ループ利尿薬の種類と一覧:作用機序と副作用

ループ利尿薬の種類や特徴、作用機序、副作用について詳しく解説します。心不全や浮腫の治療に欠かせない薬剤ですが、どのように適切に選択すべきでしょうか?

ループ利尿薬の種類と一覧

ループ利尿薬の基本情報
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高い効果

利尿薬の中で最も強力な利尿作用を持ち、迅速な効果発現が特徴です

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作用部位

腎臓のヘンレループ上行脚のNa+-K+-2Cl-共輸送体に作用します

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主な副作用

電解質異常(低カリウム血症など)と高尿酸血症に注意が必要です

ループ利尿薬の作用機序と特徴

ループ利尿薬は、腎臓のヘンレループ上行脚に作用する利尿薬です。具体的には、ヘンレループの太い上行脚に存在するNa+-K+-2Cl-共輸送体(NKCC2)を阻害します。この共輸送体は通常、ナトリウムイオン、カリウムイオン、そして2つの塩化物イオンを同時に尿細管細胞内に取り込む役割を担っています。

 

ループ利尿薬がこの共輸送体を阻害すると、ナトリウム、カリウム、塩化物イオンの再吸収が抑制され、これらの電解質とともに水分も体外に排出されます。その結果、尿量が増加し、体内の余分な水分が減少するという効果が得られます。

 

利尿薬の中でも、ループ利尿薬は最も強力な利尿作用を持ちます。作用発現が早く、効果も強力であるため、急性および慢性の浮腫性疾患や高血圧の治療に広く使用されています。特に心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫などの治療に効果的です。

 

また、ループ利尿薬は近位尿細管で管腔に分泌された後、作用部位であるヘンレループに到達します。そのため、腎機能が低下している患者でも、他の利尿薬に比べて効果を発揮しやすいという特徴があります。

 

ループ利尿薬の代表的な薬剤一覧と薬価

日本で使用されているループ利尿薬には、以下のような種類があります。それぞれの薬価や剤形も併せて紹介します。

 

  1. フロセミド(Furosemide)
    • 先発品:ラシックス(サノフィ)
      • ラシックス注20mg:64円/管
      • ラシックス注100mg:127円/管
      • ラシックス錠10mg:9.6円/錠
      • ラシックス錠20mg:10.1円/錠
      • ラシックス錠40mg:11.2円/錠
    • 後発品。
      • フロセミド錠10mg「NP」(ニプロ):6.3円/錠
      • フロセミド錠20mg「NP」(ニプロ):6.3円/錠
      • フロセミド錠40mg「NP」(ニプロ):6.6円/錠
      • フロセミド注20mg「トーワ」(東和薬品):60円/管
      • フロセミド錠40mg「トーワ」(東和薬品):6.6円/錠
      • フロセミド細粒4%「EMEC」(エルメッド):27.4円/g
    • トラセミド(Torasemide)
      • 先発品:ルプラック(田辺三菱製薬)
        • ルプラック錠4mg:14.4円/錠
        • ルプラック錠8mg:23.3円/錠
      • 後発品。
        • トラセミド錠4mg「KO」(寿製薬):6.1円/錠
        • トラセミド錠8mg「KO」(寿製薬):7.3円/錠
        • トラセミドOD錠4mg「TE」(トーアエイヨー):6.1円/錠
        • トラセミドOD錠8mg「TE」(トーアエイヨー):7.3円/錠
      • アゾセミド(Azosemide)
        • 先発品:ダイアート(三和化学研究所)
          • ダイアート錠30mg:10.7円/錠
          • ダイアート錠60mg:15.5円/錠
        • 後発品。
          • アゾセミド錠30mg「JG」(長生堂製薬):10.4円/錠
          • アゾセミド錠60mg「JG」(長生堂製薬):11.3円/錠
          • アゾセミド錠30mg「DSEP」(第一三共エスファ):10.4円/錠
          • アゾセミド錠60mg「DSEP」(第一三共エスファ):11.3円/錠
        • ブメタニド(Bumetanide)
          • 先発品:ルネトロン
        • ピレタニド(Piretanide)
          • 先発品:アレリックス

これらの薬剤はそれぞれ特性が異なり、患者の状態や治療目的に応じて選択されます。フロセミドは最も広く使用されていますが、トラセミドは作用時間が長く、1日1回の服用で済むという利点があります。アゾセミドもフロセミドより長時間作用型であり、緩やかな利尿作用が特徴です。

 

ループ利尿薬の主な副作用と注意点

ループ利尿薬は効果的な治療薬である一方、いくつかの重要な副作用があります。適切な使用と十分なモニタリングが必要です。

 

