三叉神経痛は、人間が感じる痛みの中でも最も激しいとされる疾患の一つで、かつては「自殺病」とも呼ばれるほど患者を苦しめてきました。三叉神経は、顔面の感覚を司る重要な脳神経であり、その解剖学的理解が診断と治療の基盤となります。
三叉神経は脳幹から出て、第1枝(眼神経)、第2枝(上顎神経)、第3枝(下顎神経)の3つに分かれています。三叉神経痛の病態の中核は、この神経が脳幹から出た直後の部分で血管(主に上小脳動脈)による圧迫を受けることで、神経の脱髄が生じる点にあります。この脱髄により、正常であれば伝わらないはずの触覚や温度感覚などの刺激が痛覚として誤って伝達されるようになります。
典型的な三叉神経痛の症状として、以下の特徴が挙げられます。
三叉神経痛の症状は、第2枝や第3枝の領域に多く発現し、歯の痛みと誤認されることもしばしばあります。そのため、不必要な歯科治療を受けた後に神経内科や脳神経外科を受診されるケースも少なくありません。
特に注目すべき点として、三叉神経痛患者の日常生活における制限が挙げられます。食事や会話、歯磨き、洗顔といった基本的な行為が痛みを誘発するため、患者は次第にこれらの行為を恐れるようになり、栄養状態の悪化や社会的孤立を招くことがあります。
非典型的な三叉神経痛では、背景に持続的な鈍痛があり、その上に典型的な発作性疼痛が重なるパターンを示します。このような場合は、単純な血管圧迫だけでなく、多発性硬化症や脳腫瘍などの二次性の原因を検討する必要があります。
三叉神経痛の診断は主に臨床症状に基づいて行われますが、確定診断と治療方針の決定には画像検査、特にMRIが重要な役割を果たします。
典型的三叉神経痛の診断基準は以下の特徴を満たすものです。
診断の第一歩は詳細な問診と神経学的診察です。問診では、痛みの分布、性質、持続時間、誘発因子、既往歴、薬物歴などを詳しく聴取します。神経学的診察では、三叉神経の3つの枝の感覚と運動機能、および他の脳神経の機能評価を行います。
鑑別診断としては以下の疾患を考慮する必要があります。
三叉神経痛の診断において、MRI検査は以下の点で極めて重要です。