多発性筋炎(polymyositis:PM)・皮膚筋炎(dermatomyositis:DM)は、自己免疫性の炎症性筋疾患として分類される指定難病(難病50)です。本疾患は、主に体幹や四肢近位筋、頸筋、咽頭筋などの筋力低下を来すことが特徴で、典型的な皮疹を伴うものを皮膚筋炎、皮膚症状を伴わないものを多発性筋炎と呼んでいます。
疾患の本態は筋組織や皮膚組織に対する自己免疫ですが、全ての筋・皮膚組織が冒されるわけではなく、特に皮膚症状では特徴的部位に皮疹が出現しやすいという特徴があります。近年の研究では、筋力低下を伴わないにもかかわらず特徴的な皮膚症状がある皮膚筋炎(clinically amyopathic dermatomyositis: CADM)という疾患概念も提唱されており、この型では急速進行性間質性肺炎を合併しやすく注意が必要です。
2009年の臨床調査によると、推定患者数は約2万人で、男女比は1:3と女性に多く、発症ピークは5~9歳と50歳代にある二峰性の年齢分布を示します。近年、患者数は増加傾向にあり、現在では2万人前後と推測されています。
多発性筋炎・皮膚筋炎の詳細な原因は現在も完全には解明されていませんが、自己免疫疾患として位置づけられており、筋肉や皮膚に対する抗体が体内で作られ、自己免疫が攻撃している状態と考えられています。
病理学的には、骨格筋に単核球の未壊死筋線維周囲への浸潤と、筋線維の変性、壊死、再生が認められます。浸潤細胞は主にT、Bリンパ球、マクロファージなどで構成されています。
従来、多発性筋炎では浸潤細胞にCD8陽性Tリンパ球が多く、皮膚筋炎ではCD4陽性Tリンパ球が多いうえ、筋血管内皮細胞に補体沈着が認められることから、前者はキラーCD8陽性Tリンパ球による筋組織傷害、後者は抗体による筋血管障害が原因であるとの説が唱えられていました。
しかし、その後の研究成果や両疾患の治療反応類似性、皮膚炎だけの無筋炎型皮膚筋炎の存在から、症例それぞれの程度で筋炎と皮膚炎を発症する炎症性筋疾患という一つのスペクトラムであるとも考えられるようになっています。
原因として考えられている要因には以下があります。
特に注目すべきは悪性腫瘍との関連性で、皮膚筋炎・多発性筋炎患者の14.6%に悪性腫瘍の合併が認められ、その多くが筋炎の発症と同時に発見されることから、両者の密接な関係が示唆されています。
多発性筋炎・皮膚筋炎の初期症状は多岐にわたり、全身症状、筋症状、皮膚症状に大別されます。早期診断のためには、これらの症状を総合的に評価することが重要です。
全身症状
初期の全身症状として、発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少などの慢性炎症性疾患に伴う症状が見られます。これらの症状は多発性筋炎・皮膚筋炎に特異的ではありませんが、他の症状と組み合わせることで診断の手がかりとなります。
特に注目すべきは易疲労感で、患者は少し動いただけでも疲れやすくなり、日常生活に支障をきたすようになります。また、レイノー現象も高頻度でみられ、寒いところなどで指先が白や紫色になって腫れるといった症状が認められます。
筋症状
筋症状は本疾患の中核となる症状で、主に体幹に近い筋肉(近位筋)に対称的な筋力低下が出現します。具体的には以下のような症状が認められます。
これらの症状は緩徐に進行し、筋肉痛を伴うこともありますが、筋痛を主訴とする患者は比較的少ないとされています。咽頭筋が障害された場合、嚥下障害を来たし、食べ物が飲み込みづらくなるため、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
特徴的な皮疹
皮膚筋炎では、以下の特徴的な皮疹が診断の重要な手がかりとなります。
ヘリオトロープ疹
上眼瞼の腫れぼったい紅斑で、紫色の花を付ける植物ヘリオトロープに由来する名称ですが、日本人では紫色になることは稀で、通常は赤色を呈します。
ゴットロン徴候・ゴットロン丘疹
手指の関節背側の表面ががさがさとして盛り上がった紅色丘疹(ゴットロン丘疹)や、手指、肘、膝の関節伸側のがさがさした紅斑(ゴットロン徴候)が特徴的です。
これらの皮疹は、筋症状に先行して出現することもあり、皮膚科を最初に受診する患者も少なくありません。また、日光暴露部位に皮疹が出現しやすいという特徴もあります。
呼吸器症状
