ドリペネムは重症感染症治療において重要な役割を果たすカルバペネム系抗菌薬です。主な適応疾患として、院内肺炎や人工呼吸器関連肺炎などの重症呼吸器感染症、複雑性尿路感染症、複雑性腹腔内感染症が挙げられます。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/doripenem-hydrate/
グラム陽性菌からグラム陰性菌まで幅広い抗菌スペクトラムを有し、特に緑膿菌を含むグラム陰性桿菌に対して優れた活性を示します。多剤耐性菌感染症においても第一選択薬として位置付けられ、医療現場での信頼性が高い薬剤です。
臨床試験では、重症肺炎患者に対する治療成功率が80%以上と報告されており、炎症マーカーの迅速な改善や症状の軽減が確認されています。投与により期待される効果として、発熱の改善、白血球数の正常化、CRP値の低下などがあります。
ドリペネムの標準投与量は成人で1回0.25g(力価)を1日2回または3回、30分以上かけて点滴静注します。重症・難治性感染症では1回0.5g(力価)を1日3回投与し、最大で1回1.0g(力価)、1日3.0g(力価)まで増量可能です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00059816.pdf
小児の場合は1回20mg(力価)/kgを1日3回投与し、重症例では1回40mg(力価)/kgまで増量できますが、1回投与量の上限は1.0g(力価)です。
投与期間は通常5〜14日間ですが、感染症の種類や重症度、患者の臨床反応に応じて個別に調整します。効果判定は臨床症状の改善、体温の正常化、炎症マーカーの低下、細菌培養検査の陰性化を指標として総合的に評価します。
| 適応症 | 標準用量 | 重症時用量 |
|---|---|---|
| 肺炎 | 0.25g × 3回/日 | 0.5g × 3回/日 |
| 尿路感染症 | 0.25g × 2回/日 | 0.5g × 3回/日 |
| 腹腔内感染症 | 0.25g × 3回/日 | 0.5g × 3回/日 |
腎機能障害患者へのドリペネム投与では、クレアチニンクリアランス値に応じた用量調節が必須です。腎機能正常者(Ccr≧70 mL/min)の投与量を基準として、腎機能低下度に応じて減量または投与間隔を延長します。
Ccr 50〜70 mL/minの軽度腎機能低下では、通常量から軽度減量または投与回数を調整します。Ccr 30〜50 mL/minの中等度低下では、投与量を半量に減量するか投与間隔を延長し、Ccr<30 mL/minの重度低下ではさらなる減量が必要です。
参考)https://hokuto.app/antibacterialDrug/P47FkPIhFitdZqxkisLD
透析患者では血液透析により薬剤が除去されるため、透析後の補充投与を検討します。腹膜透析では除去率が低いため、透析の影響は限定的ですが、腎機能低下に応じた調整が必要です。
参考)https://www.hosp.kagoshima-u.ac.jp/ict/koukinyaku/jinkinoubetusuisyoutouyoryou.pdf
ドリペネムの主な副作用として、消化器症状(下痢、嘔気、嘔吐)、皮膚症状(発疹、かゆみ)、注射部位反応(発赤、腫脹)が報告されています。これらは比較的軽微で、投与継続により改善することが多いですが、症状が持続する場合は適切な対症療法を行います。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=31058
重篤な副作用として、アナフィラキシーショック、急性腎障害、劇症肝炎、偽膜性大腸炎、間質性肺炎が挙げられます。これらの症状が現れた場合は直ちに投与を中止し、適切な処置を実施する必要があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00002941.pdf
腎機能や肝機能のモニタリングは投与開始前と投与中に定期的に実施し、BUN、血清クレアチニン、AST、ALTの上昇に注意します。特に高齢者や腎機能低下患者では、より頻回な検査が推奨されます。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00059816
ドリペネム投与時に最も注意すべき相互作用は、バルプロ酸ナトリウムとの併用禁忌です。併用によりバルプロ酸の血中濃度が急激に低下し、てんかん発作の誘発やけいれん重積状態を引き起こす可能性があります。
この相互作用の機序は、カルバペネム系抗菌薬がバルプロ酸の代謝を促進することによるものです。バルプロ酸投与中の患者には、他のカルバペネム系抗菌薬も同様の相互作用を示すため、代替薬の選択が必要です。
参考)https://med.towayakuhin.co.jp/medical/product/fileloader.php?id=73462amp;t=4
また、他のカルバペネム系抗菌薬(メロペネム、イミペネム、ビアペネムなど)との併用も避けるべきです。これは相加的な副作用や耐性菌出現のリスクを高める可能性があるためです。
患者の服薬歴を詳細に確認し、特にてんかん治療薬の使用状況を把握することが重要です。バルプロ酸投与患者では、代替薬として他系統の抗菌薬を選択し、必要に応じて感染症専門医との相談を検討します。
免疫機能が低下している患者群では、ドリペネムの投与において特別な配慮が必要です。好中球減少症患者では、発熱性好中球減少症の治療として早期からの投与が推奨され、通常より高用量での治療開始を検討します。
がん化学療法後や造血幹細胞移植後の患者では、日和見感染症のリスクが高く、予防的投与も含めた戦略的な使用が重要です。これらの患者では免疫機能の回復まで長期間の治療が必要となる場合があり、耐性菌の出現に注意しながら継続投与を行います。
HIV感染症患者や長期ステロイド治療中の患者でも、免疫機能低下により重症化しやすいため、標準量よりも高用量での治療や投与期間の延長を検討します。
臓器移植後の免疫抑制剤使用患者では、薬物相互作用にも注意が必要です。免疫抑制剤の血中濃度モニタリングを行いながら、感染症治療と拒絶反応予防のバランスを取ることが重要になります。