緑内障の症状と治療方法:早期発見から最新療法まで

緑内障は日本人の失明原因第1位となる深刻な眼疾患です。自覚症状が乏しく進行する特徴的な症状から、点眼薬やレーザー治療まで幅広い治療選択肢について医療従事者として知っておくべき知識をまとめました。患者指導に活かせる実践的な情報をお探しですか?

緑内障症状と治療方法

緑内障の基本概念
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視神経障害による視覚障害

眼圧上昇により視神経が損傷され、不可逆的な視野欠損が進行する疾患

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失明原因第1位

日本人の失明原因の28.6%を占め、40歳以上の20人に1人が罹患

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無症状での進行

自覚症状に乏しく、発見時には既に進行している症例が約9割

緑内障の初期症状と進行パターン

緑内障の最も特徴的な点は、初期段階での自覚症状の乏しさです。多くの患者は視野欠損を自覚した時点で既に病状が進行しており、医療従事者としては早期発見の重要性を理解しておく必要があります。

 

無症状進行の理由

  • 周辺視野から徐々に欠損が始まり、中心視野は比較的最後まで保たれる
  • 視野欠損の進行が非常に緩やかである
  • 両眼同時進行は稀で、健眼による代償機能が働く
  • 脳の視覚処理により欠損部位が補完される

一般的な開放隅角緑内障では、患者が視野異常を自覚するまでに数年から十数年を要することが珍しくありません。しかし、閉塞隅角緑内障の急性発作では劇的な症状が現れます。

 

急性発作の症状

  • 激しい眼痛と頭痛
  • 悪心・嘔吐
  • 虹輪視(光の周りに虹が見える)
  • 急激な視力低下
  • 眼球の充血

この急性発作は眼科的緊急事態であり、適切な治療を行わなければ数日で失明に至る可能性があります。

 

年代別の緑内障有病率は、40歳台で2.2%、50歳台で2.9%、60歳台で6.3%、70歳台で10.5%、80歳以上で11.4%と年齢とともに増加します。医療従事者は、特に40歳以上の患者に対して定期的な眼科検診の重要性を説明する必要があります。

 

緑内障の診断方法と検査プロセス

緑内障の診断には複数の検査を組み合わせた総合的な評価が必要です。単一の検査結果のみで診断することは適切ではなく、眼圧測定、眼底検査、視野検査の三本柱が診断の基盤となります。

 

眼圧測定の意義と限界
眼圧の正常範囲は10~21mmHgとされていますが、日本人の開放隅角緑内障の約9割が正常眼圧緑内障であることが多治見スタディで明らかになっています。このため、眼圧が正常範囲内であっても緑内障を除外することはできません。

 

眼底検査による視神経評価
視神経乳頭の形状変化、特に乳頭陥凹の拡大や神経線維層欠損の観察が重要です。最近では光干渉断層計(OCT)による定量的評価が普及し、微細な変化も検出可能になっています。

 

視野検査の重要性
ハンフリー視野計やゴールドマン視野計を用いた視野検査は、機能的な障害を客観的に評価する唯一の方法です。視野欠損のパターンは緑内障の進行度や治療効果の判定において重要な指標となります。

 

診断プロセスでは、これらの検査結果を総合的に判断し、他の眼疾患との鑑別診断も重要になります。特に虚血性視神経症や脳腫瘍による視野欠損との鑑別は慎重に行う必要があります。

 

緑内障の点眼治療と薬物療法

緑内障治療において点眼薬による薬物療法は第一選択となる治療法です。現在利用可能な点眼薬は作用機序により大きく二つに分類されます。

 

房水産生抑制薬

  • β遮断薬(チモロール等)
  • 炭酸脱水酵素阻害薬(ドルゾラミド、ブリンゾラミド)
  • α₂受容体作動薬(ブリモニジン)

房水流出促進薬

  • プロスタグランジン関連薬(ラタノプロスト、トラボプロスト等)
  • 副交感神経作動薬(ピロカルピン)
  • ROCK阻害薬(リパスジル)

