帯状疱疹後神経痛とガイドラインの診断治療

帯状疱疹後神経痛は皮疹治癒後も続く慢性的な痛みとして知られ、国内外のガイドラインに基づく診断と治療が重要です。高齢者に多く発症するこの疾患について、あなたは適切な対処法をご存じですか?

帯状疱疹後神経痛とガイドライン

この記事の重要ポイント
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診断基準と定義

帯状疱疹発症後90日以上経過しても痛みが続く場合を帯状疱疹後神経痛と定義し、診断にはガイドラインに基づいた評価が必要

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薬物療法の選択

プレガバリンや三環系抗うつ薬が第一選択薬として推奨され、オピオイドは第三選択として慎重に使用

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予防と早期治療

帯状疱疹ワクチン接種や発症早期の抗ウイルス薬投与が帯状疱疹後神経痛の予防に効果的

帯状疱疹後神経痛の診断基準

 

帯状疱疹後神経痛(PHN)は、帯状疱疹の皮疹が治癒した後も遷延する痛みとして定義されます。日本ペインクリニック学会のペインクリニック治療指針では、帯状疱疹発症後90日以上経過しても痛みが続く場合を帯状疱疹後神経痛としており、特にビジュアルアナログスケール(VAS)値40mm以上の強い痛みを伴う場合が該当します。
参考)日本ペインクリニック学会

診断においては、発症後の期間で明確な根拠をもって定義することは困難ですが、国内外の報告では発症後1カ月、3カ月、4カ月、6カ月とする報告が存在します。帯状疱疹後神経痛の発症率は、皮疹治癒後3カ月で7~25%、6カ月後で5~13%の患者に認められると報告されています。
参考)https://www.jspc.gr.jp/Contents/public/pdf/shi-guide01_09.pdf

臨床症状としては、「持続的に焼けるような痛み」「一定の時間で刺すような痛みを繰り返す」といった特徴的な訴えがあります。また、ひりひり、チカチカ、ズキズキ、締めつけられる、電気が走るといった多彩な痛みの表現や、感覚鈍麻、軽い接触でも強い痛みを感じるアロディニアなどの症状も頻繁に観察されます。
参考)帯状疱疹後神経痛|痛みの疾患ナビ|痛みの情報サイト - 疼痛…

帯状疱疹後神経痛のリスク因子

帯状疱疹後神経痛の危険因子としては、いくつかの重要な要素が明らかにされています。最も重要なリスク因子は高齢であり、特に60歳以上が高リスクとされています。年齢別のPHN発症率は、30~49歳で3~4%、50~59歳で約10%、60~69歳で約20%、70歳以上では30%以上と年齢とともに著しく増加します。
参考)帯状疱疹と年齢:知っておきたいリスクと予防対策 - アイシー…

急性期の痛みの強さも重要な危険因子であり、帯状疱疹発症時の痛みが重度であるほどPHNへの移行リスクが高まります。皮疹の重症度も関連しており、帯状疱疹の皮膚病変が重症であるほど神経痛が残りやすいとされています。
参考)https://www.kawata-cl.jp/info/index.cgi?id=1728533759

その他のリスク因子として、皮膚の知覚異常、免疫力の低下(免疫抑制状態、ストレス、過労など)も挙げられています。精神的ストレスの認識や日常生活で起こるネガティブな出来事といった心理社会的要因も、帯状疱疹後神経痛の発症率を上昇させる可能性が指摘されています。
参考)帯状疱疹後神経痛の予防 - いたみの治療.com(ドットコム…

帯状疱疹後神経痛の薬物療法

日本ペインクリニック学会の「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」に基づき、帯状疱疹後神経痛の第一選択薬として以下が推奨されています。​
プレガバリンは最も推奨度の高い第一選択薬であり、NNT(治療必要数)は4.9、minor-NNH(有害作用発現必要数)は4.3と報告されています。多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験では、プレガバリン150mg/日、300mg/日、600mg/日のいずれの用量でも投与開始1週後から速やかに疼痛が軽減し、最終評価時の疼痛スコアは300mg/日群および600mg/日群でプラセボ群に対し有意に低下しました。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspc/17/2/17_2_141/_pdf

三環系抗うつ薬も第一選択薬として位置づけられており、アミトリプチリンのNNTは1.6~4.2、ノルトリプチリンのNNTは3.7と報告されています。これらの薬剤は主にナトリウムチャネル遮断作用で帯状疱疹後神経痛を軽減すると考えられています。ただし、副作用の点から高齢者への使用は慎重に行う必要があり、使用する場合もより副作用の軽いノルトリプチリンが推奨されています。
参考)https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/__a__/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-111117.pdf

ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液(ノイロトロピン)も第一選択薬として有効性が示されています。オピオイドに関しては、長期投与の効果と安全性の検証が未だ十分でないとの判断から第三選択となっています。​
日本ペインクリニック学会の神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版では、帯状疱疹後神経痛に対する薬物療法の詳細な推奨が記載されています

