尿糖の基準値と陽性になる原因や検査方法

尿糖の基準値は陰性(-)ですが、血糖値が160~180mg/dL以上で陽性になります。尿糖が出る原因は糖尿病だけではなく、腎性糖尿や妊娠、甲状腺機能亢進症なども関係しています。尿糖陽性の場合、どのような検査や対応が必要なのでしょうか?

尿糖の基準値と血糖値

尿糖検査のポイント
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尿糖の基準値

健常者の尿糖は陰性(-)が基準値で、尿中ブドウ糖濃度は20mg/dL未満です

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陽性になる血糖値

血糖値が160~180mg/dL以上になると尿細管での再吸収が追いつかず尿糖が陽性になります

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判定区分

試験紙による判定は(±)擬陽性から(4+)まで段階的に評価されます

尿糖の基準値の定義

 

尿糖検査における基準値は陰性(-)とされており、健常者の尿中ブドウ糖濃度は20mg/dL未満です。試験紙を用いた検査では、尿中のブドウ糖が50mg/dL以上になると検出可能となり、50~99mg/dLは(±)擬陽性、100~249mg/dLは(+)陽性、250~499mg/dLは(2+)、500~1999mg/dLは(3+)、2000mg/dL以上は(4+)と段階的に判定されます。ただし、試験紙のメーカーによって感度が異なるため、検査結果は自己判断せず必ず医療機関の判定に従う必要があります。
参考)https://medicalnote.jp/checkups/191021-012-AH

尿糖が検出される背景には、血液中のブドウ糖が腎臓でいったん濾過された後、尿細管で血中に再吸収されるという生理的メカニズムがあります。しかし血糖値が腎臓の再吸収能力を超える閾値に達すると、再吸収されなかった糖分が尿とともに排泄されるのです。この腎糖排泄閾値には個人差がありますが、一般的には160~180mg/dLとされています。
参考)糖尿病検査とは?項目や基準値を解説 - 医療法人社団エキクリ…

尿糖と血糖値の違い

尿糖と血糖値は糖代謝の評価に用いられますが、それぞれが示す情報には明確な違いがあります。血糖値は採血した時点の血液中のブドウ糖濃度を表す瞬間的な数値で、食事内容や運動、インスリン注射などの治療によって短時間で変動します。一方、尿糖は排尿から次の排尿までの間に起こった高血糖を反映する指標であり、ある一定期間の血糖変動を示すことができます。
参考)尿糖とは?

例えば食後の尿糖を測定する場合、食事直前に一度排尿し食後の尿を測定することで、食後高血糖状態があったかどうかを把握することが可能です。尿糖検査は血糖値測定と比較して非侵襲的で簡便に実施できるという利点がありますが、血糖値が180mg/dL(腎閾値)を超えた場合にのみ陽性となるため、軽度の高血糖や血糖値が閾値以下の場合は検出できないという限界があります。そのため、糖尿病の診断や管理においては、尿糖検査だけでなく血糖値やHbA1c測定など複数の検査を組み合わせることが重要です。​

尿糖検査と試験紙法の原理

現在の尿糖検査は主に試験紙法で行われており、試験紙を尿に浸して色の変化を観察することで尿糖の有無や程度を判定します。試験紙には複数の検査項目が組み込まれており、尿潜血、尿蛋白、尿糖などを同時に調べることができます。試験紙の該当する部分が変色し、その濃さを目視または機械で判断して陰性(-)から陽性(+、2+、3+)のように段階的に評価されます。
参考)尿糖検査はどのように行われますか? |健康診断・人間ドック

テルモの新ウリエースGa製品情報(試験紙の使用方法と判定基準が詳しく記載されています)
試験紙法は簡便で一般的な健康診断で広く用いられていますが、いくつかの注意点があります。ビタミンC(アスコルビン酸)を多量摂取すると偽陰性(実際には陽性であるのに陰性と判定される)を示すことがあります。また、尿の濃度によっても結果が影響を受けるため、検査前の水分摂取状況なども考慮する必要があります。さらに、試験紙法は簡易検査の性質が強いため、陽性が確認された場合には血糖値測定など精密検査を実施して診断を確定することが重要です。
参考)尿糖(糖尿)の解説 ー 尿糖 プラス 1+ 2+ 3+ 4+…

尿糖と長期血糖管理指標HbA1cの関係

尿糖検査が特定期間の高血糖を反映するのに対し、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は過去1~2ヶ月間の長期的な血糖コントロール状態を示す指標です。HbA1cは赤血球中のヘモグロビンとブドウ糖が結合した物質で、一度結合すると赤血球の寿命である約120日が終わるまで離れません。そのため、当日の食事や運動など短期間の血糖値の影響を受けず、糖尿病治療における重要な評価指標となります。
参考)血糖値とHbA1c|恋ヶ窪内科クリニック|国分寺・恋ヶ窪の内…

