脳出血は脳内の血管が破れて出血することにより、脳組織が損傷を受ける重篤な疾患です。脳出血の症状は出血部位によって大きく異なり、医療現場では主に5つの典型的な部位に分類しています。それぞれの部位による特徴的な症状を理解することは、早期発見・早期治療につながります。
1. 被殻出血(ひかくしゅっけつ)
脳出血の中で最も頻度が高く、全体の40~50%を占めています。被殻は大脳基底核の一部で、運動機能に関わる重要な部位です。
主な症状。
被殻出血は出血量によって重症度が変わり、小~中程度の出血では内科的治療が選択されますが、大量出血の場合は手術が検討されます。
2. 視床出血(ししょうしゅっけつ)
全脳出血の約30%を占める視床出血は、感覚情報の中継地点である視床での出血です。
主な症状。
視床出血の特徴は、感覚障害が運動障害より強く出ることが多いという点です。また、出血が脳室に穿破すると急性水頭症を引き起こし、急速に意識障害が進行することがあります。
3. 脳幹出血(のうかんしゅっけつ)
脳幹(特に橋)での出血は全体の約10%程度ですが、致死率が高い危険な出血です。
主な症状。
脳幹は生命維持に関わる中枢が集中している部位であるため、脳幹出血は発症直後から重篤な症状を示し、急速に症状が悪化することが特徴です。小さな出血でも生命を脅かす可能性があります。
4. 小脳出血(しょうのうしゅっけつ)
主な症状。
小脳出血の特徴は、初期には意識障害が軽度であることが多い点です。しかし、出血が増大すると脳幹を圧迫し、急速に意識障害が進行することがあります。小脳出血では血腫の大きさが3cm以上の場合、手術適応となることが多いです。
5. 皮質下出血(ひしつかしゅっけつ)
脳の表面近くに起こる出血で、高血圧以外の要因(アミロイド血管症、脳動静脈奇形など)が原因となることが多いです。
主な症状。
皮質下出血は他の部位と比較して症状が軽いことが多く、予後も比較的良好です。ただし、出血部位によっては言語機能など重要な脳機能に影響を及ぼすこともあります。
脳出血の最大の危険因子は高血圧症であり、全体の約70%が高血圧に起因するとされています。長期にわたる高血圧状態が続くと、脳内の細い血管(穿通枝)に負担がかかり、血管壁が脆弱化します。これを「細小動脈硬化」と呼び、血管壁の中膜に脂肪性変性や壊死(壊死性動脈炎)を生じさせます。
高血圧による血管変化
高血圧が続くと、脳内の細い血管に以下のような変化が起こります。
こうして脆弱化した血管は、血圧の急上昇や物理的ストレスにより破綻し、出血を引き起こします。特に起床後や活動中など、血圧が上昇しやすい時間帯に発症しやすい傾向があります。
高血圧以外の脳出血の原因
高血圧の他にも、脳出血を引き起こす要因があります。
高血圧と脳出血の関連は非常に強く、収縮期血圧が20mmHg上昇するごとに、脳出血のリスクは約2倍に増加するというデータもあります。そのため、脳出血の予防には何よりも高血圧の管理が重要です。
特に収縮期血圧140mmHg未満、拡張期血圧90mmHg未満を目標に血圧コントロールを行うことが推奨されています。一度脳出血を発症した患者さんでは、さらに厳格な血圧管理(130/80mmHg未満)が再発予防に有効とされています。
脳出血の治療は、出血の部位・大きさ・患者の全身状態などを総合的に評価し、内科的治療(保存的治療)と外科的治療(手術)を適切に選択します。ここでは内科的治療と薬物療法について詳しく解説します。
急性期の全身管理
脳出血発症直後は、まず全身状態の安定化が最優先されます。
血腫増大防止のための薬物療法
脳出血発症後の早期(特に24時間以内)は血腫拡大のリスクが高いため、以下の治療が考慮されます。
脳浮腫対策
出血後1〜5日程度で脳浮腫のピークを迎えるため、以下の治療が行われます。
合併症予防のための治療
脳出血後は様々な合併症リスクがあり、以下の予防的治療が重要です。