硬膜外血腫の症状と治療方法の全て

硬膜外血腫は迅速な診断と適切な治療が予後を左右する緊急疾患です。本記事では症状の特徴から外科的・保存的治療法まで詳しく解説します。あなたは硬膜外血腫の意識清明期について知っていますか?

硬膜外血腫の症状と治療方法

硬膜外血腫の重要ポイント
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緊急性の高い疾患

硬膜外血腫は迅速な診断と治療が必要な救急疾患です。放置すると致命的となる可能性があります。

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意識清明期が特徴

一時的に症状が改善する「意識清明期」は硬膜外血腫の臨床的特徴で、見逃しに注意が必要です。

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早期手術が予後改善

症状発現から8時間以内の血腫除去で完全回復率が46%と高く、早期介入が重要です。

硬膜外血腫の発生機序と種類

硬膜外血腫とは、脳を包む硬膜と頭蓋骨の間に血液が溜まる病態です。主に頭部外傷によって発生し、頭蓋骨の骨折部位から硬膜動脈(主に中硬膜動脈)が損傷することで出血が起こります。脊髄硬膜外血腫の場合は、脊柱管内の硬膜外腔に血腫が形成されます。

 

硬膜外血腫は発生部位や時間経過により以下のように分類されます。

  • 頭蓋内硬膜外血腫:頭蓋骨と硬膜の間に血腫が形成される
    • 急性:24時間以内に症状が進行する最も一般的なタイプ
    • 亜急性:数日かけて症状が進行する
    • 慢性:2週間以上かけてゆっくり症状が進行する稀なタイプ
  • 脊髄硬膜外血腫:脊柱管内の硬膜外腔に血腫が形成される
    • 特発性:原因不明で自然発症する
    • 二次性:外傷、手術、腫瘍などが原因で発生する

    頭蓋内硬膜外血腫の場合、多くは側頭部や側頭頭頂部に発生し、中硬膜動脈からの出血が主な原因となります。血液は硬膜と頭蓋骨の間に溜まるため、硬膜によって脳実質とは隔てられており、CTでは特徴的な凸レンズ状の高吸収域として認められます。

     

    脊髄硬膜外血腫の場合は、頚椎から胸椎上部に好発し、特に下位頚椎から上位胸椎に多く見られます。発生率は10万人あたり0.1人と稀ですが、重篤な神経症状を引き起こす可能性があります。

     

    発症リスク因子としては以下が挙げられます。

    • 抗凝固療法や抗血小板療法の使用
    • 高血圧症
    • 血液凝固異常
    • 妊娠・分娩
    • 腹圧上昇を伴う行為(咳、運動、重いものを持ち上げる等)
    • 血管奇形や腫瘍の存在

    硬膜外血腫の典型的な症状と診断方法

    硬膜外血腫の症状は、その位置や大きさ、進行速度によって異なりますが、頭蓋内硬膜外血腫では以下の特徴的な臨床経過が見られることがあります。

    • 意識清明期(ルシッドインターバル):最も特徴的な臨床所見で、受傷直後は意識障害がない、あるいは一時的に意識障害を呈した後に回復する期間があります。この期間は血腫が徐々に増大して脳を圧迫するまでの時間に相当します。
    • 進行性の症状:血腫の増大に伴い、以下の症状が進行性に出現します。
      1. 激しい頭痛と嘔吐
      2. 意識レベルの低下
      3. 片側の瞳孔散大(瞳孔不同)
      4. 対側の運動麻痺
      5. 呼吸不整や昏睡(重症例)

    脊髄硬膜外血腫の場合は、以下の症状が特徴的です。

    • 突然の激痛(頚部痛・背部痛)
    • 四肢のしびれや麻痺(発症から平均3時間で完成)
    • 排尿障害

    硬膜外麻酔に関連した硬膜外血腫では、筋力低下(46%)、背部痛(38%)、感覚障害(14%)、尿閉(8%)などの症状が報告されています。半数以上が麻酔実施後6時間以内に発症し、初発症状から対麻痺まで平均14時間とされています。

     

    診断には画像検査が必須であり、以下の検査が行われます。

    • 頭部CT検査:急性期の第一選択として、血腫の位置や大きさ、骨折の有無を評価します。典型的には頭蓋骨直下に凸レンズ状の高吸収域(出血)が認められ、しばしば骨折線も確認できます。時間経過とともに血腫が増大することがあるため、経時的な検査が重要です。
    • MRI検査:CTで評価困難な小さな血腫や、脊髄硬膜外血腫の診断に有用です。特に脊髄硬膜外血腫では、T1強調像で等信号~高信号、T2強調像で高信号を示す硬膜外腔の異常信号として描出されます。