糖尿病の診断基準としては、空腹時血糖値126mg/dL以上またはHbA1c 6.5%以上が用いられます。健康診断や検診での血液検査では、空腹時血糖値100~109mg/dLおよびHbA1c 5.6~5.9%は正常域、110~125mg/dLおよび6.0~6.4%は境界型(糖尿病予備群)、126mg/dL以上および6.5%以上は糖尿病が疑われる、と判定されます。血糖コントロール状態を長期的に把握する順序は、HbA1c→グリコアルブミン→1,5-AG→尿糖となり、HbA1cが最も長期間の状態を反映します。
参考)糖尿病の検査|港南台内科クリニック

尿糖が陽性になる原因と疾患

尿糖陽性の主な原因

尿糖が陽性になる原因は主に3つに分類されます。第一は血糖値の上昇による尿糖陽性、第二は腎臓の糖再吸収機能の低下(腎性糖尿)、第三は妊娠期間中の生理的変化です。血糖値が持続的に高い状態にあると、腎臓の糖再吸収能力の閾値を超えて尿中に糖が漏れ出ます。個人差はありますが、通常は血糖値が160~180mg/dL以上になると尿糖が陽性となることが多いです。
参考)尿糖(±)とはどういう結果なの?~原因と対処法を解説~ - …

血糖値が高くなる原因は糖尿病が代表的ですが、それだけではありません。甲状腺機能亢進症クッシング症候群などのホルモン異常、膵炎などの疾患、さらには食べすぎや特定の薬の影響による一時的な高血糖でも尿糖が出現することがあります。特に尿糖(2+)以上を示す場合は、食後であっても糖尿病が疑われる高血糖となっている可能性があり、尿糖(4+)はさらに高度な高血糖が懸念されます。
参考)尿糖(4+)が出たら危険?~尿糖が高くなる原因や再検査の必要…

尿糖陽性と糖尿病の診断

尿糖が陽性であることは糖尿病の疑いを示唆しますが、尿糖だけで糖尿病を診断することはできません。糖尿病の診断には血糖値の測定が必須であり、慢性高血糖の確認が不可欠です。糖尿病の診断基準では、空腹時血糖値126mg/dL以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dL以上、随時血糖値200mg/dL以上、またはHbA1c 6.5%以上のいずれかを満たすことが必要です。
参考)糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 (国際標準化対応版…

尿糖検査は糖尿病のスクリーニングとして有用ですが、いくつかの限界があります。血糖値が腎閾値を超えないと陽性にならないため、軽度の糖尿病や早期の糖代謝異常では見逃される可能性があります。また、後述する腎性糖尿のように血糖値が正常でも尿糖が陽性になる場合もあります。そのため、尿糖陽性が確認された場合には、必ず血糖値測定やHbA1c検査などの精密検査を行い、適切な診断と治療方針の決定を行うことが重要です。
参考)腎性糖尿 - 03. 泌尿器疾患 - MSDマニュアル プロ…

尿糖陽性と甲状腺機能亢進症

甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される疾患で、尿糖陽性の原因の一つとなります。甲状腺ホルモンは体内のさまざまな代謝活動を活発化させる働きがあり、心拍数の増加やタンパク質の分解・吸収を促進します。特に重要なのは、甲状腺ホルモンがブドウ糖の分解・吸収を促すだけでなく、肝臓での糖新生(他の物質からブドウ糖を作り出す働き)を活発化させることです。
参考)尿検査で糖尿病は分かる?検査項目や異常が見られる場合に疑われ…

この糖新生の亢進により血糖値が上昇し、腎臓の再吸収能力を超えると尿中に糖が排泄されます。甲状腺機能亢進症では、動悸、体重減少、発汗増加、手指の震えなどの症状も伴うことが多いため、これらの症状と尿糖陽性が同時に認められた場合には甲状腺機能の評価が必要です。治療としては、抗甲状腺薬による甲状腺ホルモンの分泌抑制や、必要に応じて放射性ヨード治療、外科的治療が選択されます。
参考)尿糖(尿)

尿糖と腎性糖尿の鑑別

腎性糖尿は、血糖値が正常範囲であるにもかかわらず尿中にブドウ糖が検出される病態です。これは腎臓における糖の再吸収機能が低下しているために起こります。腎性糖尿には遺伝性と後天性があり、遺伝性の場合は通常、不完全劣性の形質として遺伝します。グルコース最大輸送量(グルコースを再吸収できる最大速度)の減少により、正常血糖値でも尿中へのグルコース漏出が起こります。
参考)尿糖が陽性と言われたら(出る原因・高い)|川崎市の溝の口駅前…

