帯状疱疹後神経痛に伴うアロディニアは、通常では痛みを引き起こさない軽微な刺激が強い痛みとして認識される感覚異常を指します。この病態の根底には、脊髄後角ニューロンの興奮性増大による中枢性感作が関与していることが近年の研究で明らかになっています。
参考)https://365college.press/special-feature/hihuka/12409
ウイルス感染により損傷を受けた神経は、正常な痛覚閾値を大幅に下回る刺激に対しても過剰な反応を示すようになります。皮膚に存在する痛みセンサーの刺激性が増している状態であり、従来の侵害受容性疼痛とは異なる神経障害性疼痛の特徴を呈します。
興味深いことに、帯状疱疹性疼痛マウスモデルの研究では、動的アロディニアの発生には一次求心性線維ではなく、脊髄後角ニューロンの興奮性増大が主要な役割を果たすことが示されています。さらに、T リンパ球の関与も確認されており、CD4陽性ヘルパーTリンパ球の浸潤により動的アロディニアが増強される可能性が示唆されています。
参考)https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-21791442/21791442seika.pdf
帯状疱疹後神経痛におけるアロディニアの症状は多彩で、患者によって様々な形で現れます。最も特徴的な症状は接触に対する過剰な痛覚反応であり、衣服が患部に触れる程度でも激痛を感じることがあります。
参考)https://www.maruho.co.jp/medical/articles/herpeszoster/diagnosis_treatment/related_pain.html
臨床的には以下のような症状パターンが観察されます。
帯状疱疹後神経痛の発症は年齢と密接な関係があり、60歳以上の患者の約20%が2年以上にわたって痛みが残存すると報告されています。特に高齢者では治療抵抗性となりやすく、生活の質(QOL)を著しく低下させる要因となります。
痛みの性質は「焼けるような、締めつけられるような持続性の痛み」や「ズキンズキンする、うずくような痛み」として表現され、これらの異なる痛み要素が混在することが特徴的です。
アロディニアの診断は主に臨床症状に基づいて行われますが、定量的な評価方法も開発されています。診断の際には、通常では痛みとして認識されない程度の刺激が痛みとして感じられるかどうかを確認することが重要です。
参考)https://noureha-sakai.com/2991-2/
診断における重要なポイントは以下の通りです。
最近の研究では、鍼通電療法によりアロディニア領域の縮小効果を定量的に評価する方法として、Image Jソフトウェアを用いた画像解析が有用であることが報告されています。この方法により、治療効果を客観的に測定し、患者のQoL改善を定量化することが可能となっています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/73/4/73_259/_article/-char/ja/
日常診療では、帯状疱疹後神経痛、三叉神経痛、複合性局所疼痛症候群(CRPS)などの慢性疼痛疾患でアロディニアが認められることが多く、これらの鑑別診断も重要な要素となります。
参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-fukuchiyama-170331.pdf
帯状疱疹後神経痛に伴うアロディニアの治療は、従来の鎮痛薬では効果が限定的であり、神経障害性疼痛に特化した治療戦略が必要です。第一選択薬として、プレガバリン(リリカ®)が広く使用されています。
参考)http://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/136/3/136_3_165/_article/-char/ja/
プレガバリンは電位依存性カルシウムチャネルのα2δサブユニットに結合し、興奮性神経伝達物質の放出を抑制することで、アロディニアを含む神経障害性疼痛を軽減します。臨床試験では、帯状疱疹後神経痛患者において有意な疼痛緩和効果が確認されています。
その他の薬物治療選択肢。
興味深いことに、グリシントランスポーター阻害薬(GlyT2阻害薬)が帯状疱疹性動的アロディニアに対して有効性を示すという研究結果があります。これは脊髄後角での興奮性伝達の亢進を抑制することで、アロディニアの軽減に寄与する可能性を示唆しています。
従来の薬物療法に加えて、近年注目されている治療法として微細動脈塞栓術(運動器カテーテル治療)があります。実際の症例では、発症2ヶ月の80歳代後半の患者で、従来の治療が無効であったにも関わらず、治療後2週間で痛みが半減し、アロディニアや圧痛も消失したという報告があります。
参考)https://evt-cl.com/case132/
この治療法の特徴。
また、鍼通電療法も有効な治療選択肢として注目されています。症例報告では、鍼通電療法によりアロディニア領域の縮小と疼痛強度の減少、QoLの向上が得られたことが報告されています。
新たな治療戦略。
治療選択においては、患者の年齢、罹病期間、症状の重症度、既存の併存疾患を総合的に評価し、個別化された治療戦略を立案することが重要です。特に高齢者では、治療効果の発現に時間を要する可能性があるため、段階的な治療目標設定と継続的な経過観察が必要となります。