アミロイドーシスは、異常な立体構造を持つ前駆蛋白質が規則的に重合し、βシート構造に富む不溶性線維として組織に沈着する疾患群です。前駆蛋白質の種類により病型が決定され、現在までに36種類以上のアミロイドーシスが報告されています。アミロイド線維は幅約10〜15ナノメートル、長さ数マイクロメートルの糸状形態を示し、線維軸と直交する方向にβストランドが規則的に配列したクロスβ構造を特徴とします。
参考)全身性アミロイドーシス(指定難病28) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/207" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/207amp;#8211; 難病…
代表的な病型として、トランスサイレチン(TTR)から生成されるATTRアミロイド、免疫グロブリン軽鎖から生成されるALアミロイド、アミロイドA蛋白から生成されるAAアミロイドが挙げられます。各前駆蛋白質は異なる生化学的特性を持ち、標的臓器や臨床経過に顕著な違いをもたらします。例えば、ATTRアミロイドーシスでは心臓と末梢神経が主な障害臓器となる一方、ALアミロイドーシスでは心臓、腎臓、肝臓など多臓器障害を呈します。
参考)アミロイドーシスについて href="https://www.amyloidosis.jp/about-amyloidosis.html" target="_blank">https://www.amyloidosis.jp/about-amyloidosis.htmlgt;href="https://www.amyloidosis.jp/about-amyloidosis.html" target="_blank">https://www.amyloidosis.jp/about-amyloidosis.htmlgt;  日本アミロイドーシス学会は…
日本アミロイドーシス学会によるアミロイド分類の詳細解説
アミロイドーシスは沈着範囲により全身性と限局性に分類されます。全身性アミロイドーシスは複数の臓器にアミロイドが沈着し、心臓、腎臓、肝臓、消化管、末梢神経など広範な臓器障害を引き起こします。代表的な全身性病型にはATTRアミロイドーシス、ALアミロイドーシス、AAアミロイドーシスがあり、それぞれ異なる前駆蛋白質と臨床像を示します。
参考)アミロイドーシスの鑑別|アミロイドーシス診療支援サービス
限局性アミロイドーシスはアミロイド沈着が単一臓器に限定される病型で、脳に限局するアルツハイマー病(Aβアミロイドーシス)、脳アミロイドアンギオパチー、プリオン病などが含まれます。アルツハイマー病ではアミロイドβタンパク質が脳内にクロスβ構造をとって細胞外に蓄積し、認知機能障害を引き起こします。限局性病型では全身症状を欠くため、病変臓器特異的な症状が診断の手がかりとなります。
参考)アミロイドーシスにはどのような種類がありますか? |アミロイ…
別の分類法として、障害される主要臓器により「心アミロイドーシス」「腎アミロイドーシス」「アミロイドニューロパチー」などと呼称される場合もあります。
主要な全身性アミロイドーシス病型は臨床的特徴に明確な差異を示します。ALアミロイドーシスは免疫グロブリン軽鎖の沈着により発症し、病態進行が急速で心臓、腎臓、肝臓に障害を及ぼします。モノクローナル蛋白質の検出が陽性であり、分子標的薬や化学療法が治療の中心となります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10308177/
ATTRアミロイドーシスはトランスサイレチンの沈着による病型で、遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)に分類されます。遺伝性では末梢神経・自律神経障害が顕著で、中年期以降に発症します。野生型は加齢に伴い発症し、65歳以上の高齢男性に多く、心臓障害が主体で手根管症候群を高頻度で合併します。ピロリン酸心筋シンチグラフィで心集積を認め、TTR遺伝子サイレンシング療法や四量体安定化剤が有効です。
参考)アミロイドーシスとは?|心アミロイドーシス情報サイト
AAアミロイドーシスは慢性炎症性疾患に続発し、アミロイドA蛋白が沈着します。消化管と腎臓に高頻度で障害を来し、原疾患である慢性炎症のコントロールが治療の基本となります。病態進行は急速で、早期の原疾患治療が予後を左右します。
アミロイドーシス病型鑑別の実践的アプローチ
アミロイドーシスの確定診断には組織生検によるアミロイド沈着の病理学的証明が必須です。コンゴーレッド染色が標準的診断法として用いられ、アミロイドは光学顕微鏡下で赤橙色(サーモンピンク)に染色されます。偏光顕微鏡下ではアップルグリーン色の複屈折を呈することがアミロイドの病理学的定義となります。
参考)組織染色でアミロイド沈着を確認する 
コンゴーレッド分子がアミロイド線維のひだ状βシート構造の溝にはまり込むことで特異的な染色性が得られます。ただし前駆蛋白質により染色性と複屈折強度が異なり、ATTR型ではAL型よりも染色性が弱く観察されることに注意が必要です。電子顕微鏡観察では、グルタルアルデヒド固定標本において幅約10nmの緩やかならせん構造を持つ針状細線維として確認できます。
病型分類には免疫組織染色が不可欠で、κ鎖、λ鎖、TTR、アミロイドAなど個々の前駆蛋白質に対する特異的抗体を用いて同定します。遺伝性ATTRアミロイドーシスではTTR遺伝子検査により変異の有無を確認します。近年、発光共役ポリマー分光法がAA、AL、ATTRの3病型を非重複的に識別する新技術として報告されています。
参考)ATTRvアミロイドーシスの診断基準 
偽陰性を回避するため、作りたてのコンゴーレッド染色液使用とpositive controlの併用が推奨されます。
ATTRアミロイドーシスは遺伝性(ATTRv)と野生型(ATTRwt)の2種類に大別され、発症機序と臨床像に明確な相違があります。遺伝性ATTRアミロイドーシスはTTR遺伝子変異により変異型トランスサイレチンが産生され、親から子へ常染色体優性遺伝形式で受け継がれます。日本ではV30M変異が最多ですが、非V30M変異型も多数報告されており、遺伝子検査による変異同定が診断に必須です。
参考)心アミロイドーシス専門外来|専門外来|循環器内科|診療部門案…
野生型ATTRアミロイドーシスは遺伝子変異を伴わず、加齢を主要因として発症します。正常なトランスサイレチンが加齢に伴い不安定化し、四量体から解離して線維化すると考えられています。65歳以上の高齢男性に好発し、従来の想定よりも高頻度に存在することが近年の研究で明らかになっています。「老人性全身性アミロイドーシス」とも呼称され、心臓型が主体となります。
参考)https://attrcm.jp/about/type
ALアミロイドーシスは形質細胞由来のモノクローナル免疫グロブリン軽鎖が原因蛋白となる後天性疾患です。遺伝的要因は関与せず、骨髄の形質細胞異常により異常軽鎖が産生されます。AAアミロイドーシスも慢性関節リウマチなどの慢性炎症に続発する後天性病態です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10823787/
遺伝性アミロイドーシスの分類と遺伝形式