薬理作用と作用機序の違い

薬物療法において重要な薬理作用と作用機序という概念には、どのような違いがあり、医療現場での理解はなぜ重要なのでしょうか?

薬理作用と作用機序の違い

薬理作用と作用機序の基本概念
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薬理作用の定義

薬物が生体に及ぼす実際の効果や反応のこと

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作用機序の定義

薬物がその効果を発揮するメカニズムや仕組み

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両者の関係性

作用機序が「原因」で薬理作用が「結果」の関係

薬理作用とは、薬物が生体に投与されたときに現れる実際の効果や反応を指し、治療目的に合った主作用と、それ以外の副作用に分類されます。一方、作用機序(mechanism of action, MOA)は、薬剤がその薬理学的効果を発揮するための特異的な生化学的相互作用を意味し、薬物がどのようなメカニズムで効果を現すかを説明する概念です。
参考)薬理作用と作用機序の違いを教えて下さい。出来れば、具体例をあ…

 

両者の最も重要な違いは、薬理作用が「何が起こるか」という現象そのものを表すのに対し、作用機序は「なぜ・どのように起こるか」という仕組みを説明する点にあります。薬理作用は観察可能な生体反応であり、作用機序はその背後にある分子レベルでのプロセスを解明したものです。
参考)薬理機序と薬理作用のギャップ

 

薬理作用の分類と特徴

薬理作用は、その作用形式によって5つの基本形式に大別されます。興奮作用は特定の器官・組織・細胞の機能を促進または増強することで、抑制作用は機能を阻止・減弱・低下させることを指します。補充作用はホルモンやビタミンなど生体に必要な物質の不足を補う作用であり、抗感染作用は病原寄生体に作用するものです。
参考)薬理作用(ヤクリサヨウ)とは? 意味や使い方 - コトバンク

 

作用の範囲から分類すると、局所作用と全身作用に、選択性の観点からは選択作用と一般作用に分けられます。時間的な観点では、直接作用と間接作用、一過性作用と持続性作用に分類されます。治療学的には主作用と副作用に分けられますが、これらは目的とする作用を主作用と考えるだけで、いずれも薬理作用の一部です。
薬理作用は投与量に依存する特徴があり、薬物療法における安全性と有効性を評価する上で重要な指標となります。現代医療では薬物治療が中心的な役割を果たしており、薬理作用の理解は医療従事者にとって不可欠な知識です。
参考)https://pharmacol.or.jp/download/pamphlet2022_jp.pdf

 

薬理作用における分子標的との相互作用

薬理作用を理解するためには、薬物がどのような標的分子と相互作用するかを把握することが重要です。薬物の作用部位は生理活性物質の受容体そのものである場合が多く、それ以外に酵素、イオンチャネル、トランスポーターなどが作用点となる場合があります。
参考)薬物作用の分類

 

受容体に結合する薬物には、作用薬(アゴニスト)と遮断薬(アンタゴニスト)があります。作用薬は受容体を刺激して生理活性物質と同様の作用を示し、遮断薬は受容体に結合しても受容体を刺激せず、むしろ内因性リガンドの作用を阻害します。この薬物-受容体相互作用は特異的かつ可逆的な結合であり、細胞の生化学的過程を直接的または間接的に制御します。
参考)薬物-受容体相互作用 - 23. 臨床薬理学 - MSDマニ…

 

分子標的薬の場合、がん細胞の増殖や転移を促すタンパク質を標的として作用し、シグナル伝達阻害、血管新生阻害、免疫系の活性化などの多様な機序で抗がん作用を発揮します。例えば、EGFR阻害薬は上皮成長因子受容体に結合し、がん細胞の無制限な増殖を抑制する薬理作用を示します。
参考)分子標的療法-佐賀大学医学部附属病院 血液・呼吸器・腫瘍内科

 

作用機序の分子レベルでの解析

作用機序は、薬剤がその薬理学的効果を発揮するための特異的な生化学的相互作用を詳細に説明する概念です。通常、薬剤が結合する酵素あるいは受容体といった特定の分子標的について言及され、受容体部位は薬物の化学構造と特定の作用に基づいた親和性を持ちます。
参考)作用機序 - Wikipedia

 

分子レベルでの作用機序解析により、薬物がどの受容体サブタイプに結合し、どのような細胞内情報伝達経路を活性化または阻害するかが明らかになります。この過程は、分子レベルでの相互作用から始まり、細胞、組織、器官レベルでの反応を経て、最終的な治療効果や生理学的変化に至るまでの一連のメカニズムです。
参考)作用機序 - 遺伝性疾患プラス

 

作用機序の理解は、薬物の開発、適切な使用、副作用の予測において極めて重要です。同じ薬理作用を示す薬物でも、作用機序が異なれば副作用プロファイルや薬物相互作用のパターンが変わるため、個別化医療の実現に不可欠な情報となります。

薬理作用の副作用機序による分類

薬理作用による副作用は、薬物の本来の作用が治療目的以外の部位に現れることで生じる副作用のカテゴリーです。この分類は副作用の発生機序に基づく分類法の一つで、薬理作用、薬物毒性、薬物過敏症の3つに大別されます。
参考)第2回 薬理作用による副作用とは?

 

薬理作用による副作用の特徴は、発生頻度が投与量に依存することです。風邪薬を服用したときの眠気や、降圧薬による過度の血圧低下などが典型的な例です。これらの副作用は薬物の本来持つ薬理作用が、治療対象以外の臓器や組織に影響を与えることで発現します。
参考)薬の副作用への理解を深める

 

この分類により、医療従事者は副作用の予測、監視、対処法の選択を体系的に行うことができます。薬理作用による副作用は用量調整により軽減可能であることが多く、薬物療法の安全性向上に重要な概念です。また、薬理作用の深い理解により、同系統薬物での副作用パターンの予測も可能になります。

 

薬理作用の構造活性相関と個別化医療への応用

薬物の化学構造と薬理作用の間には密接な関連性があり、この構造活性相関(Structure-Activity Relationship, SAR)の研究により、より有効で安全な薬物の開発が可能になります。同じ薬理作用を示す薬物群でも、分子構造の微細な違いにより、効力、選択性、副作用プロファイルが大きく変わることがあります。
個別化医療の観点から、患者の遺伝的背景、代謝能力、併用薬などの要因により、同一薬物でも薬理作用の強さや持続時間が個人差を示します。薬理ゲノミクス(Pharmacogenomics)の発展により、患者個人の遺伝子多型に基づいた薬物選択や用量設定が可能になってきています。

 

さらに、薬理作用の時間経過パターン(薬力学的プロファイル)の理解により、投与タイミングや投与間隔の最適化が図られています。時間薬理学(Chronopharmacology)の概念を取り入れることで、生体リズムに合わせた薬物療法の実現が期待されており、これは薬理作用の新たな活用方法として注目されています。