ドルゾラミドは毛様体に存在する炭酸脱水酵素II型を特異的に阻害する薬剤です 。この酵素は生体内での二酸化炭素の水和、炭酸の脱水の可逆的反応(CO2+H2O⇔H2CO3)をつかさどっています 。ドルゾラミドがこの酵素を阻害することで、炭酸水素イオンの形成が遅延し、ナトリウムの液輸送が低下します 。これにより房水産生が抑制され、眼圧下降作用が発現すると考えられています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067340.pdf
アセタゾラミドやメタゾラミドなどの経口炭酸脱水酵素阻害薬と比較して、ドルゾラミドはヒト赤血球中の炭酸脱水酵素IIに対してアセタゾラミドの約5倍、メタゾラミドの約10倍の阻害活性を示します 。白色および有色ウサギを用いた試験では、0.1%溶液の1回1滴(50μL)の点眼により、投与後1時間で虹彩・毛様体の炭酸脱水酵素活性を完全に阻害することが確認されています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00045289.pdf
臨床試験では、原発開放隅角緑内障および高眼圧症患者60名を対象とした二重盲検法により、1%、2%、2.5%のドルゾラミド塩酸塩点眼液の単回投与が検討されました 。いずれの濃度においても投与2時間後に最大眼圧下降が認められ、効果は4~6時間後より減弱する傾向が観察されたため、1日3回の点眼が必要と判断されています 。
参考)https://www.gifu-upharm.jp/di/mdoc/iform/2g/i2520441804.pdf
国内で実施された臨床試験では、602例中145例(24.1%)211件の副作用が報告されました 。主な副作用は点眼時しみる等の眼刺激症状147件(24.4%)、結膜充血21件(3.5%)、点眼直後にみられる眼のかすみ11件(1.8%)等、眼局所における症状がほとんどでした 。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/kankaku/TR4436-01.pdf
動物実験においても、カニクイザルのアルゴンレーザー処置高眼圧、白色ウサギのα-キモトリプシン惹起高眼圧、遺伝的高眼圧有色ウサギに対して、ドルゾラミド塩酸塩の点眼は有意に眼圧上昇を抑制することが認められています 。
ドルゾラミドの重大な副作用として、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)および中毒性表皮壊死症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)があります 。これらは頻度不明ながら、いずれも重篤な皮膚反応であり、早期発見と適切な対応が必要です 。
眼局所の副作用では、5%以上の頻度でしみる・流涙・疼痛・異物感・瘙痒感等の眼刺激症状が報告されています 。0.1~5%未満の頻度で眼瞼炎(アレルギー性眼瞼炎を含む)、角膜炎・角膜びらん等の角膜障害、点眼直後にみられる眼のかすみ、羞明、結膜充血、結膜浮腫、眼瞼発赤、眼瞼浮腫、結膜炎(アレルギー性結膜炎を含む)が認められます 。
全身性の副作用として頭痛、悪心が0.3%の頻度で報告されており 、点眼薬であっても全身への影響を考慮する必要があります。使用成績調査では3,060例中186例(6.1%)225件の副作用が報告されており、主に眼局所症状が中心でした 。
ドルゾラミドは非選択的β受容体遮断剤であるチモロールマレイン酸塩との配合剤としても使用されています 。チモロールマレイン酸塩はβ受容体を遮断することにより房水産生を抑制し、眼圧下降作用を示すため、作用機序が異なる両剤の併用により相加的な効果が期待できます 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007910.pdf
配合剤の安全性において、ドルゾラミド塩酸塩点眼液またはチモロールマレイン酸塩点眼液の重大な副作用として、眼類天疱瘡、気管支痙攣、呼吸困難、呼吸不全、心ブロック、うっ血性心不全があります 。特にβ遮断薬成分による気管支平滑筋収縮作用および陰性変時・変力作用により、呼吸器系および循環器系への影響に注意が必要です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00067399.pdf
生物学的同等性試験では、β遮断薬では眼圧のコントロールが不十分な原発開放隅角緑内障又は高眼圧症患者を対象に、クロスオーバー試験が実施されました 。配合剤治療への切り替えにより、有意な眼圧値変化量が観察され、治療効果の向上が確認されています 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00007913.pdf
ドルゾラミドには従来の緑内障治療薬では見られない独特な作用として、眼血流改善効果があります 。正常眼圧緑内障患者に1%ドルゾラミド塩酸塩点眼液を1日3回、2週間点眼した結果、網膜中心動脈の最低血流速度の上昇が認められました 。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00045289
ブタを用いた実験では、ドルゾラミド塩酸塩500mgの静脈投与により網膜血管拡張作用が確認されています 。この血管拡張作用は、単なる眼圧下降とは独立したメカニズムによるものと考えられ、緑内障の病態において重要な視神経保護効果を示す可能性があります 。
眼血流改善は特に正常眼圧緑内障患者において重要な意味を持ちます。眼圧が正常範囲内であっても視神経障害が進行する病型では、血流改善による視神経保護が治療の鍵となる場合があります 。ドルゾラミドのこの特性は、従来の眼圧下降を主目的とした治療から、より包括的な緑内障管理への転換を示唆する重要な知見です 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj1944/115/6/115_6_323/_article/-char/ja/
また、角膜内皮機能が低下した緑内障患者では、ドルゾラミド塩酸塩が不可逆的な影響を与える可能性があるため 、使用前の角膜内皮細胞検査が推奨されます。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00000395.pdf