間質性肺炎の合併は重要な症状で、軽い動作での息切れや乾性咳嗽が初期症状として現れます。特に急速進行型間質性肺炎は予後不良で、皮膚筋炎に合併する間質性肺炎の約20%が急速進行型とされています。筋力低下を伴わない皮膚筋炎(CADM)では、急速進行性間質性肺炎を合併しやすいため、注意深い観察が必要です。
多発性筋炎・皮膚筋炎の診断は、臨床症状、検査所見、画像診断を総合的に評価して行われます。早期診断により適切な治療を開始することで、予後の改善が期待できます。
血液検査
最も重要な検査項目は筋原性酵素の上昇です。
筋症状が軽微な時期には、AST・ALTの上昇のみが認められ、肝機能障害と誤診されるケースも散見されるため注意が必要です。
自己抗体検査
疾患特異的な自己抗体の検出は、診断および病型分類において重要な役割を果たします。
ただし、抗Jo-1抗体の感度はあまり高くないため、陰性であっても本疾患を否定することはできません。
筋生検
筋生検は筋炎の確定診断において最も感度・特異度が高い検査です。特に筋症状のみで皮膚症状を伴わない場合、神経疾患との鑑別が困難であるため、筋生検による確定診断が必要となる場合があります。
病理学的には、筋線維の変性・壊死・再生像、炎症細胞浸潤(リンパ球、マクロファージ)、血管周囲炎などの所見が認められます。
筋電図検査
筋電図は筋肉に電気を流して波形から筋炎を診断する検査で、診断における有用性が高いとされています。特徴的な所見として、安静時の異常自発放電、運動単位電位の低振幅・短持続、多相波の増加などが認められます。
画像検査
その他の機能評価
厚生労働省の診断基準では、①筋力低下、②筋原性酵素上昇、③筋電図異常、④筋生検異常、⑤皮疹の5項目のうち、皮疹がある場合は他の2項目以上、皮疹がない場合は3項目以上を満たすことで診断されます。
多発性筋炎・皮膚筋炎において、悪性腫瘍の合併は重要な予後規定因子の一つです。この関連性は医療従事者が十分に理解しておくべき独自の視点として、詳細に検討する必要があります。
悪性腫瘍合併の疫学
多発性筋炎・皮膚筋炎患者における悪性腫瘍の合併率は14.6%と報告されており、一般人口と比較して有意に高い頻度を示します。特に注目すべきは、悪性腫瘍のほとんどが筋炎の発症と同時に発見されることで、両者の密接な関係が示唆されています。
合併する悪性腫瘍の種類は特定のものではなく、一般に頻度の高い消化器癌、肺癌、乳癌、生殖器癌などが報告されています。興味深いことに、悪性腫瘍を治療すると皮膚筋炎も改善することがあり、腫瘍随伴症候群としての側面が強く示唆されています。
悪性腫瘍合併例の特徴
悪性腫瘍を合併する多発性筋炎・皮膚筋炎患者の特徴として、以下が挙げられます。
治療戦略
第一選択治療
治療の第一選択はステロイド治療です。初期治療では、多くの場合まずステロイドパルス療法(大量のステロイドを点滴)を行った後、プレドニゾロン50-60mg(体重あたり1mg/kg)と高用量のステロイド内服を開始します。
その後、症状の改善に応じてゆっくりとステロイドを減量していきますが、再燃を繰り返す場合や間質性肺炎などの合併がある場合には、ステロイドに加えて免疫抑制薬を併用します。
免疫抑制薬の選択
悪性腫瘍合併例の治療
悪性腫瘍が合併していることが事前に判明した場合、悪性腫瘍の治療を先行することにより筋炎は自然軽快することが多いため、腫瘍治療を最優先とします。
予後と長期管理
ほとんどの患者はステロイド治療により寛解に至り、日常生活に復帰することができます。一部の患者では免疫抑制薬の併用が必要ですが、それでも筋症状がほとんどなく過ごすことが可能です。
しかし、間質性肺炎、特に筋症状に乏しいタイプの筋炎に合併している急速進行性間質性肺炎では、急速に増悪し生命に関わることもあるため、継続的な呼吸器症状の監視が必要です。
悪性腫瘍の合併率が高いことから、定期的ながん検診の実施が推奨されており、食欲不振や体重減少がある場合には、悪性腫瘍合併の可能性を常に念頭に置いた精査が必要です。
難病情報センターの詳細な診断基準と治療指針
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4079
日本リウマチ学会による最新の治療ガイドライン
https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/pmdm/