治療選択において重要なのは、患者の基礎疾患や生活スタイルに合わせた適切な薬剤選択です。例えば、β遮断薬は喘息や心疾患のある患者では禁忌となる場合があり、プロスタグランジン関連薬は虹彩色素沈着や睫毛の変化といった美容的な副作用を考慮する必要があります。

 

治療継続における注意点

  • 1日1回点眼から複数回点眼まで薬剤により異なる
  • 複数薬剤使用時は5分以上の間隔をあける
  • 緑内障の進行により2剤目、3剤目を追加することがある
  • 患者の理解と治療継続への動機づけが重要

急性緑内障発作などの緊急時には、点滴による全身治療も併用されます。マンニトールやアセタゾラミドの静脈内投与により急速な眼圧下降を図ります。

 

緑内障のレーザー治療と手術療法

薬物療法で十分な眼圧下降が得られない場合や、眼圧は下がっても視野障害の進行が止まらない場合には、レーザー治療や手術療法が検討されます。

 

レーザー治療の種類

  • SLT(選択的レーザー線維柱帯形成術):線維柱帯の機能改善により房水流出を促進
  • LI(レーザー虹彩切開術):閉塞隅角緑内障に対する予防的治療
  • 隅角光凝固術:線維柱帯への直接的なレーザー照射

SLTは外来で施行可能な低侵襲治療として注目されており、薬物療法と同等の眼圧下降効果が期待できます。副作用も少なく、必要に応じて再施行も可能です。

 

手術療法の適応
従来の線維柱帯切除術に加え、近年はMIGS(微小侵襲緑内障手術)が普及しています。

 

  • 線維柱帯切開術
  • 線維柱帯切除術
  • 各種MIGS(アイステント、カフーク等)
  • 房水シャント手術

MIGSの利点は白内障手術との同時施行が可能で、従来の手術に比べて合併症リスクが低いことです。ただし、適応症例や長期成績については慎重な検討が必要です。

 

閉塞隅角緑内障では手術が第一選択となります。レーザー虹彩切開術や水晶体摘出術(白内障手術)により隅角の開放を図ります。

 

緑内障患者の療養指導と生活管理

緑内障治療の成功には、医学的治療に加えて適切な患者指導と生活管理が不可欠です。一度失われた視野は回復しないため、現状維持と進行予防が治療の目標となります。

 

治療継続への動機づけ
緑内障患者の多くは自覚症状に乏しいため、治療の必要性を理解することが困難な場合があります。医療従事者は以下の点を重点的に説明する必要があります。

 

  • 失明リスクと治療の重要性
  • 点眼薬の正しい使用方法
  • 定期的な経過観察の必要性
  • 視野検査結果の意味と変化

日常生活における注意点

  • 点眼薬の適切な保管方法
  • 点眼時の清潔操作
  • 他科受診時の緑内障罹患歴の申告
  • 禁忌薬剤に関する知識

特に閉塞隅角緑内障患者では、急性発作を誘発する可能性のある薬剤について十分な説明が必要です。抗コリン薬や交感神経刺激薬は瞳孔を散大させ、隅角閉塞を引き起こす可能性があります。

 

心理的サポート
緑内障診断による患者の心理的衝撃は大きく、うつ傾向や不安症状を示す患者も少なくありません。治療継続への不安や将来への恐怖に対して、適切な情報提供と心理的支援を行うことが重要です。

 

社会復帰支援
進行した緑内障患者では、視覚障害者手帳の申請や就労支援、歩行訓練などの社会復帰支援も重要な医療の一環となります。地域の支援体制や関連機関との連携も医療従事者の重要な役割です。

 

定期的な眼科受診の重要性を理解してもらい、40歳以上では年1回、緑内障患者では3~6ヶ月ごとの定期検査を継続することで、多くの患者が生涯にわたって良好な視機能を維持することが可能です。

 

日本緑内障学会の多治見スタディの詳細情報
https://www.ryokunaisho.jp/general/about/study.html
緑内障診療ガイドライン第5版の詳細
https://www.nichigan.or.jp/member/guideline/glaucoma5.pdf