尿失禁の種類と一覧 原因と症状の特徴

尿失禁にはさまざまな種類があり、それぞれ原因や症状、適切な治療法が異なります。自分や患者さんの症状を正確に把握することで適切なケアにつながりますが、あなたはどの種類の尿失禁に悩んでいますか?

尿失禁の種類と一覧について

尿失禁の主な種類
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腹圧性尿失禁

咳やくしゃみ、運動時などに腹部に圧力がかかると尿が漏れる

🏃
切迫性尿失禁

急な強い尿意を感じ、トイレに間に合わず漏れてしまう

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溢流性尿失禁

膀胱に尿が溜まりすぎて、あふれ出るように少しずつ漏れる

尿失禁の基本定義と社会的影響

尿失禁とは、自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまう症状です。単なる加齢現象と誤解されがちですが、実際には様々な原因による医学的症状です。日本泌尿器科学会の定義によれば、尿失禁は「自分の意思とは関係なく尿が漏れてしまうこと」と定義づけられています。

 

特に注目すべきは、この症状の有病率の高さです。40歳以上の女性の約4割以上が尿失禁を経験しており、実際に悩んでいる方は非常に多いとされています。しかし、恥ずかしさから医療機関への相談を避け、適切な治療を受けていない方が大多数です。

 

尿失禁は単に生理的な問題だけでなく、心理的・社会的な影響も大きいのが特徴です。外出を控えるようになったり、社会活動への参加を躊躇したりするなど、生活の質(QOL)を著しく低下させます。また、職場や家庭での人間関係にも影響を及ぼすことがあり、うつ症状のリスク因子にもなりえます。

 

医療従事者としては、患者さんがこの問題を打ち明けやすい環境づくりが重要です。多くの場合、適切な診断と治療により症状の改善が見込めるため、早期の相談を促すコミュニケーションが求められます。

 

腹圧性尿失禁の特徴と治療法

腹圧性尿失禁は、尿失禁の中でも最も一般的なタイプの一つで、特に女性に多く見られます。この種類の尿失禁は、咳やくしゃみ、重い物の持ち上げ、運動などによって腹部に圧力(腹圧)がかかった際に尿が漏れる症状です。

 

主な原因は、骨盤底筋群という尿道括約筋を含む骨盤底の筋肉の緩みにあります。この筋肉群は、膀胱や尿道を支える重要な役割を担っていますが、以下のような要因で機能が低下することがあります。

  • 出産によるダメージ(特に経腟分娩後)
  • 加齢による筋力低下
  • 女性ホルモン(エストロゲン)の減少
  • 肥満による持続的な圧力
  • 慢性的な咳(喘息など)
  • 重量物の持ち上げを伴う職業

腹圧性尿失禁の症状は比較的特徴的で、力を入れた瞬間に少量から中等量の尿が漏れることが多いです。女性の場合、週に1回以上この症状を経験している方は日本国内だけでも500万人以上いると言われています。

 

治療法としては、軽度から中等度の場合は保存的治療が第一選択となります。

  1. 骨盤底筋訓練(ケーゲル体操):最も基本的かつ効果的な治療法です。正しい筋肉を意識して継続的に行うことが重要で、効果を実感するまでに通常3〜6ヶ月ほどかかります。
  2. 生活習慣の改善:体重管理、便秘の予防、咳の管理など、症状を悪化させる因子の排除を行います。
  3. 理学療法:バイオフィードバック療法や電気刺激療法など、専門的な指導の下で筋力強化を行うこともあります。

保存的治療で効果が不十分な中等度から重度の腹圧性尿失禁に対しては、外科的治療が検討されます。

  • TVT手術・TOT手術:尿道の下にメッシュテープを通して支える方法で、成功率は90%以上と非常に高いことが特徴です。
  • 尿道周囲注入療法:尿道周囲に膨張性物質を注入し、尿道を閉鎖しやすくする方法です。

日本泌尿器科学会による尿失禁の詳細情報
腹圧性尿失禁は適切な評価と治療により、多くの患者さんで症状の大幅な改善が期待できます。恥ずかしがらずに泌尿器科や婦人科を受診することが、QOL向上への第一歩となります。

 

切迫性尿失禁の原因と対策

切迫性尿失禁は、突然強い尿意を感じ(尿意切迫感)、我慢できずに尿が漏れてしまう状態を指します。この症状は男女両方に発症しますが、特に高齢者に多く見られます。切迫性尿失禁の特徴は、予測が難しく、トイレに間に合わないことが多いという点です。