1. 電解質異常
ループ利尿薬の主な副作用として、電解質バランスの乱れがあります。特に以下の異常に注意が必要です。

  • 低カリウム血症:ナトリウムとともにカリウムも排泄されるため、最も頻繁に見られる副作用です。筋力低下、不整脈などの症状が現れることがあります。
  • 低ナトリウム血症:過剰な水分摂取と相まって発生することがあります。ただし、他の利尿薬に比べると比較的起こりにくいとされています。
  • 低カルシウム血症:カルシウムの排泄が促進されることによって起こります。
  • 低マグネシウム血症:長期使用で発生することがあります。

2. 尿酸血症
ループ利尿薬は高尿酸血症を引き起こす可能性があります。これは、ループ利尿薬が尿酸と同じトランスポーターを競合するため、尿酸の排泄が低下することが主な原因です。また、腎糸球体ろ過量の減少に伴う尿酸排泄の低下も関与しています。高尿酸血症は痛風発作のリスクを高めるため、特に注意が必要です。

 

3. 代謝性アルカローシス
水素イオンとナトリウムイオンの交換が促進されることで、代謝性アルカローシスが生じることがあります。

 

4. 聴力障害
特に高用量の静脈内投与や腎機能障害のある患者で、可逆性または非可逆性の聴力障害が報告されています。

 

5. その他の副作用

  • 高血糖:糖代謝に影響を与え、血糖値が上昇することがあります。
  • 顆粒球減少症:稀ですが、重篤な副作用として報告されています。
  • 過敏症:皮膚発疹などのアレルギー反応が現れることがあります。
  • 骨量減少:長期使用でカルシウム代謝に影響を与え、骨密度低下のリスクがあります。

6. 強心配糖体との相互作用
低カリウム血症は強心配糖体(ジゴキシンなど)の毒性を増強するため、併用時は特に注意が必要です。

 

これらの副作用を最小限に抑えるためには、定期的な電解質モニタリング、適切な用量調整、必要に応じてカリウム補充などの対策が重要です。また、高リスク患者(高齢者、腎機能障害患者など)では、より慎重な管理が必要となります。

 

ループ利尿薬の使用上の注意と他の利尿薬との比較

ループ利尿薬は強力な利尿効果を持つ一方で、適切な使用法と他の利尿薬との特性の違いを理解することが重要です。

 

ループ利尿薬と他の利尿薬の比較

  1. ループ利尿薬 vs サイアザイド系利尿薬
    • 作用部位:ループ利尿薬はヘンレループの上行脚に作用し、サイアザイド系は遠位尿細管に作用します。
    • 利尿効果:ループ利尿薬の方が強力な利尿作用を持ちます。
    • 効果の発現:ループ利尿薬は作用発現が早く、サイアザイド系はやや緩やかです。
    • 腎機能障害時の効果:腎機能が低下している場合、サイアザイド系の効果は減弱しますが、ループ利尿薬は比較的効果を維持します。
    • 電解質への影響:両者とも低カリウム血症を起こしますが、サイアザイド系は高カルシウム血症を、ループ利尿薬は低カルシウム血症を引き起こす傾向があります。
  2. ループ利尿薬 vs カリウム保持性利尿薬
    • 作用部位:カリウム保持性利尿薬は集合管に作用します。
    • 利尿効果:カリウム保持性利尿薬の利尿効果は弱く、単独で使用されることは少ないです。
    • 電解質への影響:カリウム保持性利尿薬は高カリウム血症のリスクがあり、ループ利尿薬による低カリウム血症を相殺する目的で併用されることがあります。
  3. ループ利尿薬 vs バソプレシン拮抗薬(トルバプタンなど)
    • 作用機序:バソプレシン拮抗薬は水の再吸収を選択的に抑制し、電解質の排泄は少ないという特徴があります。
    • 適応:低ナトリウム血症を伴う心不全や肝硬変の体液貯留に有用です。

使用上の注意点

  1. 用量調整
    • 浮腫の程度や腎機能に応じた適切な用量調整が必要です。
    • うっ血性心不全では利尿効果の閾値が上昇し、最大効果も低下するため、通常より高用量が必要となることがあります。
  2. 投与経路
    • 重症の浮腫や急性の状況では、経口ではなく静脈内投与が選択されることがあります。
    • フロセミドの場合、重症例では単回で20mgから始め、必要に応じて80mgまで増量します。
  3. 併用療法
    • 難治性の浮腫では、異なる作用部位の利尿薬(ループ利尿薬とサイアザイド系など)の併用が効果的なことがあります。
    • 低カリウム血症のリスクがある場合は、カリウム保持性利尿薬との併用を検討します。
  4. 特殊な患者集団での注意点
    • 高齢者:電解質異常や脱水のリスクが高いため、低用量から開始し慎重に増量します。
    • 腎機能障害患者:効果を得るために高用量が必要になることがありますが、副作用のリスクも高まります。
    • 肝硬変患者:利尿薬の過剰使用は肝性脳症のリスクを高める可能性があります。
  5. モニタリング
    • 定期的な電解質、腎機能、尿酸値のモニタリングが重要です。
    • 体重測定による体液バランスの評価も有用です。

