もやもや病の原因と初期症状を詳しく解説

もやもや病の原因メカニズムから虚血型・出血型の初期症状まで、医療従事者が知るべき診断ポイントを解説。遺伝的要因や最新研究も含め、早期発見につながる知識はありますか?

もやもや病の原因と初期症状

もやもや病の基本理解
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病態メカニズム

内頚動脈終末部の進行性狭窄・閉塞により脳血流が不足し、代償性にもやもや血管が発達する疾患

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遺伝的要因

RNF213遺伝子変異が関与し、家族内発症率は10-20%、日本人に多く女性優位の発症パターン

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初期症状の特徴

虚血型は一過性脳虚血発作、出血型は突然の激しい頭痛が特徴的で、過換気により誘発される

もやもや病の基本的な原因メカニズム

もやもや病の根本的な病態は、脳に血液を送る重要な血管である内頚動脈終末部の進行性狭窄・閉塞です。この血管の狭窄により、脳への血流が徐々に不足し、それを補うために脳底部に異常な側副血行路が形成されます。

 

病態の進行過程は以下のように展開されます。

  • 第1段階:内頚動脈終末部の狭窄開始
  • 第2段階:脳血流不足による代償機転の活性化
  • 第3段階:もやもや血管(異常血管網)の発達
  • 第4段階:虚血症状または出血症状の出現

脳血管造影検査では、これらの異常に発達した細い血管群が「もやもや」とした煙のように見えることから、この独特な病名が付けられました。もやもや血管は本来の太い血管の代わりに血流を供給しようとしますが、細い血管に過度な負荷がかかるため、血管破綻による出血や血流不足による虚血を引き起こします。

 

この病態は両側性に発症することが特徴的で、診断基準では頭蓋内内頸動脈終末部、前・中大脳動脈近位部の狭窄または閉塞と、その付近の異常血管網の発達が両側性に見られることが必要とされています。

 

現在のところ、なぜ内頚動脈終末部に狭窄が生じるかについて完全に解明されていませんが、炎症や免疫反応、血管壁の構造異常などが複合的に関与していると考えられています。

 

もやもや病の遺伝的要因と最新研究

もやもや病の原因について、近年の研究により遺伝的要因の重要性が明らかになってきました。特に注目されているのは、RNF213遺伝子(mysterin)の変異です。この遺伝子は京都大学の研究により発見され、もやもや病の発症に深く関与していることが判明しています。

 

家族性発症の特徴

  • 家族内発症率:10-20%程度
  • 遺伝形式:多因子遺伝(単一遺伝子疾患ではない)
  • 発症年齢:遺伝的素因があっても必ずしも発症するわけではない

人種・性別による発症傾向

  • 日本人での発症率が高い
  • 女性が男性より多い傾向
  • アジア系人種での発症が多い

2024年の東京女子医科大学の最新研究では、もやもや症候群(他の遺伝性疾患に併発するもやもや病)について、肺動脈性肺高血圧症の疾患遺伝子群の機能的レアバリアントが関与することが新たに発見されました。この研究では、ABCC8、SMAD9、BMPR2、PTGIS遺伝子の変異が同定され、培養細胞実験により著明な機能低下が確認されています。

 

遺伝子検査の臨床的意義

  • 家族歴のある場合の早期発見
  • 発症予測の向上
  • 将来的な遺伝カウンセリングの基盤
  • 薬物治療ターゲットの特定

この遺伝学的研究の進歩により、従来は外科的治療が中心だったもやもや病に対して、遺伝子をターゲットとした薬物治療の可能性が示唆されています。

 

もやもや病の虚血型初期症状と特徴

虚血型もやもや病は、主に小児期に発症し、脳血流不足による一過性脳虚血発作が特徴的な症状です。医療従事者が見逃してはならない重要な初期症状について詳しく解説します。

 

典型的な虚血型初期症状

  • 一過性の手足の麻痺:片側の手足に力が入らなくなる、しびれが生じる
  • 言語障害:ろれつが回らない、言葉が出ない、理解困難
  • 頭痛:朝起床時や疲労時に増強する傾向
  • けいれん発作:てんかん様の症状
  • 意識障害:一時的な意識レベルの低下

症状誘発因子の特徴
もやもや病の虚血型症状は、過換気状態で誘発されることが特徴的です。

  • 熱い食べ物を冷ますために息を吹く動作
  • 激しい泣き声や大声を出す
  • 管楽器の演奏
  • 激しい運動
  • 風船を膨らませる動作

これらの動作により脳内の二酸化炭素濃度が低下し、脳血管が収縮してさらに血流不足が悪化します。

 

年齢別症状パターン

  • 乳幼児期(0-5歳):けいれん、発達の遅れ、不機嫌
  • 学童期(6-15歳):一過性脳虚血発作、学習能力の低下
  • 青年期以降:頭痛、めまい、集中力低下

