乾燥性鼻炎(ドライノーズ)は、鼻腔粘膜の乾燥により線毛運動機能が低下し、正常な自浄作用が阻害される疾患です。空調設備の普及により現代社会では増加傾向にあり、医療従事者として理解しておくべき重要な病態です。
病態生理学的には、以下のメカニズムが関与しています。
診断においては、鼻内視鏡検査で粘膜の乾燥状態、かさぶたの付着部位、粘膜色調の変化を詳細に観察することが重要です。特に鼻中隔前方のキーゼルバッハ部位は出血しやすく、この部位のかさぶたが治らない場合は慎重な経過観察が必要となります。
治療では、ワセリンやヒアルロン酸ナトリウム含有製剤による保湿療法が第一選択となりますが、患者の生活環境改善も同時に指導する必要があります。室内湿度を50-60%に維持し、マスク着用による呼気の保湿効果も推奨されます。
鼻前庭炎は、鼻孔入り口部分の毛包や皮脂腺に細菌感染が生じる疾患で、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)が主要な起因菌です。医療現場では、免疫力低下患者や糖尿病患者に多く見られる傾向があります。
感染の発生要因として以下が挙げられます。
診断では、鼻前庭部の発赤、腫脹、疼痛、膿性分泌物の確認とともに、細菌培養検査による起因菌の同定と薬剤感受性試験が重要です。特にMRSA感染が疑われる場合は、バンコマイシンやリネゾリドなどの使用を検討する必要があります。
予防策として、医療従事者は患者への手指衛生指導、鼻腔ケアの適切な手技指導、基礎疾患の管理を徹底することが求められます。
萎縮性鼻炎は、鼻腔粘膜と下鼻甲介骨の萎縮により鼻腔が過度に拡大し、特徴的な悪臭を伴う厚いかさぶたが形成される進行性疾患です。この疾患は一般的には稀とされていますが、高齢化社会の進展とともに医療現場での遭遇頻度が増加しています。
病態の特徴的所見。
診断には、CT画像による鼻腔容積測定、嗅覚検査、細菌培養検査が不可欠です。特にCTでは、下鼻甲介の骨密度低下と鼻腔の過拡大が特徴的所見として認められます。
治療は対症療法が中心となり、定期的な鼻腔洗浄、抗生物質の局所投与、ビタミンA・D製剤の投与が行われます。重症例では、Young's手術(鼻孔縫縮術)による鼻腔容積の縮小も検討されます。
慢性副鼻腔炎に伴う鼻腔内かさぶた形成は、単純な局所症状ではなく、副鼻腔内の病変が鼻腔に波及した結果として理解する必要があります。医療従事者として、以下の鑑別診断ポイントを把握することが重要です。
副鼻腔炎関連かさぶたの特徴。
特に注意すべきは、侵襲性真菌性副鼻腔炎の可能性です。免疫不全患者では、ムコール菌による急速進行性の感染が起こり得るため、黒色のかさぶたや組織壊死所見を認めた場合は緊急対応が必要となります。
診断アルゴリズムとしては、まず鼻内視鏡による詳細な観察を行い、疑わしい組織からの生検採取、画像検査による病変範囲の評価を系統的に実施する必要があります。
現代社会における鼻腔内かさぶた形成には、従来の感染症や炎症性疾患以外に、環境要因が大きく関与していることが近年の研究で明らかになっています。医療従事者として、患者の生活環境や職業的曝露を詳細に聴取することが診断の鍵となります。
環境要因別の病態メカニズム。
診断には、環境曝露歴問診票の活用が有効です。以下の項目を系統的に聴取することで、原因の特定が可能となります。
治療においては、原因となる環境因子の除去が最も重要です。職業性曝露の場合は、産業医との連携により作業環境の改善や防護具の適切な使用指導を行う必要があります。
また、抗酸化療法として、ビタミンC・E、N-アセチルシステインなどの投与が有効な場合があります。これらは、環境汚染物質による酸化ストレスを軽減し、鼻腔粘膜の修復を促進する効果が期待されます。