アルカローシスとアシドーシスは、体内の酸塩基平衡に関わる重要な病態です。アシドーシスは体液が正常よりも酸性に傾いた状態を指し、一方でアルカローシスは体液がアルカリ性に傾いた状態を表します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%B7%E3%83%89%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%81%A8%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9
これらの病態を正確に理解するためには、以下の基本的な定義を把握することが必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/104/5/104_938/_pdf
重要なのは、アシドーシスやアルカローシスのプロセスが存在していても、代償機構により血中pHが正常範囲内に維持される場合があることです。
酸塩基平衡障害は、原因となる主要な機序に基づいて以下の4つに分類されます:
参考)https://knowledge.nurse-senka.jp/216184/
呼吸性障害
参考)https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/1013.html
代謝性障害
参考)https://guides.lib.kyushu-u.ac.jp/c.php?g=774919amp;p=5559691
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=104
この分類システムでは、Henderson-Hasselbalchの式に基づいて、pH = 24 × PaCO2/[HCO3-]の関係を利用して診断を行います。
参考)http://square.umin.ac.jp/seedbook/AB.html
呼吸性と代謝性では、アシドーシスとアルカローシスにおけるPaCO2とHCO3-の増減が逆になることを理解しておくことが診断の鍵となります。
生体には酸塩基平衡を維持するための巧妙な代償機構が存在します。この機構は急性期と慢性期で異なる特徴を示します。
参考)https://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/kid/kid/resident/clinicallecture4.html
呼吸性代償(分単位〜時間単位)
代謝性アシドーシスでは、肺が二酸化炭素の排出を増加させることで代償を行います。
腎性代償(時間単位〜日単位)
呼吸性障害に対する腎代償は時間がかかりますが、より持続的です。
意外な事実として、急性の呼吸性障害は代謝性障害ほど血清カリウム濃度に影響を与えないことが知られています。これは臨床診断において重要な鑑別点となります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%9B%BB%E8%A7%A3%E8%B3%AA%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%82%A6%E3%83%A0%E6%BF%83%E5%BA%A6%E3%81%AE%E7%95%B0%E5%B8%B8%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
正確な診断のためには、系統的な血液ガス分析のアプローチが必要です。以下のステップに従って評価を行います:
Step 1: pH値による一次判定
Step 2: 一次性変化の特定
pHとPaCO2、HCO3-の変化パターンから一次性変化を決定します:
Step 3: 代償の評価
代償が適切な範囲内にあるか、または混合性障害が存在するかを判定します:
Step 4: アニオンギャップの計算
代謝性アシドーシスの場合:AG = Na+ - Cl- - HCO3-
この系統的アプローチにより、見逃しやすい混合性酸塩基障害も適切に診断できます。
参考)https://jinzounet.pro/wp-content/uploads/2021/08/%E8%A1%80%E6%B6%B2%E3%82%AC%E3%82%B9%E5%88%86%E6%9E%90%E3%81%A8%E9%85%B8%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E7%95%B0%E5%B8%B8%E7%97%87%E8%A8%BA%E6%96%AD%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%B4%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%A01.2.pdf
カリウムとの複雑な相互作用
アシドーシスとアルカローシスは、カリウム代謝と密接な関係があります。従来の理解では「アシドーシスは高カリウム血症、アルカローシスは低カリウム血症を伴う」とされていましたが、近年の研究でより複雑なメカニズムが明らかになっています。
参考)https://j-depo.com/news/acidosis.html
特に注目すべきは、アシドーシスの原因によってカリウムの動態が異なることです:
重篤患者における予後への影響
重症代謝性アルカローシス(pH≧7.55)は、特に集中治療室患者で予後不良因子として知られています。これは以下の機序によるものです:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7896805/
診断におけるピットフォール
臨床現場でよく見られる診断上の落とし穴として、代償と混合性障害の鑑別があります。例えば、代謝性アルカローシス患者でPaCO2が期待される上昇を示さない場合、併存する呼吸性アルカローシスを疑う必要があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10356131/
また、血液ガス分析装置はpHとPaCO2のみを実測し、HCO3-は計算値であることを理解しておくことが重要です。このため、電解質データとの整合性確認が不可欠です。
治療抵抗性症例への対応
代謝性アルカローシスの中でも、クロール不応性アルカローシス(原発性アルドステロン症、Bartter症候群など)は通常の生理食塩水投与では改善しません。このような症例では、基礎疾患の治療とともに、アセタゾラミドの使用や血液透析などの特殊な治療法が必要となります。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/10-%E5%86%85%E5%88%86%E6%B3%8C%E7%96%BE%E6%82%A3%E3%81%A8%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E9%85%B8%E5%A1%A9%E5%9F%BA%E3%81%AE%E8%AA%BF%E7%AF%80%E3%81%A8%E9%9A%9C%E5%AE%B3/%E4%BB%A3%E8%AC%9D%E6%80%A7%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%82%B9
重度の代謝性アルカローシス(pH>7.6)では、緊急での血中pH補正が必要な場合があり、血液濾過や血液透析が治療選択肢となります。このような重篤な症例では、迅速な診断と適切な治療介入が患者の生命予後を左右することを認識しておく必要があります。