    臨床症状と画像所見を総合的に評価することで診断が確定しますが、以下の疾患との鑑別が重要です。

    • 脳梗塞(特に脊髄硬膜外血腫の場合)
    • 椎骨動脈解離
    • 急性椎間板ヘルニア
    • 大動脈解離
    • 急性心筋梗塞

    硬膜外血腫の外科的治療と保存的治療

    硬膜外血腫の治療方針は、血腫の大きさや位置、神経症状の有無と程度、全身状態などを総合的に評価して決定されます。基本的には以下の2つのアプローチがあります。

     

    外科的治療
    急性硬膜外血腫で神経症状を呈する場合や、血腫が厚い/量が多い場合は、緊急で開頭血腫除去術が必要となります。手術の流れは以下の通りです。

    1. 開頭クラニオトミー:最も一般的な術式で、全身麻酔下で頭蓋骨を一時的に取り外し(骨弁)、血腫へアクセスします。
    2. 血腫除去と止血:硬膜外の血腫を除去し、出血源(多くは中硬膜動脈)を確認して止血します。
    3. 骨弁復位:出血がコントロールされた後、取り外した頭蓋骨を元の位置に戻します。

    脳のむくみが予想される場合には、一時的に骨弁を戻さない「外減圧」を行うこともあります。重症例では、救急外来で頭蓋骨に穴を開けて血腫を除去する緊急処置が必要な場合もあります。

     

    脊髄硬膜外血腫の場合も、神経症状を呈する場合は緊急で椎弓切除術による血腫除去が行われます。手術顕微鏡を用いて神経を守りながら慎重に止血し、脊髄の圧迫を解除します。

     

    手術のタイミングは予後に大きく影響し、症状発現から8時間以内の手術では完全回復が46%、部分回復が31%であるのに対し、8~24時間では完全回復が14%、部分回復が29%と低下することが報告されています。そのため、神経症状を呈する場合は可能な限り早期の手術介入が望ましいとされています。

     

    保存的治療
    以下のような場合は、手術を行わず保存的に経過観察することがあります。

    • 血腫が小さく(一般に厚さ1cm未満)、神経症状がない場合
    • 血腫が自然吸収されつつある場合
    • 患者の全身状態が悪く手術リスクが高い場合

    保存的治療には以下が含まれます。

    • 厳重な神経学的観察(意識レベル、瞳孔所見、運動機能など)
    • 定期的な画像検査(CT/MRI)による血腫サイズの評価
    • 血圧管理(過度の上昇を避ける)
    • 浮腫対策(マンニトール、高浸透圧利尿薬などの投与)
    • 抗てんかん薬の予防的投与(必要に応じて)
    • 抗凝固薬内服中の場合はその是正(拮抗薬の投与など)

    保存的治療を選択した場合でも、神経症状の悪化や血腫の増大が認められれば、速やかに外科的治療への移行を検討する必要があります。

     

    硬膜外血腫治療後の予後と経過観察のポイント

    硬膜外血腫の治療後の予後は、いくつかの重要な因子に左右されます。これらを理解し、適切な経過観察を行うことで、患者の回復を最大化し、合併症を最小限に抑えることができます。

     

    予後に影響する因子

    1. 治療開始までの時間:最も重要な因子の一つです。症状発現から8時間以内に血腫除去を行うと完全回復率が46%に達しますが、8~24時間では14%に低下します。
    2. 術前の神経障害の程度:術前に完全麻痺を呈していた症例よりも、不完全麻痺であった症例の方が予後良好です。特に、術前の意識レベルは予後と強く相関します。
    3. 血腫の大きさと部位:大きな血腫や脳幹近傍の血腫は予後不良因子となることがあります。
    4. 患者の年齢:若年者の方が回復力が高いため、一般的に予後が良好です。
    5. 合併損傷の有無脳挫傷や硬膜下血腫などの合併損傷がある場合は予後不良因子となります。

    脊髄硬膜外血腫の場合、疼痛のみで神経所見を伴わない症例では、血腫が3椎体以内であれば完全回復が期待できるという報告があります。

     

