アルカローシス アシドーシス診断と治療の実践的アプローチ

医療現場で重要なアルカローシスとアシドーシスの病態生理、診断方法、治療法について詳しく解説。血液ガス分析から症状の鑑別まで、臨床で役立つ実践的な知識を提供します。適切な診断と治療で患者の予後を改善できるでしょうか?

アルカローシス アシドーシス病態理解

酸塩基平衡の基本理解
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pH値の正常範囲と病的状態

血中pHが7.35未満でアシデミア、7.45を超えるとアルカレミアと診断されます

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代謝性と呼吸性の分類

HCO3-の変化が主因なら代謝性、PaCO2の変化が主因なら呼吸性に分類されます

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代償機構の働き

身体は酸塩基平衡を維持するため、肺と腎による代償機構を動員します

アルカローシス アシドーシス定義と基本概念

アルカローシスとアシドーシスは、体内の酸塩基平衡に関わる重要な病態です。アシドーシスは体液が正常よりも酸性に傾いた状態を指し、一方でアルカローシスは体液がアルカリ性に傾いた状態を表します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9

 

これらの病態を正確に理解するためには、以下の基本的な定義を把握することが必要です。

重要なのは、アシドーシスやアルカローシスのプロセスが存在していても、代償機構により血中pHが正常範囲内に維持される場合があることです。

アルカローシス アシドーシス分類システム

酸塩基平衡障害は、原因となる主要な機序に基づいて以下の4つに分類されます:
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/216184/

 

呼吸性障害

代謝性障害

この分類システムでは、Henderson-Hasselbalchの式に基づいて、pH = 24 × PaCO2/[HCO3-]の関係を利用して診断を行います。
参考)http://square.umin.ac.jp/seedbook/AB.html

 

呼吸性と代謝性では、アシドーシスとアルカローシスにおけるPaCO2とHCO3-の増減が逆になることを理解しておくことが診断の鍵となります。

アルカローシス アシドーシス代償機構の病態生理

生体には酸塩基平衡を維持するための巧妙な代償機構が存在します。この機構は急性期と慢性期で異なる特徴を示します。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/resident/clinicallecture4.html

 

呼吸性代償(分単位〜時間単位)
代謝性アシドーシスでは、肺が二酸化炭素の排出を増加させることで代償を行います。

  • 予測式:ΔPaCO2 = 1.2 × Δ[HCO3-] ± 2
  • 代謝性アルカローシスでは:ΔPaCO2 = 0.5-0.7 × Δ[HCO3-](限界PaCO2 < 60mmHg)

腎性代償(時間単位〜日単位)
呼吸性障害に対する腎代償は時間がかかりますが、より持続的です。

  • 呼吸性アシドーシス急性期:Δ[HCO3-] = 0.1 × ΔPaCO2
  • 呼吸性アシドーシス慢性期:Δ[HCO3-] = 0.4 × ΔPaCO2

意外な事実として、急性の呼吸性障害は代謝性障害ほど血清カリウム濃度に影響を与えないことが知られています。これは臨床診断において重要な鑑別点となります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%9B%BB%E8%A7%A3%E8%B3%AA%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E6%BF%83%E5%BA%A6%E3%81%AE%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81

 

アルカローシス アシドーシス血液ガス分析による診断法

正確な診断のためには、系統的な血液ガス分析のアプローチが必要です。以下のステップに従って評価を行います:
Step 1: pH値による一次判定

  • pH < 7.38 → アシデミア(アシドーシスが優位)
  • pH > 7.42 → アルカレミア(アルカローシスが優位)

Step 2: 一次性変化の特定
pHとPaCO2、HCO3-の変化パターンから一次性変化を決定します:

  • pH↓ + HCO3-↓ → 代謝性アシドーシス
  • pH↓ + PaCO2↑ → 呼吸性アシドーシス
  • pH↑ + HCO3-↑ → 代謝性アルカローシス
  • pH↑ + PaCO2↓ → 呼吸性アルカローシス

Step 3: 代償の評価
代償が適切な範囲内にあるか、または混合性障害が存在するかを判定します:

  • 代償範囲を超えている場合は混合性障害を疑う
  • 代償が不十分な場合は急性期または腎機能障害を考慮

Step 4: アニオンギャップの計算
代謝性アシドーシスの場合:AG = Na+ - Cl- - HCO3-

  • 正常値:8-12mEq/L
  • AG増大(≧16):有機酸蓄積型
  • AG正常:高塩素性アシドーシス

この系統的アプローチにより、見逃しやすい混合性酸塩基障害も適切に診断できます。
参考)https://jinzounet.pro/wp-content/uploads/2021/08/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%82%AC%E3%82%B9%E5%88%86%E6%9E%90%E3%81%A8%E9%85%B8%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%97%87%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A01.2.pdf

 

アルカローシス アシドーシス特殊病態における臨床的意義

カリウムとの複雑な相互作用
アシドーシスとアルカローシスは、カリウム代謝と密接な関係があります。従来の理解では「アシドーシスは高カリウム血症、アルカローシスは低カリウム血症を伴う」とされていましたが、近年の研究でより複雑なメカニズムが明らかになっています。
参考)https://j-depo.com/news/acidosis.html

 

特に注目すべきは、アシドーシスの原因によってカリウムの動態が異なることです:

  • 高クロール性代謝性アシドーシス:H+の細胞内移動に伴いK+が細胞外に排出
  • AG増大性代謝性アシドーシス:有機酸アニオンも同時に細胞内に入るため、K+排出は限定的

重篤患者における予後への影響
重症代謝性アルカローシス(pH≧7.55)は、特に集中治療室患者で予後不良因子として知られています。これは以下の機序によるものです:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7896805/

 

  • 組織への酸素供給障害(酸素解離曲線の左方移動)
  • 不整脈リスクの増加(低カリウム血症の併発)
  • 呼吸筋疲労(代償性低換気による)

診断におけるピットフォール
臨床現場でよく見られる診断上の落とし穴として、代償と混合性障害の鑑別があります。例えば、代謝性アルカローシス患者でPaCO2が期待される上昇を示さない場合、併存する呼吸性アルカローシスを疑う必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10356131/

 

また、血液ガス分析装置はpHとPaCO2のみを実測し、HCO3-は計算値であることを理解しておくことが重要です。このため、電解質データとの整合性確認が不可欠です。
治療抵抗性症例への対応
代謝性アルカローシスの中でも、クロール不応性アルカローシス(原発性アルドステロン症、Bartter症候群など)は通常の生理食塩水投与では改善しません。このような症例では、基礎疾患の治療とともに、アセタゾラミドの使用や血液透析などの特殊な治療法が必要となります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%85%B8%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E3%81%AE%E8%AA%BF%E7%AF%80%E3%81%A8%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9

 

重度の代謝性アルカローシス(pH>7.6)では、緊急での血中pH補正が必要な場合があり、血液濾過や血液透析が治療選択肢となります。このような重篤な症例では、迅速な診断と適切な治療介入が患者の生命予後を左右することを認識しておく必要があります。