細胞内小器官(オルガネラ)は、真核細胞内に存在する膜で囲まれた専門化した構造体であり、それぞれが固有の機能を持ちながら細胞全体の生命活動を支えています。これらの構造は脂質膜で形作られており、膜で囲まれた内側や膜の表面にそれぞれ異なったタンパク質と化学環境を用意することで、各々の機能を発揮しています。
医療従事者にとって細胞内小器官の理解は極めて重要です。なぜなら、多くの疾患が細胞レベルでの機能異常に起因しており、診断や治療において細胞内構造の知識が不可欠だからです。
ミトコンドリアは「細胞の発電所」と呼ばれる最も重要な細胞内小器官の一つです。その構造的特徴は他の細胞内膜系とは大きく異なります。
二重膜構造の特徴
ミトコンドリアの内膜では電子伝達系による酸化的リン酸化が行われ、ATPの大部分が合成されます。この過程は呼吸鎖複合体I〜Vによって段階的に進行し、1分子のグルコースから最大38分子のATPが産生されます。
臨床的意義
ミトコンドリア機能不全は多くの疾患と関連しています。
興味深いことに、ミトコンドリアは独自のDNAを持ち、母系遺伝する特殊な細胞内小器官です。これは進化的に細菌が細胞内に共生したことに由来する「内部共生説」の証拠とされています。
リボソームは直径15〜20nmの粒子状構造で、rRNA(リボソームRNA)とタンパク質から構成されています。核からの指令を運ぶmRNA(メッセンジャーRNA)の情報に基づいてタンパク質を合成するため、「タンパク質合成の場」とも呼ばれます。
構造的分類
リボソームの構造は大小二つのサブユニットから成り立っています。
蛋白質合成の過程
付着型リボソームで合成されるタンパク質は主に。
遊離型リボソームで合成されるタンパク質は。
小胞体(ER)は細胞質内の網状構造で、粗面小胞体(rER)と滑面小胞体(sER)の2種類に分類されます。これらは「細胞工場、物質の輸送、貯蔵の場」として機能しています。
粗面小胞体の構造と機能
膜表面にリボソームが付着しているため粗い表面に見えることからこの名前が付けられました。主な機能は。
粗面小胞体で合成されたタンパク質は、小胞体内腔に輸送された後、ゴルジ体を経由して最終目的地へ運ばれます。この過程で、タンパク質は適切な立体構造に折りたたまれ、必要に応じて糖鎖修飾を受けます。
滑面小胞体の構造と機能
リボソームが付着していないため滑らかな表面を持つ小胞体です。主な機能は。
滑面小胞体は特定の細胞で著しく発達しています。
臨床応用
小胞体ストレス応答は多くの疾患と関連しており、治療標的として注目されています。
ゴルジ体(ゴルジ装置)は扁平な膜囊が積み重なった特徴的な構造を持つ細胞内小器官です。リボソームで合成されたタンパク質に糖鎖などを付加して機能的に完成させ、それを細胞内外の必要な場所に輸送する「郵便局」のような役割を果たしています。
構造的特徴
ゴルジ体は以下の3つの領域に分けられます。
主要機能
病理学的意義
ゴルジ体の機能異常は以下の疾患と関連しています。
リソソーム(ライソゾーム)は「細胞内の清掃工場」として機能する球状の細胞内小器官です。pH4.5〜5.0の酸性環境下で約50種類の加水分解酵素を含有し、細胞内の不要物質や異物の分解・処理を行います。
構造と形成
主要機能
リソソーム蓄積症
遺伝的に特定の酵素が欠損すると、基質が蓄積する疾患群が知られています。
これらの疾患では、酵素補充療法や基質合成阻害療法などの治療法が開発されています。
オートファジーと疾患
近年、オートファジーの機能不全が多くの疾患と関連することが明らかになっています。
2016年にオートファジーの発見に対して大隅良典博士がノーベル医学・生理学賞を受賞したことからも、この分野の重要性が理解できます。
現在、オートファジーを標的とした創薬研究が活発に行われており、将来的には多くの疾患治療に応用されることが期待されています。