帯状疱疹後神経痛の神経ブロック治療

帯状疱疹後神経痛に対する神経ブロックは、薬物療法で効果が乏しい場合の治療選択肢として考慮されます。日本ペインクリニック学会の治療指針では、他の治療では効果が乏しく、過去に神経ブロックを受けたことのない症例の場合には、経験豊かな専門医の下で一定期間試す価値があるとされています。
参考)かわたペインクリニック

候補となる神経ブロックとしては、硬膜外ブロック、傍脊椎神経ブロック、神経根ブロック、その他の末梢神経ブロック(三叉神経ブロック、頸神経ブロック、肋間神経ブロック、大腰筋筋溝ブロックなど)があります。頚部神経節ブロック、特に星状神経節ブロックは、頭・顔・肩・上肢・胸部などの帯状疱疹後神経痛に効果があるとされています。
参考)帯状疱疹後神経痛は、奈良・学園前のかわたペインクリニック

近年では、超音波ガイド下での傍脊椎神経ブロックや脊柱起立筋平面ブロック(ESPB)など、より安全で効果的な神経ブロック手技の報告も増えています。これらの手技は、従来の神経ブロックと比較して、より簡便で安全に施行できる可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10994496/

脊髄硬膜外電気刺激法については、従来あまり有効ではないとの意見が多かったものの、発症から1年以内の早期症例に関しては効果があるという報告があります。症例によってはpulsed-thermo、高周波熱凝固法を検討することもあります。​

帯状疱疹後神経痛の予防戦略

帯状疱疹後神経痛の予防において最も重要なのは、帯状疱疹の早期治療です。帯状疱疹を発症したら速やかに抗ウイルス薬を投与し、感覚神経の損傷をできる限り抑えることが推奨されます。抗ウイルス薬の効果が出るまでは、帯状疱疹・水痘ウイルスはどんどん増殖し重症化するため、安易に自己判断せずに早期に受診することが重要です。
参考)帯状疱疹後神経痛の改善と予防 |京都の小西皮膚科クリニック

帯状疱疹ワクチン接種は、帯状疱疹後神経痛の最も効果的な予防法の一つです。日本では現在、生ワクチンと組換えワクチンの2種類が使用可能です。合併症の一つである帯状疱疹後神経痛に対するワクチンの効果は、接種後3年時点で、生ワクチンは6割程度、組換えワクチンは9割以上と報告されています。
参考)帯状疱疹ワクチン|厚生労働省

組換えワクチン(シングリックス)の長期追跡調査では、接種後8年目でのワクチン有効率は84%であり、長期間の効果持続が確認されています。発症予防効果は50歳以上で97.2%、帯状疱疹後神経痛の予防効果は88.8%と非常に高い効果が報告されています。
参考)【重要】帯状疱疹予防ワクチン 接種中! - わたなべ整形外科

帯状疱疹発症後の神経ブロック療法も予防戦略として重要です。帯状疱疹発症後、2週間~1カ月以内に神経ブロック療法を開始すれば、局所麻酔薬で一時的に神経を休ませることで、痛みの悪循環を遮断し、帯状疱疹後神経痛への移行を防ぐことができるとされています。​
厚生労働省の帯状疱疹ワクチンに関するページでは、ワクチンの効果と安全性について詳しい情報が提供されています

帯状疱疹後神経痛の治療における医療従事者の役割

帯状疱疹後神経痛の治療においては、多職種連携による包括的なアプローチが重要です。皮膚科医は帯状疱疹の早期診断と抗ウイルス薬による治療を担い、疼痛管理においてはペインクリニック医との連携が推奨されます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5973958/

薬物療法においては、患者の年齢、腎機能、併存疾患、併用薬剤などを総合的に判断して薬剤選択を行う必要があります。特に高齢者の場合は、合併症や生活状況などによって治療上配慮を要する場合が多く、腎機能障害のある場合には抗ウイルス薬、NSAIDs、オピオイド、プレガバリンなどの使用には注意が必要となります。​
緑内障、心臓疾患合併の場合には、三環系抗うつ薬の使用は制限されます。抗凝固薬や免疫能を抑制する薬物を併用している場合には、神経ブロックの適応が制限されることがあります。一人暮らし、介護力の不足など、外来への継続した通院が困難な場合には、入院加療を検討する必要があります。​
患者教育も重要な役割であり、痛みにとらわれないで日常生活を過ごすこと、体を温めたり患部への刺激を避けたりして強い痛みを減らす工夫をしていくことの重要性を伝える必要があります。帯状疱疹後神経痛を起こした知覚神経は変性しており、完全に正常な状態に回復させることは現在の医療ではきわめて難しいという現実を患者に理解してもらうことも大切です。​

 

 


帯状疱疹の痛みをとる本 (健康ライブラリー イラスト版)