慢性硬膜下血腫の原因と初期症状を詳しく解説

慢性硬膜下血腫は高齢者に多発する疾患で、軽微な外傷から数週間~数ヶ月後に症状が現れます。初期症状は見逃されやすく、適切な診断と治療が重要となりますが、その特徴をご存知でしょうか?

慢性硬膜下血腫の原因と初期症状

慢性硬膜下血腫の基本情報
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発症メカニズム

硬膜と脳表面の間に血液が徐々に蓄積し、脳を圧迫する病態

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好発年齢

60歳以上の高齢者に多発、特に男性でアルコール摂取歴のある患者

発症時期

外傷から数週間~数ヶ月後に症状が出現する遅発性疾患

慢性硬膜下血腫の主要な原因と危険因子

慢性硬膜下血腫の最も重要な原因は軽微な頭部外傷です。敷居や天井に軽く頭をぶつけるといった日常的な外傷でも発症する可能性があり、患者自身が外傷を忘れてしまうほど軽微なケースも少なくありません。

 

主要な原因

  • 軽微な頭部外傷(転倒、ぶつける等)
  • しりもちによる脳の揺れ動き
  • 急性硬膜下血腫からの移行
  • 外傷性硬膜下水腫からの移行

危険因子

  • 高齢(60歳以上)
  • アルコール多量摂取
  • 抗凝固薬・抗血小板薬の服用
  • 肝機能障害
  • 血液透析患者
  • 脳萎縮

特発性(原因不明)の慢性硬膜下血腫も約20~30%存在し、明確な外傷歴がなくても発症することがあります。これは脳萎縮により硬膜と脳表面の距離が拡大し、橋静脈が牽引されやすくなることが関与していると考えられています。

 

病理学的には、脳表面と硬膜を繋ぐ橋静脈(bridging vein)の損傷により、ゆっくりとした出血が持続することで血腫が形成されます。血腫は比較的しっかりとした被膜で覆われ、その中に液状の薄い血液が貯留するのが特徴的な所見です。

 

慢性硬膜下血腫の初期症状と見逃しやすいサイン

慢性硬膜下血腫の初期症状は非特異的で軽微なため、しばしば見逃されやすいのが特徴です。血腫が少量の場合は無症状で経過し、脳ドックなどの画像検査で偶然発見されることもあります。

 

初期症状

  • 軽い頭痛(最も一般的)
  • 軽度のめまい・ふらつき
  • 疲労感の増強
  • わずかなバランス感覚の乱れ

これらの症状は日常生活に大きな支障をきたさないため、ストレスや疲労、加齢による変化として見過ごされることが多いのが問題点です。

 

進行期の症状

  • 持続的な頭痛の増強
  • 物忘れ・認知機能の低下
  • 性格変化・意欲低下
  • 片麻痺・歩行障害
  • 手足の動かしにくさ
  • 失語
  • 反応の低下

症状の特徴として、脳梗塞脳出血とは異なり、徐々に進行することが挙げられます。また、認知症様症状で発見されることもあり、急激な認知機能低下を認めた高齢者では本疾患を鑑別に挙げる必要があります。

 

血腫の増大に伴い、これらの症状は徐々に進行し、重症化すると痙攣や意識障害に至ることもあります。特に両側性の慢性硬膜下血腫(約10%の頻度)では、症状がより重篤になる傾向があります。

 

慢性硬膜下血腫の診断方法と画像所見の特徴

慢性硬膜下血腫の診断は主に画像診断に依存します。CTスキャンが最も有用で、硬膜下腔に低吸収域として血腫が描出されます。血腫の信号強度は血腫の時期により変化し、急性期は高吸収、亜急性期は等吸収、慢性期は低吸収を示します。

 

CT所見の特徴

  • 硬膜下腔の三日月状低吸収域
  • 脳実質の圧排・偏位
  • 脳室の圧迫・変形
  • 正中偏位の程度

MRIはCTよりも詳細な情報を提供し、血腫内の出血時期の判定や、被膜の評価に有用です。T1強調画像では血腫の信号は様々で、T2強調画像では高信号として描出されることが多いです。

 

診断のポイント

  • 軽微な外傷歴の聴取
  • 症状の緩徐進行性
  • 高齢者での認知機能低下
  • 画像所見と臨床症状の整合性

鑑別診断として、脳梗塞、脳腫瘍、正常圧水頭症、認知症などが挙げられます。特に認知症との鑑別は重要で、可逆性の認知機能低下として治療可能な疾患であることを念頭に置く必要があります。

 

慢性硬膜下血腫の治療法と医療従事者の対応

慢性硬膜下血腫の治療方針は血腫の大きさと症状の程度により決定されます。基本的には外科的治療が主体となりますが、無症状や軽症例では保存的治療も選択肢となります。

 

外科的治療

  • 穿頭血腫除去術(最も一般的)
  • 開頭血腫除去術(重症例)
  • 内視鏡的血腫除去術

穿頭血腫除去術では、頭部に小さな穴を開けて血腫を吸引除去し、生理食塩水で洗浄します。局所麻酔下での施行が可能で、高齢者にも比較的安全に実施できる手術です。

 

保存的治療

  • 経過観察
  • 漢方薬治療(五苓散等)
  • 抗凝固薬の中止・調整

自然吸収される例も稀にあり、無症状の小さな血腫では慎重な経過観察が選択されることもあります。近年では漢方薬の有効性も報告されており、手術リスクの高い患者での選択肢として注目されています。

 

予後と注意点
慢性硬膜下血腫は脳実質の損傷を伴わないため、適切な治療により後遺症を残さずに改善することが期待できます。ただし、再発率は約10-20%とされており、術後の定期的な画像フォローアップが重要です。

 

慢性硬膜下血腫の予防策と早期発見のポイント

慢性硬膜下血腫の予防は主に外傷の防止に焦点を当てます。特に高齢者では転倒リスクの軽減が最も重要な予防策となります。

 

予防策

  • 転倒防止対策の徹底
  • 住環境の整備(段差の解消、手すりの設置)
  • 適度な運動による筋力・バランス能力の維持
  • 抗凝固薬使用時の注意深い管理
  • アルコール摂取量の制限

早期発見のポイント
医療従事者として重要なのは、軽微な外傷歴のある高齢者で認知機能低下や神経症状を認めた場合、本疾患を鑑別診断に挙げることです。特に以下の状況では積極的な検査を検討すべきです。

  • 軽微な頭部外傷後の緩徐進行性神経症状
  • 急激な認知機能低下
  • 原因不明の歩行障害
  • 性格変化や意欲低下

医療従事者の対応
問診では外傷歴の詳細な聴取が重要で、患者や家族が「軽いぶつけ方だから大丈夫」と考えている場合でも、慢性硬膜下血腫のリスクがあることを説明し、適切な経過観察を行う必要があります。

 

また、抗凝固薬や抗血小板薬を服用している患者では、軽微な外傷でも血腫形成のリスクが高いことを患者・家族に十分説明し、頭部外傷後の症状変化について注意深く観察するよう指導することが重要です。

 

定期的な脳ドックや健康診断での画像検査は、無症状の慢性硬膜下血腫の早期発見にも有用であり、適切なタイミングでの介入により重篤な症状の進行を防ぐことが可能です。

 

慢性硬膜下血腫に関する詳細な診療ガイドライン
日本脳神経外科学会
高齢者の転倒予防に関する包括的な情報
厚生労働省高齢者転倒予防ガイドライン