 

この種類の尿失禁の主な原因は、膀胱の不随意な収縮(過活動膀胱)にあります。脳からの抑制信号が適切に機能していないため、膀胱が勝手に収縮してしまうのです。具体的な原因としては以下が挙げられます。

切迫性尿失禁の特徴的な症状には、以下のようなものがあります。

  1. 突然の強い尿意
  2. トイレが近い(頻尿)
  3. 夜間に何度もトイレに行く(夜間頻尿)
  4. 水の音を聞いたり、寒さを感じたりすると尿意を催す
  5. 中等量から大量の尿失禁

治療法としては、薬物療法と行動療法の組み合わせが一般的です。
薬物療法

  • 抗コリン薬(ベシケアなど):膀胱の過剰な収縮を抑制します
  • β3受容体作動薬(ベタニス、ミラベグロンなど):膀胱の弛緩を促進します
  • 三環系抗うつ薬:特定のケースで使用されることがあります

行動療法

  • 膀胱訓練:徐々に排尿間隔を延ばすトレーニング
  • 骨盤底筋訓練:腹圧性尿失禁ほどではありませんが、効果が期待できます
  • 飲水管理:一度に大量の水分摂取を避け、適切な水分摂取タイミングを管理します
  • カフェイン、アルコール、辛い食品など膀胱刺激物の摂取制限

重度の症状に対しては、ボツリヌス毒素の膀胱壁注入や仙骨神経刺激療法などの専門的治療も選択肢となります。

 

切迫性尿失禁はしっかりとした治療で70〜80%の患者さんに症状改善が見られますが、継続的な管理が必要なケースも少なくありません。患者さんには、治療には時間がかかることがあることを説明し、長期的な視点を持って取り組むよう支援することが大切です。

 

溢流性尿失禁と反射性尿失禁の違い

溢流性尿失禁(いつりゅうせいにょうしっきん)と反射性尿失禁(はんしゃせいにょうしっきん)は、その原因も症状も大きく異なる尿失禁のタイプです。両者の違いを理解することは、適切な診断と治療方針の決定に重要です。

 

溢流性尿失禁は、膀胱に尿が過剰に溜まり、膀胱の容量を超えたときに、尿が少しずつ漏れ出す状態を指します。「排出性尿失禁」とも呼ばれることがあります。この状態では、患者さん自身が排尿しようとしても十分に排出できず、膀胱に常に多量の残尿があります。
溢流性尿失禁の主な特徴。

  • 排尿障害(尿が出にくい)が基礎にある
  • 常に少量ずつ尿が漏れる傾向がある
  • 膀胱が常に充満している感覚
  • 腹部の膨満感を伴うことがある
  • 尿意があってもうまく排尿できない

主な原因。

  • 前立腺肥大症(男性に多い)
  • 前立腺がん
  • 尿道狭窄
  • 神経因性膀胱(糖尿病や多発性硬化症などによる)
  • 膀胱の収縮力低下(薬剤性のこともある)
  • 骨盤内手術後の神経損傷

一方、反射性尿失禁は、膀胱の充満を感じても、脊髄反射により不随意に膀胱が収縮して排尿が起きる状態です。この場合、脳からの抑制信号が脊髄に伝わらないため、膀胱充満時に反射的に排尿してしまいます。

 

反射性尿失禁の主な特徴。

  • 尿意を感じることなく突然排尿する
  • 膀胱が満たされると規則的に起こることが多い
  • 通常は中等量から多量の尿が出る
  • 排尿前に自律神経症状(発汗、鳥肌、頭痛など)を伴うことがある

主な原因。

  • 脊髄損傷(特にT12レベル以上の損傷)
  • 多発性硬化症
  • 二分脊椎
  • 脊髄腫瘍

治療アプローチも両者で大きく異なります。
溢流性尿失禁の治療:

  • 原因疾患の治療(前立腺肥大症なら薬物療法や手術)
  • 間欠的自己導尿
  • 尿道カテーテルの留置
  • 膀胱収縮力を高める薬剤(限られた効果)

反射性尿失禁の治療:

