もやもや病の根本的な病態は、脳に血液を送る重要な血管である内頚動脈終末部の進行性狭窄・閉塞です。この血管の狭窄により、脳への血流が徐々に不足し、それを補うために脳底部に異常な側副血行路が形成されます。
病態の進行過程は以下のように展開されます。
脳血管造影検査では、これらの異常に発達した細い血管群が「もやもや」とした煙のように見えることから、この独特な病名が付けられました。もやもや血管は本来の太い血管の代わりに血流を供給しようとしますが、細い血管に過度な負荷がかかるため、血管破綻による出血や血流不足による虚血を引き起こします。
この病態は両側性に発症することが特徴的で、診断基準では頭蓋内内頸動脈終末部、前・中大脳動脈近位部の狭窄または閉塞と、その付近の異常血管網の発達が両側性に見られることが必要とされています。
現在のところ、なぜ内頚動脈終末部に狭窄が生じるかについて完全に解明されていませんが、炎症や免疫反応、血管壁の構造異常などが複合的に関与していると考えられています。
もやもや病の原因について、近年の研究により遺伝的要因の重要性が明らかになってきました。特に注目されているのは、RNF213遺伝子(mysterin)の変異です。この遺伝子は京都大学の研究により発見され、もやもや病の発症に深く関与していることが判明しています。
家族性発症の特徴。
人種・性別による発症傾向。
2024年の東京女子医科大学の最新研究では、もやもや症候群(他の遺伝性疾患に併発するもやもや病)について、肺動脈性肺高血圧症の疾患遺伝子群の機能的レアバリアントが関与することが新たに発見されました。この研究では、ABCC8、SMAD9、BMPR2、PTGIS遺伝子の変異が同定され、培養細胞実験により著明な機能低下が確認されています。
遺伝子検査の臨床的意義。
この遺伝学的研究の進歩により、従来は外科的治療が中心だったもやもや病に対して、遺伝子をターゲットとした薬物治療の可能性が示唆されています。
虚血型もやもや病は、主に小児期に発症し、脳血流不足による一過性脳虚血発作が特徴的な症状です。医療従事者が見逃してはならない重要な初期症状について詳しく解説します。
典型的な虚血型初期症状。
症状誘発因子の特徴。
もやもや病の虚血型症状は、過換気状態で誘発されることが特徴的です。
これらの動作により脳内の二酸化炭素濃度が低下し、脳血管が収縮してさらに血流不足が悪化します。
年齢別症状パターン。
症状の時間経過。
虚血型の症状は通常、数分から数時間で自然に改善することが多く、この一過性という特徴が診断を困難にする要因の一つです。しかし、症状を繰り返すうちに脳梗塞を発症するリスクが高まります。
症状の左右交代性も特徴的で、右側の症状が出現した後に左側に症状が移行することがあります。これは両側の内頚動脈終末部の狭窄進行度に差があることを反映しています。
出血型もやもや病は主に成人期に発症し、虚血型とは全く異なる症状パターンを示します。成人患者の約半数が出血型として発症するため、医療従事者は出血型の初期症状を正確に把握する必要があります。
出血型の典型的初期症状。
出血部位による症状の違い。
性別・年齢による特徴。
出血型もやもや病は30-40歳代の女性に多く発症します。特に妊娠・出産期の女性では、ホルモン変動や血行動態の変化により出血リスクが高まることが知られています。
出血型の診断における重要ポイント。
再出血リスクの管理。
出血型もやもや病の問題は再出血率の高さです。年間約7%の再出血率があり、5年間で約33%の患者が再出血を起こします。しかし、直接バイパス術により再出血リスクを約1/3に減少させることができることが、Japan Adult Moyamoya Trialで証明されています。
診断確定後は、血圧管理、抗血小板薬の慎重な使用、外科的治療の適応判断が重要となります。特に出血急性期には、血圧上昇を避けながら脳圧管理を行う必要があります。
医療従事者がもやもや病を見逃さないための実践的な診断ポイントと、鑑別診断について解説します。特に一般外来や救急外来で遭遇する可能性のある症例について、系統的なアプローチを提示します。
初診時の重要な問診項目。
身体診察での注意点。
画像診断の戦略的活用。
第1段階:スクリーニング検査
第2段階:確定診断
鑑別診断で重要な疾患。
年齢別診断アプローチ。
小児例(0-15歳)。
成人例(16歳以上)。
医療連携のポイント。
もやもや病の診断が疑われた場合、早期に脳神経外科専門医への紹介が重要です。特に以下の場合は緊急性を要します。
フォローアップの要点。
診断の遅れは重篤な合併症につながる可能性があるため、軽微な症状であっても系統的な評価を行い、専門医との連携を積極的に図ることが患者予後の改善につながります。
厚生労働省指定難病情報センターのもやもや病詳細情報
https://www.nanbyou.or.jp/entry/47
京都大学医学部附属病院のもやもや病専門ページ
https://neurosur.kuhp.kyoto-u.ac.jp/patient/disease/dis02/