時間以内)は血腫拡大のリスクが高いため、以下の治療が考慮されます。

  1. 止血薬の投与
    • トラネキサム酸(トランサミン)などの抗線溶薬
    • 第Xa因子阻害薬内服中の患者にはプロトロンビン複合体製剤
  2. 血圧管理
    • 適切な降圧療法が血腫拡大防止に重要
    • 発症3時間以内の積極的降圧が推奨されている
  3. 抗血小板薬・抗凝固薬の中止と拮抗
    • 抗血小板薬内服中の患者は直ちに中止
    • ワルファリン内服中の患者にはビタミンK、プロトロンビン複合体製剤
    • DOACsにはイダルシズマブ(プラザキサ用)やアンデキサネット アルファ(Xa阻害薬用)などの拮抗薬

浮腫対策
出血後1〜5日程度で脳浮腫のピークを迎えるため、以下の治療が行われます。

  1. 浸透圧利尿剤の投与
    • マンニトール:0.25-1.0g/kgを6時間ごとに投与
    • グリセオール:200-500mlを4-6時間ごとに投与
  2. ステロイド
    • 脳浮腫に対する有効性は確立していないが、血管原性浮腫に使用されることがある
    • デキサメサゾン、メチルプレドニゾロンなど
  3. 体温管理
    • 高体温は二次的脳損傷を悪化させるため、解熱剤による体温管理

合併症予防のための治療
脳出血後は様々な合併症リスクがあり、以下の予防的治療が重要です。

  1. **深部静脈