  • 抗コリン薬による膀胱収縮の抑制
  • 間欠的導尿
  • 膀胱訓練
  • 仙骨神経刺激療法
  • ボツリヌス毒素膀胱壁注入

医療従事者としては、これらの尿失禁のタイプを見分けるために、残尿測定や尿流動態検査などの適切な検査を行うことが重要です。また、患者さんの病歴(特に神経疾患の有無や手術歴)を詳細に聴取することが診断の手がかりとなります。

 

看護roo!による尿失禁の種類の詳細解説

尿失禁の予防と自己管理のポイント

尿失禁は多くの場合、完全な予防は難しいものの、適切な自己管理によって発症リスクを低減したり、症状の進行を遅らせたりすることが可能です。ここでは、尿失禁のタイプに応じた予防策と日常生活での自己管理のポイントについて解説します。

 

すべてのタイプの尿失禁に共通する予防策

  1. 骨盤底筋の定期的な強化

    骨盤底筋訓練(ケーゲル体操)を日常生活に取り入れることで、さまざまなタイプの尿失禁予防に効果があります。この訓練は医療従事者から適切な指導を受けることが重要です。正しく行わないと効果が得られないだけでなく、逆効果になる場合もあります。

     

    基本的な骨盤底筋訓練の方法。

    • 排尿を途中で止めるときに使う筋肉を意識する(実際に排尿中に行うのは推奨されません)
    • その筋肉を5秒間収縮させ、その後5秒間リラックスする
    • これを10回×3セット、1日3回程度行う
  2. 体重管理

    肥満は腹部への慢性的な圧力増加をもたらし、特に腹圧性尿失禁のリスク因子となります。適正体重の維持は尿失禁予防の重要な要素です。BMI 25未満を目標にすると良いでしょう。

     

  3. 水分摂取の適正化
    • 水分制限はかえって尿の濃縮を招き、膀胱刺激の原因となるため推奨されません
    • 1日1.5〜2リットルの水分を、少量ずつ定期的に摂取するのが理想的です
    • 就寝2〜3時間前からの水分摂取は控えめにするとよいでしょう
  4. 食習慣の見直し

    以下の膀胱刺激物の摂取を控えることで症状改善が期待できます。

    • カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶、コーラなど)
    • アルコール
    • 人工甘味料
    • 酸性の強い食品(柑橘類など)
    • 辛い食品
  5. 排便習慣の改善

    慢性的な便秘は骨盤底への圧力増加をもたらし、尿失禁のリスク因子となります。食物繊維の摂取、適度な運動、十分な水分摂取で便秘予防を心がけましょう。

     

尿失禁タイプ別の自己管理ポイント
腹圧性尿失禁の場合:

  • 咳やくしゃみの前に骨盤底筋を意識的に締める「The Knack」という技術を習得する
  • 重い物を持ち上げる際は正しい姿勢と呼吸法を用いる
  • 高衝撃の運動を避け、水中運動などの低衝撃運動を選択する

切迫性尿失禁の場合:

  • 膀胱訓練:計画的な排尿スケジュールを立て、徐々に排尿間隔を延ばしていく
  • 尿意を感じたら、あわてずに深呼吸をして落ち着く
  • 膀胱日誌をつけて排尿パターンを把握する

溢流性尿失禁の場合:

  • 規則的な排尿習慣を確立する
  • 医師の指導の下で間欠的自己導尿を行う場合がある
  • 薬剤の副作用をチェックし、必要に応じて医師に相談する

機能性尿失禁の場合:

  • 居住環境の改善(トイレへの道のりを明確にする、照明を良くするなど)
  • 衣類の工夫(脱ぎやすいデザイン、マジックテープの使用など)
  • 排泄スケジュールの確立と定期的な介助

尿失禁ケア製品の活用
重度の症状や治療中の患者さんにとって、適切な吸収製品の使用は生活の質を大きく向上させます。

  • 軽度の漏れには尿取りパッド
  • 中等度以上には専用の吸収性下着
  • 夜間や重度の場合は大人用おむつ

これらの製品は、以前と比較して格段に薄くなり、外見からわかりにくく、吸収性も向上しています。患者さんの症状や生活スタイルに合わせた製品選びをサポートすることも、医療従事者の重要な役割です。

 

TENAによる尿失禁タイプ別のケア情報
予防と自己管理は、尿失禁の包括的治療アプローチの重要な柱です。医療従事者は患者さんに対して、尿失禁は恥ずかしいものではなく、適切な対応で改善可能な医学的症状であることを伝え、積極的な自己管理を促すことが大切です。