セフォチアムヘキセチル塩酸塩(Cefotiam Hexetil Hydrochloride)は、分子式C27H37N9O7S3・2HCl、分子量768.76の第2世代セファロスポリン系抗生物質です。本薬剤は、活性体であるセフォチアムのプロドラッグとして開発され、経口投与における生体内利用率の向上を目的として設計されています。
参考)https://www.kegg.jp/entry/dr_ja:D01415
プロドラッグとしての特徴は、セフォチアムに1-(cyclohexyloxycarbonyloxy)ethyl esterを結合させた構造にあります。この構造により、消化管からの吸収性が大幅に改善され、体内で加水分解を受けて活性体のセフォチアムに変換されます。日本薬局方(JP18)にも収載されており、品質基準が厳格に定められています。
参考)https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB11270102.htm
ATCコードはJ01DC07に分類され、「全身用抗菌薬」の中の「その他のベータラクタム系抗菌薬」として位置づけられています。ペニシリン結合タンパク質(PBP)を標的とし、ペプチドグリカンの生合成阻害により細胞壁合成を阻害する作用機序を持ちます。
セフォチアムヘキセチルの薬理作用は、細菌細胞壁の合成阻害によって発現されます。本薬剤は体内で活性体であるセフォチアムに変換され、グラム陽性菌およびグラム陰性菌に対して広範な抗菌活性を示します。
参考)https://goshu-seiyaku.co.jp/wp-content/uploads/2015/09/3782abe11cb937b5ab538ab211329410.pdf
抗菌力の特徴として、グラム陽性菌ではセファゾリンとほぼ同等の活性を示し、グラム陰性菌に対してはセファゾリンおよびセフメタゾールより明らかに強い活性を持ちます。特に臨床分離のインフルエンザ菌においては、セファゾリンと比較して高い感受性が認められています。
細胞外膜透過性に優れ、β-ラクタマーゼに比較的安定であることが特筆されます。また、ペニシリン結合タンパク質に対する親和性が高く、細胞壁ペプチドグリカン架橋形成阻害作用が強いため、特にグラム陰性菌に対し強い抗菌力を示すものと考えられています。
参考)https://assets.di.m3.com/pdfs/00003139.pdf
この作用機序により、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属などの幅広い細菌に対して有効性を発揮します。
セフォチアムヘキセチルの重大な副作用として、肝機能障害と黄疸が報告されています。AST(GOT)、ALT(GPT)、Al-P、LDH、γ-GTPの上昇等を伴う肝機能障害や黄疸があらわれることがあるため、観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うことが重要です。
参考)https://www.mhlw.go.jp/houdou/0110/h1031-1.html
消化器系の副作用では、薬剤性食道潰瘍の症例が報告されています。65歳男性患者において、塩酸セフォチアムヘキセチル内服により生じた薬剤性食道潰瘍が確認されており、内服薬による食道粘膜への直接的な刺激が原因と考えられています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjoms1967/39/11/39_11_1258/_article/-char/ja/
🔸 重要な副作用の監視項目。
その他の副作用として、赤血球数減少、ヘモグロビン減少、CK(CPK)上昇、血糖上昇、熱感、脱毛、舌炎、そう痒などが報告されています。これらの副作用は比較的軽微ですが、患者の状態を継続的に観察し、必要に応じて対症療法を実施することが推奨されます。
参考)http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~yakuzai/di/di0172.pdf
医療現場でのセフォチアムヘキセチルの使用においては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最少限の期間の投与にとどめることが重要です。薬剤感受性試験の結果に基づいた適正使用が求められます。
適応菌種として、セフォチアムに感性のブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属が挙げられています。これらの細菌による感染症に対して、第一選択薬または代替薬として使用されます。
📋 使用時の注意点。
薬剤耐性研究の観点から、IMP-6産生菌などの薬剤耐性菌に対する効果も検討されており、薬剤耐性菌感染症治療における位置づけも重要な検討課題となっています。
参考)https://www.niid.jihs.go.jp/images/annual/r2/202021.pdf
薬剤耐性菌の増加に伴い、セフォチアムヘキセチルの薬剤耐性に関する研究が注目されています。国立感染症研究所の薬剤耐性研究センターでは、IMP-6産生菌を含む薬剤耐性菌に対するセフォチアムヘキセチルの効果について継続的な研究が行われています。
β-ラクタマーゼ産生菌に対する安定性は、セフォチアムヘキセチルの重要な特徴の一つです。しかし、近年のESBL(基質拡張型β-ラクタマーゼ)産生菌やカルバペネマーゼ産生菌の増加により、従来のセフェム系抗生物質の効果に限界が生じている現状があります。
🧪 耐性メカニズムの理解。
真菌感染症との関連では、Candida glabrataにおけるステロール取り込みと薬剤耐性の関連性についても研究が進められており、抗菌薬使用による菌交代現象への対策も重要な課題となっています。
ファージ療法を用いた薬剤耐性菌感染症治療の研究も進展しており、セフォチアムヘキセチルを含む従来の抗菌薬治療との併用療法の可能性についても検討されています。
国立感染症研究所の薬剤耐性研究に関する詳細な年報資料
これらの研究動向を踏まえ、医療従事者は薬剤耐性菌の動向を常に把握し、適切な抗菌薬選択と使用方法を実践することが求められています。また、感染制御チームとの連携により、院内感染対策と薬剤耐性菌対策を包括的に実施することが重要です。