ループ利尿薬の選択と用量設定は、患者の状態、併存疾患、他の薬剤との相互作用などを考慮して個別に判断する必要があります。

 

ループ利尿薬の処方と患者指導のポイント

ループ利尿薬を効果的かつ安全に使用するためには、適切な処方と患者指導が不可欠です。臨床現場での実践的なポイントを紹介します。

 

1. 疾患別の処方アプローチ
うっ血性心不全

  • 初期投与量:フロセミド20-40mg/日(経口)または20mg(静注)から開始
  • 重症例では、血管拡張薬との併用が効果的
  • 難治性の場合、持続点滴や他の利尿薬(カルペリチドやトルバプタン)との併用を検討
  • 低ナトリウム血症(<130 mEq/L)がある場合は水分制限も必要

ネフローゼ症候群

  • アルブミン血症のある場合は投与量を増加(フロセミド120mg/日まで)
  • 血清アルブミン濃度が2.0g/dL以下の場合は、アルブミンとフロセミドの同時投与が有効
  • 塩分制限と水分制限を併用

肝硬変による浮腫・腹水

  • スピロノラクトン(カリウム保持性利尿薬)との併用が基本
  • 軽症例:スピロノラクトン25-50mg/日から開始
  • 重症例:フロセミド40mg+スピロノラクトン100mgから開始し、必要に応じて増量
  • 低ナトリウム血症があればトルバプタンの併用も検討

慢性腎臓病(CKD)

  • ステージG3以降ではサイアザイド系の効果は減弱するため、ループ利尿薬が第一選択
  • 難治性浮腫の場合、サイアザイド系との併用が有効なことも
  • アシドーシスと高カリウム血症の是正にも使用
  • 高尿酸血症に注意し、定期的なモニタリングが必要

急性腎障害(AKI)

  • 水腎症では禁忌
  • 急性尿細管壊死では効果が限定的
  • 溢水の改善が必要な場合は使用を検討
  • 心不全に伴うAKIではカルペリチドやトルバプタンの併用も考慮

2. 服薬指導のポイント
服用タイミング

  • 夜間頻尿を避けるため、朝または午前中の服用を基本とする
  • 長時間作用型(アゾセミド、トラセミドなど)は1日1回朝に服用
  • フロセミドなどの短時間作用型を1日2回服用する場合は、2回目は午後早めの時間に服用するよう指導

食事との関係

  • 食後服用で胃腸障害が軽減されることがあるが、空腹時の方が吸収が良いため、個々の患者で調整
  • 塩分制限の重要性を説明
  • カリウムを多く含む食品(バナナ、柑橘類、野菜ジュースなど)の摂取を勧める(カリウム保持性利尿薬との併用時は注意)

自己管理のポイント

  • 毎日の体重測定の習慣化
  • 浮腫のセルフチェック方法(足首、すね、手の甲など)
  • めまい、脱力感などの低血圧症状の認識
  • 飲水量の適正な管理(特に心不全患者)

副作用の早期発見

  • 筋肉のけいれんや脱力(低カリウム血症)
  • 口渇、めまい(脱水)
  • 関節痛(高尿酸血症・痛風)
  • 聴力低下や耳鳴り(聴覚障害)

3. 実践的な処方の工夫
利尿効果の最大化

  • 難治性浮腫に対しては、異なる作用部位の利尿薬の併用(例:フロセミド+ヒドロクロロチアジド)
  • アルブミン併用投与法:低アルブミン血症のネフローゼ症候群患者でフロセミド効果が不十分な場合、25%アルブミン50mlとフロセミド40mgの同時投与で効果を高める

副作用の最小化

  • カリウム製剤の併用または食事指導
  • 低用量から開始し、効果と副作用のバランスを見ながら調整
  • 長時間作用型を選択することでピーク効果を緩和し、電解質変動を抑制

アドヒアランスの向上

  • 可能な限り服用回数を減らす(トラセミドなどの長時間作用型の選択)
  • 利尿効果と患者のライフスタイルを考慮した服用スケジュール
  • ブリスターパックやお薬カレンダーの活用

特殊な状況での対応

  • 嚥下困難患者:フロセミド細粒の使用
  • 緊急時の対応:静注用製剤の家族や介護者への指導(医師の指示がある場合)

ループ利尿薬の適切な使用には、患者の状態に応じた細やかな処方調整と、副作用の早期発見・対応のための十分な患者教育が重要です。医療チーム全体での情報共有と連携が、安全かつ効果的な治療につながります。