    経過観察のポイント
    硬膜外血腫の治療後は、以下のポイントを中心に経過観察を行います。

    • 急性期(術後1週間)
      • 神経学的評価(意識レベル、瞳孔反応、運動機能)の定期的な実施
      • バイタルサインの安定化(特に血圧管理)
      • 再出血や脳浮腫のモニタリング(必要に応じてCT検査)
      • 手術創部の管理と感染予防
      • 早期リハビリテーションの開始
    • 亜急性期~慢性期
      • 機能回復に向けたリハビリテーションの継続
      • 神経脱落症状の評価と対応
      • てんかん発作の有無のモニタリング(必要に応じて脳波検査)
      • 定期的な画像検査による血腫吸収状況の確認
      • 社会復帰に向けた支援

      特発性脊髄硬膜外血腫の症例では、保存的治療により第5病日に疼痛が改善し、第12病日に退院できたケースが報告されています。

       

      合併症とその対応
      硬膜外血腫治療後に生じうる合併症には以下があります。

      1. 再出血:術後24~48時間以内に最も注意が必要で、突然の意識レベル低下や新たな神経脱落症状が出現した場合は緊急CT検査が必要です。
      2. 脳浮腫:術後数日間は脳浮腫のリスクがあり、厳密な神経観察と必要に応じた薬物療法(マンニトール、ステロイドなど)が行われます。
      3. 痙攣発作:頭部外傷後てんかんのリスクがあり、予防的な抗てんかん薬投与が検討されます。
      4. 創部感染・髄膜炎:発熱、創部の発赤・腫脹・排膿、髄液漏などに注意し、早期発見・早期治療が重要です。
      5. 水頭症:慢性期に正常圧水頭症を発症することがあり、歩行障害、認知機能低下、尿失禁などの症状に注意が必要です。

      硬膜外血腫の治療成績は、脳実質自体の損傷が少ない場合は比較的良好です。特に、脳挫傷を伴っていない急性硬膜外血腫で早期に手術が行われた場合、多くの患者が良好な転帰を得ることができます。慶應義塾大学病院の資料によれば、脳損傷を伴わない症例で早期手術が行われた場合、「治療成績は極めて良好で、ほとんどの患者さんが回復される」とされています。

       

      硬膜外血腫と他の頭蓋内出血との鑑別診断

      硬膜外血腫は他の頭蓋内出血疾患と症状が類似することがあり、適切な治療方針を決定するためには正確な鑑別診断が不可欠です。以下に主な鑑別疾患との違いを解説します。

       

      急性硬膜下血腫との鑑別

      特徴 急性硬膜外血腫 急性硬膜下血腫
      解剖学的位置 硬膜と頭蓋骨の間 硬膜と脳実質(クモ膜)の間
      出血源 主に動脈性(中硬膜動脈) 主に静脈性(架橋静脈)
      CT画像所見 凸レンズ状、局所的 三日月状、広範囲
      骨折との関連 多くは骨折を伴う 骨折なしでも発生
      意識清明期 特徴的 まれ
      進行速度 急速(数時間) 比較的緩徐

      硬膜下血腫は高齢者や抗凝固薬服用患者に多く、硬膜外血腫と比較して予後不良の傾向があります。また、慢性硬膜下血腫は数週間かけて徐々に症状が進行するため、急性硬膜外血腫とは臨床経過が大きく異なります。

       

      脳内出血との鑑別
      脳内出血(脳実質内出血)は脳実質内に直接出血が生じる疾患で、主に高血圧性や脳動静脈奇形が原因となります。硬膜外血腫との主な違いは。

      • CT画像所見:脳内出血は脳実質内に不整形の高吸収域として描出
      • 臨床経過:意識清明期を欠くことが多い
      • 神経脱落症状:出血部位に応じた局所神経症状が強い
      • 治療方針:小~中程度の脳内出血は保存的治療が選択されることが多い

      脳挫傷との鑑別と合併
      脳挫傷は外傷による脳実質の直接損傷であり、硬膜外血腫と合併することも多い重要な病態です。脳挫傷を合併した硬膜外血腫は予後不良因子となるため、注意が必要です。

       

      • CT画像所見:脳挫傷は脳表に沿った不整形の高吸収域や低吸収域の混在として描出
      • 臨床症状:一次性の意識障害が持続し、意識清明期を欠くことが多い
      • 長期予後:脳挫傷の範囲・程度により後遺症のリスクが