症状の時間経過
虚血型の症状は通常、数分から数時間で自然に改善することが多く、この一過性という特徴が診断を困難にする要因の一つです。しかし、症状を繰り返すうちに脳梗塞を発症するリスクが高まります。

 

症状の左右交代性も特徴的で、右側の症状が出現した後に左側に症状が移行することがあります。これは両側の内頚動脈終末部の狭窄進行度に差があることを反映しています。

 

もやもや病の出血型初期症状と診断

出血型もやもや病は主に成人期に発症し、虚血型とは全く異なる症状パターンを示します。成人患者の約半数が出血型として発症するため、医療従事者は出血型の初期症状を正確に把握する必要があります。

 

出血型の典型的初期症状

  • 突然の激しい頭痛:「雷鳴頭痛」と表現される突発性の激痛
  • 意識障害:軽度の意識レベル低下から昏睡まで様々
  • 半身麻痺:片側の手足の運動麻痺、感覚障害
  • 言語障害:失語症、構音障害
  • 視野障害:視野欠損、複視
  • 嘔吐:頭痛に伴う悪心・嘔吐

出血部位による症状の違い

  • 脳内出血:局所神経症状が主体
  • くも膜下出血:激しい頭痛と項部硬直
  • 脳室内出血:急激な意識障害

性別・年齢による特徴
出血型もやもや病は30-40歳代の女性に多く発症します。特に妊娠・出産期の女性では、ホルモン変動や血行動態の変化により出血リスクが高まることが知られています。

 

出血型の診断における重要ポイント

  • 家族歴の確認:10-20%で家族内発症があるため
  • 既往歴:小児期の一過性神経症状の有無
  • 画像診断:CT/MRIでの出血確認とMRAでのもやもや血管の描出
  • 脳血管造影:確定診断には必須の検査

再出血リスクの管理
出血型もやもや病の問題は再出血率の高さです。年間約7%の再出血率があり、5年間で約33%の患者が再出血を起こします。しかし、直接バイパス術により再出血リスクを約1/3に減少させることができることが、Japan Adult Moyamoya Trialで証明されています。

 

診断確定後は、血圧管理、抗血小板薬の慎重な使用、外科的治療の適応判断が重要となります。特に出血急性期には、血圧上昇を避けながら脳圧管理を行う必要があります。

 

もやもや病の医療従事者向け診断ポイント

医療従事者がもやもや病を見逃さないための実践的な診断ポイントと、鑑別診断について解説します。特に一般外来や救急外来で遭遇する可能性のある症例について、系統的なアプローチを提示します。

 

初診時の重要な問診項目

  • 症状の時間経過:一過性か持続性か、症状の持続時間
  • 誘発因子:過換気を伴う動作での症状出現
  • 家族歴:血縁者の脳血管疾患、特にもやもや病の既往
  • 既往歴:小児期の一過性神経症状、熱性けいれんの詳細
  • 年齢・性別:発症年齢の二峰性分布の確認

身体診察での注意点

  • 神経学的診察:軽微な神経症状の検出
  • 心血管系診察:他の血管病変の除外
  • 頭部の視診・触診:手術痕の有無、血管雑音の聴取

画像診断の戦略的活用
第1段階:スクリーニング検査

  • CT/MRI:脳梗塞・脳出血の確認
  • MRA:内頚動脈系の狭窄・閉塞の評価、もやもや血管の描出

第2段階:確定診断

  • 脳血管造影:Gold standardの診断法
  • SPECT/PET:脳血流・代謝の評価

鑑別診断で重要な疾患

  • 動脈硬化脳血管障害:高齢者、生活習慣病の既往
  • 自己免疫性血管炎:全身症状、炎症反応の有無
  • 感染性血管炎髄膜炎の既往、発熱の有無
  • 脳腫瘍:局所症状、造影効果の有無
  • 遺伝性疾患:ダウン症候群、神経線維腫症I型など

年齢別診断アプローチ
小児例(0-15歳)

  • 一過性神経症状の反復に注目
  • 学習能力・発達の評価
  • 過換気誘発試験の検討

成人例(16歳以上)

  • 突然発症の頭痛・神経症状
  • 妊娠・出産との関連性
  • 職業性ストレス・過労との関連

医療連携のポイント
もやもや病の診断が疑われた場合、早期に脳神経外科専門医への紹介が重要です。特に以下の場合は緊急性を要します。

  • 出血型症状(激しい頭痛、意識障害)
  • 症状の頻発・増悪傾向
  • 神経症状の固定化

フォローアップの要点

  • 症状日記の記録指導
  • 過換気誘発因子の回避指導
  • 定期的な画像検査によるモニタリング
  • 家族への啓発と遺伝カウンセリングの提案

診断の遅れは重篤な合併症につながる可能性があるため、軽微な症状であっても系統的な評価を行い、専門医との連携を積極的に図ることが患者予後の改善につながります。

 

厚生労働省指定難病情報センターのもやもや病詳細情報
https://www.nanbyou.or.jp/entry/47
京都大学医学部附属病院のもやもや病専門ページ
https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis02/