帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルス(Varicella-Zoster Virus: VZV)が原因で発症する疾患です。このウイルスは幼少期に水痘(水ぼうそう)として初感染した後、体内の神経節に潜伏し続けます。患者の免疫力が低下すると、潜伏していたウイルスが再活性化して帯状疱疹として発症します。
帯状疱疹の症状として特徴的なのは、以下の経過を辿ることです。
特筆すべきは、帯状疱疹は体の神経支配域に一致して発症するため、皮膚所見が「帯状」になることです。好発部位は胸部・腹部(肋間神経)が最も多く、次いで顔面(三叉神経)、腰部などがあります。
診断の際の重要なポイントとして、皮疹の分布が片側性で神経支配領域に沿っているかどうか確認します。患者には初期症状が風邪や肋間神経痛と混同されることもあるため、注意深い問診と診察が必要です。
帯状疱疹の治療において最も重要なのは、抗ウイルス薬による早期治療です。特に発症から72時間以内に治療を開始することが、症状の早期改善と後遺症予防に効果的であることが知られています。
抗ウイルス薬の選択肢
薬剤名 | 投与形式 | 特徴 |
---|---|---|
アシクロビル(ゾビラックス®) | 内服・点滴 | 腎障害患者では用量調整が必要 |
バラシクロビル | 内服 | アシクロビルのプロドラッグ、投与回数が少ない |
ファムシクロビル(アメナリーフ®) | 内服 | 腎機能障害患者でも使いやすい |
ビダラビン | 外用薬 | 軽症例に使用 |
抗ウイルス薬の治療期間は基本的に7日間が標準とされています。7日を超える投与は保険適用外となるため注意が必要です。
抗ウイルス薬以外の治療
帯状疱疹の痛みに対しては、以下の鎮痛薬が使用されます。
皮膚症状に対しては局所療法として。
治療において重要なポイントは、症状の重症度に応じた治療選択です。
また、顔面や耳に発症した場合、ラムゼイ・ハント症候群のリスクがあり、顔面神経麻痺や味覚障害、内耳障害などの合併症を引き起こす可能性があるため、より積極的な治療介入が必要です。
帯状疱疹の合併症の中で最も頻度が高いのが帯状疱疹後神経痛(Postherpetic Neuralgia: PHN)です。これは皮膚症状が治癒した後も3カ月以上痛みが持続する状態を指します。
PHNのリスク因子
PHNの特徴的な痛みには以下のようなものがあります。
PHNの予防には、帯状疱疹の急性期における早期からの適切な治療が重要です。特に発症から72時間以内に抗ウイルス薬による治療を開始することで、PHNの発症リスクを低減できることが示されています。
PHN発症後の治療
PHNに対する治療は、複合的なアプローチが必要です。
PHNの痛みは長期間持続することがあり、5人に1人は1年以上続くとされています。そのため、患者の生活の質を維持するための包括的な痛みのケアが重要です。治療に抵抗性を示す場合は、ペインクリニックなど専門施設への紹介も検討すべきでしょう。
帯状疱疹は、50歳以上になると発症リスクが高まり、80歳までに3人に1人が発症するとされています。そのため、特に高齢者に対するワクチン接種による予防が重要視されています。
現在、日本で使用可能な帯状疱疹予防ワクチンは2種類あります。
1. 乾燥弱毒生水痘ワクチン
2. シングリックス®(不活化ワクチン)
ワクチンの重要性は、単に帯状疱疹の発症予防だけでなく、発症しても症状が軽減され、特に帯状疱疹後神経痛のリスクを低下させる点にあります。
ワクチン接種の推奨対象
ワクチン接種の副反応としては、接種部位の痛みや腫れ、発熱などがありますが、シングリックス®は効果の高さから、特に予防を重視する方には推奨されています。
医療従事者としては、特に50歳以上の患者に対して、帯状疱疹ワクチンの意義と選択肢について情報提供を行うことが望ましいでしょう。
帯状疱疹の発症には、患者の免疫機能低下が深く関与しています。水痘帯状疱疹ウイルスは潜伏感染状態において主に細胞性免疫によって制御されているため、この免疫機能が低下すると再活性化のリスクが高まります。
免疫機能低下の要因
特に注目すべき点として、最近の研究では特定の栄養素不足が帯状疱疹の発症リスクや重症度に影響を与える可能性が示唆されています。
帯状疱疹予防に関連する重要な栄養素
これらの栄養素を適切に摂取することで、免疫機能の維持・向上が期待できます。また、腸内環境の改善も免疫機能に関与するため、プロバイオティクスの摂取も補助的な選択肢となります。
患者への生活指導として重要な点
さらに、帯状疱疹発症時の栄養管理も重要です。特に疼痛により食欲が低下している場合は、エネルギー・タンパク質不足に陥らないよう注意し、必要に応じて栄養補助食品の活用も検討すべきでしょう。
これらの栄養・生活面からのアプローチは、薬物療法やワクチン接種と並行して、帯状疱疹の予防と治療をサポートする重要な要素になります。医療従事者は患者の生活背景を考慮した上で、実行可能な栄養・生活指導を行うことが望ましいでしょう。