腎性糖尿は単独で起こる場合と、近位尿細管機能の広範な欠陥の一部として起こる場合(ファンコニ症候群)があります。また、シスチン症、ウィルソン病、遺伝性チロシン血症などの全身性疾患に併発することもあります。腎性糖尿の診断には、血糖値測定と尿糖検査を同時に行い、血糖値が正常であるにもかかわらず尿糖が陽性であることを確認する必要があります。腎性糖尿のみで他の症状がない場合は、体に大きな影響はなく治療の必要はありませんが、定期的な経過観察は推奨されます。​

尿糖と妊娠糖尿病の関係

妊娠期間中の尿糖陽性には、生理的な尿糖と妊娠糖尿病によるものの2種類があります。妊娠すると胎盤からインスリンを分解するホルモンが分泌されるため、これに対抗してインスリンの分泌量が増加します。しかし、インスリン量や腎臓の糖処理能力には限界があるため、妊娠後期には生理的に尿糖が出やすくなります。また、妊娠に伴い腎臓の働きが変化し、通常よりも血中の糖分が尿に漏れやすくなるという生理的変化もあります。
参考)妊娠糖尿病にひっかからないために気を付けるべき生活習慣 |【…

一方、妊娠糖尿病は母体の健康と胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性があるため、予防と早期発見・治療が極めて重要です。妊娠糖尿病では早産、難産、胎膜早破、産後出血、胎児窘迫、巨大児、新生児畸形などの不良母婴結局のリスクが高まります。ただし、妊娠糖尿病であっても常に尿糖が陽性になるとは限らず、尿糖だけで妊娠糖尿病を診断することはできません。適切な診断には75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)による血糖値測定が必要であり、妊娠初期および妊娠24~28週での検査が推奨されています。
参考)妊婦の尿タンパク・尿糖検査について-おむつのムーニー 公式 …

日本糖尿病学会の糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(診断基準の詳細が記載されています)

尿糖とSGLT2阻害薬の影響

SGLT2阻害薬は、尿中に糖を排泄することで血糖値を下げる比較的新しい糖尿病治療薬です。この薬は2014年から日本で使用が開始され、インスリンの分泌や作用を介さずに血糖値を下げるという独特の作用機序を持ちます。血液中のブドウ糖は腎臓の糸球体で濾過されて原尿中に出た後、尿細管でSGLT2というタンパク質によって血液中に再吸収されます。
参考)https://disease.jp.lilly.com/diabetes_dac/pharmacotherapy/mechanism/oral-medicine

SGLT2阻害薬はこのSGLT2の働きを抑制し、尿細管でのブドウ糖の再吸収を阻害することで、ブドウ糖を尿中に排泄させます。その結果、血糖値が下がるとともに、糖とともに水分も排泄されるため尿量が増加します。この薬を服用している患者では、血糖コントロールが良好であっても尿糖が陽性になるため、尿糖検査だけでは血糖コントロールの評価ができません。SGLT2阻害薬の利点として、他の薬と併用しなければ低血糖のリスクが低いこと、体重減少効果があることなどが挙げられます。ただし、尿路感染症や性器感染症のリスク増加などの副作用にも注意が必要です。
参考)https://himeji.hosp.go.jp/files/img/pages/dep/tonyo/letter/no37.pdf

尿糖と消化吸収不良症候群

消化吸収不良症候群は、腸管での栄養素の消化・吸収が障害される疾患群であり、尿糖検査と関連する病態も存在します。特に先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症(GGM)は、小腸上皮細胞の微絨毛に存在するSGLT1(sodium/glucose cotransporter)の機能が失われることで、ブドウ糖とガラクトースを吸収できない稀な遺伝性疾患です。この疾患では出生後の哺乳開始とともに激しい水様下痢が始まり、数日から数週のうちに重篤な脱水、低血糖、アシドーシスに陥ります。
参考)先天性グルコース・ガラクトース吸収不良症 概要 - 小児慢性…

興味深いことに、GGM患者では腎性糖尿を伴うことが多く、腎結石や広範なカルシウム沈着が認められることがあります。これは腸管でのブドウ糖吸収不良により血糖値は低いにもかかわらず、腎臓でのSGLT1機能異常により尿中にブドウ糖が排泄されるためです。診断には糖負荷試験と尿糖検査、遺伝子解析などが用いられ、治療としてはブドウ糖とガラクトースを含まない特殊ミルクや果糖ベースの栄養管理が必要です。このような消化吸収不良症候群では、下痢、脂肪便、体重減少、るいそう、貧血、倦怠感、腹部膨満、浮腫などのさまざまな症状が出現します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspen/27/1/27_1_5/_pdf/-char/ja

 

 


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